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そして僕は陰謀を知った

 僕はヤルミラの帰りを待ったが帰ってくる気配が無く、日が暮れようとしていた。開かない扉を睨みながら、何かいやな予感が僕を支配していた。


「待った方がいいのか、探しに行くべきか……」


 ミエストの街の土地勘がある訳でもないし、探しに出て行っている間にヤルミラが帰ってくるかもしれない。様々な葛藤が僕を悩ませていた。


「悩むくらいなら行くか」


 独り言を呟く。葛藤を断ち切る為に口に出したのかもしれないが、意識はしていなかった。僕が探しに行っている間にヤルミラが帰って来ればそれでいい。


 後で笑い話にもなるだろう。でも、ヤルミラの身に何かがあって帰って来れないのだとしたら探しに行くべきだ。


 玄関の扉を開ける。日が落ちかけて赤い空が僕の目に映った。その赤が不吉な予感を僕に示しているように思えたのは気のせいだと思いたい。


 見慣れない風景の街を走る。僕を見た人は不思議に思うかもしれないけど、そんなのは関係無い。


 気が付くと、日は完全に落ちて、街はかがり火で照らされていた。見覚えのある場所だ。僕が不良達に絡まれた場所。そこで会いたくは無いけど、唯一の手掛かりである人物を見つけた。僕は意を決して声を出した。


「サ、サシャ!」


「何だ? お前ぇかよ」


「聞きたい事があるんだ」


「俺は聞きたくねぇよ」


「ヤルミラが帰って来ない。何か知らないか?」


 僕の言葉に聞く耳を持とうとしなかったサシャだったけど、そんな事はお構いなしに話を始めた。そして、ヤルミラが帰って来ないと告げた時、かがり火に照らされたサシャの顔が変わった気がした。


「知らねぇな」


「ヤルミラが君の所に行くと言ってたんだ」


「あいつは来てねぇよ」


 本当にヤルミラはサシャの所へ来ていないのか、しらばくれているだけなのか。


「本当に?」


「本当だよ! 何疑ってんだ? あぁん?」


 サシャに顔を寄せられガンを飛ばされて後退る。一方的にやられた事を思い出して全身に冷や汗が吹き出しているのが分かる。それでも退くわけにはいかない。


「疑ってなんて無いよ。僕はヤルミラを知らないか聞いただけだ」


「それを疑ってるっつうんじゃねぇのかよ?」


「そう思われたなら悪い事をした。謝るよ。でも彼女の事が心配なんだ。君はヤルミラと幼なじみなんだろう? 心配じゃないのか?」


「知るかよ。あんなお節介な奴」


 もしかすると、僕は熱くなっているのかもしれない。いつの間にか冷や汗も止まっている。ヤルミラが言うようにサシャは良い人間なのだろうかと疑問も湧いてくる。


 問答を続けていた時、昨日ヤルミラの家に来たベドジフと言う名前を思い出した。


「ベドジフ……君はこの人を知ってる?」


「ベドジフだと?」


「うん。昨日の夜ヤルミラの家に来たんだ。そこでヤルミラと揉めていた」


「ちょっと待て。お前ヤルミラが帰って来ないとか、夜にヤルミラの家でとか言ってるけどよ、もしかしてヤルミラの家に?」


「そ、そうだけど?」


「あいつお節介にも程があるだろ……」


 ふとサシャの顔を見るとその顔が幾分か和らいでいるように見えた。今こんな事を思うのはおかしいのかもしれないけど、サシャと会話くらいなら出来そうな気がするし、反応から本当にヤルミラの事は知らないと思える。


「そんな事はどうでもいいよ。ベドジフはヤルミラが持っている物を狙っているって聞いたんだ」


「何を狙っているのかなんて知らねぇがあのいけ好かねぇ野郎なら何をやってもおかしくは無いだろうな」


「ベドジフってどんな奴なの?」


 昨日、ヤルミラの家に来たベドジフの事を思い出す。顔は見えなかったけど、嫌な雰囲気を持っているとは思った。


「最近街に来て好き勝手やってる金持ちさ。お前は帰ってヤルミラの帰りを待て」


「ベドジフの所に行くのかい? それなら僕も行くよ」


 何か危険な事に顔を突っ込もうとしているのは分かるけど、僕も引けない。それに必死に走り回っていたから仕方ないのかもしれないけど、どうやって戻ればいいのかも分からなくなっているんだ。帰り方が分からないなんて格好の悪い事は言えない。


