エルフィン族との戦い
「それでエマさんやはり大会には出るのですか?」
「当たり前よ勝てば賞金が出るもん。」
「負ければ痛い思いをするだけですが。」
「そう言う後ろ向きな発言はしないの!」
「お姉しゃま、試合に出て痛い思いをしゅるんですか?」
「いいえしません!相手に痛い思いをさせるんです。」
「エマさんも思いっきり強気ですね~。」
「でも相手も殴ってくるんでしょう?」
「相手が自分より弱ければ勝てますが、強ければ負けます。勝負とはそう言う物です。」
「自分と同じくらいだったら?」
「そういう試合が見ていて面白い物なのですよ、エルーラさん。」
「人が傷付けあうを見ていて楽しいのでしゅか?」
まあそれを言ったら武道大会は成立しないんだけどね。
「また手足を腫らして氷で冷やしながらの移動とか。」
「大丈夫だってば、危なそうだったらやめるから。」
「そう願いますよ。」
グレアン・ラウから紹介状を書いてもらったから多分予備予選には出場出来るだろうって言ってた。
「なんでも部族が6つ有ってその代表者が出て来るらしいのよ。それで一般参加が2組これは予選の上位二人が出場するらしいわね。」
「ほほう、そのようですね。部門は素手、剣、弓、それに槍ですね。」
シドラはチラチラと手の方を見てる。
「一般参加は過去に準優勝以上の推薦かウィザーの推薦が必要となっていますが?」
「グレアン・ラウさんの紹介状があるって事は、あのおばさん前に準優勝以上をしたみたいね。」
「ほほう、見かけに寄らずすごい人なんですね。」
そうこうしているうちにドーム内部に入ってきた。
「このドームには3つの通路が繋がっていますが、部族は6つの村に判れて暮らしているそうです。」
「つまり大きな街が6つ有るってことね。」
「昔は内部争いが多くてマイリージャの侵攻を許してしまいましたが今では種族間の争いは無いそうです。」
「紹介状は2通有ってもう一つはアタシが世話になるジムへの紹介状よ、そこで調整を取れって。」
「まだ大会まで10日は有りますよ。」
「まあ、ヴィデルガ・ドームで稼いで来たから大丈夫よ。」
取り敢えず何処かの食堂で食事をすることにして、そこでジムの事を聞いて見ることにする。
「アイーラ・エランと言う人宛ですね。」
「この人を探せば判るでしょう。」
「まあ、それなりに有名な人だったら簡単でしょう。」
エマ達は少し大きい店を選んで入って見る事にした。
店は結構きれいで何組かの人達が食事をしていた。
店の隅で男が昼間から酒を飲んでいた。
「アンタもうやめなよ諦めて来年頑張ればいいじゃないの。」
なんかそんな声が聞こえてきた。
「いらっしゃい何にします?」
ウエイトレスが声をかけてきた。
短パンにベスト、首に蝶ネクタイと言う出で立ちでなかなか大人っぽい魅力が有る。
ぐっ、でかい。!
エマの心の声が聞こえる。
「昼食になるものをちょうだい。」
ウエイトレスはチラリと子供たちの方を見て次いでシドラを見る。
「今日は鳥の焼肉と野菜の付け合せですよ。それにパンとスープを付けます。」
「あなた達もそれでいいかしら?」
「「は~い。」」
うんうん、いいお返事だ。
「失礼ですがその子たちはあなたのお連れさんですか?」
「そうよ。」
「このドームの方じゃありませんよね。」
「そうだけど、何か問題でもあるの?」
「いえ、武道大会が近いので外部からのお客さんも多いのですが、このドームではあまり外部の方のエルフィン族の子供連れと言うのはいない物ですから。」
気になる事をこのウェイトレスは言う。
「それはどういう意味かしら?」
「もしその子達とお出かけになる時はウィザーを一緒に連れて行くことをお勧めします。」
そうか、ここにはエルフィン族しかいないから人間がエルフィン族を連れていると不自然なんだ。
場合によっては何かしらの嫌疑を掛けられかねない。
その点ウィザーがいればそれは不自然ではないのだ。
これまで何事も無かったのはその為なのだろう。
「分かったわ、ありがとう。」
ウェイトレスはほっとしたような顔になった。
なぜかシドラが胸を張っているが無視をする。
「じゃあ、それでお願いします。」
「はい分かりました。」
「ねえ、ちょっと聞きたいことが有るんですけど。」
「何でしょうか?」
「アイーラ・エランと言う人をご存知ありませんか?」
「アイーラさん?ああ、ウィザーと一緒の所を見るとあなた今度の武道大会出場者のかたね。」
「ウィザーと一緒だと武道大会に出る事になるの?」
「あなたあまりご存知無いんですか?」
「武道大会のことはあまり良く知らないんですけど。」
「結構各ドームのウィザー達が張り合って選手を連れて来るのよ。2枠の出場権を争って醜い競り合いをしていますわ。」
「醜い争いと申しますと例えば靴の中に画鋲を入れたりとか?体操服を破いたりとかするんですか?」
シドラはなにをアホなこと聞いてるんだ?
