おまけ3 もしかして、詰み?
廃村。号泣大合唱から一夜明け、朝食準備中のスカイと大隊。彼は岩に腰を下ろし、隣にいた女性に語りかけた。
「なぁ、エリザベス」
「なんです、殿下? 心なしか、チャームポイントのアホ毛も元気なさげですけど?」
「あんまり考えたくなかったんだが……これ、俺らが勝ってもこの国詰んでない?」
「…………良いことに気づきましたね」
「いや、冷静に考えようぜ。王都は陥落。国王は崩御。……反政府軍も一枚岩じゃないどころか、内ゲバに腐敗に補給難。占領地じゃ虐殺、略奪、強姦とやりたい放題と来た」
「反政府軍内部の派閥闘争、資源配分の偏り、上層部の無能ムーブも完備してますね。おまけに両軍共に各地の学校で強制的に徴兵した学徒兵ぶち込んでる時点で、もう……ねぇ?」
「腐敗しきってるなりに、曲がりなりにも秩序は保ってた王政に対して、反政府軍の連中ときたら、まともな統治も出来ず市街地の治安は壊滅状態。経済も麻痺。国際社会からは人権無視のオンパレードで総スカン」
「かといって、王政が健在な頃も、別にまともな訳ではありませんでしたけど」
改めて、体制側も反体制側もゴミ(直球)な事をスカイとエリザベスは言い合う。今の状況が状況だけに段々ヒートアップしてきている。
「うちの大隊の貴族令嬢達……主に没落貴族や妾の子達を見てみろよ。666大隊に来なきゃ、汚いおっさん貴族の妾や後妻にされてた子ばっかりだ。女性の権利? なにそれ美味しいの?」
「国際社会からの様々な人権侵害行為に対する批判、改善要求を、逆ギレしながら突っぱねるのは、もはや様式美。そんな事したら当然顰蹙買う訳で……そんな奴らが困った時だけ助けを求めた所で、誰が手を差し伸べるんでしょうか」
「……で、数少ない支援国は、政府軍と反政府軍、両方に武器流してる。代理戦争ですらねぇ!」
「ね。もはや『本当にどうでもいい国』扱い。地政学的にも経済的にも価値ゼロ。いるのは超絶美形な王子くらい。もう誰が勝とうがどうでもいいから、とりあえず延々と殺し合わせとけ、ってね」
「未来を担うべき若者達? 皆学徒兵として雑に使い潰されて死ぬか、PTSDか戦争ジャンキーになったよ……銃の撃ち方しか習ってません!!」
「こう言ったら悪いですが、アリスとか本来、こんな最前線で整備兵しながら、殿下みたいな木っ端王族の愛人してて良い様な人材じゃありませんからね? 国が積極的に投資して育成すべき人材ですからね」
「ブラックバニア……失敗国家ランキング殿堂入りコースか?」
「もう参加資格すら疑問視されるレベルですよ。国家としてギリ成立してるかも怪しい」
「……いや、俺たち、何やってんの? もう終わりだよこの国!! 俺の秘密のカミングアウトも済んで、さぁこれから反撃だ!って言ってるけど、たとえ勝ったとして、その先、どうすんの?」
「復興計画? ゼロ。予算? そんなものはない。人材? まともな人間は死ぬか国外に逃げた。一応、本作、ジャンルがファンタジーなのに魔法とかがあんまり出てきませんよね? 何故かと言うと、高度な魔法が使える有能魔術師は危険視されて粛清されるか、さっさと国を捨てて外国に逃げるから!」
「そんでもって、俺は政治なんて出来ない、官僚いない、兵隊は学徒兵、物資は無い、国際的信用も皆無……」
「殿下。もうちょっとで『この国に未来はない』の境地に達せますよ。いや〜SNSで「日本はオワコン!」とか言って騒いでる人達が見たら卒倒するでしょうね」
沈黙。しばらくの間、スカイは頭を抱え、アホ毛だけが情けなく風に揺れていた。
「…………なあ、エリザベス。俺さ……今更ながら、戦うより、大隊の生き残り連れてこの廃村に引き籠もった方が平和に終われる気がしてきたぞ」
「実際、最善手かもしれませんよ。カルトファミリー式自給自足村。作りますか? 私の計算では、種籾があれば、殿下と、この狂信的ファンクラブなら5年はもちます。 とりあえず農業が軌道に乗るまでは、物資食料は、その辺の村から『徴発』する事にしましょうか」
「いや〜、それもなんか違うだろぉ? 俺は腐っても王子だぞ!? 同年代の女の子たちを戦わせて、守って、やっとここまで来て……略奪? 隠居? セ◯クス三昧でR18進出? ……いやここに到ってはそれで良いのか? いやいや、良いのか俺……」
「だってこの国、どこが勝っても詰むじゃないですか。ミニスカ軍服からパンツをチラ見せしてくる女の子達と、山奥で仲良しハーレムエンド(意味深)でも誰も文句言わないと思いますよ?」
