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仕上げられた最高の一品は、少女の言葉で輝きを増す。

体育祭にて馨をかけて蘭花と戦った柴乃。

馨の協力もあり、

無事に勝利したが・・・


「ねぇ渕脇さん! 馨君とはいつから付き合ってるの!?」


「柴乃様ぁ! あんなイケメンと付き合ってるなんて嘘ですよね?! 嘘だよね!?」


「かわいいからって一人占めとかずっるい! みんなの馨君なのに!!」


クラスメイトの男子が、女子が、口々に私に行ってくる。

騒音のようにうるさい声に、私は耳をふさぎ、


「う・る・さ・いいいいいいいいいい!!!」


と叫びながら教室を出た。

渕脇柴乃、蛍雪高校三年生。

現在、女子と男子の強襲に襲われる日々になっています。

なぜこうなったのか、理由はもちろん体育祭の借り物競争だ。


私の紙に彼氏って書いてあったことが公になり、体育祭が終わって一週間たってもこのざまだ。

まったくもう! なんなのよ、みんなして!!

ずるいもなにも、好きって言ってくれたのは事実よ!!?

なのにあり得ないとか、私の馨君とるなとか知るかそんなの!

嗚呼、憂鬱。早くほとぼりが冷めればいいものを……


「いった!」


教室から出てしばらくすると、あるものにぶつかってしまう。

前をろくに見ていなかったせいとはいえ、いらだっていた私はきっと相手を睨んでしまう。

がその人を見た途端、怒りが見る見るうちに静まった。


「あら、大丈夫? ごめんなさいね」


短めな髪と、すらりと伸びた手足がまるでモデルのように見える。

格好も何もかもかっこいい大人の見本って感じで、一瞬にして息をのんでしまった。

人は、彼女みたいな人を美しいというのだろうか。

でもこの人、前にどこかで……


「いえ……こちらこそ。おけがはありませんか?」


「お構いなく。私の方こそ、気付かなくてごめんなさい。何年生?」


「えっと、三年です」


「そう。あなたからも言っておいてくれる? 無駄な夢を、追いかけるのはやめなさいって」


言う? 私が、誰に??

首をかしげている中、その女性は浅く会釈して去っていく。

彼女が出てきた部屋が何だったのか、改めて見るとまさかの職員室だった。

新任の先生……ってわけじゃないわよね。こんな中途半端な時期に。

ってことは、誰かの親……?


「あれ、柴乃じゃん。何やってんだ、こんなとこで」


すると同じ職員室から、見慣れた姿が出てくる。

それは馨君だった。

私は別にと答えようとするも、出てきた彼の顔に思わずぎょっとする。

だって口から、少し血がでていてー


「ちょっ、あんた血! 血が出てるじゃない! 保健室行った方が……!」


「いい。こんなので行ってたらきりないしな」

「何を言って……!」


彼にハンカチを差し出しながら、はっと我に返る。

同じだ。前にも、こんなことがあったはず。

今と同じように職員室から出てきたのは、まぎれもなくあの女性だった。

そして次に出てくるのは、馨君で―


「聞こうと思ってたのに……忘れてた……あれが、馨君の母親なの……?」


「……まあ、血筋的には」


「どういうことなの、馨君。ちゃんと教えてくれないと……!」


「余計な心配はかけさせたくなかったからな。黙ってて、ごめん」


ああ、まただ。

最近の私は、よくこの顔を目にする。

不安と悲しさの、馨君の表情をー


『……あなたはまだ知らないんだわ……彼のこと……馨君のすべてをね……』


ふと頭に、生天目さんの言葉が浮かんでくる。

こんな時になって、自分が何て愚かなんだろうって思い知らされる。

馨君のことを何もわかってあげられない。

彼女なのに自分のことばかり……


「俺の両親はどっちも優等生だったらしくてな。小さい頃から、ありとあらゆるものをさせられてきた。勉強、スポーツ、習い事……あの人はずっと、俺を仕上げてきたんだ。どこに出しても問題ない、完璧な売り物を」


「そんな……息子を売り物だなんて……!」


「親の言うことは絶対……それがルールだった。どこにもいかせないで、ずっと自分の望み通りに育てるー……生天目のがひどくなった、とでも思っておいてくれ」


馨君を自分のものにしたくて、縛っていた生天目さん。

それと同じように彼を自分の息子として、完璧にしたかった母親。

聞けば聞くほど、かわいそうに見えてしょうがない。

なんでも完璧にスマートにこなせるのは、そんな事情があったなんて。

だから馨君は私みたいに自慢もせず、それがさぞ当たり前のようにー……


「体育祭の時に、隼人に言われたんだ。女と付き合えなかったのは生天目だけじゃなく、他にも理由があるんだろって。何も、言えなかったがな」


「それが……女子との距離を置いた本当の理由……」


「一人で暮らして、逃げる道として始めたゲームも、ついに見つかってな。親に内緒で受けたゲーム専門学校の合否通知が、家に届いてたらしい。今ここに来てたのは、その合格を取り下げの依頼だそうだ」


