14.動き出す…。
和気あいあいとした雰囲気ではない
声が聞こえるのは被写体を見つめるカメラマンだけ
耳には緊迫感を表すシャッターを切る音
カメラの奥とその被写体を交互に睨み付けている
見渡せば誰もが堅い表情をしてその行く末を見つめている
誰もカメラマン近づこうとも
お互いに他愛ない言葉を掛け合うこともない
プロと言わんばかりに…
これが玄人の醸し出す空気
空気で感じる……怖いっていう気持ち
彼が言うにはアルバム、写真集撮影
雑誌の取材、告知関連で回らなくてはならないらしい
今は2番目に言った写真集撮影
こんな忙しいのに私なんか誘ってよかったのだろうか
撮影風景を見る
カメラマンの注文に全身全霊で答える
慣れも入っているのかアレンジを加えながら
だから彼の時はスムーズに事が進むらしい
やっぱりプロなんだと思う
目の前でスタッフが通る
何でここにいるの?っと言わんばかりの視線を向ける
数々の視線を浴びながら椅子に座っていた
当たり前である、どう見ても普通の女子高生がいていいわけない
何度も確認したし断った
大丈夫というからには関係ない
…気にも留める気ないから堂々としてるけど…。
飲み物でも買ってこよう、のど乾いた
緊迫した空気から抜け出す
通路を見渡して明らかに分かる場所に自販機は置かれていた
炭酸を選びジュースを片手に戻る
「…こんなとこにいたのか」
不意に私の視界に入る
タオルを背負いどうやら撮影が終わったらしい
「ごめんごめん・・・退屈にさせちゃった?」
身体の熱気を冷ますため服をぱたぱたさせる
そんな彼を見て持っていたジュースを差し出した
「えっ…いいの?」
突然のことで驚いた顔
「…また買うから」
それだけ言うとさっき歩いた道を戻る
「せんきゅー」
後ろの方から缶を開ける音
彼方君は自販機近くの椅子に腰掛けた
また炭酸を選んで振り返る
すると綺麗な女の人が彼に近づいていた
「あら?…撮影終わったの?」
よく見ると彼のマネージャーだった
一度しか見たことないけどあんなキツイ美人一人しか見たことない
確か医務室いた…
「速瀬さん…!?何、今日用事あるからって言ってなかったっけ!?」
そう、速瀬さん…
彼は焦り始めた様子
気のせいか私の方をチラと見る
「用事?あぁ…社長からいいつけられた件?早めに片づいたから様子見に来たわ」
あぁ…私がいるからか
この人がいないから私を連れてきたんだもんね
と、考えにたどり着くと同時に彼方君の向けた視線に速瀬さんが気付いた
考える間のなく食ってかかる
「また彼方!!いつも部外者を入れないでと言ってるでしょう!?」
「………。」
「もっと自覚と節度をもってちょうだい!!」
なんか何処かで聞いた言葉口癖なんだろうか
言葉で彼を叩きつけると速瀬さんは私の方へとやってきた
私はただ黙って速瀬さんの瞳を見返す
怖いとか恐れとかそんなの微塵も出てこない
ただ威圧感は最大限に伝わってくる
「あら?貴方確か…ドーム入りの時医務室にいた・・・」
遅いながらも気付いたようだ
変なものでも見るかのように私の顔を見回す
一通り終わったのか今度は微笑む
「そう、貴方の目的はこれだったの…医務室にいたとき興味ないふりしてこんなこと企んでたなんて…彼の性格理解済みってことかしら?」
「何言ってんだよ…速瀬さん」
椅子から立ち上がり言葉を遮る
私はただ速瀬さんを見つめ黙っていた
「こうやって庇ってもらうのも計算の内なんでしょう…?最近の女子高生はこんなこともするのね…頭に入れておきましょう。まぁ、いいわ。貴方にも言っておくわ彼は業界人貴方は普通の高校生!そこのとこちゃんと理解してもらいたいわ。相手に出来るわけもないの…」
わざと強い口調で私にぶつかってくる
「速瀬さん!!」
もはや彼方君の声は聞こえていない様
「別にやましい関係じゃない…」
言葉でねじ伏せている間に本当に頭にきてしまったみたい
「いいから彼方は黙っててちょうだいっ!…ちょっと貴方この子追い出して!」
通路で歩いてるスタッフを捕まえる
「速瀬さんっっっ!!!!!」
通路の端の方まで怒鳴り声が響いた
いきなりの声にさすがの私も目をつむる
私も心なしか驚いた
誰の声だか一瞬見当がつかなかったけど
目を開けたとき速瀬さんを睨み付ける彼を見て悟った
今までの雰囲気じゃ考えられない程の形相
そして当然のごとく私達の間に沈黙が走った
「………。」
彼方君は睨むだけで言葉は発さない
速瀬さんは彼の行動に戸惑っている様
「これ以上調子に乗らないでちょうだい貴方も…。早く追い返しなさい」
根気負けをしたのか視線を外す
私の方をチラッとみる
その時の表情はもう敵以外なんとも思っていない瞳
酷く冷え切ったハイヒールの音を鳴らし去っていった
「…ごめんね、何か嫌な思いさせちゃったけどいつもあんな感じだから気にしないで…」
軽くフォローを入れる彼方君
「………」
「あ、そういえば!まだ名前聞いてないよねぇ?名前なんていうの?」
「桐谷…桐谷満春です」
去っていく足音が止まった
振り向くと何故か速瀬さんは立ち止まっていた
そして彼方君の表情も強ばっていく
またもや変な空気が流れる
何も理解できない私はこの空気を吸ってることしか出来なかった
「きりや…み、みはるって言うの…?」
途切れ途切れに私の名前を口にする
どんどん彼の笑顔は固まっていった
私から見て速瀬さんも後ろ姿だけど立ち止まったまま
「…あの、何か?」
いたって冷静な装い
反応を待っていたがいっこうに返ってこない
「あの…」
もう一回問いかけることにする
「あっ!いやっ…何でもないよ」
そう言った彼方君はどこか心あらず
気がつくと速瀬さんの姿はなかった
「あ、ごめん!俺これからまた撮影なんだ…よかったらまだここにいていいよ!!…じゃぁ」
そそくさと席を立つ彼方
私の名前を聞いてから何を言って良いのか分からないって感じだ
そんな彼の後ろ姿が消えるまで見つめていた




