(20)一年の計は食堂にあり
何か慌ただしい師走の始まりだったが、ボート競技を終え、さあ、これからもっと忙しくなると、乗馬も含めカタスクニでの学習に専念しようとナナモはクラウチングスタートの姿勢で身構えていた矢先、今度はネコマネキではなく神木のタブレットがまったく作動しなくなった。それでも苺院にはたどり着く。だから去年のことがあるのでアメノ弟の嫌がらせではないだろうかと、それなら今度は見破ってやろうと、一時間、二時間と粘っても、結局、カタリベの声さえも聞けぬままアメノ弟ではなくアメノの煎れてくれた紅茶を飲むだけで、大した成果もなくとぼとぼと家路に着くしかなかった。
もしかしてあの言葉は本当だったのだろうか?
ナナモはおぼろげではあるが、今更ながらカタリベの言葉を反芻するしかなかった。
それでも大学での講義、実習、試験と途切れることのない日常の連鎖は続く。だからナナモはあんなに盛り上がって熱くなって、これ以上ないインパクトでナナモの感情を占拠していた記憶が、しばらくすると、どこからか針を刺された風船のように、色々な思い出をまき散らしながら錐もみ飛行して萎んでいるのに、寒気をつれた北風なのだと、襟を立て少し身をかがめて小走りに寮から大学へと日々往復していた。
オオエはあれからOB戦のことをナナモが話しかけた時だけ答えるだけで自ら話しかけてくるということはなかったが、それでいて、ナナモと会話しないということはなかったし、大学の研究室で起こったちょっとしたエピソードで盛り上がることもあった。ただ、時々、小岩君何か言っていた?と、きっとトモナミの部屋での事だろうが、ナナモは実際何も聞いていなかったので、さあ、小岩さんも忙しいのでと、きっと寮ではなく道場で何か密談でもと思っているのだろうが、そう答えるしかなかった。
小谷は解剖学実習が完全に終わっていたのでほぼ顔を合わせることはなかったし、六原ともナナモが事務室に行くことはなかったので、たまに食堂で顔を合わせることはあったが、年上であったし、それぞれ大学内では忙しそうだったので、こんにちはと一応笑顔を添えてはいたが、立ち止まってまで会話することはなかった。
キガミ妹はなおさらだ。実習が同じキガミがナナモと一緒に居ることが多かったので、小谷や六原よりもそっけなく、すれ違っても挨拶すらしなかった。
仲間だと思っていたのに、イベントが終われば案外つめたいな。
そんな毎日が続くとナナモはボートだけだとはわかっていても、あれだけ皆が一つになってボートを漕いで頑張っていたのにと拍子抜けする思いに駆られた。
でも仕方がない。イベントとしてのOB戦だし、あくまでもナナモはお客さんだったし、ナナモとキガミ妹以外は社会人でやるべきことがあったし、一社会人ではなくとも、ナナモにしてもキガミ妹にしても、医学部生として山ほどやることは在るのだと、それでもナナモはあの瞬間は何だったんだろうと、自分のことは棚に上げて、寮で机に向かって黙々と勉強しているオオエを見ると少し寂しい思いもした。だからか、OB戦のタイムはまあまあ良かったし、六原が豪華賞品が出ると期待させていた分、医学生がいるチームだからと、後日図書券が送られてきた時には、結構の金額でナナモにとってはありがたかったはずなのに、なぜか心の底から万歳とガッツポーズをとるほどの感動を憶えなかった。
だからではないだろうが、ナナモは解剖学で追試を受けたあとにも続いていた生理学や生化学などの正常人体学の講義や実習を淡々とこなし、誰かに邪魔されることも、何かに悩まされることもなく、各々の専門科目の試験を一発合格していた。だから実習や講義やましてや試験が全くなかった冬休みの期間、ナナモは杵築を離れ、気兼ねなくどこかに自由に行くことが出来たはずだ。
それなのに……、ナナモは年末年始を寮で過ごしていた。
理由は色々ある。
イチロウからどこそこに出かけてくれないかとか、最新のVRの世界に入ってみないかとかいう連絡はなかった。ロンドンの叔父叔母からクリスマスカードが届いたが、お決まりの文句が書かれているだけで、帰ってこないの?という誘いはなかった。ルーシーからは、彼氏とクリスマス休暇を楽しんでいるのか、リモートでもよいからメリークリスマスと数秒だけの笑顔を期待したが、なぜか今年はカードすら届かなかった。そして、もっとも身近ですぐにでも会いに行けるはずなのに、タカヤマは追試を何度か受けていたので、珍しく寒げいこさえせずに、そそくさと実家に帰ってしまった。
