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最強(弱)無双の魔法使いは無敵少女と旅をする。  作者: たけまこと
エルフィン族の武道大会
93/211

予選決勝レイ対ジャルガ

 食事を済ますと皆で闘技場に戻った。

 

 程なく剣技の部が開始され、レイの試合は3試合目だった。

 レイは自分の剣を使わずにウィザーの用意した木剣を使っていた。

 

 第一試合は難なく突破した。完全にレイの方が格上であった。

「なんでレイさんは自分の剣を使わないのかしら。」

「あの人は自分の力を知っているから重い鉄剣が当たって相手が傷つくのを嫌っているのよ。」

 

「だって試合だし、相手はそんな事気にもしないで来るわよ。」

「仕方がないわねそれがあの人の性格だから。」

「あのピクシー族の選手はどこかしら?」

「レイさんと同じリーグにいるわ、ジャルガと言う名前らしいわ勝ち進めば決勝で当たるわね。」

 

「マイリジャーのゲルド・ミシュラーさんは?」

「別のリーグにいるわ、今回は当たらないわね。」

「あの人強いのかしら?」

「強さの質から行けばあの人は剛剣ね、力で相手を粉砕するタイプだわ。防御ごと相手を貫くような剣質だわね。」

 

「レイさんは?」

「あの人の剣はしなやかだわ、相手の剣を受け流して相手の隙間から剣を突き立てて行くタイプね。」

「あのピクシー族のジャルガ選手と戦ったらどうなるかしら?」

「あの人とレイさんは同じようにスピードが有るわ、かなりいい勝負になるでしょうね。」

 

「例えばミシュラーさんのような人に当たったら?」

「ミシュラーさんは剛に偏り過ぎているわね。ただ戦場は一対一の戦いなんか無いし、金属鎧も付けるからピクシーの選手では攻撃が通りにくいのは確かね。」

「でも試合は試合だから多分ピクシー族の人が勝つでしょうね。」

 

「レイさんとミシュラーさんだったら?」

「レイさんよ。」

「実はエルフィン族の剣は暗殺剣なのよ。正面から力で押してくる相手に正面から挑むことはしないの。」

「レイさんは去年と違ってエルフィン族の暗殺剣を自分の動きに取り入れているわ。それでいて剛の剣も使える、ああなるとちょっと勝てる人は見当が付かないわね。勝てるとしたらエルフィンの剣術に精通した何人かしかいないわね。」

 

 アリーナの言った通りレイは順調に勝ち進んで行った。

 一方ミシュラーとピクシー族の選手も同様に勝ち進んで行った。

 

「と言う訳でやってきました決勝戦!レイ選手対ジャルガ、両選手が雌雄を決する時がやってきました。」

「あんたやけに嬉しそうね。」

「それはもう、血湧き肉踊る武道の祭典ですから。ぜひ、ぜひ、レイ選手には勝っていただきたいと……。」

「断って置くけど実況中継はしないからね。」

「………………。」

 ティンカーがシドラとエマの顔を交互に見比べる。

 

「わかった?」

「はい……わかりました。」

 何かあからさまにがっかりしてる。そんなに実況をしたかったのかな?

「ジッキョウチュウケイってなに?」

 ティンカーがシドラの袖を引っ張った。

 

「え?ああ、はいっ。武道大会には欠かせない、お祭りのおはやしみたいなものです。」

 力が抜けたのかシドラはティンカーの質問にもおざなりに答えている。

「シドラなんでそんなに元気ないの?」

「はあ、楽しみにしていたお祭りのひとつが中止になりまして。」

「でも、もうすぐレイさんの試合が始まるから見てないとだめよ。」

「はいはい、見させて頂きます。」

「シドラ、一緒に見よ。」

 

「そうですね、一緒にレイさんを応援致しましょうね。」

「うん、レイさん頑張れー!」

「さあ、お姉ちゃんも一緒に応援しよう。」

「うん、そうだね。頑張れーレイさーん。」

 レイは壇上に上がる前にエマ達に向かって手を振った。

 

「この試合、シドラはどう見ているの?」

「はい、これまでの試合の動きを見ていますと明らかにスピードの差は顕著です。レイさんは元々体が大きいですからあのスピードに付いていくのは難しいでしょう。レイさんには厳しい試合になるかも知れませんね。」

「そうかレイさんが木剣を使っていたのはこの試合の為だったのね。」

「はい、木剣に慣れる為ではないかと思います。」

 

