プロローグ ――「幸せになってほしい」と願った、その先で
――私は、自分が処刑される場面を知っている。
真っ赤な夕日が照らす王都の広場。
大勢の人々が見つめる中、ひとりの少女が断頭台の前に立っている。
長い銀色の髪。
美しい顔。
そして、涙を浮かべながらも気丈に前を向く瞳。
彼女の名前は――リリアーナ・フォン・アルヴェルディ。
アルヴェルディ公爵家の令嬢。
王太子の婚約者。
そして、乙女ゲーム『聖女の恋と運命の王子』に登場する悪役令嬢だった。
「リリアーナ・フォン・アルヴェルディ」
王太子の冷たい声が響く。
「聖女への数々の嫌がらせ。王太子である私への虚偽の報告。そして、王国を混乱させた罪により――」
断頭台の刃が、ゆっくりと持ち上げられる。
「お前との婚約を破棄する」
観衆から、どよめきが起こる。
そして。
――刃が落ちた。
「…………」
そこで私は、ゲームの画面を閉じた。
「やっぱり、このエンディング嫌いだなぁ……」
自宅の部屋。
机の上には、何度も遊んだ乙女ゲームのパッケージ。
画面には、悪役令嬢リリアーナの処刑エンド。
私はため息をついた。
「リリアーナ、そんなに悪い子じゃないのに」
ゲームの中では、彼女は聖女を虐める悪役として描かれていた。
もちろん、やっていることは褒められたものではない。
でも。
彼女がそうなった理由を知っていると、単純に「悪役」と片付けることはできなかった。
両親から愛されず。
周囲から期待され続け。
婚約者である王太子にも振り向いてもらえず。
そんな彼女の前に、突然現れた聖女。
誰からも愛される少女を見て、リリアーナは少しずつ壊れていった。
「もし私だったら……」
そんなことを考えながら、私は画面を見つめる。
「最初からやり直せたらいいのにね」
もちろん、ただの独り言だった。
人生をやり直すなんて、現実にはできない。
そう思っていた。
――そのとき。
突然、視界が真っ暗になった。
「……え?」
何が起こったのかわからない。
身体から力が抜けていく。
「ちょっと……待って」
手を伸ばそうとした。
けれど、指先は動かなかった。
意識が遠ざかっていく。
最後に頭に浮かんだのは、さっきまで見ていたゲームの画面。
断頭台の前に立つ、リリアーナの姿だった。
「……もし、本当にやり直せるなら……」
私は願った。
「今度は……幸せになってほしいな」
そして――。
意識が途切れた。
次に目を覚ましたとき。
私の人生は、まったく違うものになっていた。
――生まれたばかりの赤ちゃんとして。
そして私は、まだ知らなかった。
この世界では、ゲームで語られていた物語そのものが――
大きく変わり始めていることを。