「まっさか~っ、そんな子供じみた事はしませんよ。でも……まあそのうち判りますわ。」
「そ、そうなの?」
一抹どころではない不安を感じたエマであった。
「それでアイーラさんというのは何処に行けば会えるんですか?」
「え~と言っただけで判るかしら?」
「大丈夫、ウィザーがいますから。」
「はい、ウィザーにおまかせ下さい。」
そこで胸を張るな、ウェイトレスさんが怯えるだろ。
「そ、そうですか?それでは。」
ウェイトレスが場所を教えるとシドラは頷いてた。本当に大丈夫だろうか?
まあいいや、シドラが使えなくてもアイーラさんはどうやら有名人らしいから聞けば判るだろう。
「そのアイーラさんてどんなひとなの?」
「アイーラさんはエルフの女性の英雄ですよ。以前武道大会で5連勝した人ですから。」
「それはすごいですね、種目は何ですか?」
「格技ですよ、要するに格闘技ですね。」
「そう言えばお客さんは何に出場するんですか?」
「アタシは……多分格闘技ね。」
「格技はドワッフ族に強敵が多いですからね、頑張って下さい。」
「無敵と思われたアイーシャさんも6回目でドワッフ族の選手に負けて剣技に変更したんですよ。」
げっ、そっれってグレアン・ラウ?いや、年齢的にそんな事無いか?
「あの方は見かけより若いんですよ。」
だから~っ、心を読むな!
「アタシよく知らないで来たけどそんなすごい大会なの?」
「すごいですよ、この大会で優勝すると士官する時に引くて数多だそうですから。まあ、女性はそうでも無い様ですが。」
「賞金もでるんですって?」
「もちろん!あまり大きな声では言えませんがマイリージャ帝国が裏のスポンサーと言う噂も有るくらいですから。」
「おおい、エライア!何をサボってる。」
厨房から声がかかる。慌ててウエイトレスはテーブルを離れた。
「なんか楽しそうな大会だと思ったけど、少しきな臭くなってきたわね。」
「そうですね、長いことこのドームを占領していて今でも国交を回復していない国がスポンサーと言うのも解せないですね。」
「ふん、そんなこたあ政治の話さ裏も表もなんでも有りさ。」
「あんた、よしなさいよ。」
先程店の隅で酒を飲んでいた男だった。
「アンタら大会に出場するつもりか?」
エルフィン族らしい、背が高く痩身で顔つきも彫りが深い。
一般的には二枚目だろう、此処では十人並みの様だが。
「ええ、そうだけど、それがどうしたの?」
「一般参加はいいよな~っ、たかが10人かそこらの相手に勝てば本戦に出られるんだからな。」
「どういう意味なのかしら?」
この男の言い草にエマは少しイラッとなった。
「ごめんなさいねお嬢さんこの人酔っ払っているもんだから。」
止めに入ったエルフィン族の女性も美人でプロポーションが良い。
ただ、この人も此処では十人並みなようだ。
多分胸の大きさも十人並みなんだろうが、何でアタシよりおっきい?
いつかもいでやる……エマは殺意を覚えた。
ん?何故に姉妹が私から距離を取っていくのだ?
「俺達はよう、百人以上の選手の中から予選をして選ばれるんだぜ。」
「それは大変ですね、強敵もさぞ多いいのでしょうね。」
「そうだよ、勝ち進むのはすごく大変なんだぜ!それなのにお前たちは、俺達とは比べもんにならないほど少ない奴から選ばれるんだ。」
「この人予選に落ちて今日は荒れてるの、許してやって。」
「後一歩、後一歩で俺も栄光をつかめたんだ。」
「残念だったわね、でも来年も有るじゃない。諦めなければいつかは栄光をつかめるわよ。」
「お前らなんか、お前なんかが簡単に出場権を得られるのに……。」
男は悔しそうに涙まで流し始める。
この男のクズが……ちっとかわいがったろか?