だったら、東京へとも思ったが、東京に帰っても友達が居るわけではない。マギーは鎌倉だが、わざわざ東京から会いに行ってもよほどの用事や偶然が重ならない限り、マギーに会うことはないだろうし、あっても体よくあしらわれるだけだと、つい二の足を踏む。
結局ああだこうだと考えているうちに大晦日を迎え、除夜の鐘がなり、元旦を迎えた。
ナナモは去年と同じようにまだ真っ黒だったが六時前に起きて、風呂場へ行って身を清め、最後に真水を震えながらも浴びると、真っ新な下着を身にまとい、洗濯したての部屋着でカンファフェンスルームの神棚の前に立ちいつも以上に深々と首を垂れ、いつも以上に大きな音で手を合わせた。
「あけましておめでとうございます」
ナナモはいつものように何かを願うことはなかったが、それでもこの寮で二回目の正月を迎えられたという感慨はある。だからか、ヤオヨロズのカミガミに向かって感謝と新年の挨拶をするつもりで、自然と声が漏れ出ていた。しかし、それも束の間のことで、ナナモは始めてこの場所で小岩と話したことを昨日の事のように思い出した。あの時は、これからどうなるんだろうと、色々あったし、色々ありそうだしと、不安と希望が入り交じっていた。でもあれから寮に居る時は毎朝欠かさず参拝していたし、ここで小岩だけでなく他の寮生と何度も話していたのにその大部分の記憶は薄れている。ナナモの記憶はあのときからもう誰にも邪魔されないし、奪われたりもしない。それなのに、全ての出来事が記憶されているわけではない。ナナモはあれだけ失われた過去を取り戻そうと悩んでいたのに少し虚しい気持ちになった。
でも、僕にとって大切なことはまだ覚えている。
ナナモは神木のタブレットが起動しないことと相まって、始めてコトシロに会ったユーストン駅での出来事を懐かしんでいた。
去年は志村が試験勉強のために寮に残っていたが、六回生の河上は、寮に居ると落ち着かないからと、志村とは正反対の理由で帰省していた。トモナミの部屋の四人は地元人なので皆実家に帰っていたし、三条は正月くらい実家で炬燵に入ってほっこりとしたいと言っていたし、真壁は大晦日に開かれるロックコンサートのプラチナチケットが手に入ったからと浮かれていた。
大学院生の坂井はどこの国へ何の目的なのか分からなかったが海外に出かけたらしく、岸は東大ではなく東京のアミューズメントパークに彼女と出かけるらしく、ナナモがそのパークの事を何も知らないことをもうすでに知っているはずなのに、色々と聞いてきた時にはナナモはさすがに辟易した。
オオエは年越しまであと数日という頃になって急にナナモの部屋からいなくなった。その前日まで珍しくナナモはオオエが買ってきてくれたビールとおつまみで、夜遅くまでたわいもない話しをしていたのにだ。
「来年から日記を付けようと思っているんです。一年の計は元旦にありってことわざがあるでしょ」
どうしてナナモが言いだしたのかはっきりとした理由はわからない。しかし、おそらく思い付きではないだろう。ナナモはあることをまだ気にしていた。
「どうしてそんなこと急に思い立ったんだい?」
オオエは、ナナモ君は案外古風なんだねえ、という顔をする。
「だって折角ボート競技に誘ってもらったし、あんなに一生懸命だったのに、ボートの大きさやオールの重さなんかがどれくらいだったかなってなかなか思い出せなくって」
ナナモはオオエに誘ってもらった手前遠慮気味に言葉を選んだ。
「新年からって言わなくても今からでも思い出してノートに書いておけばいいんじゃない」
「記憶って変わるっていう意味ですか?」
ナナモはやはりあのことを気にしている。
「原則は変わらない」
「原則?」
「例えば、クニツ君は解剖実習で解剖用語を覚えたよね。覚えたということはクニツ君の脳が記憶したことになるよね。でも、それは例えばトモナミ君が覚えても同じ記憶になるはずだよね。だって、解剖用語自体は変わらないから」
オオエは当然のような顔を向けてくる。
「ところがだよ。解剖用語を苦労して何度も勉強して覚えた学生と、それほど苦労しなくて覚えた学生とは、覚えたということの記憶に差が出るんだ。なぜだか分かるよね。覚え方は人それぞれで違うから」
「でもそれって記憶ってこととは違うんじゃないですか?」