変だと、思っていた。

こんなに彼が、ゲーム好きなのが。

去年のお正月に、少しだけだけど馨君のことは聞かせてもらっている。

なのに私は、問題が起こった今まで何も……


「そういうわけで……ちょっと行ってくる」


「えっ、まさかお母さんのとこに行くつもり!? ダメよ! 何されるか、わからないのよ!?」


「俺があの人の言う大学受ければいいだけだ。なんとかなるだろ」


「だめよ……そんなの、逃げてるだけじゃない!!!」


思いっきり言葉を発したせいか、みんなの視線が私に向いている。

馨君は驚いたように、目をぱちぱちさせていながらもまだ不安が残っているように見えた。


「馨君、あんたわがまま言ったことある!? 自分は嫌だって、やりたいことが見つかったんだって! 私だってお母さんは苦手だし、今でも怖いと思うことはあるわ! でも私はちゃんと伝えた! 気持ちを伝えれば、かなうこともあるのよ!!」


言いながら私は、母親の後を追おうと逆戻りする。


「おい、柴乃!」


それに気づいているのか、馨君がとめようと声をかけたけどー


「馨君が言えないなら、私が言うまでよ!!」


ごめんね、馨君。私はわがままでおせっかい焼きだから、こうでもしないと気が済まない。

こんな彼女嫌だって、思われたっていい。

でも今は、自分の好きにさせて。

これが私が出来る、精いっぱいのことだからー!


「か、馨君のお母さん!!!」


校庭にある駐車場に、彼女はいた。

すぐに私のことが分かったのか、少し微笑んでくれる。

その笑みはよくよく見ると、馨君に少し似ていた気がした。


「あら、さっきの……」


「ご挨拶が遅れました。三年一組、渕脇柴乃。彼とはお付き合いをしています」


「まあ……あの子が、女の子と?」


「お話は大体聞きました。お母様は、馨君にいい大学を出てほしいんですよね?」


「ええ、馨は私の自慢の息子なの。勉強にスポーツ、何でもできる完璧な子……そんな子が大学に行かないなんて、宝の持ち腐れだと思わない?」


話す彼女の姿はやはり生天目さんと同じで、重なる部分がある。

悪霊に取りつかれていた、姫野と同じ。

姫野の時とは違うやり方で、私が正さないといけない。

私が、馨君を救うんだー!


「お言葉ですがお母様、私はそうは思いません。馨君は確かに完璧です。でも同じくらい負けず嫌いなんです。何に対しても、貪欲で人の意見をちゃんと聞こうとして。お友達の恋も、なんだかんだ協力してくれたり……すごく優しい人なんですよ?」


「……何が、言いたいの?」


「馨君はもう立派な大人です。どうか、見守ってあげてくれませんか? 親として。彼のこと」


生んでくれただけ、感謝しないといけない親の存在。

なのにどうして、息子を締め付けようとするんだろう。

どうして妹と姉で、対応を変えてしまうんだろう。

私はまだ子供で、何もわからないからその厳しさを分かってないのかもしれない。

でもせめて子供の成長をゆっくり見守ってくれれば……それだけで、十分なのに……


「……黙って聞いていれば、あなた何様のつもりなの? 馨のことは、生まれてきた頃から見ている私が知っています! あなたに口を出されるようなことは……!」


「母さん。いい加減、俺から離れてくれないか。育ててくれたお金も、学費もいつか返す。だから……お願いします」


いつから、いたのだろう。

私の隣にはすでに馨君がいて、らしくないように頭を下げている。

わなわなと震えている馨君の母親は、力をなくすようにふらっと体を傾けー


「他人の親だというのに、渕脇さんという人はすごくおせっかいな方なのですね」


彼女を支えようとする直前、生天目さんが馨君のお母さんを支えてくれる。

生天目さんはなんだかやれやれと言うような形で、静かに笑っていた。


「馨君……これが、あなたが愛した初めての方なのですね……」


「生天目。母を頼めるか」


「ええ、私もやっと前に進めそうですわ……さよなら、馨君。渕脇さんも、彼のことお願いね」


二人が去る背中を見ながら、私はふうっと一息つく。

なんだか物事がうまくいきすぎている気がする。

本当にこれでよかったのか、私には謎だけど……


「柴乃」


すると途端、ふわっといい香りが漂ってくる。

気が付くと後ろから、馨君に抱きしめられていた。


「ちょっ! 馨君!? 何を……!」


「やっぱり俺の目に狂いはなかった……ありがとう、柴乃……ほんとに……ありがとう……」


耳元で聞こえる彼の声はわずかに震えていて、泣いているようにも聞こえたが顔が見えなかったのでわからなかった。

ただただずっとお礼を口にしている彼は、すごく私を抱きしめてくれて。それがなんだかうれしくて。

そんな彼の言葉にうんと返事をし、そっと彼を抱き返したのだったー


(つづく・・・)

二学期編は柴乃の戦いと見せかけて

馨の戦いでもあります。

二年生編ではちらちら垣間見えていましたが

やっとあかせてほっとしています。

色々な作品で天才を出してきていますが

やっぱり天才って大変なんだなあと

凡人ながらに思う日々です。


次回は26日更新!

体育祭ときたら、次の行事は・・・わかりますよね?

お楽しみに!

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