「あらあら、レイさんたらあんなもの持ち出しちゃって。」

 レイは両手に木剣を持って試合場に上がってきた。

「両手剣?レイさんそんな事出来るの?」

「レイさんねジャルガ選手の動きを見てから双剣を使った練習をしていたのよ。」

 

「なる程、スピードの不利を双剣で補おうと考えている訳ですね。」

「とは言っても付け焼き刃じゃあねえ。」

「ごもっとも。」

 ふたりは試合場を挟んで向かい合った。

 

 それにしても人並外れて大柄なレイとピクシー族のジャルガが対峙すると大人と子供を通り越して、大人と幼児の試合に見える。

 これではあまりにも理不尽かも知れない。

 ジャルガ選手は細身剣の双剣の逆手持ち、レイ選手は木製片手剣の双剣の順手持ち。

 ジャルガはこれまでの戦いと異なり走り回る事はせずに剣を構えたままレイに近づいて行く。

 

「どうしたのかしら?動かずに剣で勝負するつもりかしら?」

「レイさんが双剣を持ち出したので用心しているのよ。」

 ジャルガはステップを踏み始め体を前後に動かし始める。

 レイは様子を見ているのだろう前に出ることはない。

 突然ジャルガは片手の剣を順手に持ち変えるとレイに向かって突き出す。

 

 レイは大きく剣を振り回してそれを払う。

 剣はレイピアに当たり剣を弾き飛ばす。

 ジャルガは弾かれた剣に一瞥もくれずにレイの足元に踏み込み残った剣でレイの足をねらう。

 レイも予想していたのか反対側の剣を足元に突き刺しジャルガの剣を防ぐ。

 防がれたと見たジャルガは大きく後方に飛び下がる。

 

 今までジャルガのいた場所にレイの木剣が叩きつけられた。

 ジャルガはそのまま周囲を走ると弾かれたレイピアの方に向かう。

 レイはジャルガを追って落ちているレイピアの方に向かって走り始める。

 レイの体の大きさからすると信じられない速度である。

 

 レイピアを拾おうとするジャルガに向かって剣を振り下ろす。

 ジャルガは剣を避けて飛び上がりレイの頭に向かって剣を突き出した。

 レイは片手の剣でそれを防ぐと残った剣を突き出そうとする。

 ところが信じられない事が起きる。

 

 拾えなかった筈のレイピアがいつの間にか空中に浮いており死角からレイを襲った。

 しかしレイは動作を中断し、見えないはずのレイピアを剣で叩き落とした。

 それを見たジャルガは驚愕の表情で大きく間合いを取る。

 手を振ると再びレイピアは宙に浮きジャルガの手元に戻る。

 

 この間わずか数秒の攻防であった。

「すごいわ、レイさん付け焼き刃の双剣であそこまで動けるなんて。」

「アイーラさん、なんであの剣は勝手にレイさんを攻撃したの?」

「あれはピクシー族に伝わる暗殺拳のひとつよ、ご覧なさい剣に細い紐が付いていたのよ。」

「暗殺剣?ピクシーが?」

 アイーラは意外な事を言った。

 あのかわいいピクシー族が暗殺剣などと言う物を持っていたことがエマには信じられなかった。

 

「ピクシーが体が小さくて頭が良いだけの種族だとエマさんは思っていたの?」

「そ、そうじゃないの?」

「どんな種族にも裏の顔は有るものなのよ。体が小さくて力の弱いピクシーであるが故にあのような暗殺剣を必要としたの。」

「だけどいくらなんでもあの人の動きは人間離れしているわよ。」

「そうですか?エマさんも十分人間離れしていると思いますが?」

 お前はそこで余分な事をいうな、私のどこが人間離れしているんだ。

 

「エマさんの事はともかく、そういった才能の有る人を集めて訓練する場所はピクシーにも有ったのよ。」

 うう~っ、ショックだ。アイーラさんもアタシが人間離れしてると思っていたのか?