「だから、普遍的は物事に対する記憶は変わらないんだけど、人はコンピューターではないから、忘れてしまうだろう。すると、そういう時に覚え方や感情が紐づけされると記憶が再生されることがあるからね。だって、人の場合は、どこで、なにをしたかだけが記憶ではないからね。なぜ、そして、どういう風にと、感情が必ず伴うからね」
「だったら、記憶に基づいて作られる記録も感情が伴っているんですか?」
「ああ、だから、記録なんて結構あやふやなものかもしれないな」
「じゃあ、たとえば偉大な医学者の伝記もでたらめなんですか?」
「そこまでは言わないけど。その医学者のある面だけを見ていた人々の記憶から創られたら偉人だけど、他の面だけを見ていた人々の記憶から創られたら愚人になることもあるからね」
オオエは、その医学者の業績は変わらないよ。でもね、業績と人間性は違うだろう。だから、いくら最終的に大発見して多くの人間に幸福をもたらしたとしても、だからといって、我儘だったり、研究費用にだらしなかったりしたら、迷惑を被った誰かはきっと、手放しで喜んだりしないだろうからね、と困り顔で付け足した。
「でも、クニツ君は解剖の試験以外はこれまで一発で合格したんだろう。だったら記憶力は良い方じゃないのかい」
きっと小岩が耳打ちしたに違いない。
「中田教授は、解剖用語はすぐに忘れるからって、だから、何度も何度も試験をするんだって言っていましたよ」
「ああ、そうだよね。だから、人間はまた勉強して記憶し直すんだけどね。それに、クニツ君は将来何科の医者になるのかわからないけど、自分が専門とする科に関する基礎学問はもう一度必ず勉強し直すはずだからね。特に外科系なら二度と忘れないくらい記憶しようとするはずだから」
オオエはもう少し何かを言いたそうな顔をしていたが、クニツ君は医の扉の事を気にしているんだってねえと、唐突に尋ねて来た。
ナナモは「はい」とすぐに答えると、「解剖実習のご遺体は、蘇らなくても語らなくても、とても尊くて純粋なんだと僕は思うんだ」と、さらに何かを言いたそうだったが、オオエの口元は珍しくへの字に曲がったまま動かなかった。
ナナモしか寮にはいなかったとしても、今年もきっとヌノさんが食堂に御雑煮だけは用意してくれているだろうと、だから今年はどの地方の御雑煮なんだろうとワクワク感はあったが、まだ六時過ぎで、陽が昇りきっていないし、蛍光灯の下、寮の食堂で一人で御雑煮を食べるのもどうかなと思って、部屋に戻らずしばらくカンファレンスルームのソファーに身を沈めていた。
でも、何も思い浮かばない。
ナナモは思い切ってオオヤシロへ初詣の参拝に行こうと玄関へ向かった。どっこいしょとそれでもため息が出たのは、オオヤシロへは行くなという去年マギーから言われた言葉が呪文のようにナナモに記憶されていたからだ。だから、折角玄関で靴まで履き終え、さあと少し軽くなった腰を持ち上げたのに、すぐにどすんと音が鳴るくらいの勢いで再び腰を降ろすと、靴を脱ぎ、今度はさっきより重くなった腰を持ち上げるのにどっこいしょと自らに掛け声をかけなければならなかった。
「あのー」
ナナモは部屋に戻ろうとしたら、急に、背後から声を掛けられた。ナナモは全く気配を感じなかったので、思わずびくっと身体を縮込ませながら本能的に身体を引いたのだが、正月早々こんな古ぼけた学生寮に強盗が押し込むとは思えなかったので、ゆっくりと恐る恐る振り返った。
「はい」
ナナモは出かけようとしていたので玄関には当然灯りが点いていた。だから、誰か分からないということはない。ナナモは顔ではなくその服装から宅配業者の人だとわかった。
「こちらにクニツさんはおられますか?」
ナナモはピーンときた。キリさんから今年もおせちが届いたのだ。だから、まだ十分に夜が明けていないこんな時間に?と、少し変だなと思いつつも、僕です、僕がクニツですと、先ほどとは打って変わってつり上がっていた瞳を下げ、自ら手を差し伸べた。
「あのー」
宅配業者の方はナナモをじっと見つめている。ひよっとしたら、クニツと書かれてあるので、日本人だと思ったのだろうか?でも、クニツだけではないだろう。きっと、クニツ・ジェームズ・ナナモと書いてあるはずだ。だったらハーフだとしてもおかしいとは思わないだろう。
寮母さんは不在なんですよと、ナナモはそれでもなかなか荷物を渡してくれない宅配業者に、少し待っていて下さいと言うと、急いで部屋に戻って、学生書を持ってきた。
