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そして僕は助ける為に助けられた

「う……ここは?」


「目が覚めたかよ」


 目を覚ました僕の目に飛び込んできたのはサシャの顔だった。切れ長の目に細い眉。人を見た目で判断するのは良い事では無いだろうけど、人相は悪いと思う。


「ここは?」


「知らねぇよ。ただ、俺達は捕まって縛られて牢に放り込まれたって事は分かるな」


 後ろ手に縛られた腕をなんとかしようともがき動くけど、力も入らなければ足も縛られている為どうする事も出来ない。


「これからどうするか?」


「こんな状態でどうしようも無いんじゃないかな?」


「じゃあこのまま捕まったままでいろってのかよ。ちくしょう」


 確かにサシャの言うようにこのままでいる訳にはいかない。なんとかしなければと思うが僕には考えが浮かばない。


「何か考えるさ。だから君も何とかならないか考えてくれないか?」


「とっくに考えてんよ。この縄を切ろうと擦ってみたりな。上手くはいってないがな」


 ベドジフの家まで来て、ヤルミラの姿を確認出来たまでは良かった。ただ、ベドジフにあっさりと捕まってしまったのが誤算だ。作戦も何も無く、正面突破しただけだったけど。


「そ、その悪かったな」


「突然なんだよ」


「俺がもっと考えて行動していたら結果は変わっていたかもしれないなって思ってな」


「そんな事無いさ。君がいなければベドジフのこの家まで来る事なんて出来なかっただろうし、中に入る事も出来なかったと思う。何も出来なかった僕も悪いよ」


「そう言って貰えると助かる。どうしてこうなったのかが解せないんだよな」


「うん。ベドジフに何かをかけられたのは覚えているんだけどね」


「お前もかよ。俺もだ。何かが顔に付いたと思ったら倒れちまってな」


 ベドジフは何か薬品のような物を使ったのは分かる。催眠液とでも言えば良いのだろうか。あの液体が付着してから突然意識を失ったのだから。


「それにベドジフは人魔を造るなんて事を言ってた」


「なんだそりゃ」


「君が話していた男が落とした資料か何かに人体と魔物を融合するなんてものが書いてあったの見たんだ」


「なんだそりゃ」


「それにベドジフは人魔を使って世界を手中に治めるなんて事も言ってた」


「ふーん。俺たちゃその人魔ってやつの実験に使われるって事かね」


 サシャこう見えて察しは良いのかもしれない。ベドジフは僕達を贄にすると言っていた。サシャの言ったように人魔を造る実験に使うのだろうと思う。


 何かを考えるように黙りこくったサシャ。


「何か気になる事でもあるの?」


「そういや最近人攫いが多かったように思うんだよな」


「そうなの? てことは君はその人攫いもこの件に関係があると思ってるんだね」


「昔から人攫いなんてのはあったが最近……そう。ベドジフが街に来てから増えたんだよな」


 人攫いが普通にある事に驚いてしまったけど、この世界ではそうなのだろうと納得もする。僕は小さな村で育ってそんな経験は無いと思ったけど未遂に終わったがアーデラの件があった事を思い出した。


「今はこの状況をどうにかするのが先決だね」


「あぁ。そうだな」


 僕達はなんとか縄を解こうとするも固く縛られた縄を解く事が出来ない。まさに八方塞がりと言った状況だ。


「くそ! 駄目だ」


 自由の利かない身体ではどうする事も出来ない。助けを待とうにも僕達が捕まっている事はおろかベドジフの家に出向いた事すら知っている人はいないのだからそんなものには期待は出来ない。


どのくらいの時間が過ぎたのかは分かりようが無かった。暗く光の閉ざされた牢の中で見えるのは設置されている小さなランプの光だけだ。


 僕がランプの光を見ていると誰かがこの牢へ入って来たのか物音が聞こえてくる。


「ほら飯だ」


 小さな格子から出された食事は粗末な物に見えたがそれよりも気になったのは、この食事を持ってきた人の声だった。どこかで聞いた事があるようなそんな声だ。特徴の無いよくある声だと言われればそれまでだとは思うけど。


「ちっ。なんだこれ」


「黙って食え」


「何が入ってるか分かんねぇこんなもん食えるかってんだよ。なぁ……そういやお前の名前聞いてなかったな」


 僕はサシャの名前を知っていたからなんの疑問も無く接していたけど、言われてみれば確かにそうだ。サシャは誰に対してもお前と呼んでいるものだと思って接していたからだろうか。


