12、戦後のこと
「……落ち着いた?」
「……ああ。ふっきれた。ここまできたら、最後まで付き合うよ」
森に響いた慟哭の合唱も、今は静まり返っている。
焚き火のぱち、ぱちという音だけが、静かに耳を撫でていた。
スカイはクリスティーナと並んで座っていた。彼の膝では泣きつかれたレベッカがすやすやと寝息を立てていた。炎の揺らぎが、二人の横顔を赤く染めている。
「……オードリーもね、家庭が複雑で……感情的になるの、仕方ないんだ。許してあげて」
「分かってるさ。罰する気なんてない。むしろ……あいつのおかげで、腹をくくれた。感謝してるくらいだよ」
「ふふっ……さすが王子様、心が広い」
「おい、やめろ。面と向かって王子様扱いするの。くすぐったいんだよ」
「じゃあ、シマエナガの君様」
「それなら許す」
「隊長、ほんとこの二つ名気に入ってるよね」
ふたりで小さく笑った。
そんなふうに笑い合うのは、いつぶりだろうか。あまりに久しぶりで、どこか夢の中みたいだった。
やがて、ふとした沈黙が訪れた。先にその沈黙を破ったのは、クリスティーナだった。
どこか迷いながら、けれど覚悟を込めた声で。
「……私もね、貧民街の出身なの。いつも、両親に罵られて……殴られてた。生きてるだけで怒鳴られて、叩かれて……ここにいていいなんて、思ったこと一度もなかった」
「……どうもこの大隊は毒親持ちが多い」
貴族も平民も、ここまで残った連中は何かしら家庭に問題を抱えた者が多い。家に帰れないからこんな所に残っているともいう。
「でも、隊長が最初に言ってくれたよね。「大隊は家族。支え合うものだ」って。……あれがね、私にとっての、初めての救いだったんだ」
「ああ……そんなこと、言ったな。創設のときの、演説か」
まだ1年前なのに、随分と昔に感じた。それだけ、この大隊での1年間の戦いは濃かった。
「うん。あの瞬間だけは、初めて「ここにいていい」って思えた。だからね……この大隊は、私にとって本当の家族なの。血は繋がってないけど……」
「むしろ、『同じ罪を背負った者同士』って意味では、血より濃い絆かもしれないな」
クリスティーナは、小さくうなずいた。そして、まっすぐ焚き火を見つめながら、静かに続ける。
「……私はね、この戦争が終わったあとも、皆で一緒にいたいと思ってる。ここに……もう、居場所を見つけちゃったから」
炎が揺れる。その光に照らされながら、彼女は一拍置いて、静かに言った。
「だから……隊長が良ければ、なんだけど。戦争が終わったら、生き残ったみんなで……隊長と、結婚して、『本当の家族』になれたらって……そう思ってる」
「……は、はぁ?!」
スカイは思わず変な声を出した。頭の中が少しだけ追いつかない。
「……ハーレムってやつか? 俺はそんな上等な男じゃないよ」
「でも隊長、王族でしょ? 一夫多妻、制度上はOKじゃない? 合法」
「おいおい……その可愛らしい顔で、サラッととんでもないこと言うなよ、妹分その2」
スカイは冗談っぽく笑ってみせた。けれどクリスティーナの瞳は、冗談を言っている目ではなかった。
「私は……けっこう本気だよ」
声のトーンが、深く、低くなっていた。
「だって、オードリーも言ってたけど……あの子たちに、平和な世界で『居場所』があると思う? 不意打ちと、待ち伏せと、一撃離脱ばっかり得意な100人のゲリラの女の子達に。あの子達、人殺ししか出来ないよ?」
「…………」
「……たぶんね、ここにいる全員、自分が『許されない』って思ってる。幸せになっちゃいけない。罪は消えない。死ぬまで贖い続けるしかないって……そんなふうに思ってる。……私も、そうだから」
「…………」
「1年で2万人以上殺した。……戦争だから、って言い訳するには、少しやり過ぎたよ。私達」
「…………」
「だから……言っちゃ悪いけど、もし奥さんの1人っていう『役割』でも与えられたら、それを言い訳できるんじゃないかって思うの。ここにいていいって、ようやく言えるようになるんじゃないかって。……それがなかったら、戦争が終わっても……あの子たち、また戦場を探すよ。今度は国のためじゃなくて、自分の『居場所』のために。そして、死ぬまで戦い続ける」
「…………戦争やってるのはブラックバニアだけじゃないからな」
「……戦争やるなら、戦後のことも考えないと。勝った後、帰還兵達にちゃんと生きる理由を用意してあげなきゃ……」
焚き火の火が、ぱちりと弾けた。相変わらず、炎は彼女達を照らしている。
クリスティーナの横顔は、その光の中で、不思議と東洋の如来像に見えた。
「……前向きに、考えておくよ」
スカイは言葉を選びながら、静かに返す。
「ただ……まずは、この戦争を終わらせる。それが、先だ」
「うん……そうだね」
ふたりの会話は、静かに闇に溶けていった。
夜の空気が、少しだけ柔らかくなった気がした。
「…………あぁ、そうだ。ちなみにもうレベッカやアリス達とは『そういう関係』だから、ハーレム作るとしたら、レベッカが正室、アリスが第二婦人だから」
「えっ……?」




