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最強(弱)無双の魔法使いは無敵少女と旅をする。  作者: たけまこと
エルフィン族の武道大会
98/211

エマ対ラフレア命がけの戦い

 ……と言う訳でラフレアちゃんとの対決になりました。


 やだっ、ラフレアちゃんまるで壁か岩山じゃない。

「始めっ!」

 ひえええ~っ、ラフレアちゃんが突っ込んでくる~っ。


 どどどどっと走ってエマとの間合いを詰めるラフレア。

 気がつけばエマは場外線間際まで詰め寄られていた。

 ラフレアは大きく手を広げて詰め寄ってくる。

 エマは姿勢を低くすると横に回り込みながらラフレアの攻撃を待つ。


 ラフレアが丸太棒のような腕を出してくる。

 素早くラフレアの腕をかいくぐる。

「やった、思ったよりラフレアちゃん早くない。」

 そのままエマはラフレアのお尻に体当たりをする。


「はうっ!」

 ラフレアがよろけて場外線ギリギリで踏みとどまる。

 すかさずエマはそのお尻に蹴りを見舞う。

「ふぐっ!」

 ラフレアはよろめいて場外に倒れ込む。


「場外!」

 主審が宣告をする。

「エマ選手は下がって。」

 相手が場外に出た時はお互いに中心を超えた位置で待つ。


「ふぐううう~っ!」

 ラフレアが怒りで真っ赤になってエマ目掛けて突っ込んで来る。

 いやあああ~~っ、頭に血が登ってる~っ。

「ほいっ。」

 エマは横っ飛びに逃げるとラフレアはそのまま真っ直ぐ闘技場を横断する。

 その尻を後押しするように再び蹴りを食らわす。


 勢い余ったラフレアはそのまま副審に向かって突進するが副審はするりと体をひるがえす。

「いやややあああ~~~っ。」

 副審のすぐ後ろではガルドが派手な悲鳴を上げていた。

 ラフレアはそのままガルドに突っ込んで押しつぶしたらしい。そのおかげでラフレアちゃんに怪我は無かったようだ。


 ガルド君、君は立派に盾となってラフレアを守ったのだよ。冥福を祈る。


「うがあああ~~っ!!」

 ラフレアちゃん人が変わると言うより完全にイッちゃってる。

 場外から駆け上がるとアタシに向かって真っ直ぐ突っ込んで来る。審判の声なんか聞こえて無いらしい。


 ラフレアを直前までひきつけて体を躱す。流石に2回目は引っかからずエマの方を向きそのまま追いかけて来る。

「うおおお~~っ捕まったら殺される~っ。」

 などと無駄な考えを振り払いながら武道場の周りを走り始める。

 幸いラフレアはそれ程足が早くはない。


「ぐわあああ~っ。」

 獣のような咆哮を上げてラフレアがエマを追いかける。

 必死で逃げるエマ。

 武道場の中心で主審が呆然として二人の追いかけっこを見ている。


「な~にをやっているんでしょうか?」

 逃げろとい言いつついささか呆れるシドラであった。

 いきなり方向を変えて逆向きになったラフレアがエマに手を伸ばして掴みかかる。


「うおおお~~っ、いきなり向きを変えるとは卑怯なり~っ。」

 エマを掴みかかる手を躱して飛び上がる。

「おお~っ、我ながらなんというジャンプ力。」

 見たか!これこそ火事場の馬鹿力ジャーンプ!