「僕はルカーシュだよ。僕の事を知っている人はルカって呼ぶけどね」


「ルカね。俺はサシャだ。今更だけどな」


 笑える状況では無いのは分かってはいるが苦笑いをしたサシャが可笑しく見えて、少しだけ心に余裕が出来た気がした。


「ルカだと!?」


 僕の名前を聞いて驚いたような声を上げた人がいた。今ここにいるのは僕とサシャと食事を持ってきた看守だ。サシャは声を上げていないから僕は看守の顔を見た。強面な感じはするがどこかで見た事のあるような顔だ。


「お前、ヴォーダ村のルカーシュか?」


「そ、そうですけど」


「なんでお前が捕まってるんだよ! 何か悪い事でもしたのか?」


 一方的にこの看守が僕の事を知っているだけとは思えない。僕もこの看守の顔に見覚えはある気はするけど、僕が村を出るまでは誰も村から旅に出た人間はいない。


「あなたは……?」


「あぁ。悪いな。俺はギエフだって言っても俺の事なんて覚えて無いだろうけどな」


 聞いた事が無い名前だ。村にもこんな名前の人物はいなかったし、僕が小さい頃に出会った人なのかもしれない。


「すみません。覚えてないです」


「ほら! イゴールって騎士だかなんだかに雇われて、ルカのとこの村長にギタギタにやられた俺だよ」


 イゴールと言う名前を聞いて合点がいった。どこかで聞いた事のあるような声に見た事があるような顔。朧気な記憶を遡ってみると村を監視していた不審者の二人組の一人だと正解に辿り着く。


「あぁ。思い出しました」


「思い出してくれたか。それにしてもルカは何をやらかしたんだ?」


「このおっさんと知り合いなのかよ?」


 あの時のギエフを思い出しながら目の前にいるギエフと記憶を頼りに重ねて見ると、髭は剃られ皺も増えてはいるが面影は変わらない。


「うん。ちょっとね」


「まさかこんな形で再開するなんてな。あの時と立場が逆になっちまったな」


「僕は悪い事なんてしていないし、不当に捕まっているんだ」


「そうなのか? すまねぇ。あまり長居すると変に疑われちまうから一旦戻るな。話は後だ」


「待って!」


「おう。どうした?」


「ギエフさんは僕の言葉を信じてくれるんですか?」


「あんなに優しくて正義感の強かった坊っちゃんが何かやらかすなんて考えられねぇよ。それと、これは俺が作った飯だ。味は保証出来ねぇが悪い物は入れてねぇから安心しな。便所は……どうしようもねぇな。ガッハッハ」


 豪快に笑ったギエフさんの声が牢中に響いていた。牢には僕達以外はいないようで何の反応も無い。攫われた人はここにいないのか、それとも……嫌な予感が僕の心を掠めて行く。


「おいおい。お前があんなおっさんと知り合いだったなんてな」


「僕も驚いたよ。まさか知り合いがいるなんてね」


「まぁ希望は見えたわけだな」


「そうなるね」


「しかしあのおっさんも気が利かねぇな。縄くらい解いてくれたっていいじゃねぇか」


「あの人にも立場があるんだから仕方無いよ」


「それもそうか。なんでこんな風に飯を食わなきゃならねぇんだよ。俺は人間だぞ」


 サシャが言いたい事も分かる。皿に盛られた物を犬のように食べなきゃいけないと言うのは抵抗もあるが食べなければ身体も弱ってしまう。


「希望が見えたっつってもみじめだな」


「そうだね」


 結局の所ギエフさんと言う希望は見えたけど、状況はまだ変わらない。ギエフさん次第だ。ギエフさんを信じて待つしか出来ないと言うのはとてももどかしい。


 ギエフさんが食事を持ってきてからどのくらい経ったのかは分からない。あまり時間が過ぎていないかもしれないし、結構な時間が過ぎたかもしれない。僕の隣ではサシャが寝息を立てている。図太い神経をしているものだと思う。


 サシャの寝息をバックにギエフさんが来るのを待っていると物音が聞こえて来た。恐らくギエフさんが来たのだろう。


「すまねぇな。遅くなっちまった」


「いえ、気にしないで下さい」


「相方は寝ちまってるのか。図太い野郎だな。いったい何があったんだ? 聞かせてくれ」


「はい」


「悪いな。俺はルカを信じちゃいるが内容によっては助ける事なんて出来ねぇ。一応仕事だからな」


「分かってます。簡単に言うと、僕の友人がベドジフに攫われて、ここで寝ているサシャと助けに来たら何かの薬で眠らされてここに入れられたって所です」


「本当か?」


「本当です。そして僕はベドジフの陰謀も本人の口から聞きました」


「一体何なんだ?」


「人魔を造って世界を征服しようとしているみたいです」


「途方も無ぇ話だな」


「僕もそう思いますけど、ベドジフは本気のようです。ベドジフがこのミエストの街に来てから人攫いが増えたともこのサシャが言ってました」


 呑気に寝ているサシャに視線を落としながら僕は言う。ギエフさんは信じられないと言った表情をしている。


「高い給金につられてこの仕事を貰ったがとんでもねぇのがご主人だったんだな」


「信じてくれるんですか?」


「普通の囚人にこんな扱いはしねぇよ。牢にまで入れてよ」


 ギエフさんの言うように牢に入れた普通の囚人に身動きすら取れなくするのはおかしいと思う。かつて村長も牢が無いから仕方なくとギエフさんを簀巻にしたと言っていた気がする。


