さよならの言葉を胸にしまって
最後のデートをどこか寂しく思う紫乃
が、馨は絶対に最後にしないと
彼女に誓う。
そしていよいよ、別れの時がやってくるー
双子姫、ここに堂々完結!!
窓から吹く風が、温かい春の訪れを感じされてくれる。
華々しく飾られた赤い花が付いたネームが、その風でゆらゆらなびく。
「卒業、おめでとう。柴乃」
優しく微笑みながら声をかけてくれるのは、親友のあんちゃんと幼馴染のむぎちゃんだ。
手にはさっきもらった卒業証書の筒を持っており、寂しそうに笑って見せる。
「早いよね。来月から大学生なんて」
「そうねぇ……まあでも、一人だけ社会人って人もいるんだけど」
「あはは……なんかごめんね」
むぎちゃんは自分の家でもある旅館で、本格的におかみ修行。
そしてあんちゃんは、結構前にスイーツを専門にしている専門学校へと進学する。
もちろん私もデザイナーになるための学校に行くわけだけど……
「みんなと離れ離れになるって思うと、やっぱり寂しいね……」
「……うん」
「私は旅館にいるからさ、二人も息抜きでおいでよ。話くらい、聞きたいし」
小さい頃から一緒だったむぎちゃんとも、中学から仲良くしてくれたあんちゃんも来月からはいなくなってしまう。
友達付き合いが悪い私には、少し痛手だけど。
でもみんな、自分の夢に向かって突き進んでいく。
そんな背中を、応援せざるを終えないじゃない。
「あ、やっぱり三人一緒だった。卒業式お疲れ~柴乃ちゃん」
のんきな声でこちらにやってくるのは、相変わらずの笑みを向けている隼人君だった。
卒業式終わって間もないというのにジャケットのボタンを閉めず、ブラウスが顔を出していて、ネームも取ってしまっている。
「隼人君……気抜くの早くない? 先生に怒られるわよ?」
「いいじゃん。卒業はしたんだし」
「相変らずなことで。午後にはもうあっち行くの?」
「そ。絶賛姉さん待ち」
隼人君にお姉さんがいたことは、実質驚きもしなかったしさほど興味がわかない。
ただ彼が私だけでなく、むぎちゃんとも分かれてしまう結果になったことだけが気がかりだ。
あと少し……あと少しだけ早く行動にできたら、少しは変わっていたのかな……?
「あの、隼人君」
私がそう思っていた矢先、むぎちゃんが私の隣に並ぶ。
何か言いたそうなその顔つきは、なにかを決意しているかのようにもみえた。
それを感じ取ったのか、隼人君も「何?」と彼女に聞き返す。
「私ね、この数週間ずっと考えてた。隼人君は自分の気持ちを伝えてくれた……なのに自分は何も答えることが出来なかったこと……」
「そのこと? あれはもういいって……」
「柴乃や杏珠を見てて思ったの。私も隼人君の気持ちに答えたいって。だから時間を、くれないかな? みんなみたいに、うまくはいかないけどちゃんと隼人君と向き合いたい」
むぎちゃんは、やっぱりすごい。
恋愛なんて私達より、経験ないくせに。
それでも大好きなお友達だった、彼の思いを受け止めようとしている。
それがむぎちゃん、だもんね。
「……ほんと、かなわないなあ。紬ちゃんには」
彼がどう思っているのか、ぼそりとつぶやいた言葉は私の耳元にはしっかり届いていた。
すると隼人君はくるりと背を向け、
「待たせすぎるのだけはやめてよね~オレ、結構飽き性だからさ」
と言って、校門をでてしまった。
「紬ちゃんは強いんだね、すごく」
「ううん、私なんて柴乃たちには遠く及ばないよ。じゃあ柴乃、私達も行くね」
「ええ。春休みに予定あったら、絶対遊びに行こう!!」
むぎちゃんとあんちゃんが、うんと笑顔でうなずき合ってくれる。
彼女達は手を振りながら、別れの言葉を言いながら姿を消してゆく。
さよならではなく、またねと……
「辛気くさぁい。お姉ちゃんにあってないよ、こんな雰囲気」
空気を読めないのか、わざとなのか聞こえてきたのは我が妹・姫野の声だった。
隣にはやっぱり寺濱君がいて、どうもと笑って見せる。
