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そして僕は村中を駆け回った

 昨日、風呂でのぼせてしまい、鼻血を出して家に帰った僕は、お婆ちゃんから寝ておくようにと言われて、大人しくしていた。過保護すぎるんじゃないかって思うけど、お婆ちゃんにとって僕はたった一人の身内だろうからそれも仕方ない事かもしれない。


「お婆ちゃんおはよう」


「おはよう。大丈夫なのかい?」


「うん! 昨日は心配をかけちゃってごめんなさい」


「私も心配のし過ぎかもしれないけどね。危ない事はするんじゃないよ?」


「分かってる! パンを貰いに行ってくるね」

 

 お婆ちゃんとのやり取りもそこそこに僕は家を出てパンを貰いに行く。外に出てみると優しい風がパンの焼ける美味しそうな匂いを運んで来てくれる。僕はその匂いに誘われるようにパン焼き釜へ向かった。


「おじさん! おはよう。パンを貰いに来たよ」


「ちょうど焼けた所だ。熱いから気をつけるんだぞ」


 バスケットにパンを入れて貰い、僕は家に戻ろうと歩みを進めた。帰る途中、かくれんぼで僕が隠れていた背の高い草が群生している場所が不自然にカサカサ動いている事に気がついた僕の好奇心がそこへ向かわせようとするけど、お婆ちゃんを心配させ過ぎるのも悪いと思い、小さな葛藤の末、家に帰る事を選ぶ。危険な獣等が潜んでいるかもしれないのもある。


「ただいまー!」


「おかえり。食事の準備は出来ているよ」


 お婆ちゃんに言われるままに食卓へつき、食事を始める。他愛の無い会話を挟みながらいつものように食事を進めていたつもりだった。


「そんなに急いでどうしたんだい?」


 普段通りに食事を進めていたつもりだったけど、先程の草むらが気になっていたみたいだ。早く食べてそこを見に行きたいと無意識に思っていたらしく、お婆ちゃんに怪訝そうな目で見られてしまう。


「早く外で遊びたいって思っちゃって。えへへ」


「やっぱりルカも男の子なんだね。危ない事はするんじゃないよ」


 耳にタコが出来るんじゃないかと言うほどに、危ない事はするんじゃないと僕に言い聞かせるお婆ちゃん。今日だけでももう二回目だ。僕は食事を終わらせると片付けもそこそこに家を飛び出して行く。


「まだいるかな」


 危険かもしてないと分かっていても、それを止められないのは年齢のせいなのかもしれない。前の世界では自制心はきちんとあったし、常識的な人間だったと思う。


 草むらの裏から回り込むように迂回して行く。流石に正面から堂々とそこにいる物を見に行く勇気は無い。ゆっくりと、草むらを掻き分けて進み、カサカサと動いていた場所を覗き込む。


「――ッ!」


 覗き込んだ先にいた二人の男を見て僕は思わず声を上げそうになり、後退る。僕が動いたのに合わせて草がカサカサと音を立てた。


「おい。何か音がしなかったか?」


「そうか? うさぎか何かがそこら辺にいるんだろ」


「うさぎか。最近肉なんて食ってねぇから捕まえるか」


 男の一人が中腰になり動き出そうとする。僕の心臓はバクバクと音を鳴らしている。見つかってしまうと何をされるかも分からない。その為、動く事も出来ない。


 恐怖を感じるのに動けない恐怖への悲鳴が心臓を鳴らしている。男が草を掻き分けようとした瞬間にもう一人の男がひそひそと声を上げた。


「やめておけ。あんなすばしっこい奴らは罠でも無いと俺達には捕まえらんねぇよ。それに俺達の存在がバレると不味い」


「そうか。肉が恋しいぜ」


「それにもう少ししたら金が手に入るんだ。我慢しようぜ相棒」


「しかしよぉ、昨日あの方が来た時は驚いたぜ」


「何かあったんだろ。俺達はただの雇われ物だ。あの方の指示したように動けば金が入る。その殆どがこの村の監視なんだから楽な仕事だろ」


「なんでこんな村を監視するんだろうな」


「知らねぇよ。理由があるから監視すんだろ。一度戻って飯にするか」


 二人の男は移動を開始する。見つかりかけた僕はホッとするも二人の不審者の追跡を開始した。大丈夫。居場所を突き止めて大人達に報告するだけだ。


 不審者がいたのは僕がかくれんぼで隠れた場所だ。踏み固められた草を踏み歩く。大して歩きもしないうちに踏み固められた草は無くなり、背の高い草の壁が僕の目の前に出て来る。