クニツ・ジェームズ・ナナモとちゃんと書いてあるでしょうと、口には出さなかったがナナモは今年新しく発行してもらった学生章を見せた。
宅配業者は学生章の名前と顔を何度も見返しながら、最後には、置き配でも良かったのですが……と、それならどうしてナナモの顔と名前を何度も学生章で確認したんだと、さっさと置いて帰っても良かったのにと、愚痴がつい出てきそうだったが、この頃色々トラブルが多いものですからと、すいませんと言いながらも、まだ完全に信じ切っていないのか、少しナナモに渡すのをためらっているかのようにゆっくりと、荷物を玄関脇に置き、ここにサインか印鑑をお願いしますと、伝票を渡してきた。ナナモは、さっき置き配でもいいって言っていたんだったらサインなんか要らないだろうと思いながら、元日なのに、少し悪戯をしてやろうと、わざとJamesと書いたのだが、宅配業者はその伝票に見向きもせずに、ナナモが去年よりずっと重いキリさんからのおせちに気を取られている間に、また、音もたてずにナナモの前から姿を消していた。
誰だったんだろうとか、なんだったんだろうとか、ナナモは全く思わなかった。ただ、早く部屋に戻って、今年はどんなおせちが入っているのだろうとそのことが気になった。
ナナモは両手でしっかり荷物を持ちながら、でもそう言えば冷蔵宅配って置き配出来ないはずなのになあと思いながらも、去年と比べてそれほど冷たく感じなかったことが気になったが、とりあえず部屋に戻ると机の上に置いた。
「あけましておめでとう」
先ほど学生章を取りに戻った時には誰も居なかったので、ナナモは突然声を掛けられてびっくりした。
先ほどの宅配業者の声と似ていたのでまたとっさに身構えてしまったが、目の前にはオオエがいた。
「あっ、先生……」
ナナモは、新年のあいさつをしなければならないのに思わず口ごもってしまったが、それでもすぐに、あけましてもおめでとうございます。今年も宜しくお願いしますと、きちんと身を正して頭を下げた。
オオエはそんなかしこまらなくてもでも言いたげな顔をしていたが、ナナモが急にいなくなったのでと、声を掛けると、あれ、言ってなかったかな、大学から呼び出されたんだと、オオエが本来属している母校へしばらく戻って今までの研究内容を報告していたんだと、それで、僕の顔を見てお化けじゃないかって、そんな顔をしていたんだねと、笑っていた。
「正月早々おおきなお年玉だね」
オオエはナナモが部屋にキリさんからの荷物を重そうに抱えて入ってくるのを見ていたのだろう。だから、良かったら一緒にどうですかと、言いそうになったが、正月早々戻って来たということは何かこれから予定があるのかと思ったので、言いそびれていると、オオエは、今から初詣に行こうと思っているんだけどクニツ君もどう?と、反対に誘われた。杵築の初詣と言えば決まっている。だから、ナナモはどうしようかと、また、口ごもっていると、そうだね、クニツ君はカンファレンスルームの神棚に拝んでいるからもう初詣はすませたんだよねと、別に何度初詣に出かけてもいいはずなのに、助け舟を出してくれた。
ナナモはその優しさについ行きますって、言いそうになったが、すいません、オオヤシロには、友達とと、言い訳で言葉を濁すしかなかった。
「オオヤシロには行かないよ。でも、いいんだ、それより、食堂に行かない?ヌノさんが御雑煮とおせちを作ってくれているから、皆で食べようよ」
「皆って」
ナナモはヌノさんがおせち?それに、元旦から寮に居るの?と、大みそかには、食堂にいる気配など一切なかったのに本当だろうかと、キリさんからのおせちが気になったがオオエとともに部屋を出た。
「あけましておめでとうございます」
ナナモ達が食堂に入ると、トモナミの部屋の寮生全員が立って二人に挨拶した。
ナナモはああそういうことかと、でもどうして僕が誘われたんだろうと一瞬考えたが、まあ、気にしても仕方がないと、早々に新年の挨拶をすると、席に着いた。
僕だけが一応社会人だからと、オオエはナナモ達に小さなポチ袋を、他の寮生には秘密だよと言いながら渡すと、でも、今は中身は見ないでねと、念を押した。
ナナモはこの小さな紙袋はなんだと思ったが、お年玉と書かれてあったので、ああ、これがお年玉なんだと、他の四人は、ありがとうございますと、すぐにポケットにしまっていたのに、ナナモはしばらくそのポチ袋を眺めていた。
