13、ブービートラップ
「こちらスワロー2、アーマード補給車、離脱完了! 第二倉庫にはブービートラップを仕掛けた。各員、もう立ち入るなよ!」
「よし……本隊も残りの『ガラクタ』を片付けたら即時撤退だ。繰り返す。殲滅せよ、殲滅せよ」
無線に指令を流しながら、スカイ・キャリアベースは、死体にせっせと罠を仕掛けていた。
手榴弾のピンに、ナイロン糸を結びつける。手榴弾本体を身体に固定し、死体の腕に糸を固定すれば、誰かが死体を回収しようと軽率に動かした瞬間――ズドン。
手際は慣れたものだ。こんな作業も、もう十何体目になる。
まったく悪趣味な罠。ジュリアを笑えない。
だがここは、綺麗事で自分や部下を守れる世界じゃない。戦場ってのは、誰かの手で汚さなきゃ回らない。彼の母の教えでもある。
──それを、数メートル離れたところから、レベッカ・シューティングスターが見ていた。
顔は硬い。怯えとも、哀しみとも、諦観ともつかない。どれも混ざっていた。
「……少し手間取った。あの敵兵、デブでな……。さあ、残りを片付けに行こう。まだ生き残りがいる」
泥だらけのブーツを軽く払って、キャサリンとレベッカのもとへ戻る。
「了解」
「…………」
レベッカは頷いた。けど、口を開かない。その沈黙が、ふと心に刺さる。
「……どうした、レベッカ?」
「……なんでもない。ただ……分かってるの、これが必要だって。必要悪だって。追撃を防がないと、次はこっちが死ぬもの」
そう言って、胸にR77を抱きしめるように押し当てた。
まるで、ぬいぐるみを抱きかかえる子供の様。それだけが彼女の支えみたいに。
その姿が、彼には戦場の兵士じゃなく――迷子になった子供のように見えた。
「レベッカ……」
「大丈夫、だから……ちゃんと、わかってる」
言葉は平静を装っていた。でもその声には、かすかな震えがあった。
スカイはそっと近づいて、レベッカの肩に手を置いた。キャサリンは空気を読んで、一歩だけ距離を取ってくれた。
「……俺の指揮に従ってれば、生き残れる。信じてくれ」
「……」
「今までも、そうだったろ?」
「……うん。わかってる。怖気づいたわけじゃ、ないの。ただ……」
「ただ?」
「……最近のスカイのことが、ちょっと……わからなくなるんだよ。何を考えてるのか、何を信じてるのか……見えなくなる」
その声は、彼を責めるようでも、拒絶するようでもなかった。
ただ静かに、迷っていた。
「昔のスカイは、もう少し……優しかった気がするの。……気がするだけ、かもしれないけど」
少しだけ笑って、顔を上げる。その笑みは、見事に引きつっていた。
「ごめん、ね。極限状態の女がこじらせてるだけだって思って。忘れて。湿っぽいの、似合わないし」
そう言って、レベッカは銃を構え直した。でも――その指先は、微かに震えていた。
「イチャついてる時間はないよ、スカイ。私、ついていく。どこまでも。惚れた弱み……ああ、惚れた弱みだよ……」
「……」
「あなたの隣以外、もう、行ける場所なんてないから。……ここまで来たら、どういう結末になろうとも、最期までスカイについていくからさ」
スカイはどんな表情をすればいいのかわからなくて、無線機を強く握るしかなかった。
「……掃討戦に移行する。繰り返す――殲滅せよ。生かすな。死体、施設に罠を。ブービートラップを設置しろ。ゲリラ屋の恐ろしさを見せてやれ。残りの『ガラクタ』を片付け次第、即撤収する!」
報告を終えると、レベッカがぽつりと、声を漏らした。
「ねぇ、スカイ。帰ったらまた……しようよ」
頬を少し赤らめているレベッカ。その意味を、スカイは分かっていた。
「……ああ」
「……楽しみにしてるから」
炎に包まれた集積所から、黒煙が天へと昇っていく。
それは月を呑み込みながら、静かに、静かに、夜空を焦がしていた。




