第三章6 猫の声
やっと更新できました、長らくお待たせして申し訳ないです<(_ _)>これからも続きを楽しみにしてくださると嬉しいです。
静かな道に独りでいたかったからか、駅とは反対の住宅街に自然と足が向いた。
四月とあっても、陽が落ちたあとの風は冷たかった。知恵熱がでていた頭を冷やしてくれるようでちょうどよく感じた。結わえた髪を風がさらっていく。
足の向くまま道を歩いていると、猫の声がどこからか聞こえてきた。かん高く、細い声から、おそらく子猫だろう。そういえばこの道を行けば猫カフェだった。そこから風に乗って鳴き声が聞こえてきたのかとも思ったが、それにしては近い。
声の出どころを探るように耳を澄ました。怯えているのだろう、しきりに助けを求めるように叫んでいる。ずいぶん前から鳴いていたのか心なしか嗄れてきたように感じた。
住宅のあいだや道の植木などを探していると、花壇の草むらに茶トラの子猫がうずくまっていた。
「ここにいたんだね」
そう言って手をのばすと、子猫は身を縮こまらせ、奥に後ずさってしまった。
「怖くないよ、大丈夫だから、おいで? そこにずっといたら冷えちゃうよ?」
話しかけ、しばらく手をのばしたままでいると恐る恐る茶トラが寄ってきた。小さな頭を撫でてやると安心したのか、身体をすり寄せてきた。そっと抱き上げて、胸で温めてあげる。
「怖かったんだね。もう心配ないよ」
鳴きつかれたのか、喉を震わせながら寝てしまった。可愛い。
それにしてもこの茶トラはどこから来たのだろう。母猫が探しているだろうか。それとも飼い主か。どちらにせよ、この迷い猫をどうしたものだろう。この子が飼い猫なら探しているのは人間だから難しくはないが、野良の母猫だったら探しにくいな。
そもそも捨て猫だろうか。そうだとしたら拾ったところで賃貸の部屋につれ帰るわけにはいかないし。
そう思案していると、こんどは男性の声が聞こえてきた。名前らしき言葉を叫んでいた。これはもしやこの子の飼い主かしら。男性の声がするほうに向いたら、ななめ向かいの角から昼間の青年が現れた。向こうも私――と胸に抱いた子猫――に気が付いた。昼間のことを覚えているだろうか。私の顔を見て少しけげんそうな表情をしたが、子猫が私の胸のなかで安心しきっている様子を見て驚いているような顔になった。
「モカ、こんなところにいたのか」
そうつぶやくと、私が戸惑いを隠す間もなく青年は近づいてきた。名前を呼ばれた猫はみゃあ、と返事をした。
もしかして、この人が飼い主なのか? 日中の彼とのやりとりのあとだから、気まずい。なにかそのことを言うかしら。そう思ったが青年の言葉は前置きもなかった。
「こいつ、家の猫だから」
私が連れ去ろうとしているのとでも思っているのか、鋭い目をした。
「飼い主の方ですか、よかった」
最後に子猫の頭をなでて
「お家に帰れそうで良かったね、もう迷子になっちゃダメだよ?」
と話しかけて、彼にそっと渡した。子猫は青年の腕にすっぽりおさまると、こちらを見つめてまたみゃあ、と鳴いた。お礼を言ってくれているのだろうか。
「どういたしまして」
ほほ笑んで返事をした。その様子を青年は何も言わずに見ていた。彼の表情からは感情が読みとれなかったが、先ほどのような鋭い目つきではなかった。
「じゃ、世話かけた」
それだけ言うと彼は来た道を帰っていった。




