第21話:選択ミス
「なぁ、さすがにこれは駄目でしょ……」
俺は、今ドギツイ色の麻で出来た服を着てる。
ローブっぽいやつ。
何これ、何色なの?と自問するぐらい見たこともない色をしていた。マーブルなのか何なのか……。
でも、多分スダマサキ(仮称)が着たら様になるような感じ。
あぁ、イケメンは得だなぁ。
せめてイケメソぐらいにはなりたかった。
時雨の肩が少し震えていたので笑ってるんだよな。
嗤っているの間違えかもしれない。いや多分そうだ。
「とてもッ、似合っているわよ。ふふッ」
嘲笑ってた。
多分じゃなくて確信してたね。分かってたけど。
まぁさっきの服選んで宣言は口からの出任せだったら別にいい。
「この服、彼に似合ってますよね?」
「えっ?はッ、はい、とてもお似合いですよぉ↑」
時雨が店員さんに尋ねると、その女の人がこくこくと頷いた。
語尾裏返ってんじゃん……。完璧に無理してますね。
スダマサキ(仮称)じゃなくてすみません。
けどその心遣いは軽やかに心を抉りますぅ↑
この時ある秘策を思い付いた。
「──じゃあ、俺、これ買うわ」
「えっ、どうして?」
いや、えっ?じゃねえよ。おめぇが選んだんだろぉ!
と思ったが、俺はまぁ紳士だから、ニタリと微笑むだけでその矛盾点を許容する。
やだっ、ホントに紳士!
……違うな、ただのめんどくさがりだな。知ってる。
「周りの人が俺達を見たら、こんなふざけたな格好をした男を連れて歩いてるお前にも目がいくだろ。つまりお前も同類ということになる!」
ビシッと時雨を指さした。
さらっと責任転換。に、似たような詭弁!
屁理屈!最高!
さっきもしてたからそこまで変わらない、とは言わない。
裸白衣の方が圧倒的に変態的であるのは自明の理だ。
「それはないと思うけれど……。あなたが変だったとして私も変な人だと決めつけるのは早計だわ」
「いや、同類項はまとめたくなるのが人間だろ?知らんけど」
「それは理系だけよ。と、いうかあなた理系だったかしら?」
「あのぉ、曲がりなりにもあなたと同じクラスですが?時雨さんって理系のクラスですよね?」
「そっか、ごめんなさい。でも、ずっと教室の端っこで小難しそうな本読んでるものだから。ツァラトゥストラ?だったかしら」
「ツァラトゥストラはかく語りき、な。もし読んでないなら、読んでみた方がいい。普通に面白いから」
ニーチェが哲学界でひねくれボッチだったことか。
如何に正義が作られた幻想なのかを独特の文体で書いてるのは一読する価値があるな。笑えるし。ま、好き嫌いは分かれるけど。
「もう読んだわよ。でもあまり好きな方ではなかったわ。全体的に暗かったし。アレを好んで読むあなたの感性が分からないわ。しかもニヤニヤと。気持ち悪い」
「いや、本の雰囲気は翻訳者によるから。……ん?てか、何で俺が笑いながら読んでるの知ってるの?見てたの?」
「ッ!たまたまよ。そう、たまたま。……ホントよ!!」
「いや、そこまで疑ってないから」
「──それよりも本当にその服買うの?」
「まぁ、あんまり服にこだわりとか無いから。別に不自由なく着れたらいいし」
その点ではウニクロ最高だな。だが、ファッションセンターいまむらは近くにない。
微妙な間が出来た。
それを埋める為にまたくだらないことを口走る。
「あ~あと、お前が選んでくれたからな」
「なッ、何よそれ!どういうこと!?」
「冗談だよ。冗談」
「……あなたって本当に冗談のセンス無いわ。朝の可愛い発言もそうだし。最低」
「……それは否定しない。てかできねぇ」
時雨が何でこんなに怒ってるかは知らないけど、俺が最低ってことは自覚してる。
自覚しても変わろうとしないからより最低だけど。
だから言い訳する。
「可愛いってのは冗談。だってお前は可愛いより、綺麗って感じだから。つまり美人だってこと」
「~~~!?」
時雨は赤くなって黙った。
こうなるって少し分かってた。
時雨、性格悪そうに見えて案外純情っぽいし。
性格を考察して会話の着地点を見定めるってのも最低だよな。
操ってるみたいで嫌な気分だ。ホントに。
人の考えや心の裏側が透けて見える。
綺麗な部分は元々透き通ってるから、汚い部分しか見えないんだけど。こいつは、どうだろうか。
ま~た、微妙な間。
今度はちゃんとしよう。めんどくさいし。
微笑ましそうに俺達を見ていたお姉さんの方を向き、
「はぁ、あの店員のお姉さん。一ついいですか?」
「はい!何でしょうか?」
「今俺が着ている服って本当に似合ってます?」
「いえ、服はちょっと……、あと容姿も……、なんですが、お二人は本当にお似合いのカップルだと思いますよ」
澄ました顔で店員さんは言った。
うん。質問に対する答えになってないよ?
