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最強(弱)無双の魔法使いは無敵少女と旅をする。  作者: たけまこと
ドワッフ族の迷宮
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エルーラの決意

「お姉ちゃん。」

 ティンカーが姉の気配に目を覚ました。

 

「ティンカー、お母さんの手紙だよ。」

 妹の目が輝いた。

 

「自分で読んでご覧なさい。」

 姉に渡された紙を震える手で読む妹。

 

「お姉ちゃん。」

「なに?」

「お母さんに会いたい。」

「うん。」

 

 一歳にもならずに生き別れた母親を思うのは当たり前の事なのだろう、エルーラ自身母親に会いたい気持ちは耐えがたいほどに強いのだ。しかし……。

「エスペラン先生に頼んでみようよ~。」

「だめよ、この文章だとアタシ達も危険だからこのゲオラ・ドームに連れてきたんだから。」

 

「……………。」

 

 妹はしばらく黙っていた、やがてその目から大粒の涙がこぼれ始める。

「ティンカー……。」

「お母さんにあいたいよ~。」

 

 エルーラはティンカーを抱きしめていた。

 

 ティンカーは母の思い出を持っていない、その分余計に母に会いたいのだろう。

 私達がこのドームに来てから7年経っている。

 当時はまだ幼かったから自分たちを知っている人間がいたとしても見分けはつかないだろう。

 もし何とかしてイリュージャ・ドームに渡ることが出来れば、イリュージャ・ドームのウィザーの助力を当てに出来るかも知れない。

 

「ティンカー、私達がドームを超えるのはすごく危険な事なのよ。どんな困難にも耐えることが出来るの?」

「困難て?」

「死ぬかもしれない危険の事よ。それにイリュージャ・ドームに行ってもお母さんには合えるとは限らないのよ。」

 流石に妹はこの言葉には沈黙をしてしまった。

 

「でも、お母さんの事は何かわかるかも知れないんでしょ。」

「ティンカーはそれに命を掛けられる?」

「お姉ちゃんはお母さんの顔を覚えているんでしょ。私は死んでもお母さんにあいたい。」

 

 妹の涙にエルーラは言葉を失う。ティンカーの気持ちは痛いほどにエルーラの心をえぐる。

 しかしエルーラは少なくとも自分が子供で有り、何ができるのかわかる位の判断力は備わっていた。

 何とかできないのだろうか?

 あるいは何をすれば母を探すことが出来るのだろうか?

 

 ティンカーの思いに突き動かされエルーラは計画を立ててみようと思った。

 街に行くと行商の馬車がよく止まっている。エルーラは御者の人に話を聞いてどの馬車がどの方向に行くのか目星を付けた。

 馬車に潜り込んで橋を渡れれば後はドームのウィザーを頼ればなんとかなりそうに思えた。

 

 少なくとも強制的にドームに返されることは無いだろう。

 エルーラはウィザーの気質を良く知っていた。

 問題はいつそれを行うかであった。

 

 ある日大きな隊商が街に来た。店の話を盗み聞きした所、出発は3日後でイリュージャ・ドームに行くとの事であった。

 エルーラは妹に話をして出発の日を待った。

 その日にふたりは孤児院を抜け出し馬車を置いてある所に行って出発の用意をするのを待っていた。

 

 そこへあの爆発音と振動が街を襲った。

 隊商は出発を一日伸ばす事にするとみんなが話し合っているのが聞こえた。

 黙って孤児院を出てきたので有るからいま帰れば計画が分かってしまう。

 エルーラはふたりで路地裏にある空き家に身を隠すことにした。

 そのままその夜はその空き家で二人して抱き合って寝た。

 

「お姉ちゃん、お腹すいた。」

「我慢するのよ、この位の事が我慢できなければお母さんに会うことは出来ないわよ。」

 それきりティンカーは何も言わなくなった。

 

 じっと耐える妹をエルーラは身を切られる思いで見ていた。

 

 次の日馬車の様子を見に行ったエルーラは隊商が出発の用意をしているのを見た。もうじき出発するのだろう。

 妹の所に帰ろうとした時に女の人がお饅頭の様なものを買ってベンチに置いたままよそ見をしている所に出会った。

 エルーラはお腹がひどく空いていたので思わずそれを盗って駆け出した。

 