エリザベスは、おもむろに自身のスカートを持ち上げて、スカイに下着をチラ見せした。黒いそれから彼は視線を逸らす。
「やめろよ。そういう事されるとかえって萎えるんだよ……」
「私としては、殿下が私に、どうしても自分の子を産ませたい、というのであれば、ベッドに行くのもやぶさかではありませんが。女癖の悪さはともかく、顔はどストライクですし……キリも良いですし、今作はここで完結って事にして、次回作は生まれてきた100人の息子娘達の子育て奮闘記にしましょうよ」
「茶化すなよ……。大体ミニスカ軍服ってなんだよ。情勢が詰んでるってのにビジュアルばっかり重視しやがって。……今でもたまに視線に困る時あるんだよなぁ。誘ってるのか、無防備なんだかしらんけどさ」
「はい絶対嘘。ガン見してるでしょ、この下着フェチ。よく干されてる大隊員のパンティやブラを眺めてるの、バレバレですからね?」
「…………勘弁してくれよ」
「八股かけてる男が、今更純情ぶるんじゃありませんよ。ほーら、貴重なエリザベスちゃんのお色気シーンですよ? ありがたく私のパンツを拝んでください。下着フェチの殿下の為の大サービスです。下着フェチの殿下の為の!」
「……だから人の性癖いじってくるのはやめろ。美形キャラで売ってるんだから、女の子のパンツ大好きとかバレたら幻滅される」
「実際、有能で美形の王子様キャラなんてどうやっても嫌味になるんですから、これくらいの欠点は必要ですよ」
「…………何かこう、ないのか? 救いのシナリオとか、光とか……今更R18方向とか子育て戦記に舵きるとか嫌だよ」
「…………ふふふ。実はありますよ」
「ほんとかよ!?」
「それは殿下の姉上ーー1話で言及だけされた王女様が、曹操と頼朝と信長とカエサルとナポレオンを足して、ビスマルクの政治力とエカチェリーナ2世のカリスマを添えた、超絶有能・超人国家再建特化型お姉ちゃん って設定にする事!」
「おい待て!? 誰がそんなスーパーチートキャラを!? っていうか、世界観崩壊じゃ……この話、今までご都合チートとかまったくやってこなかったくせにこれかよ!!」
「フィクションだからセーフです」
「お前……それで良いのか……? お前もボケに回ってないか?」
「まあ、おまけパートですし。それにそれで良いんですよ。世界がクソでも、お姉様が超有能だからなんとかなるっていう、読者にも希望を示す優しい作劇」
スカイ、沈黙。ふっと肩の力が抜け、空を見上げる。
「……最悪だな。でも、まあ……それでも希望があるって事にするだけでも、マシか」
「そうそう。希望は、設定の暴力で捻り出すものです。それがフィクションの良いところ。どんな絶望展開からでも大逆転出来ます」
「……行けるところまで行くしかないか。どうせ地獄しかないなら、せめて物語の最後まで付き合ってやるよ」
「この参謀エリザベス、殿下にどこまでもお供しますよ」
この国、もしかして現代においてナーロッパのノリと価値観で国家運営してる……?と気付いてしまったあなたは1d6のsanチェックです。
多分他の国はドン引きして「倫理観が中世から進歩無し? 現代で貴族制? えぇ……北朝鮮以下じゃん。関わりたくねぇ……」って放置してる。幸い(?)資源も地政学的価値も無いゴミ(直球)だし。
アールガム共和国 (アメリカポジ)「民主主義の押し売りは中東で懲りたし、資源も無いし武器だけ売って放置安定」 (主な提供武器 type55狙撃銃(M21に相当)type46(M16に相当))
大秦連合(中国ポジ)「港も資源も無いとか投資価値0で草。両軍に武器売って小銭稼ぐアル」(主な提供武器 33式自動歩槍(56式に相当)その他多数)
グラフグラード(ロシアポジ)「主要な武器輸出相手の一つだけど、隣国のムリーヤ(ウクライナポジ)相手に戦争仕掛けて舐めプかましたら普通にボコられる+世界中からの制裁でそれどころじゃないんですけお!」 (提供武器 R77(AK47に相当)その他多数)
天照皇国(日本ポジ)「あの国、わが国の維新をモデルに近代化しようとしてたのに、どうしてこうなった…(闇落ちした弟子を見る目)」
ギアテラ(ドイツポジ)「今日日、人権侵害の改善要求に逆ギレとか、少年少女兵でプロパガンダとかドン引きですわ……グラフグラード大暴走でそれどころじゃないし関わらんとこ(武器を売らないとは言っていない)」(主な提供武器 S100(MP5に相当)MG778(MG3に相当))
多分この世界の列強国の王都陥落時の反応はこんな感じ。




