変態ウィザー登場
「ほう、グレアンの目にかなったとはなかなかの逸材のようね。」
アイーラは母親とは思えない程の若さと美貌の持ち主だった。
フローレと同じ銀の髪にやや浅黒い肌をしておりフローレによく似ていた。
「いえいえ、只の素人ですから。」
「去年もグレアンは良い選手を送り込んでくれたからね、あの娘は今年は出ないのかな?」
「ラフレアちゃんの事ですか?私達の後で来ますよ。(多分レイさんと一緒にね。)」
「ああそうかい、彼女は今回は予備予選は免除だから、後でウィザーのガルドが連れて来るだろうさ。」
「ガルドが一緒に来るんですか。」
「知っているんだろう。」
「ええ、彼のドームで仕事を世話して道場にもいきましたから…ひえっ!」
突然エマの脚を触る者がいた。
「こ、これはなんて素晴らしい脚だ。」
エマの背後からウィザーがエマの脚を触っている。
「ひいいい~っ。」
エマの足首から全身に向かって悪寒が走る。
「よく引き締まった足首、無駄のないふくらはぎ、太ももの具合がまた良い。さて、お尻の肉付きはどうかな。」
ウィザーは悪寒にプルプル震えるエマのお尻に触ろうとする。
「やめんか~っ!!!」
エマは後ろに向かって思いっきり脚を蹴り出した。
「ひええええ~っ。」
まともに顔にエマの蹴りを食らったウィザーはそのまま1回転して道場の壁に激突して道場の壁に大穴を開ける。
「ああっ、ご、ごめんなさい。こんなつもりじゃなかったのに。」
道場を壊してしまったのでエマは慌てた。
「いいよ、いいよ、気にしなくてどうせこの道場のオーナーはそこの変態ウィザーなんだから。」
アイーラは溜め息を付きながら言った。
穴からゴソゴソ這い出してきたウィザーは直ぐに立ち上がると胸を張る。
「素晴らしい、流石はグレアンさんが推薦を出しただけの事はあります。」
「アンタ今アタシのお尻を触ろうとしたでしょ!」
「ご、誤解です。私はあくまでもエマさんの筋肉の状態をこの手を使って確認しようと思っただけですから。」
必死でジタバタと手足を動かしながら否定するウィザー。
「ふーん、アンタその手で触ればその人間の筋肉の状態がわかる訳?」
「もちろんです、私の手は神から授かったウィザーの手ですから。」
「そんな袖越しでもわかる訳?」
「もちろんです。私はウィザーですから。」
そこで思いっきり胸を張るな。
「ね、ウィザーさん私の足も触りたいの?」
テインカーがウィザーの裾を引っ張る。
「だめよティンカー、猛獣の檻に手を掛けちゃ。」
「いえいえ、ここには猛獣などおりません。ん~っ、どれどれ?」
ウィザーはティンカーの足からお尻にかけて舐めるように見て行く。
そのまま手を伸ばそうとしたところでアイーラの踵落しを食らった。
「だから~っ、それが変態だっていうの。」
アイーラがうんざりした様子で言う。
おそらくこのあたりは日常茶飯事なのだろうか?
「このウィザーは良さそうな選手を見るとすぐ触りたがるのよ。」
「いや、多分女なら年齢を問わずだわね。アタシなんか小さい頃から何回触られた事か?」
「いえいえ、これも指導の一環で……。」
「お陰で道場の壁を何回壊すことになったことやら。」
「どうぞお気になさらずに、こんな穴なんかちょちょ~いっと魔法で……。」
「魔法を使って直せるの?」
ウィザーの魔法はいろいろな伝説や逸話がある。
その中にあらゆる物を一瞬で直せる回復魔法が有ると聞く。
その伝説的な回復の魔法が見られると思ってエマは喜んだ……のだが。
「そんな便利な魔法が有ったら苦労しません。大丈夫!魔法で業者さんに連絡してチョチョイと直してもらいますから。」
なんじゃそりゃ。
「はじめまして。私の名前はゼンドレ、この道場のオーナーをしております。」
ゼンドレはエマの両手を握って挨拶をする。
一瞬にして回復する所はシドラと同じだな。
「は、はじめまして。エマ・オーエンスです。」
エマは手を振りほどこうとするがゼンドレは手を離さない。
「あのちょっと。」
「は?」
「いや、長いんですけど。」
「どうぞお気になさらずに。」
ズムオオオオオッと言う音を響かせてシドラが割って入る。
「私の名はウィザーのシドラです。エマさんは私の保護下に有ります。今後無用なちょっかいを出さないで頂きたい。」
「ちょっかいだなんてとんでもない。私はただエマさんの素晴らしい肉体をこの手で確認したいと思っただけですから。」
シドラは更に前にズイッと出る。
シドラの背後からゴオオオオオッと言う音が聞こえる。