 女の人は気がついた様だが追いかけては来なかった。

 急いでティンカーの所に戻ろうとしたが路地に入った所で男の人の声が聞こえる。

 

「おい、ガキは見つかったか?」

「いや、たしかにこの辺に隠れているって話だったんだがな。」

 慌ててエルーラは物陰に隠れる。

 

 男達はその辺をウロウロしていたようだったがやがて声が聞こえなくなった。

 エルーラはしばらく遠回りをしてティンカーの所に戻る。幸い妹はエルーラの言うとおりに隠れていた。

 

「よかった、変な男達が探していたから心配しちゃった。」

「お姉ちゃん私にも聞こえた、怖かったよ~、でもティンカーは頑張ったよ。」

 妹はエルーラに抱きついてきた。体が少し震えていた。

 

「ご飯を買ってきたよほら、お饅頭。」

「お姉ちゃんこれひとつしかないよ。」

「いいのよ、あたしはお腹空いたから先に食べてきたから。」

「うん、ありがとうお姉ちゃん。」

 妹は嬉しそうにお饅頭を食べ始めた。

 

「おお、お嬢ちゃん達こんな所でお食事かい?」

 さっきエルーラ達を探していた男達だろうか?ふたりは男たちに囲まれているのに気が付いた。

 エルーラは妹の手を引いて逃げ出そうとした。しかし簡単に男たちに捕まってしまう。

 

「そんなに怖がるなよ、ちゃんとした家でちゃんとした飯が食えるようにしてやるからさ。」

「いや~っ、はなして~っ」

「おねえちゃ~ん」

 

 ふたりは力いっぱい暴れるが大人の力にはかなわない。

 男達はふたりの口を手で塞いで声が漏れないようにする。

「ふ~ん、アンタらこんな所でまた小遣い稼ぎをやっているんだ。」

 

 突然後ろの方から声がした。

 

 男たちが声の方を向くとそこにはさっきエルーラが饅頭を盗んだ女の人が立っていた。

「げげっ、凶暴女~っ!」

 男達が大声で叫ぶ、どうやらこの男たちが嫌っている女の人みたいだ。

 

「誰が凶暴だ~っ、誰が~っ!」

 

 アタシたちを掴んでいる男達より恐ろし気な顔をして女の人が怒鳴った。

 こわいっ、どっちがあたしたちの味方なんだろう?

 

「おや?エマさんは自覚が無いのですか?」

 路地の反対側から別の声が聞こえる。助かった、こっちはウィザーだ。

 

「ひっ!」

 男たちはナイフを抜くとあたしたちののど元に突き付けた。

「テメーら、おとなしくしていないとこの子供がどうなっても知らねえぞ。」

 

 大丈夫、相手はウィザーだもの魔法であたしたちを助けてくれるわ。

 

「ああ、そうですか。それでは仕方ありませんね。」

 そう思ったのだけれど、そのウィザーは私たちを助ける気がさらさら無いみたいだ。

「な、何を言ってるんだ?」

 

 悪人すらあきれるほどの薄情さである

 

「だってその子は私の保護対象者ではありませんので。」

 ひどいっ、こんなひどいウィザーが存在しているなんて、エスペラン先生とは天と地ほどの差よね。

「てめえ!それでもウィザーか?なんて人非人な奴だ。」

 

 悪人にそこまで言われてる~。

 

 その瞬間妹を抱いていた男の上から何かが降って来て男の頭にぶつかる。

 男が白目をむいて倒れる所にさっきの女の人が駆け寄ってティンカーを抱きとめる。

 続いて私たちを掴んでいる男達の横っ面を張り飛ばすと私を奪い返す。

 

「もう大丈夫ですわよ。エマさんご協力感謝致しますわ。あなた達怪我はありませんか?」

 あまりにもとんでもない経験をしたので私も妹も声を出すことすらできなかった。

 

「だめよ、勝手に行動しちゃ、何か有ったら必ず相談してネ。」

 エスペラン先生は私と妹を両脇にがっしりと抱えたまま離そうとはしなかった。

 やがて自警団がやって来て男たちを引き立てて行ったみたいだ。

 

