マイリージャのエルロンド
「お姉ちゃん、ラフレアちゃん、優勝おめでとうございます。」
エルーラとティンカーがフローレに連れられて控室にやってきた。
「お二人ともものすごくお強かったんですねー。」
「お姉ちゃんつよーい。」
ああーっ、試合の後に二人の顔を見ると癒やされるなー。
「私のドームから推薦された選手が二人も本戦に出れるなんて大変名誉な事です。私はとても誇らしく思っています。」
ガルドはすごく嬉しそうにはしゃいでいる。
「でも後はレイさんが残っているなの。」
「そう言えばレイさんはどうしたのかしら。」
「午後の試合に備えて先に食事を済ませて今は休んでいます。」
「そっかー、一緒に食事に行こうと思ったのに。」
「試合のすぐ前に食事をすると動きが鈍るの。」
「そだね、それじゃ仕方ないから、体を洗ったら皆で食事をしに行きましょう。」
「私は会場係の仕事が有りますので残念ですがご一緒出来ません。」
「ガルド、ご心配無く、私が皆さんと一緒に食事に行かせて頂きます。」
あ?なぜかガルドがものすごく悔しそう。
「シドラもどうせ食事は出来ないのに良く食事に同行したがるわね。」
「はい、皆さんが美味しそうに食事をなさるのを見ているだけでとても満足な感じを味わえますから。」
ま、どうでもいいけど。
「それじゃ皆で美味しいものでも食べに行きましょう。」
「ああ、皆さん今日はエマさんの本戦出場を祝って寮でごちそうを用意しますから。」
ゼンドレが嬉しい事を言ってくれる。
「レイさんには後で聞いておきますがラフレアさんも宜しければどうぞ。」
「ありがとうなの、喜んでごちそうになりに行くなの。」
大丈夫かなー、ラフレアちゃんすごく食べるよ。
その時扉をノックする音が聞こえたのでラフレアがドアを開けるとレイが立っていた。
その後ろにはウィザーのウルドも立っている。
「レイさん!」
「ラフレアさん、本戦出場おめでとうございます。」
「レイさん、ありがとうなのー。」
ラフレアはレイに抱き着くとレイは優しくラフレアの背中をたたく。
「エマさんも素晴らしい戦いでした。本戦でも是非頑張って下さい。」
「レイさんはこれから試合なのにわざわざ来てくれてありがとうございます。」
試合前の精神を集中させなければならない時にわざわざ来るとは、結構コイツもラフレアちゃんに惚れてるのか?
「いえいえ、皆さんが素晴らしい結果を出されたのですから是非お祝い申し上げなくてはなりませんから。」
「今夜、ゼンドレさんが私達の祝勝会をしてくれるなの。レイさんも勝って是非一緒に来て欲しいなの。」
「おお、レイさんには是非おいでください。私が腕によりをかけてご馳走を用意いたしますから。」
「わかりました、宜しければ同席させて頂きます。」
「私も同席して宜しいでしょうか?」
モイエラ?食事もしないのにあんたもか?
「いえいえ、皆さんと勝利を祝いたいのは私も一緒ですから。」
「待ってよまだレイの試合も終わってないんだからそんなにプレッシャーを与えちゃだめだよ。」
「大丈夫なの、レイさん絶対勝つと信じているの。」
「あははは~っ、ラフレアさんに言われると元気が100倍になりますね。」
「がんばってなの、ラフレア一生懸命応援するなの。」
「ありがとうございます。絶対に本戦出場を果たして見せます。」
「それでは私はレイさんと試合の準備に入りますので失礼致します。」
「モイエラ、レイさんをお願いするなの。」
「はい、お任せください。必ず予選は通過して見せますから。」
「私たちは観客席から応援してるわ。」
レイ達は男子の選手控室に引き上げて行った。
「試合まで一時間有るけど、そんなにゆっくりとは出来ないわね。」
「それじゃ急いで行きましょう。私美味しい所知ってるから。」
そう言って出て来たのであったが……。
食堂に行くとまたまたマイリージャの連中と鉢合わせをした。
余程怨念……いや因縁が強いらしい。
ガイア・タックリーとオルフェ・イリアキーが数人の仲間らしき人を連れて来ていた。
ゲルド・ミシュラーとゼオラ・エンゲルスは試合が有るためだろう来ていなかった。
オルフェ・イリアキーがにこやかに挨拶をしてきた。
ガイアはエマを見た途端横を向く。
皆の前には食事が並んでいたがガイアはあまり食べていない。
顔が腫れているから口の中を切ったみたいだ。
あれアタシの蹴りが原因か?
