13、教祖
「……えっ?」
それは、あまりにも自然な口調だった。そして、あまりにも、自然に突き刺さる一言だった。
クリスティーナのまぶたが、数回、反射的に瞬く。
頭の中でその言葉を何度か咀嚼して、ようやく意味を理解する。
「……そ、そうなんだ。そっかぁ……ふふ、そっか……もうこの時点で二股かけてるの……」
「厳密には8股だな。愛人が6人いるから」
「……は、はちまた」
「マルタに、エレナに、フローラに、マリーに、グレイシーにアレクサンドラ……こいつらとはもうやる事やってる」
「いや、言わなくて良いよ……」
「後からバレるのも、それはそれで不誠実だろ……」
クリスティーナは笑っている。だが、目が笑っていない。その微笑は、まるで油を挿してない機械のごとく、ぎこちない音を立てていた。
スカイは「やらかした」などと微塵も感じていない表情で、再び焚き火に視線を落としていた。
「……いつから?」
「レベッカとは部隊結成直後。アリスとは大体半年前だな。一応、アリスとの仲はレベッカ公認だぞ」
その時、スカイの膝枕で寝息を立てていたレベッカが「スカイ……愛してる……」と呟く。
ただの寝言だ。だが、クリスティーナの目はますます冷えて、輝きが失われていく。
「あはは……最初から……か」
「まあ、特にレベッカと致したのは部隊結成直後のノイジーシケイダ作戦の直後だし。今さらどうこう言ってもな」
「……妹分その2の私には、報告も相談もなかったんだ?」
「お前に話してたら、隊の皆にバレるだろ。あの頃のお前、お喋りだったし……ま、察しの良いやつには、もうバレてそうだが」
「へええ……そうだったんだぁ……」
――この人、やっぱり根っこは自分勝手だ。
彼女は間違いなく、スカイを慕っている。だが、この時浮かんだそれは確かに本音だった。クリスティーナは落ち着くようにゆっくりと大きく息を吸った。肺と脳内に新鮮な酸素がいきわたる。
「……でもまあ、いいよ。私、正室争いに参加する気はないし。そんなくだらない事に神経注ぎたくないし」
「……なんか刺があるような」
「気のせいじゃない?」
声のトーンは変わらず明るい。だが、まるで氷のような温度が、彼女の言葉の端々に滲んでいた。
「それにね、別に『正妻』になれなくても、私は皆を導くから」
「……は?」
「だって、家族でしょ? 大隊は家族。隊長は皆の旦那さんで、お父さんで、お兄さんで、弟で、天使。なら、誰かがお母さん役にならなきゃ。全員奥さんじゃ、みんな混乱するし揉めるでしょ?」
「いや、それは……お前……」
「私が『母』で、皆はお嫁さんで……うん、すごくうまくいくと思うよ」
スカイは引きつった笑いを浮かべた。クリスティーナの目に光は灯っていない。
スカイは今まで妹扱いしていた部下に、まるで、危ない新興宗教の教祖のような印象をもった。
「なあ……お前、ちょっと怖いぞ」
「ふふっ、隊長こそ。……ここまできて今さら怖いとか言う資格、あるの? 覚悟、決めてね?」
その微笑に、思わず鳥肌が立った。
「大隊は家族。隊長は天使であり、皆の父であり、兄であり、弟であり、皆の夫……。そして、家族を裏切る者には死を……」
クリスティーナはそうぼそりと呟くと、不穏な笑みを浮かべた。
スカイ・キャリアベース。
そして、666――悪魔の数字の名を冠した大隊の、家族化計画は、着実に動き始めていた。
いや、スカイが知らなかっただけで、すでに動き出していたのかもしれない。




