第22話 : 遅れてやってきた
遅れてすみませんでした。
今月は頑張ります。
宗と時雨が痴話喧嘩らしきものを繰り広げている間、ミルは宣言通り深い眠りについていた。
彼が寝ている場所はひっそりとしていて、時折風が木葉を揺らす音が広がるだけである。
外で寝るにはうってつけのロケーションだ。
ミルは考えにつまった時は昼寝をして、思考をリセットすることがある。
「んぁ?」
目が覚めたのはリスが木上から頭に落ちてきためだ。
足を滑らせたのだろう、慌てた様子でバタバタしている。
それをむんずと掴み、ひとしきり可愛がった後、森に返した。
それから大きく伸びをする。
「ん~。何時間位寝てたんだろ」
木々の間から零れてきた陽光が、仄かに煌めいてそれはもう美しいかった。
ポケットから古びた懐中時計を出して時間を確認する。
もう結構な時間が経っていたが、周りを見ても宗達はいない。ミルの予定通りなら今頃彼らは、じいさんこと、マーク・ビュッセルに会ってるはずだ。
「お義父さんに僕が吸血鬼ってこと、宗君達に絶対ばらされてるよね~。まぁ想定内だし良いんだけど」
そう呟いてミルは欠伸をした。
少しだけ涙目になってしまった。
そして、どうでも良さげに、
「それはそうと、お義父さんも、自分が半吸血鬼ってことちゃんと言ったかなぁ?」
その発言は当たり前のように誰にも届かず、吹き抜けて行く風にそっと運ばれて行くだけだ。
ミルがお義父さんという言葉を呟く時、どこかからかうようなイントネーションになる。
おとぉさ~んと間延びしたような気の抜けそうな感じだ。
そこに込められた思いは尊敬の念なのか、はたまた、からかってるだけなのかはミルにしか分からない。
いや、ミルも最早分かってないのかもしれない。
何十年、何百年とただ一つの目的に対して行動を共にすれば、呼び名など形骸化するだろう。
長い時間を過ごしてきた。
叶わない理想のために。
理想なんて綺麗な妄想だ。
そんなこと、あの日よりも前に気づいていたのに、たった一人の理想の影をミルとマークは未だに追い続けている。
「やっぱり、今日はすごくいい天気だなぁ」
別に口に出す必要はないのに、つい口から感想が出てきてしまった。
もう一寝入りしようかと地面に仰向けになろうとした、まさにその時。
ミルの手にある懐中時計がけたたましい音を起てて鳴りはじめた。
「(……まさか、ね)」
それはミルが念には念を入れて自宅に仕掛けて置いた警戒魔法が、作動した証だった。
「(あの魔法は誤作動しないように、わざわざ特殊な術式編んだはず……。いいや、その前に家全体に死角魔法を貼ったから、普通は作動しないのに……)」
ミルの小さな家には何百年と集めた世界中の国の技術力、軍事力、国力などの所謂、機密情報が大量に存在している。
それを知っている人はマークや、あとは信用できる、というか信用できるようにした数人の魔族だけだ。
「つまり、どう転んでも侵入者かぁ。ここに来ては初めてだね。さぁてと、どうしようか」
今ミルの頭に浮かんでいるのは二つの選択肢だ。
1,走って戻る。
2,魔法を使って一瞬で戻る。
このどちらかを選ぶしかない。
スルーするという選択肢はミルの中には初めからなかった。
魔法を使った方が手っ取り早くて良いと思うかもしれない。
しかし、吸血鬼族は生まれつき魔力粒子保有可能限界がゼロに近い。
簡単にいうと魔法を使える回数が少ないということ。
仮にエルフが100回使える魔法があるとすれば、吸血鬼は1回しか使えない。
そもそも、魔族が用いる魔法はとても小さな粒子で構成されている。
それをビーズのように繋ぎ合わせて、つまり編んで魔法を行使する。
そして吸血鬼はその魔法の元となる粒子を貯蔵できる機能が、あまり発達してないのだ。
その代わりに吸血鬼は、ただのチートである不死や、高すぎる身体能力を持ってるのでパワーバランスは取れている、と言えるかもしれない。
世界は良くできているなぁ、とミルはいつも感じていた。
「(ここから全速力で走ったら20分ほど……。長くも短くもない。なら、切れるカードは出来る限り残しておいた方が得策かな?)」
そう判断して、直ちに来た道を引き返す。
「《解放》」
その瞬間ミルの周りの空気が一気に張りつめ、陽炎のごときオーラが立ち上った。
「久しぶりだから、壊れないでね!僕の足!」
強く踏みしめた地面は抉れ、確かに人外のスピードで彼は目的地へと駆けていった。
◇
一方その頃、侵入者は、
「ッたく、宗の野郎、変なところに六花ちゃん人形置きやがって……」
ミルが、とりあえず本棚に置いておいた六花ちゃん人形と入れ替わるかのごとく、本棚の前に倒れ伏していた。
中指折っちゃってスマホで書いてます