 エマはラフレアの肩まで飛び上がると肩と頭を踏みつけて後方に飛び降りる。

「ごめん!頭踏んじゃった。」

「あがああああ~~~っ!」

 真っ赤な顔をして鬼のような形相でラフレアはエマに迫る。


 しかし素早いエマはなかなか捕まらない。しばらくするとラフレアの息が上がってきた。

「はあっ、はあっ。」

 ラフレアはすごい汗をかいている。あの体重で全力で走ったんだから無理もない。

 ラフレアは頭に血をのぼらせて追いかけて来ていたが疲れて少し頭が冷えた様である。

 エマの方もこの追いかけっこでかなり体力を消耗していた。

 これからが本当の戦いになる。


 ラフレアは構えを取ってゆっくりエマに近づいて来る。

 息はすぐに落ち着きを取り戻している。

 ラフレアには本来ガードなど必要はない。何しろスイカが2つ体の前に付いているのだ。手を伸ばしても最初にスイカに当たって体には届かない。

 何よりもそのスイカは本人の意思で動かすことも出来るのである。


「ただしその鉄壁の防御にも欠点が有るのよね。」

 ラフレアはその巨大すぎるスイカのせいで足元がよく見えないのだ。

 ラフレアが数発のジャブを繰り出す。冷静さを取り戻した証拠だ。

 そのままストレートを出してくるがエマはバックステップで後ろに下がるとラフレアが踏み込んできてストレートを放つ。


 エマはパンチを避けながらラフレアの足元に転がる。

 一瞬ラフレアはエマを見失う。

 エマは足を絡めるとラフレアは前のめりに倒れる。

「ふがっ!」

「なに?この足?まるで丸太だわね。」

 絡めてみて初めてラフレアの足の太さを実感した。


 ラフレアはすぐに腕で頭をカバーする。

 寝技はまずいこれだけの体重差があると上になっても簡単に返される。下になったら勝ち目はない。

 そのままエマは両手を相手の肩に置くと3点ポジションによる膝蹴りをラフレアの頭に見舞う。

 打撃技だけがエマに残された手段だと言って良い。


 3発目が頭に当たった瞬間ラフレアの腕が動いてエマの膝を絡める。

「うわっと!」

 エマの膝を抱えたままラフレアは起き上がる。

「やばい!やばい!やばい!」


 エマは膝を抱えられたまま残りの足でラフレアの後頭部に蹴りを放つ。

「ぐっ!」

 ラフレアは効いたのか少しふらついてエマの足を離す。

「よっしゃーっ!」

 ここでエマは渾身の蹴りを放った。


 以前ヴィッツの街で傭兵の男を3回転させた蹴りだ。

 あの男はラフレア程では無いもののそれなりに大男だった。絶対ラフレアちゃんにも効くはずだ。

 うん、これからこの蹴りを3回転キックと名付けよう。


 しょうもない妄想をいだきながらキックを出すが、ラフレアは素早く体を反転したのでキックは頭に当たらずスイカに引っかかる。

 ボヨーンとスイカが跳ね上がり、ブオンブオンと揺れると観衆からどよめきと歓声が沸き起こる。


 歓声が起きる場面じゃ無いだろう。


 その一瞬の隙きがエマにとって命取りであった。

 ダッと踏み込みとエマの腰に手を掛ける。

「し、しまった!」

 そい思う間もなくラフレアは力いっぱいエマを引き寄せる。

 顔に向かって迫って来る2つのスイカを見た瞬間にエマは両手を顔の前に立ててガードする。


 ガードぐるみエマの頭をスイカが挟む。幸い両手のガードが有るので口は塞がれない。

 しかし丸太を砕く威力の締付けが頭を襲う。

「うがあああ~っ。」

 激痛が頭を襲うが顔の前に立てた腕でスイカを思いっきり開く、これで頭への締付けは少し楽になった。


 しかしラフレアはエマの腰を深く掴み体を持ち上げるとものすごい力でエマのお腹を締め付け始める。

 俗に言うベアハッグである。

 頭をスイカで、腰を腕で締め付けられたエマは絶体絶命の体制になった。

 しかしエマは諦めることは無かった、宙に浮いた足をバタバタさせるとラフレアの足に当たる。

 エマは自分の足をラフレアの太腿に当てて体を引き剥がそうと全身の力を入れる。


「うぐうううう~っ。」

「あがあああ~っ。」

 エマとラフレアの壮絶な力比べになった。

 ラフレアは両足を広げて腰を落として自後体になる。

 足場を固めてより力を出そうと言うのだ。

 エマはその太腿の上に立ってラフレアの締付けから逃れようと全身の力を込める。

 観衆が大声で双方を応援する。凄まじい声援で何も聞こ取れない。


「うおおおおお~~っ。」

「むがあああ~~~っ。」

 双方の気合が交差する。

 場内はまさに戦いの熱気に溢れていた。


 ベリッ!!


