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10、戦後の事

「……落ち着いた?」


「……ああ。ふっきれた。こうなったら、最後まで付き合うよ」


 森に響いた慟哭の合唱も、今は静まり返っている。


 焚き火のぱち、ぱちという音だけが、静かに耳を撫でていた。


 スカイはクリスティーナと並んで座っていた。炎の揺らぎが、彼女の横顔を赤く染めていた。


「……オードリーもね、家庭が複雑で……ああなるの、仕方ないんだ。感情的になっちゃうのも、許してあげて」


「分かってるさ。罰する気なんてない。むしろ……あいつのおかげで、腹をくくれた。感謝してるくらいだよ」


「ふふっ……さすが王子様、心が広い」


「おい、やめろ。そういうの、くすぐったいんだよ」


 ふたりで小さく笑った。


 そんなふうに笑い合うのは、いつぶりだろうか。あまりに久しぶりで、どこか夢の中みたいだった。


 やがて、ふとした沈黙が訪れた。火の音だけが、語りかけるように続いていた。


 その沈黙を破ったのは、彼女だった。


 どこか迷いながら、けれど覚悟を込めた声で。


「……私もね、貧民街の出身なの。いつも、両親に罵られて……殴られてた。生きてるだけで怒鳴られて、叩かれて……ここにいていいなんて、思ったこと一度もなかった」


「……」


「でも、隊長が最初に言ってくれたよね。「大隊は家族。支え合うものだ」って。……あれがね、私にとっての、救いだったんだ」


「ああ……そんなこと、言ったな。創設のときの、演説か」


「うん。あの瞬間だけは、初めて「ここにいていい」って思えた。だからね……この大隊は、私にとって本当の家族なの。血は繋がってないけど……」


「むしろ、『同じ罪を背負った者同士』って意味では、血より濃い絆かもしれないな」


 クリスティーナは、小さくうなずいた。そして、まっすぐ焚き火を見つめながら、静かに続ける。


「……私はね、この戦争が終わったあとも、皆で一緒にいたいと思ってる。ここに……もう、居場所を見つけちゃったから」


 炎が揺れる。その光に照らされながら、彼女は一拍置いて、静かに言った。


「だから……隊長が良ければ、なんだけど。戦争が終わったら、生き残ったみんなで……隊長と、結婚して、『本当の家族』になれたらって……そう思ってる」


「……は、はぁ?」


 スカイは思わず変な声を出した。頭の中が少しだけ追いつかない。


「……ハーレムってやつか? 俺はそんな上等な男じゃないよ」


「でも隊長、王族でしょ? 一夫多妻、制度上はOKじゃない? 合法」


「おいおい……その可愛らしい顔で、サラッととんでもないこと言うなよ、妹分その2」


 スカイは冗談っぽく笑ってみせた。けれどクリスティーナの瞳は、冗談を言っている目ではなかった。


「私は……けっこう本気だよ」


 声のトーンが、深く、低くなっていた。


「だって、オードリーも言ってたけど……あの子たちに、平和な世界で『居場所』があると思う? 不意打ちと、待ち伏せと、一撃離脱ばっかり得意な100人のゲリラの女の子達に。あの子達、銃を撃つことしか出来ないよ?」


「…………」


「……たぶんね、ここにいる全員、自分が『許されない』って思ってる。幸せになっちゃいけない。罪は消えない。死ぬまで贖い続けるしかないって……そんなふうに思ってる。……私も、そうだから」


「…………」


「だから……言っちゃ悪いけど、もし奥さんの1人っていう『役割』でも与えられたら、それを言い訳にできるんじゃないかって思うの。ここにいていいって、ようやく言えるようになるんじゃないかって。……それがなかったら、戦争が終わっても……あの子たち、また『戦場』を探すよ。今度は国のためじゃなくて、自分の『居場所』のために。そして、死ぬまで戦い続ける」


「…………」


「……戦争やるなら、戦後のことも考えないと。勝った後、帰還兵達にちゃんと生きる理由を用意してあげなきゃ……」


 焚き火の火が、ぱちりと弾けた。その音が、空気に新たな色を差し込んだようだった。


 クリスティーナの横顔は、その光の中で、不思議と穏やかに見えた。


「……前向きに、考えておくよ」


 スカイは言葉を選びながら、静かに返す。


「ただ……まずは、この戦争を終わらせる。それが、先だ」


「うん……そうだね」


 ふたりの会話は、やがて風に溶けていった。

 夜の空気が、少しだけ柔らかくなった気がした。


「…………あぁ、そうだ。ちなみにもうレベッカやアリス達とは『そういう関係』だから、ハーレム作るとしたら、レベッカが正室、アリスが第二婦人だから」


「えっ……?」


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