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最強(弱)無双の魔法使いは無敵少女と旅をする。  作者: たけまこと
エルフィン族の武道大会
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最強のピクシー族

「いただきまーす。」

 ん~っ みんなで食べる屋台の料理はおいしい。

 

「ティンかーちゃん、おいしい?」

「「おいしいーっ。」」二人そろって答える。

 う~んハーモニーがかわいい~っ。

 

 午後はまた別の試合が有るからみんなで見に行くわよ。

「「はーい。」」

 うーん、子供は誰かとちがって素直でいいわ。

 

「エマさん今日の予備予選のレベルで見るとエマさんの敵はあまりいないと思うの。」

 そうよね、最大の敵はここにいるもの。

「予選でエマさんとは別の組になることを願っているけど当たったら仕方が無いわね。」

「ま、まあお互いに頑張りましょう。」

 正直言ってまともにぶつかったらラフレアちゃんには勝ち目がないからなあ。

 

「まあ勝負の世界だから仕方が無いじゃない。」

「ただ、エマさん今日のマイリージャの選手の戦い方を見ていますと、あれは完全に軍隊における殺人技をベースにしていると考えられますね。」

「いいえ、それは逆よ数年前からマイリージャが金を出し始めた頃はまともに戦える選手はいなかったのよ。それが何度か出場して戦い方を学んできて今の選手のレベルになって来ているの。」

 

「それじゃあアイーラさん、マイリージャはこの大会で自国兵士の訓練の為に利用しているってこと?」

「かつてのマイリージャ軍を駆逐したのは結局エルフィン族が自らの体術と狩猟技術を温存できたからなのよ。」

 技術力と装備に勝るマイリージャ軍との戦いは結局ゲリラ戦で少しずつ敵の勢力を削って行き敵が自ら引き下がるまでそれを続けた事に有るらしい。

「それを20年続けたのか。」

 むしろその事の方がすごい事だと思う。エルフィン族の本当の恐ろしさはそこかもしれない。

 

「エルフィン族のコーチを雇おうとしたらしいけど本当に強い者はマイリージャに力を付けさせる事を恐れているから半端者しか行かなかったわね。」

「橋のおかげで馬を大量に移動できないから重装備の騎馬軍団を組織できないんだ。仮に出来たとしても障害物の多い場所ではあまり有効じゃ無いからね。」

「戦争で他国に侵攻した場合は侵攻軍が開けた場所で行う軍事作戦と、障害物の多い場所で行われる現地軍のゲリラ戦の戦いになるのよ。マイリージャは森を切って平原にしたけど畑で麦を作れば立派な遮蔽物になるから。」

 

「森がなくなってしまったのは悲しいけれどたくさんの畑が出来て私達の生活は前より安定した物になったから、悪いことばかりじゃないけどね。」

「エルフィン族の皆さんには申し訳ないと思っています。」

「あ、いえ、レイさんに責任が有るわけでは有りませんから。」

「しかし私はマイリージャの騎士になるためにこの大会に出場しているのですから、皆さんに恨まれても仕方の無い所なんです。」

「人にはそれぞれの人生が有りますから。」

 なんか重たい話になっちゃったな~。

 

 午後は剣の予備予選だった。

 剣は全て選手の持ち込みとなる。これは槍も弓も同様である。

 ただし剣はお互いに切り合うわけなので全ての剣にはウィザーが革を巻きつけ先端には団子をつける。

 盾を装備することも可能であるがその場合も革が巻かれる。

 防具の着用も自由であるが防具を付ければ動きが悪くなる。

 

 しかし鉄の剣を使った場合防具をつけなければ手足に当たれば確実に骨は折れる。

 したがってガントレットと革の胸当ては付けるのが普通であった。

 フルメタルアーマーで出場した者もいたが滅多殴りにされ耳をおかしくして判定負けとなった。

 相手に対し全く攻撃出来ないのでは試合にならないのだ。

 

「ほう、この大会にピクシー族が出るとは思いも寄りませんでした。」

 闘技場に上がって来たのはいかにも力の強そうなガタイをした人族の男と子供にしか見えないピクシー族の男であった。

 

