第19話 : 奴隷制度あるんだな。
遅れてごめんぬ。
殺人システム。
この言葉が指しているものが俺には理解できない。
いや、殺人がシステム化されてるんだろう的なニュアンスなんだろうな位しか分からない。
曖昧すぎて自分で何言ってんだろうって思った。
だろう三活用。
これぇテストに出るからな、ちゃんと板書しとけよぉ。
はい冗談。ふと中学の時にいた国語教師を思い出した。
耳につくようなしゃべり方が嫌われてたっけ。ま、どうでも良かったからあんまり覚えてない。
殺人システムね。普通に物騒な言葉だな。
よく分からん顔をしていると、じいさんは台に肘をつきながら、
「もっと簡単に言えば、ギフトに関する物事全てが『人を殺す』という行為に繋がっていると言うことじゃ」
あんまり、乗り気じゃなさそうに言った。
その言葉に時雨はゾッとしたらしいが、俺はそれほど恐怖を感じなかった。何でだろうか、人が人を殺すのはいつものことだからかもしれない。
「はぁ、それがミルが言ってた、人間を狂わせた『数字』とかに関係するんですか?」
俺はミルが言っていたことを踏まえてじいさんに訊いた。
「……間違ってはおらんが、説明が足りない」
「ふ~ん。じゃあ、続きどうぞ」
「……あっさりしたヤツめ。ミルとの会話とどことなく似ておるのが腹立だしいわい。──それで、ギフトカードには、数字、つまり『ギフトレベル』と呼ばれるのが存在する」
「多分その『ギフトレベル』が上がれば上がるほど、能力も比例して強くなるんだろ」
俺はじいさんの台詞を先取りした。
ゲームじゃレベリングシステムは基本だ。
RPGの根幹をなしていて、今日のソシャゲでも必ずといっていいほど取り入れられている。
レベリングシステムのまず一つの良点は、自分の立ち位置や、努力の軌跡が見える所にある。
これを充分に生かしているのが、ドラゴンクエ○トや、FF 。
二つ目の良点は、ご褒美を置きやすいってのがある。
スマホゲーでよくある『ランク』は、言葉こそ違えど『レベル』と全く同じだ。
ランクが上がれば上がるほど、コストやスタミナの限界が上がったり、行けるクエストが増えたり。それがご褒美。
さて、『ギフト』はどっちを重視してるんだろうか。
「……正解じゃ。しかし、そのレベルを上げる方法が胸糞悪い」
重々しくじいさんは頷いた。
間違ってなくて良かった。
いや、ここでまた「ん?なに言ってんの?」ってじいさんに言われたら立ち直れないからな。
胸糞悪いこととは、十中八九さっき言っていた『殺人システム』と繋がるのだろう。
「──それが、人を殺すってことか?」
「うむ、たったそれだけの単純な方法じゃ。だが、単純故に簡単に複雑化する」
単純だから複雑化しやすいって言葉は中々真理を突いている。
数学を例にとると、代表的なのはフェルマーの最終定理。
本の余白に書けるほどにシンプルな問題だったが、何百年もの間、名だたる数学者達を困らせ続けた難問。一行で終わる癖に、まぁ鬱陶しい。
三平方の定理をいじっただけなのになぁ。
それにフェルマーさん性格悪くて、「僕は分かるけど余白足りないから証明は書かないね」とか書いてるし。
嫌み書くのならヒント書けよ。
……でもフェルマーのお陰で数学界は何倍も発展したんだからね、勘違いしないでよねッ!