相変らず姫野は嫌みったらしい口調で、私にふきかけてきた。
「姫野、卒業式きら~い。どこ行ってもみんなが離してくれないんだもん」
「あんたがたくさんの男子引き連れてたって証拠でしょ? まったく……これに懲りたら、もうやめ……」
「もう僕なんていらないよ? だって姫野、直樹君と結婚するから」
姫野はいつも、私の上を行く。
生まれたのだって、私の方が早かったというのに。
結局姫野は職を決めることもなければ進学もしない、先生の頭をさんざん頭を悩ませていた。
が、そんな時に文化祭を見ていたという芸能会社の一社員の推薦で、まさかのそこへ入所することになったという。
なんとも姫野らしいというか、まるで計算していたかのように出来ているというか……
あ、ちなみに寺濱君もセンター試験のかいあって大学に合格。
子供がどうとか言ってたから、先生にでもなるのかしら。
「僕、柴乃さんには本当に感謝しています。僕がこうして彼女といられるのは、あなたのおかげです。本当に、ありがとうございます」
「ちょっ、やめてよ。私はただ、あの頃は必死で……」
「浅沼君と姫野をくっつかせたくなかっただけだもんね~?」
「姫野は黙ってて!!」
「まあでも、あの浅沼君は落とせなかったと思うよ? いくら私でも、ね」
そういうと姫野は、また家でねと笑顔で去ってゆく。
終始寺濱君は、お辞儀をしっぱなしだったけど。
みんなが、去っていく。
蛍雪高校にきて三年。色々あったなあ。
あの時彼と出会ってなかったら、今ここにいる私はまた違う私にでもなっているのかしら……
「さすがのお前でも卒業式くらいは、感慨深くなるんだな」
声が、聞こえる。
振り向くと、そこには馨君がいた。
彼も隼人君と同じで、ジャケットが空いている。
ただ、隼人君とはちょっと違うようで……
「あんた、ボタンは?」
「ああ。女子にいわれるがまま」
「それって全部取られたってこと!?」
「隼人も何個かあげてたけど、気付かなかったのか?」
そうだった。この人達、すごい人気だったの忘れてた……
あわよくば第二ボタンだけでももらえないかなって、期待した私がバカだった!
ていうか、全部あげる!? 普通!
そこは彼女に譲って……!
「なーんてな」
すると馨君は、ポケットから何かを取り出して見せる。
手のひらに入っていたのは、なんと制服のジャケットボタンだった。
「式終わった直後に、こっそり隠しておいた。柴乃ならこういうのもらいたがるだろうって、隼人がいってたからな」
「そ、それなら早く言いなさいよ……」
「ちょっとしたサプライズだよ」
差し出されたボタンを手にしながら、そっと胸に抱き寄せる。
馨君も隼人君とは違う県外の学校で、大好きなゲームのことを学びに飛び立ってしまう。
たしか出発は彼よりは遅いみたいだけど……でももう会えなくなっちゃうのかあ……
「柴乃。顔を上げろ」
馨君の手が、私の顔を強引にあげる。
戸惑う私に、彼は唇にキスをして見せた。
いつにもまして強引で過激で、すごく刺激が強くて……
「ちょっ! 何よ、急に!」
「キスの味を忘れないためにって奴かな」
「何よそれ!!!」
「柴乃。俺は必ず、お前を迎えに来る。約束する」
その瞳が、笑みが、私の胸を刺激してくれる。
暖かくて優しくてとにかくかっこよくて……
「……浮気したら、許さないんだから」
再び重なり合う唇が、熱を帯びる。
大好きな人と過ごした、最後の高校生活はゆっくり閉じたのですー
(FIN)
二年生編からお付き合いいただいた皆様、
この三年生編を読んでくださった皆様、
本当に本当にありがとうございました!!!
こんなに個性的で、こんなに厄介な主役なのに
今は愛おしくて仕方ありません。
またどこかで会える気がしてるのは
私だけではないはず…
その時はまた、笑顔で迎えてあげてください
みんな、卒業おめでとう!!!
紫乃達の将来に、幸あれ!!




