間違いの延長
先の別行動より数時間後。
宗と時雨が待ち合わせしていた広場はあっという間に戦場に変わった。
広場だけじゃなく、街全体が休日の穏やかな時とは、一変していた。
逃げ惑う人々。
それを追う厳めしい格好をした兵士達。
黒金の鎧を纏った兵士が必死に逃げていた青年の肩を掴む。そのまま鞘から鈍く光る剣を引き抜き心臓の辺りを串刺しにした。
血飛沫がフルフェイスの兜を染め上げる。
鼓膜に張り付くような絶叫。
青年の最後の声。
数秒後、事切れたのか、ガクリと体が落ちた。
慣れた手つきで剣を体から抜くと、また新たな処刑対象を見つけにいく。
これがあちこちで同時に起こっている。
地獄、としか言い表せない。
その惨状の中に、王国の兵士が何人も綺麗なまま地面に倒れ伏している。
動かないところを見ると死んでいるようだ。
その中に一人だけほぼ原形を留めていないものがあった。
しかしその個体が筋骨隆々だったことが窺えるほどには、姿が残っている。
尋常じゃないほどの血だまり。
そこから延びる血で描かれた足跡が二つほど、大通りの途中まであった。それは次第に掠れて見えなくなっている。
ゲル状になった死体の横には、彼と同じように破裂したと思われる赤いリンゴが粉々になって撒き散らされていた。
街を囲む壁の外には、黒色の噴煙を上げて燃えさかる森が見えている。
ちょうどミルの家がある森だ。
人為的に起こされた火災であることは目に見えて分かる。
退路は、ない。
街の内側も外側も、あるのは残酷な死だけだ。
それでも、この人間による、人間に対する営みは続く。
神への忠誠の為に。
だが、その忠誠を誓った神さえ人間の思惑によって創られているのは、笑い物以外の何物でもないだろう。
宗による『救出編』のプロローグです。