 何かが破れる音がした。

 いきなりエマの締付けが緩みエマは床の上に落とされる。

 見上げるとラフレアが真っ青な顔をして目を見開いている。

 観衆がいきなり水を打ったように静かになった。


「な、どうしたの?ラフレア……。」

 ラフレアの瞳が泳いで呆然としている。

 何かにうろたえる様な仕草で自分の腕をお尻の方に回す。

 主審が手を上げて何か言っているのがよく聞き取れない。

 ラフレアはお尻に手を当てて全てを理解したようである。


 真っ青だった顔が真っ赤になり目から涙が吹き出した。

「いやあああああ~~~っ。」

 そう叫ぶとラフレアは両手でお尻を押さえたまま一直線に闘技場から駆け出して行った。

 そのお尻のパンツは物の見事に裂けていた。


「ラ、ラフレアさん落ち着いて。」

 ガルドがラフレアを止めようとするが何も見えていないらしい。ガルドを踏み潰して控室の方に走っていく。

 体中に足跡を付けたガルドがその後を追う。


 闘技場はしばらく静寂に包まれた。

 主審が誰かと相談しているような素振りをする。おそらく魔法でガルドと連絡を取っているのだろう。

 主審が手を上げエマの勝ちを宣告した。

「ラフレア選手試合放棄によりエマ選手の勝ち!」


 勝ち名乗りを受けたエマは呆然と試合場を降りるとシドラが待っていた。

「ラフレアちゃんは?」

「おそらく控室に行っていると思います。」


「アタシ行ってくる。」

「いけません、こんな時は一人になりたいものです。」

「でも……。」

「貴方の胸のサラシがこの観衆の前で外れたら、貴方はどう感じますか?」

 シドラに言われてエマは考え込んでしまう。


「そ、そうだね、しばらく一人にしてあげようね。」

「はい、それに決勝までそれ程時間もありませんし。フローレさんの戦いをよく見ておいて下さい。」


 試合場の上では既にフローレの試合が始まっていた。


 フローレの相手は痩身のエルフィン族だ、この勝者とエマが戦うのだ。

 ふたりは手を伸ばしながら相手をつかもうと手を絡めたり引き剥がしたりしている。

 静かな動きながら凄まじい緊張感を感じる試合である。


 おそらく相手も相当な手練なのであろう。

 先年の優勝者と言えどもフローレも地元で何試合もの予選を戦って来てこの場所にいるのだ。

 スルッと相手の間合いに入ると素早く足を取り相手の上になる。

 相手選手はガードポジションでフローレの攻撃を躱す。


 フローレはサイドポジションを狙うが足で防御を行い横への回り込みを防いでいる。

 二人共体格的にはさほどの差が無い。

 これがラフレアちゃんであれば下になってもかんたんにひっくり返してしまうだろう。

 そう言う意味ではこの試合は非常に高度な技の応酬が見て取れる。


 殴り合い程の迫力は無いが地味に中身の濃い戦いである。

 ラフレアは昨年フローレ選手に負けてはいるがエマ同様にラフレアの自爆による試合放棄である。

 規格外すぎる事が彼女の負けにつながるという皮肉である。

 もっとも戦う度に性格が変わるようではあまりこんな事を続けないほうが良いのかも知れなかった。

 逆にこれを繰り返すことにより自我をコントロール出来る様になるかも知れない。

 いずれにせよこういった問題はラフレアちゃんがまだ子供であることに起因しているのだから、年齢と共に落ち着くのかもしれない。


 試合場では二人の攻防が続いている。あの戦いをすれば間違いなくエマは負ける。

 エマが今戦っている二人と戦うには距離を取っての打ち合い以外にない。

 あの素早い踏み込みはエマが蹴りを出した直後が危ない。当たらない蹴りは出せないと言うことだろう。

 ひときわ歓声が大きくなる。


 フローレが相手の関節を取って審判が止めた。

「行くわよ。」

 エマ達は控室に戻る。試合が始まるまでシドラがマッサージをしてくれると言う。


 控室に行くとラフレアの仕切りのカーテンは閉まったままだった、おそらくラフレアは中にいるのだろう。

 あえてエマは声を掛けずに自分の仕切りの中でマッサージを受ける。

 シドラのマッサージは結構うまくエマの体はすごく楽になってきた。


 何しろラフレアとの力勝負をしたのである筋肉はかなりの疲労をしており早急に回復させる必要が有ったのだ。

 カーテンがふわりと揺れ外から声がかかる。

「エマさん。」ラフレアの声である。

「ラフレアちゃん?」

 エマが聞き返すが返事がない。

「入っていい?」しばらくしてようやく返事が有った。

「いいわよ、遠慮なんかしないで。」


 ラフレアが入ってきた、随分憔悴したような顔であった。多分泣いていたのかも知れない。

「エマさんゴメンナサイ、途中棄権なんかしちゃったの。」

 ラフレアの後ろにガルドの姿が見える。

 まあ、パンツが破れたらアタシだって逃げ出したかも知れない。

 ましてやラフレアはまだ13歳になったばかりだし。


「いいのよ、仕方のないアクシデントだもの。」

「エマさんとは力いっぱい戦いたかったの。」

 いやいや、あたしゃ遠慮しとくけどさ。


「アタシの方こそ逃げ回ってばかりのみっともない試合をしちゃってゴメンネ。」

「申し訳ありませんでした、私が胸のことばかり気にかけてパンツの事を完全に失念していましたから、2年続けてラフレアさんに恥ずかしい思いをさせてしまいました。」

 ガルドがしょぼくれていた。


「これからレイさんの準決勝が有るから見に行くの。エマさんは次のフローレさんの試合頑張ってほしいの。私観客席から応援しているの。」

「ありがとう、精一杯頑張るよ。」

「ああ、ついでと言っては何ですがエルーラ達の事をよろしくお願いします。」

「分かったなの、一緒に試合を見ているなの。」

 よかった。ラフレアちゃんはちゃんと気持ちを切り替えている。


「と言うよりはどうやらレイさんの試合の観戦の方がより気持ちが大きのでしょう。」

「あんたねえ、分かっていてもそういうことは言わないの。」

「そんなものですか?」

「アンタもいい加減女心を学びなさい。」


「はい、私はエマさんからとても多くの心を学ばせていただきまして、はい、心身ともに傷ついております。」

「それはご愁傷様です。」

「………………。」

「マッサージ……続けましょうか?」

「はいはい。そう致しましょう。」


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