 川のせせらぎがかすかに聞こえて来るから川の近くなのだろう。草を掻き分けて覗くと不審者二人が歩いているのが見える。それなりの距離はあるが後ろから付いていく分には振り向かれても気にはされないだろう。


「ここは……」


 不審者を追いかけて辿り着いたのは昨日雨宿りをした洞窟だった。アデーラの護衛のイゴールが奥を見に行って危険は無いと言っていたが本当にそうだったのだろうか。イゴールが見に行った時には誰もいなかった可能性もある。


「よし――!」


 洞窟の中に入るのに一度気を入れ直す。大丈夫。不審者が何をしているのか確認するだけだ。それを突き止めたら大人達に報告をすればいい。


 暗い洞窟の中へ足を踏み入れる。一寸先は闇と言うように真っ暗闇で足元で出張った石に躓きかけそうにもなる。そこまで歩きもしないうちに明かりが見えて来た。壁伝いに進んで行くと男の会話が洞窟内で反響して聞こえてくる。


「しかしよぉ、これは何て書いてあるんだろうな」


「おい! 触るなよ。触るなって言われてんだからよ」


「減るもんじゃねぇしいいだろ。こんな紙一枚で人がのこのこと殺されに来るのかねぇ」


 僕は音を立てないように静かに洞窟から出ようと動き出す。ゆっくりと転ばないように。外の光が見えると全力で走った。突然明るい場所に出たからなのか目が痛いがすぐに治るだろう。僕はすぐに村の大人達に知らせなければならないと思った。そうしないと誰かが殺される。


「お婆ちゃん!」


「おや、そんなに慌ててどうしたんだい?」


「変な人が人を殺すって!」


「藪から棒にどうしたんだい?」


「洞窟で聞いたんだ! それに変な人達がこの村をずっと見てる!」


「何を言っているんだいこの子は。それに洞窟なんて危ないじゃないか」


「そんなのどうだっていい!」


 子どもの戯言と思われているのか? お婆ちゃんは僕が遊んでいるのかと思っているのだろうか。


「もういい!」


 僕は村中を駆け回ったが大人は誰も相手にはしてくれなかった。遊びの延長だと思われたり、大人をからかうなと怒られたりと散々だ。僕は今村長の家の前に来ている。


「おや? エステルさんの所のルカだったか? どうしたんだい?」


 柔和な笑みを浮かべて僕を家の中へと招き入れてくれた村長。村長と言ってもまだまだ若く、バルおじさんと同じくらいの年にも見える。エステルと言うのはお婆ちゃんの名前だ。


「お茶でも飲んで一度落ち着きなさい」


「はい」


 村長自らがお湯を沸かしてお茶を煎れてくれる。テーブルに置かれたお茶を手に取り飲んで喉を潤すと、焦っていた気持ちが薄らいでいくのが分かった。


「それで、どうしたのかな?」


「えっと……怪しい人がいたから後をつけて行った……んです」


 どうも自分の口調を安定させられない。内心はこんなにも冷静なのに、子どもである僕の方が強いのかこの冷静さを中々表に出す事が出来なくてモヤモヤしてしまう。


「ほう。それでどうしたんだい?」


「それで、それでね、怪しい人が洞窟に入って行ったんだ。僕も洞窟に入ったら怪しい人達が紙を渡した人が洞窟に来て殺されるって」


「誰が殺されるのかは分かるかい?」


「分からない……殺されるって話を聞いた時に大人の人に知らせなきゃってすぐに戻っちゃったから」


 演技をする訳でもなく子どもっぽい口調になってしまう。なんとか落ち着いてはいるけど、もどかしい気持ちにもなってしまう。自分が演技をしているつもりでも本当は演技などでは無く自然と子供らしい自分になっているのかもしれない。


「そうか。それじゃあ、俺自らが出張るとしますかな」


「え? 大丈夫なの?」


「大丈夫さ。俺は親父の息子だって理由で村長になっただけなんだ。中々強いんだぜ」


 ニカっと笑った村長は力こぶをを僕に見せてくれた。見た目は線が細いのも着痩せをしているせいなのかもしれない。


「その洞窟の場所を教えてくれるかい?」


「う、うん!」


「よーし……それじゃあ木剣でいいか。ルカ。小屋からロープと松明を持って来てくれ」


「分かった!」


 普段、優しそうな人だと思っていた村長だったが今の顔はとても好戦的な顔つきになっていると思う。もしかするとこれが本来の村長の姿なのかもしれない。僕は村長に言われたようにロープ松明を持って村長の元へと戻る。


