3、作戦会議3
「……あまり言いたくは無いのですが。失敗した場合は……どうなるのですか」
静かに口を開いたのは、ペリカン隊隊長、メアリー・ファントム。16歳。
衛生兵らしい柔らかい口調。だがその声と青い瞳の奥には、無視できない現実への恐れが滲んでいた。
彼女は、幾度も敵に捕まっては逃げ帰ってくる、通称『ラッキーガール』。紫色の髪をショートヘアにしている。
どんな収容所でも、なぜか生きて帰る強運の持ち主だが、今この場ではその幸運も頼れないと理解しているのだろう。
「……その場合、食料も弾薬も、底を尽きる事になります」
重たい空気の中、エリザベスが言葉を絞り出す。
「『餓死』、もしくは……隊長に全てを託して『吸収』される道、ですね」
クリスティーナは俺から視線を逸らしつつ、淡々と告げる。
「…………」
その言葉に、スカイも目を伏せた。
実際、飢えて死ぬより、彼に命を捧げてでも何かを残したいと思う者は多いはずだ。
「脱走って案も……まあ、そんな事考える奴は、こんな地獄までついて来てないか」
ジュリアが頭を掻きながら苦笑するが、誰も返事をしなかった。
沈黙が、重く、全員の肩にのしかかる。
「……勝てば良いのですよ! 勝てば! 現に今までだって、もっと無茶な作戦、いくらでもありましたでしょう!? ここにいるのは、地獄に自ら残った物好き達! きっと成功しますとも! ええ、きっと! ここは――第666特別大隊。政府軍最精鋭ゲリラ部隊!!地獄の一丁目!!」
エリザベスがテンションを無理に上げるように叫ぶ。
だが、その声が虚ろに響くのは、誰の耳にも明らかだった。
「……うちの部隊章の鳥も、心なしか腹を空かせてる様に見えるわ」
壁に掛けられた隊旗を見上げながら、ヴィクトリアが呟く。
――鳥籠の中の鳥。それが第666特別大隊の象徴。
各隊の名も鳥に由来し、ここにいる者はみな、飛べないか、飛べるのに飛ばない、問題児ばかり。
……それを管理するのがスカイ=空だとは、何とも皮肉だ。
「……各中隊長。作戦失敗時、部下達に俺に『吸収』されることについての希望を取っておいてくれ。 熱望、希望、拒否……三段階。もしもの時は、熱望の者から順に吸っていく。……くれぐれも、選択内容については強要はするな。選ばせてやってくれ」
隊長たちは、静かにうなずいた。
「……っと、殿下。そろそろしめっぽい話は終わりに致しましょう」
場の空気を変えるように、エリザベスが手を叩いた。
「殿下は、作戦開始前に、演説をお願いします」
「……は? 演説?」
唐突な要求に、思わずスカイは聞き返す。
「オードリーも言ってたでしょ? ここに残ったのは、殿下についてきた人たち。ならば、殿下の言葉が士気になるんです。……カッコいいやつ、頼みますよ?」
「……カッコいい、ねぇ……」
言われて思わずスカイは苦笑する。
そんな演説が簡単に思いつけば、世の政治家たちも苦労しないだろうに。
「どうせ私たちは、殿下と心中するためにここに残ったのです。気楽にやって……失敗したら、触手相手に「きしょい!きしょいよぉ!」と悲鳴を上げながら溶けて、みんなで殿下のお力になりましょう!」
エリザベスは自らを奮い立たせるように言った。
その声は強く、だが震えていた。
「そうですわ! ご主人様になら、溶かされるのも……本望です! 一つに溶け合いましょう……っ♡」
「スカイ! 私も、あんたと一緒になれるなら本望だ! 熱望! 超熱望!」
オリヴィアとアリスが続き、目を輝かせて(しかも割と本気で)言う。
「……ひどい会話だな。これが年頃の娘のする会話か……?」
思わず漏らしたスカイの声に、隣のシャーロットが小さく微笑み、目を閉じて言う。
「変な事言ってないと……皆、不安で気を保てないんだ。察してやりなさい」
その表情には、静かな覚悟と、深い慈しみが浮かんでいた。