「あぁん? 足手まといなんだよ」


「僕も男だからね。それにヤルミラは恩人だ。僕には恩を返す義務もある。誰かさんのおかげなんだけどね」


 サシャの顔が引き攣ったような気がするけど原因を作ったのはサシャだ。僕が弱かったせいもあるけど、皮肉の一つくらい言っても罰は当たらないだろう。


「勝手にしろ」


 サシャは僕とすれ違いざまに呟いた。来るなと言われても行くつもりだったけど、それはそれだ。僕はサシャの後を追うように歩く。


 少しすると明らかに街の様子が変わった通りに出た。素人目に見ても高級そうな建物が立ち並んでいる。この街に貴族街のような場所があったなんて知らなかったが、狭くは無い街だからそんな物があっても不思議ではない。


「僕達みたいなのが来るような場所では無いね」


「お前と一緒にすんなよ。この街は俺の生まれ育った街だ。知らない場所なんてねぇよ」


「それは違うんじゃ……」


「なんか文句あんのかよ? ぶっ殺すぞ!」


 軽口を叩き合いながら歩く。サシャのような人間と関わる事は御免だけど、今はそんな事は言ってられない。ヤルミラの身に危険が迫っているのかもしれないのだから。


「ここだな」


「ベドジフって最近この街に来たんだよね? ここがベドジフの家だってどうして分かるの?」


「ここは俺の街だ。知らない事なんて無ぇし、どこに誰が住んでるなんて大体は把握出来んだよ」


 街の規模からしても相当な人数が住んでいるのは分かるけど、そこまで把握出来るものなのかと疑問に思うけど、ここはサシャの言葉を信じるしか無い。


 僕はこの街の事は知らないけど、彼はずっとこの街に住んでいるのだから見栄を張っているとしても僕なんかより詳しいのは確かだ。


「どうやって中に入るんだい?」


「そりゃ正面からに決まってんだろうが」


 そう言うとサシャはベドジフの家の門へと向かって歩いて行く。僕はその後を付いて行くだけだ。僕は僕の出来る事をしようと思う。


「何者だ!」


「ベドジフの野郎に用があるんだがよう」


「ベドジフ様に用だと?」


「あぁそうだ。門を開けてくんねぇかな?」


「貴様のような奴を入れる訳にはいかん!」


「そうかよっ!」


 いくらかの問答を繰り返した後、兵士を蹴り上げたサシャ。兵士の服装が街にいる兵士とは違うからベドジフの私兵だろうか。蹴り上げられた兵士は勢い良く吹き飛び、口から泡を吹き出して気を失っていた。


「また強引な」


「知るか」


 僕は呆れてサシャを見るが憮然とした感じで歩いて行くサシャを頼もしく思った。僕はサシャに付いて行く事しかしていない。


 玄関の扉を勢い良く開け、中に入っていくサシャ。僕もサシャに続いて家の中へ入っていく。家の中は見た目以上に広く見えた。そして、突然入って来た僕達を立ち尽くす人達。どの人も紙の束を持っていた。


「何だね君達は。突然入って来て。邪魔だ邪魔。すぐに帰りなさい」


 立ち尽くしていた中の一人の男が僕達に帰れとまくしたてる。不健康そうなやつれた顔をしていてどこか不気味だ。


「ベドジフの野郎はどこにいやがるんだ?」


 サシャは男の言葉に聞く耳を持たず乱暴な言葉でベドジフの居場所を聞く。サシャの圧力に男は言葉を失い青い顔をしていた。


「ここがベドジフと言う人の家だと思うのですが知りませんか?」


「た、確かにここはベドジフ様の屋敷ではあるが君達は何者なのかね」


「お前ぇに用は無ぇんだよ。さっさとベドジフを出しやがれ!」


 怒鳴られた男は腰を抜かし持っていた紙の束を落とした。男が落として散らばった紙に視線を落とした僕は紙に書かれていた内容を見て口が塞がらなかった。


“人体における魔物との融合について”


 何やら聞き捨てならない内容が書いてあった。ここで何らかの研究をしているのだろうか。そして、その内容は確実に人道に反している物だと分かるが今はそんな事よりもヤルミラを探す事が先決だ。


「ベドジフはどこだ?」


 サシャは男に詰め寄る。座り込んだ男に視線を合わせ顔を近づけてガンを飛ばしながら脅すようにベドジフがどこにいるのかを聞き出そうとしていたが男がそれを言う前にそれは解決する。聞き覚えのある声がロビーに響き渡ったからだ。


「何やら騒がしいと思えば、どうやら私のお客さんのようだね」


 飄々とした感じで登場したベドジフは階段を降りながら声を響かせていた。ベドジフの登場で立ち竦んでいた人達はそれぞれの作業に戻ろうとしているのか蜘蛛の子を散らしたように動き出す。唯一座り込んだ男だけが動けずにいる。