エマの口がニヒルに歪む。
「ひっ。」
エルーラ姉妹がエマを見て抱き合う。
「誰が簡単に出場権を得られるって?」
男の背後から凛とした声が聞こえる。
するといきなり男の顔が引きつった。
男の後ろには長い銀色の髪でやや浅黒い肌をした美人が立っていた。
この人も美人だが特筆すべきはその胸だろう。身長はエマより少し低いがそこの女性よりもまた一回りおおきい。
エマは再びもぎたくなる衝動をぐっとこらえた。
「こ、これは……フローレのアネゴ……。」
「アネゴと呼ぶな、あたしゃアンタより若いんだ。」
ぐっと顔を前に出すとブルンと胸が揺れる。
エマの頭からピキピキと言う音が聞こえる。
「お姉ちゃん聞こえた?」
「うんティンカーちゃん、良くわからないけどなんかが切れたような音が聞こえた。」
エルーラ姉妹が囁きあいながら抱き合ったまますすっとシドラの後ろに隠れる。
なかなか勘の鋭い姉妹の様だ。
「見なよ、子供が怯えているじゃないか。」
「いえいえ、それは理由が違うと思いますが?」
エマは思いっきり足を蹴ったがシドラは感じた風もない。
「へ、へえ申し訳ない……。」
「アンタ~っもう帰ろうよ~。」
連れの女性が男の腕を引っ張る。
「アンタ、後一歩だったんだって?」
「い、いや……その。」
「一般出場は楽だって?」
「だ、誰もそんな……。」
なんかこの男、よっぽどこの女性に頭が上がらない事があるみたいだ。
「アンタ最終組迄行けたんだよな。」
「そ、そうですぜ、それなのに後一歩と言う所で……。」
「アンタの言う最終組は予備予選からの最終組だろうが。」
「へ、へえその通りで。」
「そこで勝っても予選の16人に入れただけじゃないのか?」
なに?決勝で負けた様な雰囲気満々だったのに単なる予備予選落ちなのかよ。
「……………。」
「出場出来なくてこんな所で女の子相手に喧嘩売ってないでもっと練習に励みな。」
「へ、へい。」
「うちの人がごめんね。悪く思わないでね、負けたのが悔しくて今日はちょっと荒れているだけだから。」
連れの女性がすまなそうにエマに謝る。
うん、美人の詫びの言葉は男ならずとも許したくなる……胸以外は。
「大丈夫よ、気にしてないから。」
エマは爽やかな笑顔を見せる。
「それじゃごめんね、さあ帰ろうよ。」
「う、うんすまなかったな。」
「気をつけて帰ってね~。」
うなだれて帰る男を女性は一生懸命励ましていた。
あの男にはもったいないいい女性だな等とエマは思ってしまった。
「うちの若いもんが失礼した。アンタがすごい殺気をはらんでたからさ、このままじゃあいつらが危ないと思ってね。」
「そ、そうだった?あはははは。」
「実に適切な判断だったと思います。」
余計なことをいうな、余計なことを。
「アタシはフローレ・エランこの街で道場を開いているアイーラの娘だよ。」
「アイーラさんの?」
「おお、これはこれは、私たちはこれからお母様の所へ尋ねて行く所でした。」
「なんだ、ウチを尋ねて来たのかい?」
「私はエマ・オーエンス、グレアン・ラウさんから紹介状をもらってそちらを尋ねる所だったんです。」
エマは紹介状を渡す。
「へえーグレアン・ラウさんからなんだ。」
「私はウィザーのシドラです。お世話になります。」
「あなたがこの娘を育てたんですか?」
「育てる?いえいえ、私は何度と無くエマさんには蹴り飛ばされてはいるだけですが。」
誤解を与えるような事を言うんじゃない。
「この子達はエルーラとティンカー、ゲオラ・ドームのウィザーに頼まれて一緒にいるんです。」
「「初めまして。」」
うんうん、ちゃんと挨拶のできるいい子達だ。
「かわいいお嬢さんたちね。」
ふたりは褒められてニコッと笑う。
フローレはくすくす笑いながら紹介状を読んだ。
「ふーん実績こそ無いがその未完の可能性は非常に高いと書いてあるわ。」
「するとあなたはやはり格技の部へのエントリーなのね。」
「そ、そうなるかしら。」
「実はアタシも格技の部なのよ、良いライバルになりそうね。」
「そ、そうですか宜しくお願いしますね。」
エマ達は食事を終えると直ぐにアイーラ・エランの道場に向かった。




