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最強(弱)無双の魔法使いは無敵少女と旅をする。  作者: たけまこと
エルフィン族の武道大会
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エルロンドの英雄

 試合の中休みの今日は、エルーラ達の母親の手がかりを探す為に出かけてみる事にした。

 

 その前に予習をする為姉妹から本を借りてきてシドラと二人で見ている。

 今日の行動計画を立てなくてはならない。むやみに動いても得る物は少ない。

 とりあえず二人でこの本を読んで検討をしなくてはならない。

 

「アンタ、エルフィン語は読めるの?」

「はい、このドーム来てすぐにゼンドレに学校の教科書を借りまして一応勉強しておきました。」

「アンタのそう言うところはホント凄いと思うわ。」

「それはもうウィザーですから。」

「胸張らなくていいから、本をを読んでくれる?」

 

「はいはい。」シドラはパラパラと本をめくる。

「もう読んだの?」

「はい、読みました。」

 

 速読の達人並みだなコイツ。

 

「それでなんて書いてあったの?」

「どうという事のないエルフィン族が主人公の童話ですね。」

「母親の残したメッセージと言うのは?」

「これがそうです。」シドラはウィザー語に翻訳して書き直してくれた。

 

 エルーラ・トロル

 ティンカー・トロル

 あなた達を捨てた私を許して下さい。

 私は今命の危険に晒されています。

 あなた達の安全を考えて私はあなた達をゲオラ・ドームのエスペランに託しました。

 いつかこの手紙を読む時が来てあなたたちが十分に大きくなっていたら、イリュージャ・ドームのエルロンドを尋ねて下さい。

 私につながる手がかりを見つけたらその手がかりに従ってください。

 いつの日かあなた達を抱きしめられる日が来ることを願っています。

 

 ジェンシー・トロル

 

「この本は結構何度も読んだみたい、かなり痛んでいるわね。」

「はい、本を落とした拍子に裏紙が破けてこの紙を見つけたそうです。」

「この文章からするとエルロンドは地名とも人名とも店名とも読めるわね。

 本を開いて見るがエルフィン語なのでエマには読めない。

 しかし挿絵が随所にあり文字も大きい、これが子供向けの本であることは見ただけでわかる。

 

「エルロンド村ですか。母親の名前はジェンシー・トロル、多分そういうことでしょうか?」

「シドラはアンチョコを持っているんでしょ。」

「しかしアンチョコにこのような地名は有りませんでした。私よりもこのドームに詳しい人に聞くのが良いでしょう。」 

 シドラは立ち上がるとまた腰を振りながら手を回して連絡を取る。

「ああ、ゼンドレですか?ちょっと聞きたいことが有りましてね……。」

 しばらく話し合った後シドラがこちらを向く。

 

「エルロンドとは昔の森の有った時期に有った樹上の村の総称だそうです。どこと言うわけでもなく森の南西側のエリアを指していたそうです。」

「競技場の近くじゃない。」

「マイリージャとの20年戦争で森が無くなったので同時に村も無くなりました。」

「無いんじゃ尋ねられないわよね。」

「ただ戦争終結から50年ですからまだ生き残っている人がいるかもしれません。あの辺りの年寄りから話を聞いてみましょうか?」

 

「とりあえずそれしかないかしらねえ。」

 

 エマ達はふたりを連れて競技場の近くまで行く、この辺は結構にぎやかな街並みになっていて80年前はうっそうたる森の中だったとはとても思えない賑わいである。

 

 その日は街を回って片端からから話を聞いてみた。

 子供達を連れ回すのもどうかと思ったが宿に置いておいて勝手に動き回られても困るので連れてきた。

 しかしどうもこれと言った話が聞けない。

 

 疲れて食堂に入った。

 出てきたウェイトレスを見てここが街に来て最初に入った店だと気がついた。

「ああらいらっしゃいまた来ていただけたのね。ありがとうございます。」

「お昼ごはんを3っつちょうだい。」

「はい、今日は肉と豆のスープです。パンもつきますよ。」

 