「言う事を聞いていただけないのであればこの街の一番高い木のてっぺんにアナタを逆さ吊りにいたしますよ。」
今度はドッドッドッドッドッドッと言う音に変わる。
あまりのシドラの迫力にゼンドレの腰が引ける。
「わ、判りました。」
そう言ってゼンドレはエマの方を見る。
シドラはその顔の向きをグリッと変える。
「計測魔法も無しです。」
「あ、あんたさっきからアタシの事計測魔法で見てたの?」
エマはパッと胸を隠す。
「え?いやいや、決してその様な事はなく……。」
「エマさん計測魔法って?」
「いえいえ、なんでも有りません。そんな魔法は有りませんから。」
必死で否定するゼンドレ、コイツ今までずっと黙っていたのか。
「計測魔法ってのは人間のサイズを計ることの出来る魔法よ。人間の体のサイズを服の上から毛穴一つひとつ大きさまで測れるらしいわね。」
「げっ!」
親子で同時に胸を隠した。
いいじゃん、それだけ大きけりゃ隠しようもないし。
「あんた、アタシ達の事ずっとそうやって見てきたの?」
「い、いえ あくまでも筋肉の具合を見ながら適切な指導を行うためにですね。」
「やっぱり見てたんだ。」
「いえいえ、全てはトレーニングの為に、あなた方を強くするために必要な事でした。」
「アンタとは子供の頃からずっと付き合って来たのよね。」
「は、はいこんな小さな頃からずっと。」
「そんな小さな頃からずっと見てきたのか。」
「いえいえいえいえ。」
「さぞ楽しかったでしょうね。小さい胸がだんだん大きくなって行くのを見るのは。」
「はいそれはもうどの位まで大きくなるのかとても楽しみで。」
いきなりフローレがゼンドレの頭に蹴りを見舞う。
「やはりずっと昔から本物の変態だったんだ。」
そのまま足でゼンドレの頭をグリグリと踏みつける。
「いやいやいや、誤解です誤解です。」
「問答無用!」
ゼンドレは二人によって袋だたきにされる。
エルーラとティンカーはシドラの後ろに隠れて見ているが口を押えてる。
目を見ると笑っているな。
慣れと言うのは恐ろしい物だ。
「取り敢えず道場の隅に逆さ吊りにしておきましょうか。?」
シドラは懐から縄を取り出した。
「アンタ、そんなものいつも懐に入れてるの?」
「備えあれば憂いなしです。」
「いやあああ~~~っ。」
ゼンドレの悲鳴が道場に響く。
道場の隅に吊るされたゼンドレはその日一日子供のサンドバックにされていた。
道場に来ている子供たちがあまり意外な顔をしないのが意外だった。
なんでもエルフィン族は6つの部族に判れてそれぞれ街を作っているらしい。
それぞれの部族に専門のウィザーがいて道場を仕切っているという事だ。
戦争の間は何も手を貸さ無かったウィザーであるが、武道大会が開催され始めるとがぜん援助を行い始めた。
部族間の競い合いがウィザー同士の競い合いに変わるのは時間の問題で有った。
まあ、シドラを見ているとなんとなく真実味の有る話ではある。
「あんた達は泊まる所は決めたのかい?」
「いえ、これから探そうと思っているのよ。」
「うちの建物は上が寮になってて泊まれるわよ。」
「え?だけど……。」
「エマさんがよろしければご遠慮なくどうぞ。」
ゼンドレが逆さになったまま答える。
「ただ、寮長がこのゼンドレなのが問題なんだけどね、もちろん管理人の人はいるけど。」
「着替えを覗いたりする訳?」
「そんな事はいたしませ~ん。」
ゼンドレが逆さになったまま主張している。
「本当かしら、シドラどう思う?」
「はい、ウィザーは覗きなどは致しません。」
アンタが言うと驚くほど信憑性に欠ける。
「見ようと思えばいつでも魔法で見れますから。」
エマ道場を壊さないように気をつけながら黙ってシドラの頭を蹴る。
「あなたは何で私の脚を引っ張るような事ばかり言うのですか?」
ゼンドレが何か喚いているがスルーする。
「でも此処の寮の食事は美味しいわよ。」
フローレが言うとググっとエマの心が揺れる。
「でもフローレとは大会で当たるんでしょ。あんまり技を見せ合うのはまずいんじゃないの?」
「愚かな、自らの技を見られ敗退するようでは連勝など夢のまた夢、試合に出れば否応なく自らの技は衆目に晒される。全てを見られ研究された上で勝利するのが真の勝者。卑小な考えに至るではない。全てを見せ合いその上で勝利することこそ肝要。」
吊るされた格好で言っても説得力ないわよ。
「いやいやいや、食事の美味しさには自信が有ります。是非是非おいでの程を。あ、勿論お代は不要ですしお子様たちの部屋も用意いたしますから。」