「後ろ向いてくれ」


「はい」



 ギエフさんに言われたように後ろを向く。何かが擦れる音がするから縄を切ってくれているのかもしれない。


「動くなよ。手元が狂ったら傷つけちまう」


「優しいですね」


「ちっこいガキが俺を変えてくれたからなっと。切れたぞ」


 自由になった手を見る。かなりきつく縛っていたのか、縛っていた後がくっきりと見える。


「ほら相方の縄を切ってやれ」


「うん」


「俺には堅苦しい言葉なんていらねぇからよ。そんな感じで接してくれ。しかしあんなにちっこかったのにでかくなったな」


 僕が足の縄を切っていると、ギエフさんは僕の小さかった頃の姿を思い出しているのか感慨深そうに目を細めて僕を見ている。少し恥ずかしい気持ちもあるけどどこか優しい眼差しで安心出来る。


「ほら起きて」


「あぁん? んだよ」


 足の縄を切り終えた僕はサシャを揺すって起こす。


「ギエフさんが助けに来てくれた」


「おぉ。そうか。ありがとな! おっさん」


 サシャの手の縄を切った僕はナイフをサシャに手渡した。黙ってそれを受け取ったサシャは自分の足の縄を切る。


「鍵は開けておくぜ。俺は先に行ってるからな。死ぬなよ」


 ギエフさんは口早に言うと皿を持って来た道を戻る。皿を片付けると言う名目で来てくれたのかもしれない。


「あのおっさんこのナイフは良かったのかよ」


「きっと渡してくれたんだよ。サシャが持ってて。僕が持ってても役に立ちそうに無いから」


「分かったよ」


 悠長にしている時間は無いだろう。今にもヤルミラに魔の手が襲い掛かっているかもしれないし、他に攫われた人達もどこかにいるかもしれない。


「どうする?」


「さぁな。ただ考えるだけで時間を使っても無駄だろ」


「そうだね」


「てことはやる事は一つだ。正面突破しかねぇ」


 ニヤリと笑ったサシャの顔が明かりに照らされ不気味に見える。狂気すら感じるその笑みは今は味方の僕の目には頼もしく映ったが敵ならば恐れおののく事だろう。


「僕も出来る事をするよ」


「期待してるぜ。ルカ!」


 僕達は牢から出ると真っ直ぐに牢の外に繋がる扉を目指して歩みを進めた。僕とサシャ。二人の足音がひたひたと間抜けに響く。


 サシャが扉を開ける。サシャに続いて僕も扉の奥へと足を踏み入れた。牢とは比べ物にならないくらいの明るさがあって目が痛む。


 一人の恰幅の良い男が倒れているのが僕の目に止まる。白目を向いて倒れているが息はある為死んではいないようだ。


「お、来たな」


 倒れている男を見ているとギエフさんがひょっこりと顔を出した。その手には大きな袋を抱えている。


「それは?」


「これか? お前ら二人の荷物だよ。そんな服じゃどうしようも無いだろ」


 言われて気付く。僕とサシャは古びた布で作られた囚人服に身を包んでいたのだ。僕が倒れた時に荷物なんかも調べられているはずだ。僕は宝石をヤルミラに渡しておいて良かったと思った。


「気が利くじゃねぇか! おっさんよ!」


「おう!」


「さっきは気が利かねぇとか言ってなかった?」


「い、言ってねぇよ」


 軽口を叩き合いながら僕達は着替えを済ませる。いつの間にかサシャと普通に話せるようになっていた事に今になって驚いている僕がいた。


「そんなにニヤついてどうしたんだ?」


「いや、ヤルミラの言った通りだなって思ってね」


「なんだそりゃ」


 サシャ、ギエフさんと視線を合わせ、互いに頷き合う。サシャには幼なじみのヤルミラを助けたいと言う思いがあるし、それは僕も同じだ。でも、ギエフさんにはそんな大義は無い。それでも僕を信じてくれたギエフさんには感謝の言葉しか無い。


「今度こそヤルミラを助けるぞ」


 サシャの決意に満ちた言葉を受け、僕達三人は階段を駆け上がる。ヤルミラを助ける為に。攫われた人達を助ける為に。


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