「エルフィン族にも同じような暗殺剣は有るけど源流はピクシー族なのよ。」

 なんだ結構あちこちでつながりが有る物なんだ。

 

 ジャルガはそれまで逆手に持っていたレイピアを順手に持ち帰る。

「今度は正面から剣の打ち合いをするつもりね。」

「しかしそれはジャルガ選手に不利では無いでしょうか?体の小さなジャルガ選手が逆手持ちをしていたのは接近戦から懐に潜り込む為でしょう。中間距離では体の大きなレイさんに対して勝ち目は無いと思いますが?」

 シドラが言い終わる前にレイが踏み込みジャルガを攻撃し始める。

 

 ジャルガも双剣を駆使してレイの剣をさばき何度か突きを入れる、レイも同様に剣の攻防の間に突きを挟む。

 しかし驚くべきはジャルガの力であった。レイの振り下ろす剣をレイピアで受けきっているのだ。

「レイさんが木剣を選んだ事が裏目に出たわ。あれが鉄剣だったらジャルガは受けきれなかったでしょう。」

「そうでしょうか?私にはレイさんが木剣故にジャルガ選手の動きについていけてる様に見えますが?」

 意外と言うな、シドラのくせに。

 

「私の分析能力は高いのですよ。何しろウィザーですから。」

 ウィザーだから何だってんだ?それより私の心を読むんじゃない。

 激しく打ち合うふたりである。しかし流石に絶対的体力差はジャルガの疲労を誘う。

 徐々にジャルガは押され始めた。

 左右に動こうとするジャルガであるが、レイの足がそれを許さない。

「場外!」

 ジャルガの体が遂に場外に出る、場外は3回で失格である。

 

 再び両者が試合場の外に出て試合を再開する。

 レイは肩で大きく息をしているがジャルガはそれ程でもない。

「あと3分有るわね。レイさんの疲労が激しいわ。ジャルガ選手の方はあまり消耗していないわね。」

「しかしジャルガ選手は場外のマイナスポイントが有ります。」

「マイナスポイントは大したこと無いの。一本取ってしまえば関係ないことだしね、ジャルガ選手はこれで一本取りに来るわよ。」

 

 ジャルガは再び双剣を逆手に持つと低く構える。

「今度は空中戦ね。」

 ジャルガはレイに向かって間合いを詰めるが素早く直角に曲がりながらレイの周囲を動き回りながら細かい攻撃を仕掛けてくる。

 しかしレイは落ち着いてそれをさばきながら再びジャルガを場外に向かって詰めていこうとする。

 一方ジャルガは素早く横に移動してそれを阻止する。

 戦いは双方が決定打にならない間合いで撃ち合いながら膠着状態となる。

 

 いきなりジャルガの姿が消える。

「上です!」

 モイエラが叫ぶ。

 驚くことにジャルガは3メートル近く飛び上がり、上空からレイピアをレイに向かって投げつける。

 

 レイはレイピアを剣で弾くと反対の剣をジャルガ目指して突き出す。

 ジャルガもレイの顔めがけて残ったレイピアを突き出す。

 双方の剣がお互いの体に当たる寸前ジャルガは身を翻すとレイの腕を蹴って床に降りてゆく。

 その後を追おうとしたレイの背後からレイピアが宙に浮いて背後からレイを襲う。

 

 まるで背後に目が有るかのごとくレイピアを弾いたレイは着地したばかりのジャルガに剣を振り下ろす。

 紙一重で剣を躱したジャルガはレイの腕を足場に跳ね上がりレイの顔めがけてレイピアを突き出した。

 しかしそれを読んでいたレイは体をひねってレイピアを躱しジャルガを追って剣を振り回す。

 素早く空中で反転したジャルガでは有ったがレイの剣の切っ先がジャルガの背中をかすめる。

 

「レイさんの剣があたったわ!」

 エマが叫んだ。

「いいえ、浅い、わかすり傷よ。」

 アリーナの言うとおり主審は何の行動も起こさなかった。

 

 そのまま着地したジャルガの元へレイは駆け寄ろうとするが、ジャルガは更に大きく飛んで間合いを取る。

 その間投げつけたレイピアはジャルガの手に戻って行く。

 そのままふたりは睨み合ったまま対峙する。

 ジャルガはくるくるっとレイピアを回すと腰のベルトに双剣を差し込みそのまま試合場に背を向ける。

 

「待てっ。」

 主審はレイに待機を命じる。

 一方ジャルガは外に向かって歩き始める。

「ジャルガ選手、試合を放棄しますか?」

 主審がジャルガに尋ねるとジャルガは黙って頷きそのまま試合場を降りて行ってしまった。

「ジャルガ選手試合放棄により勝者、レイ選手。」

 

 審判の手が上がりレイの勝利を宣言した。


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