1、王都燃ゆ
あらすじで美少女とイチャラブするゆるふわハーレムだと言ったな?
──あれは嘘だ。(コマンドー)
この物語は、15歳の美形少年が率いる美少女だけの残党軍による、
生き残るために愛と狂気と銃火器をぶちまける戦場ハーレム地獄である。
※登場する美少女たちは共依存だったり、督戦隊だったり、こじらせまくったヤンデレだったりします。
心してお読みください。
ようこそ、第666特別大隊へ。
夕暮れの空は、真紅に染まっていた。
ブラックバニア王国は王都ドールセン――かつて栄華を誇ったこの街も、今日は違う。
石畳も、建物も、すべてが血のような焔に焼かれている。
遠くに見える王城は黒煙を噴き上げ、炎に包まれていた。
まるで国そのものが焼かれ、終わろうとしているかのように。
第666特別大隊の陣地に身を置く俺、スカイ・キャリアベースは、その光景を黙って見据えていた。
乾いた笑いが喉の奥でこぼれる。一応、この国の王子である俺だが、別に悲しみは沸かない。齢15歳で亡国の王子になる事になるとは思わなかったが。
雲のような白い髪と空の様な青い瞳。『スカイ』という名の通りの美少年。自分で言うのもなんだが、その辺の女の子より顔は整っていると思う。触角の様に頭頂部から生えた二本のアホ毛がトレードマーク。
国の象徴が焼け落ちるというのに、大して感情が動かない。
王子と分かったのはごく最近で、それまで貧民街が暮らしてきて、あの場所にそこまで愛着が無いからか。はたまた、嫌な思い出が多いせいか。
「石造りの建物がここまで燃えるとはな……さすが王族、豪勢な火葬だ。お父上様はくたばりあそばせたようでなにより」
「不謹慎なことを言わないでください。中で人が死んでるんですから……。度重なるパワハラに腹立ててたのは理解しますが。……それに、少なくとも、王女様は脱出されたようです」
隣にいたのはエリザベス・ラプター。
冷静沈着な俺の参謀であり、戦術指揮に長けた少女。俺より一つ年上の16歳。下級貴族出身ながら軍学校で優秀な成績を修めていた所、繰り上げ卒業で動員されたとか言っていた。経歴通り有能で、俺の右腕として働いてもらっている。
いつも落ち着いた女性だが、今の彼女の眼鏡の奥の桃色の瞳には、もはやいつもの鋭さはなかった。ただ、絶望と疲れだけが見える。……彼女も王都出身だったか。
「残された道は二つです。ここで玉砕するか、撤退して再起を図るか」
地図に指を走らせながら、彼女は淡々と言う。その声は微かに震えていた。
「決断を急いでください。退路が閉じれば、選択肢すら消えます」
俺は一度、深く息を吸い込んだ。そして頷く。
「……もう、十分に戦った。義理は果たした。撤退する」
エリザベスがわずかに目を見開き、それから静かに頷く。言葉にはしないが、悔しさがにじんでいた。
俺は、彼女の肩を優しく抱き、肩を叩きながら、無線機を握りしめ、叫ぶ。
「前線の生き残りに告ぐ! これより第666特別大隊は王都を離脱する! 合流ポイントは……」
その声は、火と煙に染まった空へと吸い込まれていった。
***
報告は、すぐに届いた。
戦死――リーナ・シュトルツ、ミカエラ・クライン。
突撃隊にしてエース部隊――クロウ隊の中核だった二人の名に、胸の奥が冷たく沈む。
「二人とも……天晴れな最期でした」
血と泥に塗れた少女が、かすれた声でそう言った。
キャサリン・トマホーク。今や、クロウ隊で唯一の生存者だった。
「私一人だけが生き残って……私は、味方の命を吸う死神なのかもしれません」
灰色のツーサイドアップを揺らしながら、もはや泣く気力すら無く俯いた彼女に、俺はそっと声をかける。
「……キャサリン。お前のせいじゃない」
肩に手を置き、正面から見つめる。
「俺たちは皆、誰かを失っている。だが、それでも――生き残るんだ。今度は、お前が守る番だ」
キャサリンの空色の瞳から、ぽろりと涙がこぼれた。
「……分かりました。もう一度、頑張ってみます」
その時、陣地の入口がざわめいた。
「スカイッ! 敵接近中!」
駆け込んできたのは、レベッカ・シューティングスター。
幼馴染の同い年だが妹分。紫のサイドテールに返り血を浴び、異様な迫力を纏っていた。
「レベッカ!? どうした、その格好っ?!」
「もうすぐそこまで敵が来てる! アサルトライフルに差した銃剣で二人ぶった斬ったけど、数が多すぎる! やばいよ!」
「……そうか。時間がないな」
即座に立ち上がり、声を張る。
「全員、撤退準備! イーグル歩兵隊とキャサリンは進路確保! バルチャー狙撃隊は後方支援! コーモラント工兵隊第二小隊は爆破準備!」
「了解!」
エリザベスが地図に手を走らせ、進路を指示する。
「右側の廃工場を抜けます。遮蔽物が多く、敵の視線も届きにくい。そこから合流地点へ出られます」
「よし、移動開始だ!」
少女たちが次々に立ち上がる。血まみれの服を着たまま、歯を食いしばり、武器を握りしめる。
「爆破工兵隊、出るよ! 虎の子の爆薬で追跡妨害してやる!」
「こんなこともあろうかと地雷撒いておいた! ヒィィィハァァァ! 爆裂カーニバルの始まりだぁぁっ!」
コーモラント隊の第二小隊が得意げに笑う。 キャサリンも続いた。
「私が……みんなの死を、無駄にしない」
その声には、もう震えはなかった。
「全員、撤退開始!」
崩れかけた市街地を、俺たちは駆け抜ける。赤く染まった空。崩れゆく王都。
けれど、俺たちはまだ――終わらない。
戦場でしか生きられない少女たちと、捨てきれない信念を胸に。第666特別大隊は、地獄の中で一つの家族として、生き延びようとしていた。
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