「あの人いくつ位かしら?」

「15~6位ではないでしょうか?私にもピクシーの年齢判定は難しいのです。」

 見た目には身長は半分もなく体重はそれこそ3~4倍はありそうだった。

「これは、ちょっと、勝負になりますかね?」

 レイならずともそこにいる全員がそう思った。

 

 人族の男は大きな両手持ちの直剣を構えピクシー族の少年は中くらいの細剣の双剣であった。

 人族の男は力押しで相手を叩き潰せると考えたのだろうニヤリと笑う。

 始めの合図が出ると同時に人族の男は大きく剣を振りかぶって前に飛び出すと横殴りに剣を払った。

 おそらく飛び上がると予想をしていたのであろう、払うと同時に刀の刃先を返していた。

 

 しかしピクシー族の少年は剣の切っ先を躱すと剣の反対側に走り始める。

 そのスピードは驚くほどの速さであった。

「ぐっ。」

 人族の男はそれでも剣を片手に持ち帰ると1回転して少年を前から刀で薙ぎ払う。

 

 今度は少年は飛び上がって刀を躱す。

 男は読んでいたのかにやりと笑うと刀を返して上に切り上げる。

 ところが少年のジャンプ力は男の予想を超えて高くまで上がった。

 

 少年を追った刀を握った手首の上を蹴り首に向かってジャンプする。

 少年はそのまま男の肩口を中心に首を回ると肩に足を巻きつけて男の頭に抱き付き、目を手で覆って首筋にレイピアを当てる。

「止めっ。」

 審判の声がかかる。

 

 しかし男は逆上しているのか動きを止めること無くピクシーの選手の方を掴むと床に思いっきり叩きつけた。

 しかしピクシーの選手は体を反転させると手足を床に付けて着地する。

 そこへ男は剣を逆手に持って串刺しにしようと剣を突き下ろそうとする。

 場内から悲鳴にも似た声が上がる。

 

 しかし主審が目にも止まらぬスピードで駆け寄ると男の腕を掴んだ。

 男はそれでも残った腕に刀を持ち替えると更に突き下ろそうとする。

 しかしウィザーはその手も掴み選手を引き寄せると選手の顔の目の前で言った。

 

「あなたの負けです。」

 

 男は呆然とした顔でウィザーを見つめていたが突然大声を上げた。

「うおおおおぉぉぉ~~~っ。」

 大声を上げて泣き始めた。

 

 おいおい、この試合に掛けてきたのかもしれないが大の男が泣くなよみっともない。

「今の危なかったね。もう少しであの選手大怪我をするところだったわ。」

「いいえ、エマさん、もう少しウィザーの介入が遅ければピクシーの選手があの選手の喉笛に剣の柄を打ち込んでいた筈です。」

「え?そ、そうなの?レイさん。」

 

「はい、私もレイさんと同意見です。あのピクシーの選手は明らかに相手の動きを予測していました。相手に叩きつけられたのでは無く自分から飛び降りていましたし、降りたあと相手の動きをしっかり見ていましたから。」

「シドラ、もしかしてあの選手……。」

 

「はい、あの時のピクシー族ではないかと思われますね。」

 ピクシーの村の誘拐を未然に阻止してくれたピクシーの男もまたレイピアの双剣使いだった。

「多分グラスドームでピクシー族の娘達を救ったのも彼でしょうね。」

 

「しかし何故手柄を他人に譲るような真似をしたのでしょうか?」

「知らないわよ、アタシ達だってそのまま姿をくらましたんだからやっぱりあっちにも何か事情が有ったんでしょう。」

「お二人はあのピクシー族をご存知なのですか?」

「いえ、特に確証は無いんですけどね。」

 

「いずれにせよ彼は強敵だと思います。あれ程の身体能力で動かれたら捕まえるのは至難の技かと思います。」

 レイをしてそう言わせるピクシー族の男である。

 あたしんとこにいなくてよかった。……て違った。

 

 最強の相手がアタシの隣でエルフィンの姉妹を相手に遊んでる。

 