「ナナモさんって、子供みたいですね」
トモナミに、子供がもらうんだろうと反論しようと思ったが、それほど、二十歳を過ぎた大人であるナナモはニコニコしていたのかもしれない。
「僕の家ではクリスマスがメインだったから、お年玉ってもらったことがなかったんだ」と、もしかしたら子供の時にもらっていたのかもしれないが、その記憶がなかったし、素直に嬉しかったのでナナモはそう言った。
「へえ、だったら初めてのお年玉になりますね」
ナンジョウはナナモではなくオオエに向かって言ったが、オオエは別段顔色を変えることなく、初めてなんだったら、中身に関係なく嬉しいよねと、ナンジョウを見返していた。
「さあ、御雑煮ですよ」
ナナモの喜びが場を和ませるのかと思ったが少しきなくさい空気になりかけてきたところだったので、ヌノさんがいるという驚きよりも、丁度良かったと、いきなりの登場にナナモはほっとした。
しかし、すぐに、どうして今年はヌノさんが居るのだろうと、やはりトモナミがやって来たことと関係あるのだろうかと思いながら、でも、まだ、寮生活二年目だし、もっと寮生が多くいた頃には、寮母は一年中寮にいて、正月休みなどなかったのかもしれないと思い直した。
ここは学生寮ですからと、ナナモは部屋で缶ビールを口にすることがあったが、他の四人は未成年なので、御神酒は出しませんからと、別に言わなくても良いのにそうヌノさんから言われた。四人は少し不服そうだったが、ハイわかっていますと、オオエがはっきりと皆を制するように応えた。
ナナモは今年はどの地方の御雑煮なんだろうと、他の五人はみなこの周囲の生まれだから、えっと、杵築の御雑煮はと、鰹節とこんぶで出汁を取り、茹でた丸餅をお椀に入れ、その出汁を掛けて 最後に酒に付けて置いた十六島海苔を入れると、確かスマホで調べたことを思い出しながら、お椀の蓋を開けた。
眼鏡をしていたらすぐに曇ってしまいそうなほどの勢いで湯気が一気に立ち込めたが、眼鏡をかけていないナナモはお椀の中身がすぐに目についた。
「今年は関東風ですよ」
おそらくかつおとこんぶの出汁に濃い口しょうゆを垂らしたのだろう。確かにナナモでも想像がつくような匂いが鼻をくすぐって来る。その出汁の中で、ほうれん草、ぎんなん 鶏肉、ニンジン 角餅 なるとが、行儀よく収まっている。
「オオエさんとアライくんは鶏肉が食べられないって言っていましたよね」
「クニツさんも鳥は食べられませんよね」
ヌノさんの問いかけに頷いたアライが急にナナモに話しかけて来たので、ナナモは別に好き嫌いはなかったが、入っていたら正月というカミ様に近しい日なので確かに食べにくいなと、頷いた。するとヌノさんは折角ナナモの目の前に置かれていたのにその雑煮を素早く取り去って違うお椀を持ってきた。ナナモが開けると、確かに鶏肉は入っていなかったし、出汁の香りが若干先ほどよりも弱いように思えた。
それでもしっかりと出汁の味は効いている。ナナモはヌノさんを入れて七人だが始めてこんなに大勢の人達と元旦という日本古来の特別で厳粛な時を過ごそうとしている。
トモナミが鶏肉を食べずに残していたことがちらと垣間見えて気になったが、「さあ、おせちですよ」と、いつものヌノさんなら寮生のために料理を運んでなんてくれないのに、それもニコニコ顔で三段重をそれでもどうだと言わんばかりの勢いでナナモ達の前に置いた。
おせちの歴史は案外古く、季節の変わり目に邪気を払うためにヤオヨロズのカミガミにお供えをしたことから始まったもので、その後御雑煮もおせちも宮中から拡がり、今では日本中の人々が知り得る習慣になった。
だから、本来は皇家ではなく王家のしきたりだったのではないかと思わなくもないが、おおぶくちゃと同じで、ナナモがおせちを食べたからと言って意識を失うことはなかった。肉やハムなどの豪華なおせち料理の宣伝写真がスマホを拡げば頻繁に目につくが、いくら時代の変化だと言っても、そういうおせちは、本来の意味からは外れるのかもしれない。
しかし、ここは杵築だ。ヌノさんのおせちは一見豪華そうに見えたが、特産品である海産物がそう思わせるだけで、黒豆、叩きごぼう、紅白なます、里芋、酢レンコン 栗きんとんなどの海産物以外の縁起物の料理はきちんと詰められていた。