「その怪しい人がいたと言う場所はどこだい?」


「えっと、こっち!」


 村長に言われるままに案内する。村長は無警戒に草むらを掻き分けた。そこには誰もいなく、踏み固められた草があるだけだった。


「確かに何かがいた形跡ではあるな。うん。ただ身を隠すにしてもかなり素人臭い」


 ブツブツと呟きながら歩みを進めていく村長。僕に洞窟の場所を聞いていたが、その場所の察しはついているのだろう。迷う素振りも見せずにグングンと歩いて行く。僕が小走りで追いつけるくらいの速さだ。


「村長。ここって分かっていたの?」


「そうだな。この辺りに人が入り込める洞窟なんてここしか思い浮かばなかった。俺が小さい頃によく遊んだ場所だ。ほれ。松明を」


「う、うん」


 村長に松明を渡す。松明の先には布が巻いてあり、そこからオイルの匂いが広がっていた。


「面白い物を見せてあげるよ」


「え? なに?」


「火よ」


 村長がただ「火よ」と呟いただけで指先から小さな炎が出現する。慣れた手つきで指先から出た火を松明へと着けた村長を見て僕は興奮を隠せなかった。


 今までは聞いていただけで魔法を使える人物と出会えていなかったのだ。まさかこんなにも身近な所に魔法を使える人がいるなんて……


「ま、魔法?」


「おー。魔法を知っているのかい?」


「うん。バルおじさんが教えてくれて」


「エステルさんの所に身を寄せていた冒険者か」


「うん」


 バルおじさんの話題が出た瞬間に少ない思い出が僕の中に駆け巡った。バルおじさんの死はどうしようも無かったのかもしれないけど僕はまだバルおじさんの話を聞きたかった。悲しい気持ちになりかけた時、僕の頭をポンポンと村長が優しく撫でてくれる。


「彼の事は残念だったな。しかし、彼が何かを成して逝ったのならばそれも本望だったのだろう。悲しむ事は無いさ。ルカの中で彼は生き続けているのだからな。さぁ入るか」


 村長の背中を追って僕も洞窟内へと入っていく。松明が照らす村長の顔はとても生き生きとしていた。まるでこれから遊びにも出掛けに行くような。そんな顔だ。


「ルカは離れていろ。危ないからな」


「はい!」


 小さく会話を挟みながら奥へと進み、ついに不審者二人の姿をこの目に捉えた。あちらはまだこちらに気付いていないみたいだ。


「彼らが怪しい人かな?」


「うん」


「そうか。ルカはここまでだ。後は俺のカッコイイ姿を目に焼き付ければいいさ」


 僕に優しく言った村長は堂々と歩みを進める。さすがに不審者も侵入者である僕達に気付いたのだろう。怪訝そうな目でこちらを見ると口を開いた。


「誰だ? てめぇは」


「いやー、すみませんねぇ。俺の村の近くに怪しい人がいると聞いていても立ってもいられなくてね」


「お前つけられたのか?」


「お前だろ? まぁいい。俺達の事を見なかった事にすれば痛い目は見なくて済むぜ。さっさと何処かに行きやがれってんだ。それとも殺されたいのか?」


「痛い目を見たくないからと背を向けたら背中をズプリとやっちゃう予定なんでしょ? それは勘弁願いたいし痛い目には合いたくは無いですねぇ」


 村長は不審者を挑発するように言葉を重ねる。いつも見ていた村長は相手を挑発する人には見えなかっただけに以外だった。


「よく見たらガキもいるじゃねぇか。俺達も舐められたもんだな」


「彼には俺の生き様を見せてあげようと思って付いて来て貰ったんだよ。なあに、彼には力は無い。心配しなくてもいいよ」


「おうおう。心配なんざして貰わなくともこちとら間に合ってるんだ。ちょうど暇をしていた所だ。遊ぼうぜ」


 不審者の一人が自分達の得物であろう斧を二本取り出し、一本をもう一人に渡す。正直、この問答をしている間にさっさと倒してしまえばいいのにとも思ったが村長には何か考えがあるのだろう。


「いやぁ、村長って肩書があるもんで中々暴れられなくてね。畑仕事に出ても村長は休んでいろだの村長は村長はっていつも何もやらせて貰えないんだ。せいぜい楽しませてくれよ?」


 村長は何もやらせて貰えないという不満を口にしたと同時に木剣を構え不審者に突っ込んで行った。


 そして僕は始めて戦闘を目にする事となる。



 

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