 続いて出てきたのがゲルド・ミシュラーであった。

 相手は人族のやや小柄では有るが非常に精悍な顔つきをした男であった。

 最初はゲルド・ミシュラーの圧勝かとも思えた。

 

 ゲルド・ミシュラーの剣は重く、早く、強力に相手の剣圧を圧倒した。

「荒いな。」

 レイはゲルド・ミシュラーの動きを見てそうつぶやいた。

 確かに力も強くスピードも有る。しかし勝ちを焦るあまり正確性に欠けた。

 

 相手の選手は最初は防御に徹していた。足を使って身を躱しながら、ゲルド・ミシュラーの剣を受け流していた。

 ゲルド・ミシュラーは甘く見ていた相手の防御に次第に焦りを覚え、反撃してこない相手に攻撃が大振りになってくる。

 突然がら空きの胴に剣を打ち込まれる。

 しかし審判は致命傷と判断せずに試合は続行された。

 

 それでも、もう一度同じ場所に当てられるか、このまま終了すればゲルド・ミシュラーの負けは明らかであった。

 一発当てられた事により逆に冷静さを取り戻したゲルド・ミシュラーはわざと胴に隙作ると相手の剣を呼び込む。

 相手の剣を躱すとその腕を掴みそのまま足を払って相手を倒すとその体の上に膝を落とす。

「ぐっ。」

 急所に入ったのか相手の動きが止まる。

 

 ゲルド・ミシュラーは片膝を付いたまま大きく剣を振りかぶった。

「止めっ。」

 審判の声がかかるがゲルド・ミシュラーは動きを止めず刀を振り下ろした。

 

 しかし主審は目にも止まらぬ速さでミシュラーの剣を掴んでいた。

「危なかったですねー。」

「うん、主審が止めなければあの選手死んでたかもしれない。」

 それにしても恐るべきは審判のスピードである。選手の打つ剣より早く動いて選手を止めたのである。

 

「ね、シドラ、何であの審判たちはあんなに早く動けるのかしら?」

「あれは特殊な魔法を使っていましてね、思考速度を上げてそれに体がついていけるように作られた魔法です。」

「思考速度を上げるってどのくらい?」

「約300倍位です。」

 

 300倍?普通の人の300倍で物事を見て考えて行動できるのか?

 

「それじゃ世界が止まって見えるじゃない。」

「いい表現です。まさにその通りです。」

 もしその魔法が人間にも使えるのであればまさに無敵になれるじゃない。

「あなたも魔法を使えばあんな風に動けるの?」

 

「いえ、あの動きをするのにはこの体では耐えられませんから専用の体を作らなくてはなりません。」

 そうだよね~、あんな動きを人間がしたら体中の筋肉が切れちゃうだろうな~。

「しかしこうしてみるとウィザーの恐ろしさがよく分かります。どの競技でもウィザーに勝てる人はおそらくいないでしょうね。」

 レイが沈痛な面持ちで言った。

 

 まさに魔法使いの面目躍如と言った所である。

 しかしエマは知っていた、ウィザーの能力を凌駕していたかも知れない人の事を。

「ゲンナイさんどうして試合に出ないんだろう?優勝すれば士官出来るのに。」

 まあ、エマの認識はこんなものであった。

 

 続いてピクシー族の選手が再び登場する。

 相手の選手も警戒してはいたがやはり実力の差は明らかであり、あっさりとピクシーの選手のレイピアを喉元に当てられ敗退した。

 

 試合を終えたピクシー族の選手はなぜか観客席にいるエマの事をじっと見ていた。

 やだ、そんなにマジで見ないでよ、いくら胸の大きな美人だからってさ。

「誰もそんな事は思っていませんからご安心を。」

 

 ピキッと額に血管を浮かせたエマがシドラを振り返ると、そこには眠ってしまった妹を膝に抱いたシドラがいた。

「すみません妹がご迷惑をおかけしまして。」

 姉がシドラに詫ていた。

 

 ……こいつ、誤魔化し方が巧妙になってきたな。




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