「それぞれの定番の料理には、無病息災、五穀豊穣、子孫繁栄とそれぞれ意味があるんだよ」と、オオエが一品一品小皿に摂りながら、皆に話してくれた。
ヌノさんが傍らでひっそりと頷いている。
「でもこれも親から教えられたから話せるし、僕の場合毎年親戚が集まって、おせち料理を囲んで元旦を祝う習慣があったからね」
オオエは黒豆をお箸で器用に一粒摘まみながら、キミたちよりも年上だから知っているんだということではないからねと、言いたかったようだ。
「忘れさる物もあれば 忘れえぬ物もありますし、伝えざる物もあれば、伝ええぬ物もありますからね」
アライがまた口をはさんだ。しかし、その事がきっかけで、ほとんど今まで話してこなかったナンジョウとフルタ、そして、なぜかヌノさんも交えて七人で、杵築やその周辺の風習などを幼い頃や中高時代の体験談も交えて話し出した。
ナナモはほとんど聞き役だったが、それでも杵築という古の面影が残る日本のある地方に伝わるあるある噺が聴けて楽しかった。
「ところでどうして元旦に実家に帰らないで、ここに居るの?」
ナナモは特に深い意味があったわけでもなかったし、皆でワイワイと盛り上がっている宴席に水を差すわけではなかったが、ふと口にした。
「実は、僕達、寮の規則を作ろうと思って今日集まったんです」
突然、ナンジョウが話し始めたので、ナナモは楽しくて開けていた口元が直ぐには閉じられなかった。ヌノさんがその瞬間目の前の視野から急に消えたことと、アライは何かナナモに言いたげな瞳だったが、トモナミもフルタも、もはや事前に話しあっていたのか、うんうんと頷いていた。
「もちろん新しく作り直すって意味じゃないですよ。でも、こうして寮生が増えたし、僕たちは地元出身者ばかりだけど、それなりに不都合な点が出てきますからね」
また、ナンジョウが前に出る。なぜか顔色がすっきりしない。ナナモはナンジョウとはあまり話したことがなかったので、トモナミの顔を見たが、トモナミは、ナンジョウに任せているという風に見えた。
ナナモは、じゃあ、僕たちはお邪魔だねと、オオエに視線を向けながら、席を立とうとした。
「クニツ君にはぜひここに居てほしいんだよ」
当然一緒に席を立ってくれるだろと思っていたオオエが逆にナナモを引き留めた。
「でも、僕は前にもオオエさんにお話ししましたけど、寮の規則がよくわからないんです」
ナナモは本当に知らなかったので臆することなく言えた。
「僕もここの寮生じゃなかったから、当然寮の規則は知らないんだけど、研究者だとしても一応社会人だから、意見を聞かせてほしいって、何度か相談されたことがあるんだ」
「相談?」
ナナモの問いに、また、アライの瞳がかすかに動く。ナンジョウだけではなくフルタもきりっと眉を上げだした。
「何かあったの?」
ナナモはトモナミのいる同部屋の四人に向かって言った。
まず、風呂ですけど……と、フルタが言いかけたところで、トモナミがそれは僕が悪いんだと、フルタを制した。
トモナミは、誰にも気兼ねなく風呂に入りたかったから、夜遅くに入っていたのだが、それがあたかも新入生に対する慣習のようになってきて、ある夜にナンジョウとフルタが夕食後すぐに入ろうとすると、えらく驚かれたようだ。ナナモはでもダメだって言われなかっただろうと尋ねると、まあそうですけど、大きな湯船にお湯を貯めていたんで、一応、何か変わったなって、言われたらしい。
ナナモは寮の規則を新たに作りたいと仰々しく言われたので、えっ、そんなことと、人見知りだったナナモですら、いちいち気にしていたら、寮生活なんて成り立たないし、息が詰まると、本当は寮から出られないことにやけになっていたのかもしれないが、それでもなるようになると身を任せていた。
「ナナモさん、そんな小さなことって今思っていたでしょう」
ナンジョウのとがった声がする。ナナモは思わず、えっ、という顔でごまかした。でももし風呂の使用時間や門限が寮の規則として決められたら、禊を行えなくなるし、苺院から夜遅くに戻ってこられなくなる。些細なことでも確かに寮生すべてが受け入れられるとは限らない。
「こんな立派な寮なのに、寮生が少なすぎるとは思いませんか?だから、僕たちはまず四人部屋で暮らしてみて、それで、もっと、寮生が多くなった時に、寮生が困らないように、ほんの些細なことでもいいから問題点を今からあぶりだそうとしてるんです」
ナナモの憂いがわかるはずもない。だからトモナミらは寮生がこれから増えていくという前提で話している。