「エマさん、それにラフレアさん本戦出場おめでとうございました。お二人とも圧倒的な戦いでしたね。」
「あははは、どうもありがとうございます。オルファさんは予備予選はいかがでしたか?」
「はい、私は明日の予選出場は出来ました。明日は私が頑張る番ですね。」
しかし、試合後に戦った相手と顔を合わせるのって結構気まずいな。
向こうもこっちの方を見ないようにしている。
まあ最初にあれだけ突っ掛って来た相手に負けたんじゃ格好付かないしね。
「ほらほらガイア、もう試合は終わったんだしお互いに卑怯な手段を取った訳でもないんだ。ちゃんと挨拶をしなさい。」
「う、うん。」
やはりこだわりが残るのかいまいち元気がない。
まあ、どんな態度を取ったらいいのか判らないのだろう。
まさか『ホーッホッホッホッホッ、今回は負けてあげたけどこの次はそうはいきませんことよ。』なんて言える訳もないしね。
「ねえ、お姉ちゃんきれいなお顔に傷が付いちゃったの?」
突然ティンカーがガイアに向かって話しかけた。
「だめよティンカー初めて会った人にそんな事言っちゃ。」
エルーラがティンカーに注意する。
「ううん、エマお姉ちゃんすごく乱暴な人だから痛かったでしょう、ごめんなさい。」
ティンカーがペコリと頭を下げる。
流石にこれにはガイアも参ったらしく苦笑せざるを得なかった。
「いいんだよ、これは試合だからね、勝っても負けても恨みっこなしさ。」
「それなら仲良く皆でご飯食べようよ。」
「そ、そうだね。」
「おお、エルフィン族の小さなレディーだな、はじめまして私はオルフェ・イリアキーと言うんだよ。」
「初めまして私はエルーラ・トロル、この子は妹のティンカーと言います」
「トロル?……珍しい名前だね。」
イリアキーは少し引っかかるように言った。
「私はガイア、ガイア・タックリーと言うんだ。」
ガイアはティンカーに挨拶をする。
「お姉さんとってもきれいだけどそんなに怒った顔してるとお友達が逃げちゃうよ。」
「そうか?そうだな。」
ガイアは頭を掻いて苦笑いをする。
「いやエマさん、実はね初めてあなたを見た時にね、素人丸出しの人間がこの大会に出ると知って少なからず腹が立ったんだよ。」
「アタシ素人丸出しなの?」
「そうですね、どうひいき目に見ても達人の風格は微塵も感じられませんね。」
うるさいなーシドラ、そんな事わかってるよー。
「まあ、こう言っては何ですが、命のやり取りをするような人間にしては隙だらけですからなあ。」
イリアキーさんにまで言われてしまった。
「皆さん軍人なんですか?」
「ああ、我々は全員マイリジャー国軍の兵士なんだ。」
「その軍人さんがなんでエルフィン族の武道大会に出場するんですか?」
「一番は卓越したエルフィン族の体術、武術などを兵士の修練に利用するためです。」
イリアキーによれば、かつてエルフィン族との戦争では圧倒的な軍事力でエルフィン族を圧倒してこのドームを占領したが、やがて高い個人の戦闘力を活かしたゲリラ戦術に徐々にその戦力を削られ撤退を余儀なくされた。らしい。
結局ただ兵隊を集めただけの軍隊では長い間にその能力は失われていく事に気が付いた国王は各地で武道大会を開催し、その様な大会で好成績を残したものを取り立てる制度を作ったということらしい。
そうした中でも最もレベルの高いエルフィン族の武道大会に参加することにしたようである。
ウィザーに仲介を願って大会のスポンサーとして優勝者に賞金を出すことにしたそうである。
「マイリージャが金を出して賞金を付けるようになってからは更にこの大会は盛んになりました。その代わり各競技に一名ずつの参加者を認める事になったのです。我々は戒律が有りますからそれらの事に口を出すことはしませんが。」
ガルドが付け加えて説明する。
競技場を作ることは戒律に違反しないのかよ?
