12話 サークル内対抗戦『2日目』-2
「トサーーー講座!!」
金はお風呂上がりにストレッチをしながらハイテンションで叫び出した。
それを冷静にジッと見つめる銀に少し恥ずかしくなったのか、テンションを少し下げて話し出す。
「お前が聞きたいのは『どうしてブロックに捕まりまくったのか?』だったな、簡単だよバレてたんだよ」
はぁ、それは分かってるよと言う銀の目を横目に説明を続ける。
「俺も少ししか見てないからアレだけど、大体はわかる。誘導されたんだよ」
そもそも銀は不思議に思っていた。前に兄に使わされたらダメだみたいな事を聞いていたが、そんなことが可能なのかと。
「元々速攻の確率悪いんだろ?」
銀は静かに頷く。
「確率悪くても成功させたい、レシーブが悪い時は使わないでおこう。でも、速攻を使いたくても中々いいレシーブが上がってこない。まだかな? まだかな?」
少し芝居じみた説明だが、今の銀は頭をフル回転させているため気にしている余裕はない。
「待ちに待ったいいレシーブがきた。速攻のチャンスだ!! 速攻だーーーで、ブロック。こんな感じだろ」
ここまで言われて銀は気づいた、自分が誘導されていた事に。
銀にはお構いなくさらに金は続ける。
「どんなレシーブでも全ての種類のトスを上げるのがトサーだ。と、言いたいとこだがまだ君たちには経験が足りないからそこは仕方ないな」
金は最後に満面な笑みを見せて言葉を付け足した。
「特に幸也はそう言うのが得意だから、俺も散々苦い思いをさせられたよ。今では関係ないがな!!」
§
銀は翌日、金に言われたことを2人に共有していた。
「でもどうする? それだと、結局速攻は使えないって事にならないか」
「どうでもいい展開の時に乱れたレシーブを速攻に上げよう」
「それじゃあ、失敗するじゃん」
「失敗しても上げる姿勢が大事だろ、成功したらラッキーだしな」
2日目の試合が始まる。
昨日の反省から多少乱れたトスでも速攻を使うようにした。失敗が少なくないわけではなかったが、効果はあった。
速攻でも通常のアタックでもあからさまに読まれるようなことはなく、1セット目を取れた。
「どうする、1年に1セット取られたぞ」
「それほど打点は高くないはずなのにブロックがしづらい」
「よし、アレを使おう」
男は不敵に笑う。
「1年相手にか!?」
「このままじゃ負けるんだぞ!!」
残る2人の男は難色を示すが渋々と提案を受け入れた。
2セット目が始まると男は大き声で味方の2人に指示を出す。それは将基達にも聞こえる大きさで。
「速攻あるよ、速攻あるよーー、速攻きてもどうせ入んないから無視ね無視」
銀はサーブをレシーブすると速攻を上げる。これはセットの1本目は速攻で行くとレグで決めたことだった。
男は宣言通りブロックの構えに入らずに無視をするが将基は決めていく。
すると男はまた聞こえるように大きな声を出す。
「アンラッキー、アンラッキー、次はもう速攻はないよ」
その後の2本を普通にトスを上げ普通にアタックを決める。
飛鳥がサーブの構えをすると、ここぞとばかりにまたもや男の声が聞こえてくる。
「入れサー、入れサー、攻めてきてもどうせ外すよ」
飛鳥は呆れた様子でサーブを打つ。2本はアタックを決められたが1本は得点した。しかし、男の声は静まることはなかった。
「オッケー、オッケー、速攻あるよ速攻あるよ」
銀は速攻を選択せず普通にトスを上げる。2本ともアタックを決め、将基が悩ましい顔で呟いた。
「どうする? 相手もあんなに速攻警戒してるって言ってるから逆に速攻出すか」
えっ!? と驚いた顔を飛鳥は見せ、銀は無表情で応える。
「出さなくて大丈夫だよ」
「そうなのか?」
「元々、速攻なんてそんなに出すもんじゃないんだし、これで出してミスでもしたら相手の思う壺でしょ。普通のアタックも決まってるんだから、止められるまでは使わないよ」
「そっか!!」
将基は納得した表情でポジョンへと向かっていった。
その後も男の声が止むことはなかったが銀の言った通り普通のアタックが止められることはなくその試合ではもう速攻が使われることはなかった。
ただただ「男の速攻あるよ」と言う声だけが体育館を木霊していた。
§
早くに試合を終えた将基達は別の試合を見ていた。それは次に対戦する西山のレグの試合だ。
改めて見た西山のプレイは練習とは気合いもパフォーマンスも全く違った。
そのプレイはいうなら『豪快』これにつきる。
元々、骨太でガタイのいい身体に筋肉の鎧が装着された大きな肉体が宙を飛ぶ。
アタックはシザースで腰と背中で着地をするのだが着地と同時に体育館の床が揺れて大きな音を響かせる。
そしてそのアタックは相手のブロックを吹き飛ばし、レシーブする足をも吹き飛ばすかのような重い一撃。
そしてブロックがでかい。相手からするとまさしく筋肉の壁が覆いかぶさってくるかのようだろう。
多少のコース打ち程度では逃げることはできない。
試合は終わり、西山のレグが圧勝をした。
凄まじいの一言ではあったが西山のレグは二歩のレグに敗北していた。
その原因に3人は気づいている。気づくも何も明らかでサークル内では有名な事だった。
西山の迫力や実力は凄いのだが、トサーとサーバーがイマイチなのだ。
西山は何度も言われていた、レグメイトを変えれば玉樹や二歩にも劣らずにもっと上を目指せる。
それはレグメイトである本人達からも提案をされたことだ。
しかし、西山はそれらの提案を却下する。何故なら西山は後輩に実力で抜かされまくり、弱いキャプテンと後輩から陰で呼ばれていた。それを覆したのは3年の中頃と遅咲きだった。
そんな中お互いに支え合ってきたのが今のレグメイトで自分が上手くなったから他の人をレグにするなんて思うわけもない。
勝ちたくないわけではない、もちろん勝ちたい。ただそれは友を捨ててまで得るものではないと思っていた。
2人のレグメイトが怠けているなら即座に変えていた。どれだけ努力をして悩んでいるかを知っているからこそ、このレグで勝ちたいのだ。
例え対面にいるのが1年だろうが手加減はしない。
将基達3人はネット越しにもその圧力を感じていた。
向こうサーブで始まったサーブはやはり平凡なものだった。頭でレシーブをしてアタックの構えに入ると今までに感じたことのない感覚が将基を襲った。ひしひしと伝わるその圧力は先程までとは比べものにならない。
トスが上がりアタックを打つ際にさらに強くなる。見えてはいないが、自分の背後には壁があると錯覚するほどに肩に重圧がかかる。
試合はドシャットから始まった……