「でも、寮生を募集しても、今時、寮生が積極的にこの寮に入ろうと思うかなあ。僕は社会人のオオエさんと同じ部屋だけど、年齢も違うし、生活も違うし、考えも大きく違うからまだいいんだけど、同じ部屋に同級生が四人も居たら息が詰まるかもしれないな」
ナナモは、ただ単にぐいぐい系のタカヤマのことが思い浮かんだからではないが、とっさにブレーキを掛けてみた。
「ナナモさんは寂しくないんですか?それと同級生だから楽しいってこともあるでしょう」
トモナミに言われて、確かにタカヤマと年末年始ほとんど話していなかったので、ナナモが悪いのだが、ずいぶん寂しい思いもしていた。
その一方で、ナナモには秘密がある。もちろんあの事だ。それに、昔、輪の中でいじめられた過去もある。だから、剣道部でも解剖実習でも、今度のボート競技でも、仲間が多くできて楽しかったが、全く自分一人だけの時間が無くなったらどうしようと、あの時以上にずいぶん思い悩むかもしれない。
寮生を一律にはできないのだ。トモナミたちはそれを一律にしようとしている。でもなぜだろう?なぜ寮生を多くしようとしているのだろう。寮生を多く受け入れることにどのような意図があるのだろう。やはり何かもっと他に目的があるのだろうか?ひよっとしたら、トモナミの部屋に集められた同級生四人は誰かに利用されているだけなのだろうか?ナナモはふと小岩が何気なく話していた噂話と重ねた。
「同級生が全員試験に一発で合格するとは限らないだろう。そんな時は同じ部屋で遊んでいる同級生が目に入るよね。そういう時はどうするんだい?」
フルタがクニツさんこそそんな小さなことを……という顔をしている。
「そういう時は実家に帰りますから。でも、もし帰れなくとも図書館がありますから」
えっ、お互いが教え合うんじゃないの、助け合わないの、仲間なんだろうと、一人になって勉強するんだったら同じ部屋にいる意味がないじゃない?と、誰に話しかけられたのかわからなかったが、ナナモは心の中でつぶやくしかなかった。
「クニツ君にお願いがあるんだけど」
今までほとんど黙っていたオオエが急にナナモに話しかけてきた。
「なんですか?僕はさっきも言いましたけど、寮の細かな規則は知らないですし、まだ、二回生だから、寮の先輩やヌノさんに去年なんとなく教えられただけですよ。それでも、あまり困らなかったし、不満もなかったから、もう規則を知ろうとも思わなくなりました」
実はいまでも知りたいことがナナモには山とある。でも、誰も詳しく教えてくれなかったのであきらめたのだ。
僕はどんな規則の中であっても、寮を出られないし、もし、先ほどの憂いが現実になったら、バケツに水を汲んで、寮の外で頭からかぶるしかないし、春、夏、冬と、授業のない土日に集中して苺院を尋ねるしかないはずだ。でも、杵築医科大学の寮は、そんながんじがらめな寮ではない。
ナナモはそう思っている。それにそうであったとしたら、ナナモだけが相部屋になるわけもないし、小岩はいまよりもっとねちねちとナナモに言い寄ってくるだろうし、なによりもヌノさんは、鬼教官のように、きっと怒鳴りながら寮中をチェックしまくっているに違いない。
「さっき、ナンジョウ君が言ったような些細なことを僕が聞いてそれなりに解決策を提案することもあるんだけど、実際、一人部屋にいるクニツ君の先輩たちはどう思うんだろうって、なかなかわからないからね」
僕にスパイになれっていうんですか?と、もし、ナナモの瞳に少しだけ顔を横に振るアライが映らなかったら、ナナモはきっと声を荒げて怒鳴るほどではないにしても、オオエに冷ややかな視線を送るだけで決して薄笑いなど浮かべなかっただろう。
「どうして僕なんですか?」
ナナモは一呼吸おいてから尋ねた。
「トモナミ君の部屋にいる四人がクニツ君がいいって」
ナナモは四人を見た。先ほどまで少しとんがっていたようなナンジョウもフルタも頬を緩めていた。
僕がハーフだから?と、また、ナナモは言いそうになったが、関係ないですよと、あっさり言われそうだったので、黙っていた。ただ、やはり、すぐにはうんとは言えない。それに、小岩からも同じようなことを先に頼まれている。
二重スパイ。
いやな言葉だが少し魅力的だ。しかし、ナナモは自分にはできないというか、合っていないような気がした。
現実と異世界の両方の世界にいるではないか?