「じゃあそれでお願いします。」

「お客さんは試合に出場なさるんですか?昨日は予備予選でしたが結果はいかがでしたか?」

「大丈夫、無事に予選出場よ。」

「うわあ、良かったですね。種目は剣ですか?格技ですか?」

「格技よ。」

 

「へえ~、すごいんですね怪我ひとつしていないじゃないですか。」

「運が良かったのよ。」

「そう言えばあなたエルロンドって聞いたこと無い?」

 物は試しにこの娘にも聞いてみることにした。

 

「エルロンド?このあたりに有った樹上村の事ですね。」

「やっぱり有名なのね。」

「まあ、伝説の村ですからね。自由の民エルフィン族の心の故郷みたいな所が有りますから。」

「他に何か別の意味が有るのかしら?」

「そうですねえ、ああ、そう言えば大会に出場しに来ているマイリージャの兵がエルロンドの討伐とかなんとか口走っていたみたいよ。」

「エルロンド討伐?穏やかじゃ無いわね。」

 

「あたしも小耳に挟んだだけだから、ほらエルロンドの名前が出たから気になっただけで。」

「そうよね、どうもありがとう。」

「エルロンドの昔話はこの辺の年寄りなら誰でも知っているわよ。」

 

「昔話?」

「まあ簡単に言えば英雄伝ね。エルロンド周辺での昔話みたいな物よ。精霊が出て来たり竜と戦ったりとかね。」

「オリジナルに近い本とか話をご存知の方はいませんか?」

「ああ、それならあそこにある貸本屋のお祖母さんが良いんじゃない?どうせ暇なんで話し相手になってくれるわよ。」

 

「エマさん貸本屋とは何でしょうか?」

「ああ、本って結構高いでしょう。だから買うんじゃなくて借りて読む事にするのよ。大き目の街ならどこにでもあるわよ。」

「あそ、それじゃ貸本屋にいってみましょ。」

 

 貸本屋のお祖母さんは店の横に座っていた、さすがに店番をする年齢ではなさそうである。

 何でもエルロンドの村の出で村が焼かれた時に子供だったそうである。

「この本をご存知ですか?」

「ああ~っ?この本ねえ、ああ、この本はヨルドローレ・エルストッドと言う人の書いた比較的新しい英雄伝説じゃよ。」

 さすが貸本屋のお祖母さん。

「確かこの本はマイリージャでも発行されたと聞いているがねえ。」

 すごい生き字引。

 

「それではこの本の元になった物語と言うのは有るんですか?」

「ああ、それはね、このドームで起きたマイリージャとの戦争そのものが元になっているよ。この戦争にも御多分に漏れず英雄がいたからねえ。」

「ほう、それは興味深いですね、ぜひお聞かせ願えると嬉しいのですが。」

「いいともよ、この戦争はねまだアタシがこんな小さな子供の頃だったんだよ。」

 

 ある日いきなり兵士が現れると手当たり次第に村人を殺し始めたらしい。

 村人が森の中に逃げると村を焼き払ってそこに砦を作ったそうである。

 他の部族を頼った者もいたがその老人は通路にに逃げ込んだらしい。

 侵略者の事を聞いた通路の住人は大慌てで通路の出口に丸太を使って砦を作った。

 やがて他の部族も次々と通路に逃げ込んできた。それを追って兵士もやってきたが何とか防ぐことが出来た。

 

 通路に避難した住人は砦を2重3重に囲むとそれ以上兵士は追って来なかった。

 もともとエルフィン族は狩猟民族なので人口が極端に少なく森の民は6部族合わせても1000人位しかいなかった。

 その半数が殺され通路に逃げ込めたのは二つの通路合わせても500人位しかいなかった。

 

 しかし敵側も通路の前に砦を築き、エルフィン族を通路に閉じ込めたのだ。

 森の住人はこの時点で500人足らずで他に通路に住んでいた者が2000人程いた。

 通路の2000人と合わせて2500人これが当時のエルフィン族の全てであった。

 

 お祖母さんは当時まだ5,6歳だったそうで、男達が弓を使ってのゲリラ戦に出て行くのを見送った。

 しかし仲間の犠牲も決して少なくなかった。

 これ以上の戦闘は種族の存亡に関わるとして全種族合意の元戦闘を中断し通路にこもる事を決意した。

 お祖母さんは子供をたくさん産むことにした、そして子供を戦士として訓練を行った。

 数で勝る敵に勝つにはやはり数が必要だとその後英雄と呼ばれたアロウィン・アストロルはそう説いて回ったのだ。

 