ピクッとエマの耳が3倍くらいの大きさになる。
それを見てグィっとシドラが前に出る。
背後から再びズゴゴゴゴゴッと音が聞こえる。
「食事の際にはワタクシも同席させていただきます。」
「な、何言ってるのですか?あなたは食事などしないでしょう。」
「それはあなたも同じでしょう。」
ズドドドドドッと背後の音は更に激しくなる。
「私はギルドから被保護者を守る役目を託されております。」
「此処は安全です、私がいるのですから。」
「どの口が言ってるのですか?何故そこにそうしているのか理解しているのですか?」
ググッと音を立ててシドラが顔を近づける。
「近っ、顔が近いです、顔が……わ、判りました。お好きにどうぞ。」
「判ればよろしい。一人で良い思いをしないように。」
「なに?良い思いって。」
「美人に囲まれて食事を取ることがです。」
あ、シドラが微妙に笑ってる感じがする。なんか有るな。
「それじゃ部屋に案内するから、荷物を持ってきて。」
案内された部屋は小さな個室でベッドが一台有るだけだった。それでも街の安宿よりはずっときれいだった。
「此処は寝るだけね。トイレと水場は外ね、食堂も1階よ。大会の前日は一杯になるけどそれまではそんなに人はいないからゆっくりしてね。」
「二人の部屋は隣よ、ベッドは一つだけど大きさは十分にあるから大丈夫でしょう?後で枕を持ってきてあげるわ。」
「はい、ありがとうございます。」
「「ありがとうございまーす。」」
うんうん、順応が速い、やっぱい若いからかな?
ティンカーが窓から手を出そうとして何かにぶつかる。
「お姉さまここに何かある。」
「ああ、それはガラスって言うのよ。簡単に言えば透明な薄い石よ。」
エマも窓をたたくと固い物が木の枠の中に入っているのがわかる。
「窓は内側が上下に動くわよ。窓から出入りする奴が結構いるんでね外に格子を付けたのよ。」
「すごいですね、窓を閉めたまま外が見えるなんて、こんなの見た事が無いけどウィザーの魔法の素材かしら。」
「違うわよ。隣のマイリージャで作られているのよ。」
「へえ~っ、マイリージャってすごい物が有るんですね~っ。」
「ガラスだけじゃないわよ。他にはない様々な物が作られているわ。」
そんな国とエルフィン族は戦争をして勝ったんだ。
「まだ周辺のドームにしか出回っていないのよ、マイリージャが製法を秘密にしているから、結構高いしね。」
「よくこんなものを寮に使えますね。」
「まあ、ウィザーにしてみれば目新しい素材じゃ無いでしょうからね。」
そんな物なのか?
「寮生は朝起きたら便所掃除と道場掃除、早朝練習の後朝食よ、練習メニューは各自が決めていいけどあなたのトレーナーはーあのウィザーなの?」
「と、トレーナー?」
「あなたトレーナーはいないの?」
「いやーっ、全部自己流だったから。」
「そう?それは良くないわね、良いトレーナーが付けば練習の効率があがるわ。」
「エマさんはいつもどんな所で練習していたの?」
「家で仕事の手伝いをしていただけだけど。」
「それじゃ稽古の相手とかは?」
「旅を始めてからシドラをぶっ飛ばしてた。」
「なにそれ?」
「まあ、稽古相手が欲しかったら私か他の道場生に頼むから遠慮なく言ってね。」
「ありがとうございます。」
「あと、試合まではあんまり食べ過ぎちゃ駄目よ。体重が増えすぎると体が重くなるから。」
「はい、気をつけます。」
いくつか注意事項を告げるとアイーラは出ていった。
「ほっ。」
エマは溜め息を付くとベッドに座った。
「で?」
エマはシドラの方を見る。
「いつまでそこにいるつもり?」
「はい、私はあなたをあの変態ウィザーから守らなくてはなりませんから。」
「私、着替えをしたいんだけど。」
「お手伝いを致します。」
エマはシドラを蹴り出すとドアに鍵を閉めた。
「エマさーん、あなたをあの変態の毒牙から守れるのは私だけです。ドアを開けてくださーい。」
しばらくドアの前で喚いていたが、やがて諦めたようだ。
「判りました、グスン、夕食前にまた参りますから。」
そう言ってシドラは力なく去って行った。
その様子をドアの隙間から見ていたエルーラは妹を見て決心する。
妹を守れるのは私しかいない。うん、私がしっかりしなければ。
「お姉ちゃん、なぜ怖い顔をしているの?」
「なんでもない、なんでもないわよ。さあ、荷物を片づけましょう。明日からお母さんを探さなくちゃならないから。」
「うん、頑張ろうね、お姉ちゃん。」
ティンカーの笑顔はいつ見てもほっとする。そうエルーラは思った。