「競技場はあくまでも我々ウィザーの趣味の範疇ですから、だからドームの外に作られているのですよ。」
なんでガルドまでアタシの思考を読むのよ~。
「マイリージャ出世するには軍人になるのが早道ですからな。私も家族のために出世しなくちゃならんのです。」
「エマさんはなんで大会に出ることにしたのですか?」
「アタシは無論お金のためよ。旅の路銀を稼がなくちゃならないから。」
「ほう、どちらの方まで?」
「マイリージャを超えた先に有るドームなんですけどね。」
「確かエマさんはフェブリナ・ドームから来られた訳ですね。するとグラス・ドーム、ジョライ・ドーム、ウィデルガ・ドーム、ゲオラ・ドームと渡ってきたことになりますね。
流石軍人、アタシと違って地理には詳しいんだ。
「はい、そうですが、それが何か?」
「いえいえ、我々も軍隊ですからいろいろ情報を収集しておりましてな、その中には結構面白い物も有りましてな。」
「へえ~っ、そんな面白い話が有るんですか?」
「いえ、その中に旅をしている女性闘士の噂を聞きまして、結構みな最近の話でしてな、聞いたこと有りませんか?」
げ、まさか?
「なんでも族に誘拐されたピクシーの娘達を助けたとか。」
げげげっ。
「外から侵入してきた竜を素手で睨み返して追い出したとか。」
うげげげげっ。
「これは出所不明ですが、ドーム内に出現した怪物を退治したとか。」
ぎょえええ~~~っ。
「極め付けはあれですな、マイリージャの砦を襲って商売に来ていたピクシーの娘達をさらっていったとか?」
なんだそれ?どこでどう言う風に話が変わったんだ?
「そのうち吟遊詩人が戯曲を作って回る様になるでしょうな。」
作るんじゃねーよ。
「エマさんも旅をしてるとそんな人に会うかもしれませんね。」
会いたくねー。
「まさかと思いますが、エマさんがその女性闘士ですとか?」
くそっ、コイツ勘がいいな。
「あ、あたしゃ田舎の薬師見習いだよ、そんな偉そうな闘士じゃないわよ。」
やべ~な~っ、どこでどう噂が広まってるかわかんないもんな~っ。
「いやいや、エマさん程の実力ならあり得ると思いましてね。」
「そ、そうですか?こ、こ、光栄ですね~っ。あ、あ~っははは~っ。」
丁度いい、マイリージャの事は彼らに聞いてみるか。
「そう言えば皆さんはエルロンドという言葉に心当たりはありませんか?」
その言葉を聞いた途端彼らの表情が急に変わった。
「エマさんはその言葉をどこで聞かれましたか?」
「いえ、このエルフィン・ドームに有った古い町の名だと聞いていますが。この子達の故郷だと聞いてきたものですから。」
「このお嬢さんたちの?」
「ええ、この子達の親はゲオラドームで亡くなってしまったものですから、親戚を探して来たんですけど。」
あっ?と言う顔をしてエルーラがエマを見つめたが何も言わなかった。
エマは何かイリアキーの言葉に不穏なものを感じてふたりの親を死んだことにしたのだ。
「ああ、そうでしたか。マイリージャでエルロンドと言うのは凶悪な武装集団でして、我々軍の敵なものですから。」
イリアキーは意外な事を言う。
いや、ある程度は予想はしていたがなんかぴったりとはまったな。
「そうでしたか。それじゃ皆さんはその人達と戦争をしているんですね。」
「いや、戦争という程の物はまだ起きていないが、お互いに緊張状態が続いているのですよ。」
「それではエルロンドと言うのは地名では無かったんですね。」
「何故彼らがエルロンドを名乗っているのかは判りませんがね。」
その後全員で和やかに食事をした。
相変わらずシドラとガルドはあたしの両脇に座って火花を散らしていた。