うわ、男のツンデレ気持ち悪ッ、てのは置いといて。
いつだって簡単に見えることほど難しいものだ。
当たり前に見えるものほど、その奥にある本質は掴めない。
閑話休題。
じいさんは心底嫌そうな顔で、
「ギフトが出現してから人は強くなることが簡単になっての。くだらん権力しかなかった王族や貴族らは、努力せずとも強くなり、地位だけじゃなく圧倒的な武力も持つようになったのじゃ」
不意にずっと黙って聞いていた時雨が口を開いた。
「強くなるって、その、人を殺すってことよね。でも人を殺すことは王族でも禁止されてるんじゃないの?」
その言葉を聞いて俺は一つの結論に達した。
あんまりいい気はしないけど。
「あ~。この地球にあるんだな、その制度」
じいさんに目配せすると、小さく頷いた。
「制度って?」
時雨は思い至らないらしい。
小首を傾げていた。
歴史の授業でやっただろ。たぶん世界史で。
人権が蔑ろにされても何も言えない人々。
命を金で買える制度。
人間が作った最悪の制度に。
「「奴隷」」
俺とじいさんの声が綺麗にハモった。
「ぁ……」
時雨はショックを受けたらしくて、青ざめた顔をしていた。
ホント心綺麗だなこいつ。
羨ましい。
茫然自失している時雨は一旦ほっといて俺はじいさんに確認をとる。
「今って西暦何年?」
「ん、2018年じゃが」
「……元の地球と全く同じ、か。平行世界ってのは本当らしいな」
2018年と言われたが、町の様子を見た限り文明は1800年代前半で止まっているはずだ。
どう考えてもギフトの方が使いやすいからな。科学が発展しないのもしょうがないか。
1800年前半は、元の地球じゃ、奴隷廃止運動がやっと活発化した頃だ。奴隷制度は根強く残っている。
「じゃあ話戻すけど、何人殺せば『数字』は上がるんだ?10人ぐらいか?」
嫌な気分になって俺はため息をついた。
じいさんはフッと鼻で嗤うと、
「そんな可愛いもんじゃないわい。レベルが上がる確率は1%じゃ。つまり1つ数字を上げるには100人殺す可能性が出てくる」
「……ウソだろ」
絶句。その一言に尽きる。
たった一桁違うだけでとてつもなく、黒くておぞましいものに感じた。
「しかしそれでも強くなれるとは限らない。ギフトの横に説明が書いてあるじゃろ?」
「スッゲー読みにくいけどな」
「レベルが上がると、その記述が変化する時があっての。それまでより桁違いにギフトが強化されるのじゃ。が、逆に言うと、変化しなければレベルを上げた意味がない」
「……ちょっと待て。記述が変化しない場合、ギフトは全く強化されないのか?」
「全くじゃなくて、ほぼじゃの」
俺の言葉をじいさんが訂正したがそんなのはどうでもいい。
「同じだろそんなの……」
思わず本音が零れてしまった。
無駄死が過ぎる。
『全く』と『ほぼ』の意味の違いも命の前じゃ些細なことだ。
些細なことで、なければならない。
「あのさ、変化するときって何レベルで一回なんだ?」
「人による」
即答。
呆れてため息も出ない。
なんだよこのシステム。欠陥が過ぎるだろ。
人を殺すことしか考えてない。
天井がないって悪質だな、ホントに。
だが、この『殺人システム』を人間に組込んで得するやつの見当が付かない。
只単に俺の知識が足りないだけかもしれないが。
俺は暗い気分になって、一つ気になった事をじいさんに訊いた。
「でもそれじゃ、足りなくなるんじゃないか。何がとはあえて言わないけど」
「そりゃ奴隷だけじゃ足りなくなる。だから……おい、嬢ちゃん大丈夫かの?」
じいさんが一旦言葉を切って時雨の方を指さした。
俺も視線を向けると、時雨がさっきより真っ青になって口を押さえている。
終始無言に徹していたのはこのためか。
リバース寸前。
「じいさん、トイレどこ!?」
俺は時雨の背中を摩りながら、じいさんに焦りながらリバースしても大丈夫な所を尋ねる。
じいさんも焦りが伝播したようで、
「廊下に出てすぐじゃ!」
と、若干早口で教えてくれた。
「了解。おい立てるか」
少しだけだけ首を縦に振った気がしたので、よっこいせ、の掛け声で立たせる。
後、と言っても数分後に聞くことになる話だが、この時、時雨は首を横に振ったらしい。
この後の出来事はご想像にお任せします。
やっぱり思い込みは駄目だなあなんて、久しぶりに反省したし、後悔もした。
ところで、心が綺麗で感受性も豊って内面完全じゃねえか。
外見もなんて野暮なことは言わない。
目の前の物事を素直に見ることができるのは、本当に羨ましい。
だって、俺は歪んでるから。
目の前の物事全てが歪んで見える。
♢
その少し前、王国全域に『時雨京香』の処刑命令が下された。
お疲れサマンサタバサ。




