表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/93

12.気になる彼

少し急な坂を徒歩で昇っていく

満春の住んでいる街は人並みが多いといってもここは論外

ちょっと曲がれば人通りが多いのだけどここは町外れを感じさせる

田舎くさいとまではいかない…『街』外れ

時々夕御飯の買い物を終えた主婦らしき人が通り過ぎるくらい

そんなゆるい坂道の頂上を目指したところに私の家がある

ポストを確認し家の扉を開けた

 「………はぁ」

誰に挨拶するまでのなく開けた扉を静かに閉めた

なんとも淡々とした帰り

途端に鼻に香る柔らかく包み込む優しい匂い

無意識に頭の中でリサーチする

 「…お帰りなさい、満春」

スリッパを慣らしながら母親がお迎え

そして答え合わせへと勝手に頭を進める

 「今日はシチューよ…あとちょっとで出来上がり」

シチュー…当たっていた

それだけ言うと再び台所へと向かっていった

クツクツといい音をたててる鍋を横目で見ながら冷蔵庫に手をやる

 「着替えてくる…」

片手にボルヴィックを持ち2階、自分の部屋へと行く

部屋の扉を開けペットボトルをベットに投げる

カーテンを閉め制服のリボンを外しながら机に向かう

自分で言うのも何だが綺麗に部屋は片づいてるほう

もちろん趣味なんてなく部屋は自分で言うのも変だけど生活感がない

そのなかで無造作に置かれた白い紙切れが目に入った

 「………。」

リボンを机に置き代わりに紙切れを手に取る

この紙に書いているものは紛れもないあの時にもらったやつだ

そこには男の人らしい角ばった字で電話番号がかかれていた

ベットに投げたボトルの蓋を開けながら紙切れを見る

 『今度さ…スタジオ来ない?案内するよ!!』

不意に彼の言葉が脳裏によみがえる

そうあれから捨てなかった

捨てられなかった?…そう自分に問いかけるのも躊躇われる

自分ではよく分からない行動

そして不意に携帯を手に持つ

私の中で説明しがたく理由がない

それが自然と言わんばかりに

音のない部屋に確認音が響きわたる

ピッ、 ポッ パッ ポッ…

ゆっくりと押していく

…090…3…



 「満春!…出来たわよ」

ドキンっ!!

バシャーーーーーン!!?

 「あ……」

突然、部屋への訪問に水をこぼした

 「な、何やってるのよ…!」

何をやってたわけでもない

我に返った時には零していた

……我に返った?

私それまで無意識だったってこと?

 「あ…。ごめん…」

謝ってはいるが何処か気持ちの入ってない言葉

せかせかと手際のいい片づけをしている側で呆然としたままの私

記憶がないわけじゃない…ちゃんと記憶はある

自分のした脈略のない行動に頭がついていけないでいる

 「ほら、そこどいて…っ!先に下降りて待ってて?」

その姿を見かねて私をお母さんが誘導する

私は何も言わずに部屋を出る


それを見送ったお母さんはそそくさと残った片づけを始めた

 「…よいしょ」

台所から持ってきた布巾で床を拭く

絨毯、ベット…思った以上に被害は大きかった

だけど作業するお母さんのペースは衰えない

そのままにしていた落としたペットボトルを机に置く

 「…ん?」

ベットに向かうとペットボトルと一緒に落とした被害を受けた紙を目にする

またもや落ちていたメモ用紙はよく目立った

ベットの色は全体的に深い青…白い紙は色がよく映える

不思議に思いお母さんは手に取った

 「…何かしら?」

ゴミかと思い捨てようとした矢先

何か書いてあることに気付く

ゆっくりとくしゃくしゃになった紙を開けていく

 「数字、電話番号…?」

と、言った途端表情が見る見るうちに変わった

まるで恐ろしいものでの見るかのように…

まさか下に降りた瞬間に見られてるなんて思わなかった


 



私と母親だけだけど

食卓を囲い静かな晩御飯を食べていた

いつもご飯を食べるときは静まり返っている

私から強いて喋ることはもちろんお母さんからも喋ることはなかった

優しいは優しいが見ようによっては放任

前もこんな感じだったのか覚えてない

お母さんはもっと溌剌と明るかった気がしないでもない

 「ごちそうさま…」

やっぱりいつもの静まり方じゃない

分からないけど黙々となにか考えているような表情

お母さんは何か言いたいようだけど言えないという感じ

私は食卓を立ち上がり2階へと足を向ける

 「あ、満春」

と、久しぶりに聞いた気がする声が背中から聞こえる

でもやっぱり声のトーンは低かった

 「…何?」

足の向きを変えず背中で言葉を返す

少し間があってまた言葉が返ってきた

 「貴方…昔のこと…」

 「……む、かし?」

 「昔…いいえ、何でもないわ!」

そういうとさっさと片づけを仕始めた

言った言葉に誤魔化しを入れるかのように手際のいい片付け

私はその行動をしばし不思議そうに見てるしかできなかった

母は何を言おうとしていたのか

2階へと足を運ばせながら考えていた

……昔のこと。

聞こえた数少ない言葉

昔々……小さい頃のこと?

思え出そうとしたけど思い出せない

思考回路が途絶えてしまう

私って昔、どんな子だったんだっけ?

また頭が一瞬割れるような痛みが走った

最近の私は柄にもなく考えすぎた

何にも興味を持たないでそれを嫌とも思わなかった

きっと昔からこんなつまんない娘だったんだろう

いつもの自分だったらこんな事なんとも思わない

そうなるとおかしいのは私なのかも…

お風呂にでも入って全て流すか



気にしなければお母さんの言った事だって何でもない

他愛ない話かもしれない

何か近所で揉め事があって落ち込んでるだけかもしれない

ノブに手を伸ばし部屋に入る

入ったままドアに背を任せボーっとしていた

 「………。」

もうすっかり日が落ちていた

カーテンを閉めないと…

私は窓の方に向かって歩き出した

ゆっくりと半分空いてたカーテンを閉めると机にあるあるものに手を伸ばす

どうしてこんなに気になるんだろう…

数秒紙を持ったまま考えにふけった後

携帯を取りだしダイヤルを押す

見た目ごく普通にあるシチュエーション

このダイアルを押していく感じが

だけどとても懐かしい気持ちにさせる

昔に何度かこんな光景があったような

心の内を正直に話すと

ワクワク…ソワソワ、ドキドキ

どれが当てはまるのか決められない

ワクワクでもソワソワでもドキドキでもある

すごく心が安定してる、けど切なくなってる

矛盾しすぎで笑えてくる

複雑な感情に戸惑いながらも呼び出し音を耳で聞いていた

プルルルルーッ プルルルルーッ プルルルルーッ

一定の呼び出し音に緊張の拍車がかかる

どうしてこんなに気持ちになるんだろう・・・

早く携帯に気付いて!早くとって!!

何度かこんな思いをした・・・

なかなか出ないで鳴ってるコール音を

自分でも気付かない特別な思いを寄せながら聞いていた


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