「てめぇヤルミラをどこにやった!?」


「おー。怖い怖い。そんなに怒鳴らないでくれないか」


「しらばくれるんじゃねぇ!」


「それにしても君達は一体何なんだい? 私には君達のような知り合いはいないが」


 金色の紙を搔き上げながらベドジフは言う。確かに僕達が一方的にベドジフの事を知っっているだけだから。


「ヤルミラが帰って来ないんです」


「その声は聞き覚えがあるな。しかしその姿は見た事が無い……そうか。昨日ヤルミラと一緒にいた男性か。昨日は楽しめたかい?」


 卑下た笑みを浮かべながらベドジフは僕を見る。その視線はどこか厭らしく僕を値踏みしているように感じた。


「はじめに断っておきますが、僕とヤルミラはそのような関係ではありません」


「ほう。私の勘違いだったようだね。すまなかった」


「ベドジフ――さん。ヤルミラがどこにいるのかご存知無いですか?」


「てめぇ! ヤルミラがここにいてもこいつが素直に吐くと思うのかよ!」


 サシャの言い分も分かるけど、サシャのような強引なやり方ではどちらにせよ上手くは行かないと思う。僕はサシャを無視してベドジフの返答を待った。


「はぁ……確かにヤルミラはここにいるがそれに何か問題があるのかね?」


「てめぇが無理やり連れて来たんだろうがよ!」


「サシャちょっと静かにして。僕はヤルミラの家にお世話になっていて、家主が帰って来ないと困るんです」


 今にも飛び出して行きそうなサシャを手で制しながら僕は言う。ヤルミラはサシャに僕の剣を返すように言いに行くと言って出て行ったのだから帰って来ないのはおかしい。


「それもそうだね。しかし、ヤルミラは今手が放せない状況なのだよ」


「なぜ?」


「ふふっ。知りたいなら付いて来るといい」


 どうやらベドジフは自らがヤルミラのいる場所へ案内してくれるらしい。ベドジフが何を考えているのか全く分からないが今はその言葉を信じるしかない。


 僕はサシャと目を合わせて頷き合うとベドジフの背中を追った。


 ベドジフは言葉を発する事無く黙々と歩いていた。それは僕とサシャも同じだったが、話をするような雰囲気では無かったと言うのもある。地下へと降りる階段を進んでいるが、薄暗く、肌寒い感じが何かを警戒させるなのだ。


 重厚な扉の前に着き、息を飲む。なぜヤルミラはこんな所にいるのだろうか。手が放せないと言っていたが、何をしているのだろうか。様々な疑問が僕の脳裏を掠めて行く。


「ヤルミラはこの扉の奥にいる」


 ニヤニヤとした顔でベドジフは言う。僕はその顔が憎たらしく感じた。それはサシャも同じようで顔を歪めベドジフを睨んでいた。


 ベドジフが扉を開けると広い空間に出る。所々に設置されたランプで視界は確保する事は出来ている。そして、中を進んで行くとヤルミラの姿を目に捉える事が出来た。


「おい! どう言うつもりだ!?」


 サシャが怒鳴るように言った気持ちも分かる。僕も怒鳴りたい気持ちになっていたから。ヤルミラは鎖に繋げられていた。


「ふふふ。君達のような頭の悪い人間には理解なぞ出来ないだろ――ぐふっ」


 ベドジフが何かを言う前にサシャがベドジフの顔面を殴り付けていた。ベドジフは倒れはしなかったが仰け反っていた。それを見てすぐにヤルミラの元へと駆けつける。


「ヤルミラ。大丈夫かい?」


「何もされていない……と思うわ。気が付いたらこうなっていたの」


「すぐにこの鎖を――」


 たかが人間の力では金属で出来た鎖をどうこうする事なんて出来なかった。この鎖を解くには鍵が必要なようだったがどこにあるのかも分からない。


「サシャ――っ!」


 ヤルミラの叫びを聞いて僕は後ろを振り返った。僕が見たのはサシャが倒れている姿と顔面を血で濡らしながら笑っているベドジフだった。


「ヤルミラ。これを」


 僕はヤルミラから預かっていた宝石を渡す。サシャがやられてしまうくらいなのだから武器すら持っていない僕では歯が立たないだろうと思ったからだ。


「ベドジフ! お前は何が目的なんだ!」


「ふははははは。目的? 私はただ人魔を造り世界を我が手中に治めようとしているだけだよ」


 僕は男の落とした紙に書かれていた“人体における魔物との融合について”と言う一文を思い出していた。そんな事やらせては駄目だ。


「そんな事はやらせない!」


「ルカっ!」


 ヤルミラが僕を呼ぶ声が聞こえた。それを背中に受けて僕はベドジフへ突進する。ベドジフへ僕の拳が届こうとした瞬間、僕の顔に冷たい物が降り掛かったがそのままベドジフを殴る。ベドジフは倒れたまま笑っていた。


「ふははははははは。君も私の人魔への贄となるがいい」


 ベドジフの声が掠れるように頭に響いたと思うと、僕の視界が歪んでいき真っ暗になる。顔に冷たい地面の感触が伝わったと思った時には意識を手放していた。



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