 森に囲まれたドームの中での偵察は狩猟を糧として生きて来たエルフィン族にとってはたやすい物であった。

 しかしその報告は悲惨な物であった。森の木は次々と切られ平地に変わっていく。

 大切な森が失われて行くのを断腸の思いで見つめる彼らをアロウィン・アストロルは説得し続けた。

 

 20年間エルフィン族は待ち続けた。マイリージャの侵攻はその間も周辺のドームを介してドワッフ族にも及んだ。

 しかしピクシー族の支援を受け農業改革に成功したドワッフ族の女はその生来の気質からマイリージャに対し勇敢にたたかった。

 その間アロウィン・アストロルはドワッフ族と交渉し彼らに戦闘指揮の概念を教える。

 

 単なる勇敢な戦士から戦略的概念を持った戦闘集団へと変貌したドワッフ族に勝てる軍隊は無かった。

 ドワッフ族の持つ恐るべき戦闘能力にマイリージャは彼らへの侵攻をあきらめる。

 マイリージャの危険性に気付いたドワッフ族はアロウィン・アストロルの恩義に報い通路内のエルフィン族に支援を行い始める。

 同時にピクシー族も人を派遣してきてピクシー族の暗殺剣をエルフィン族に伝授し始めた。

 これは脳筋のドワッフ族には無理だがエルフィン族には結構向いていた様である。

 

 通路内のエルフィン族は徐々に人口を回復し始めた

 

 最初の戦争を生き残った世代は子供を産み、子供は孫を産んだ。

 通路内の土壌は豊かであり、ピクシー族の農業指導でエルフィン族は飢えることなく子孫を増やした。

 20年待った時エルフィン族の人口は2万人を超えていた。

 そのすべてに屈強な狩人としての訓練を行ってきており。戦闘の出来る世代は3千人以上いた。

 

 元々狩猟民族で有ったエルフィン族は狩を再開した、今度の獲物は人間であった。

 

 反抗は静かに目立たずに木の上から、道端から、一人になった者から殺し始めた。

 音を立てず、姿を見せず一人、また一人と仲間が死んでゆく。

 恐怖におののいたマイリージャの軍は砦に立てこもった。

 

 この時期既に森の大半は消失しておりマイリージャからの入植者が畑を作り始めていた。

 砦の周りには畑が広がっており、砦に食物を提供していた。

 兵隊が砦に引きこもったのでエルフィン族は今度は農民を殺し始めた、まず男から。

 労働力を失った農家の生産性は著しく落ちる。

 

 マイリージャからの支援物資は護衛と共に運ばれてきたが後ろを歩んでいた兵士から弓で撃たれた。

 矢の飛んできた方向に馬を走らせると草の中に先のとがった杭が打たれており馬が倒れる。

 そこにどこからともなく矢が飛んでくる。

 徹底したゲリラ戦術はアロウィン・アストロルによって狩猟技術から軍事戦法へと進化していた。

 

 飢えた砦の兵士は外に出て収穫を行う。どこからともなく矢が飛来し兵士を殺す。

 

 アロウィン・アストロルは女子供の殺戮を厳しく禁じた。

 しかしそれは人道的な配慮では無かった。

 彼らを殺せば食料はいらなくなるし彼らを守る必要性が無くなる。

 彼らを生かしておけば彼らは食料を食い兵士は彼らを守らなくてはならない。

 

 エルフィン族は女子供は殺さなかった、しかし矢は射掛けた。

 彼らが傷つくことにより農民はさらに兵士の守護を求める。

 しかし農民を守れば兵士は危険にさらされ矢を射かけられた。

 ひと時も休むことなくエルフィン族は少数の人間が交代で兵士を襲った。

 彼らを休ませない為である。

 

 姿も見せず気配もなく追った先には罠が待ち構えている。

 兵隊は休まる時のない緊張の中で気が狂う物も多く出た。

 遂に兵士は農民を守ることなく砦の中に立てこもる。

 