 エスペラン先生は知らん顔をして私たちを抱いたまま孤児院まで連れて帰って来てくれた。

 孤児院に戻るとすぐに暖かいスープを出してくれる。

 エスペラン先生は私たちの事を怒ろうともしなかった。

 ただ無事に戻って来た事をとても喜んでいただけだった。

 

 スープを飲んでいると涙が出て止まらなくなった。

 恐ろしい経験をしたという事が実感として湧いて来たのだ。

 それでもエスペラン先生は何も言わずにじっと私達を見ているだけだった。

 

 ひとしきり泣いて気分が落ち着くとエスペラン先生が聞いた。

 

「お母さんの所に行きたかったの?」

 エルーラは黙ってうなずいた。

 

「何か新しい手がかりでも見つけたの?」

 エルーラは本の間に会った紙をエスペランに見せた。

「エルロンドって知っていますか?」

 しかし先生もその地名は知らないようであった。

 

「お母さんに会いたい……。」

 ティンカーがボソッとつぶやく。

 エスペラン先生もすご~く困ったような雰囲気が漂って來る。

 ただ仮面をつけているので表情が分からないけど。

 

「あなた方の強い気持ちは良く判りました。でも心配したんですよ、本当に心配したんですよ。」

「ごめんなさい、先生。私達イリュージャ・ドームに行けば何とかなると思って。」

「あなた方はまだ幼いのですよ、今日のように誰かに襲われても身を守るすべを持ちません。」

「………………。」

 

「それに何年も前の手紙です、今そこに行っても手がかりをつかめるとは限りません。」

「でも……エスペラン先生、時間が経てばお母さんに会う事がどんどん難しくなると思う。」

「ただこの文を見るとあなたたちにも危険が及ぶと書いてあるのよ。」

「………………。」

 

「私が行ければ良いのですが今はそれもできませんしねえ。」

「………………。」

 

「まあ、一人暇なウィザーがいますからねえ、そいつに頼んでみましょうか。」

 ふたりが希望に目を輝かせてエスペランを見る。

 

「まあ、その為にはちょっとあなたたちにも協力してもらわなくちゃならないけど。」

「行けるのなら何でもします。」

「ティンカーちゃんは?」

「なんでも言って、ティンカーも頑張ります。」

 

 エスペランは席を外すと部屋の隅に行って誰かと話をしている。

「ああ~ら、シドラさっきはご連絡ありがとうございました~っ、それでね~っお願いがあるんですけど~っ。」

 シドラと言えばさっきの薄情なウィザーです、そんなウィザーに連絡をしてどうするのでしょうか?

 もしかして暇なウィザーと言うのはさっきの薄情なウィザーの事でしょうか?

 

「え?あたしのお願いを聞く義理はない?いやあだあ~っそんな冷たい事言っちゃシドラらしくもないわよ~っ。」

 

「それでねえ~お願いと言うのがねえ~っ。報酬?あなたウィザーの癖に報酬を求めるの?」

 

「そりゃああ~、あたしだっていろいろ稼いでいるわよ。でもね~え、孤児院の経営とか~っ、学校とか~、結構物入りなのよ~っ。」

 

「お金じゃない?露天風呂覗いて逆さ吊になれ?いいけど~っ、男の露天風呂覗いてどーすんのよ~。」

 

「女風呂?時々一緒に入ってますけど、それが何か?ええ?ええ、この格好のままで。」

 

「服を脱がないのはエチケットに反する?失礼ねお風呂に入るときはちゃんと洗い立ての服を着て行くに決まってるでしょ。」

 

「もういい?要件を言え?」

 

「よーやく話を聞く気になってくれたのね、実はね~っ………。」

 

「………と言う訳であなた達に、これから作戦を授けるからちゃんと言うとおりにするのよ。」

 

 お母さんに会うためならと言って悪魔とでも契約をするつもりでしたが、あんな薄情なウィザーと契約して大丈夫なのでしょうか?

 それでも私はお母さんを探しに行かなくてはなりません。

 大丈夫妹は私が命に代えても守っても見せましょう。

 

 そして何としてもお母さんに会いに行くのです。


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