ちょっと……って何?その沈黙が怖い。
あと、何でこの世界線の地球は俺と時雨をくっ付けたがるの?
これはまさかアインシュタインの扉的なモノの選択なのか……。
フゥッハァッハァ……じゃねえよ。
そういえば、あれも平行世界の物語だった。
ここの地球はどういう理屈で構築された平行世界なのか、詳しくは説明されてないよな。後でじいさんかミルに訊いてみるか。
いつもなら時雨が即座に否定するのに、今はボーっとして呆けていた。
必死になって否定するのもどうかと思うので、仕方なくその場は苦笑いで乗り過ごした。
◇
数分後、無難な系統の白色カッターシャツと、綿生地で黒色のズボンを買った。あと下着のシャツとか。正直制服と色は変わらないが、まっ、いっか。汎用性高いし。白黒は強い。
時雨は沈黙したままだ。目が合うとすぐに反らす。
気まずっ!でも、気まずくしたのは俺だ。
この状況を打破する責任は俺にある、かなぁ?
「よし、じゃあこれから自由行動な」
「……………」
話しかけても返事がない。だが想定の範囲内だ。
次の言葉を繋ごうとしたら、先に時雨が口を開いた。
「どうして?気まずいから?」
「それもある!けど、俺に見られたくない入り用なものだってあるだろ?」
「具体的に言って」
「言うの?言っていいの?下着だよ」
殴られた。
容赦ない腹パンが俺を襲う!
声にならない声が口から漏れた。ぐふぅ。
だから簿かして言ったのに。
てか、このやり取り朝もした気が……。タイムリープ?
「ゴホッ、あ”~、クリティカルだ。スター大量獲得だ」
「」
無言かよ。
冷えた眼差しが俺をグサグサと刺してくる。
「……お前、何でも知りたがろうとするなよ。いつか損するぞ、今みたいにな」
今のは百パー俺だけが損したけどな!
みぞおちがジンジンするぜぇ!
知りたがりは人間としては正しい。知りたいからこそ学問は発展してきた。
恋や愛も多分相手のことを知りたいから芽生えるのかもしれない。これはマジで知らんけど。テキトーなこと言ってごめんぬ。
でも、知った事実が良いことばかりとは限らない。
一度知ってしまったら死ぬまで忘れられない。
それも嫌な記憶ほど強く、深く自分に根付く。
トラウマってやつだ。
さて、トラウマに関しては先輩の俺の言葉は届いたのだろうか。
「変態」
届いてませんでした。
「待て。下着のどこが変態要素だ?文字通り下に着るものだろ」
「あなたが言うからよ」
「りっ、理不尽極まりない……」
「失礼。訂正するわ。あなたのその下卑た眼光と共に言うからよ」
「あんま変わってねえよ。あと、生まれつきの一重だから許してください」
この世の一重の人達に謝れ。
一重のせいでいつも睨んでるように見えるけど、しょうがないじゃん?
「はぁ、それで?何時にどこで集合なの?」
わざとらしくため息を付いた時雨が面倒くさそうに訊いてきた。
「俺もちょっと気になったことがあるから、そうだなぁ、あの時計台で2時を指した時に、そこの広場で集合でどうか?」
今は1時前だから行動時間は一時間ほど。まぁ無難だな。
ちょうど時計台の鐘が鳴った。
「分かったわ。それじゃあ2時に広場で」
「これ、一応地図渡しとく。じゃあな」
俺たちは一旦分かれて別々の目的地へ向った。
ま、俺の目的は散歩てがらの情報収集なんだけど。
さてと、何処から行きましょうか。
◇
俺はここでまずは一つ、選択をミスした。
それは時雨を独りにしたこと。
言い訳は必要ない。
これから俺はもっと間違えを犯していくから。
言い訳したくても、追い付かない。
過去には戻れない。
次の話は重いかな?だから今回は軽めのを。