 兵士に守ってもらえなくなった農民は子供を連れてそこを去った。

 補給を失った砦が飢えるのは時間の問題で有った。

 砦を引き払うとき兵士全員が密集して撤退を開始した。離れ離れでは個別に攻撃をうけるからだ。

 

 しかし開けた場所に来た時周囲から一斉に矢が打ち上げられる。

 密集した兵士の上に矢が降り注ぐ、しかし彼らは止まる事も走ることもできない。

 盾を構えるが全身を隠せる訳では無い。

 矢は次々と位置を変えて発射される。どのくらいの人間がいるのかすらわからない。

 

 こうして砦は次々と陥落して言った。

 遂にマイリージャは全軍の撤退を決定し軍を引き上げ始めた。

 マイリージャの通路の前に築かれた砦に向かって兵士は集まって来た。

 撤退してくる兵士は矢を射かけられた。

 しかし逃げ込んでくる農民には矢を射かけなかった。

 砦の後ろには通路が有る。砦を死守すればそこを根城に反撃が出来る。

 マイリージャの兵はそう考えていた。

 

 エルフィン族はマイリージャが砦に立てこもったのを見てまだ残っている農民たちに撤退を促す。

 頑強に居残ろうとする者は男だけを殺した。

 女子供はだけになれば居残ることはできないからだ。

 そうして追い立てられた農民は次々と砦に集まって行く。

 集まった人間には食事を用意し寝る所を与えなくてはならない。

 当然砦の警備は手薄になる。

 

 エルフィン族には秘密兵器があった。

 ピクシー族の暗殺剣を学んだエルフィン族の子供である。

 彼らはドームの天井に張り付き通路の天井から砦の中に侵入する。

 砦に火を放ち扉を開けるとエルフィン族がなだれ込む。

 大盾と剣を持った前衛の肩越しに矢を射かける。

 

 マイリージャ軍は砦を捨て後方に下がる。

 通路には幾重にも砦が作ってあったが同じ手法で砦を攻略する。

 遂にマイリージャ軍は橋に追い詰められた。

 砦の司令官は休戦を求めた。農民を逃がす時間が欲しいというのだ。

 

 エルフィン族の中でこの事は激しく議論された。

 誇り高いエルフィン族は戦えぬ者を殺すのは恥だというのが彼らの思想にあった。

 今までも女子供は殺さなかったではないかと言う。

 しかしアロウィン・アストロルはこの意見に頑強に反対した。

 ゲリラ戦とは元来民間人と兵士の混在する場所で戦争をすることである。

 民間人を遠慮なく殺戮してきたマイリージャの兵士が今度は同じことをされて人道的配慮を求めて来ているのである。

 

「笑止である。」そう言ってエルフィン族は最後の戦闘を行い砦を壊滅させた。

 残った民間人は橋に逃げ込んだが対岸にたどり着けたのはわずかであった。

「何度も退去するチャンスを与えて来たのだ早く逃げれば良かったのに。」

 死んだ女子供の躯を見てアロウィン・アストロルはつぶやいたという。

 

「とまあ、これがエルフィン族の戦争の本当の所じゃよ。」

 老婆はそう言って話を終えた。

 

「なんか戦争をやるって事は気の重くなる行為なのですね。」

「血も涙も無くて徹底的な合理性が求められるのが戦争の様です。」

「「はああ~~~っ。」」

 余りにも重すぎる話に全員がため息を付いた。

 

「それでその英雄さんはどうなったの?」

「ああ、もう死になさったがね。首長にとの声もあったが自分は軍人だからと言って固辞なさってな、アストロル家はこの辺では名家の血筋じゃよ。まあ、特になんの役職にもついてはおらんのでほとんど忘れられておるがね。」

 

 するとエルロンドと言うのはやはり唯の昔の村の名と言うだけですか?

 

 いやいやアストロル家は元々エルロンドの出だからね、アロウィン・アストロルの事を当時はエルロンドの英雄の二つ名で呼ばれていたのさ。

 アストロル家は記憶の彼方に薄れて行ったがエルロンドの英雄はエルフィン族の自立の証として記憶されているんだよ。


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