ナナモはだから余計にそう思う。
「昔、戦場には、軍監といって、どのような戦闘が行われていたか、誰に戦功があったかを、冷静に観察評価して報告していた役目があったんですよ。ただね、戦闘の最前線に立つことがなかったんで、時として嫌われることがあるんですけど。だからってクニツさんにその軍監を押し付けているわけではないですよ。ただね、もしクニツさんなら誰にも恨まれることなく、その役目を果してくれるんじゃないかなあって、生意気ですけど、僕たちはそう思ったんです。きっと、先輩方も同じだと思います。だから、特に僕たちに肩入れすることもないし、先輩方に気を使うこともないんです」
なかなか煮え切らないナナモにやんわりと話してきたのは、オオエでもトモナミでもなく、アライだった。ナナモは、ここは戦場なのかと、その言葉が気になったが、それも些細な例えだと思い直した。
「僕は今のままでもいいと思うし、無理に変えなくてもいいと思っているし、トモナミ君たちが寮生を増やしたいと思って頑張ればそれなりに増えていくんじゃないかって思うんだ。だから、もし、寮生が本当にこれから多くなって、もっと寮の規則を明確にしなければならなくなったら、その時は、先輩、後輩なんて関係ないし、ましてや忖度など考えないで、話し合いと多数決できちんと決めていいと思うんだけど。ただね、規則も大切だけど、そうなれば、この寮の維持費はもっと必要になってくるし、ヌノさんの仕事も多くなるからね」
ナナモは、わかりましたという代わりにそう答えた。ただ、絶対やりませんとは言わなかった。きっと、今ナナモが言ったことはオオエがすでに四人に伝えているはずだし、ナナモが危惧することなく、小岩の言う通り、あの企業が復活して寮を金銭的に大いにバックアップして運営し直そうとしているのかもしれない。
いずれにしても、僕は普通にしていればいいし、寮生とも普通に話せばいいし、話したい。すべてをさらけ出すことはできないが、ナナモは小岩であろうがトモナミであろうが、訊かれたことはできるだけこたえようと思った。
「さあ、デザートですよ」
今までひっそりと雲隠れしていた出てこなかったヌノさんが突然大きなお盆に、何やら大きな器一つを小さな器数個で囲むように載せてナナモ達のところに持ってきた。大きな器からはほんのりと湯気が立っている。
「最初に出したお雑煮にお餅を入れて温め直したのよ。小鉢にはクルミをつぶして作ったくるみだれっていう、甘じょっぱい少しねっとりしたたれが入っているから、それにお餅を付けて食べてみて」
ヌノさんの言う通り、小鉢には少し粒がみえる薄褐色のたれが見える。
「さっき、デザートって言ったけど本当はお正月に食べる縁起物なの」
「僕は知らないな」
オオエが言ったので杵築の縁起物ではなさそうだ。だから、四人がナナモの方に視線を向けたが、ナナモは当然かぶりを振る。
「岩手ではお雑煮をいただくときに一緒にくるみだれも出すそうよ」
岩手……と、ナナモが何かを思い浮かべようとした時かすかにつーんと頭痛がした。もちろんくるみだれのせいではない。だからか、すぐに頭痛は収まったし、くるみだれも、出汁がしっかりとしみていた餅も、同時においしさを味わうことができた。
「ごちそうさま」
ナナモがきっちりと手を合わせながら言ったので、ほかの五人も同じようにごちそうさまと口をそろえた。
「僕たちはこれから初詣に行きますけど」
ナナモさんは本当に来ないんですねというト書きがトモナミから聞こえてくる。
ナナモは、行ってらっしゃいと、寮の玄関から見送った。
ナナモは五人を見送ったあと寮に残っているヌノさんと話したかったが、色々な意味でお腹一杯になっていたので、横目で食堂の方に視線を送りながら部屋に戻った。
ナナモの机の上にはキリさんからのおせちが置いたままだった。去年より重いし、大きいし、一人で食べきれない。それに、しばらくこの部屋の中に置いておいたからすぐにではないが傷んでいないだろうかと心配になって、とりあえず冷蔵庫に入れて置こうとその箱を持ち上げた瞬間、スマホが鳴った。短音だったのでメールだろう。
もしかして、おせちの匂いを嗅ぎつけたタカヤマかもしれない。二人でこの量を平らげるとなると結構時間がかかる。もし、カリンの事を相談されたらどうしようと、ナナモはなかなかスマホを持てなかった。
それでも、もうこうなったらどうにでもなれと、ナナモはスマホを起動させた。
メールの発信元はキリさんだった。相変わらずきれいな英語の文章だ。
「先生から今年は友達の所には行かないはずだからおせちは要らないとご連絡があったのですが、やはりお一人で寮に居られたらお寂しいのではないかと、それでジェームズさんが正月に寮におられるのか寮母さんにお尋ねしたところ、今年は寮の皆でおせちを食べながら新年を祝おうと思っていますというご返事をいただいたので、おせち料理は遠慮させていただき、代わりにみかんを送らせていただきました。おせちのあとのデザートとはいかないかもしれないが、お正月の風物詩みたいなものですから。それと、これは先生からのとても大切な言付けですが、あまり後ろを振り返らないこと。でも、どうしても迷いが生じるなら、駆け足であの社に詣でて一生懸命お祈りすること。とのことです。今年一年良い年を迎えられますように願っております」
ナナモはなぜマギーはタカヤマの所にナナモが自ら行かないことを知っているのだろう、どうしてキリさんはヌノさんに連絡したのだろう、そして、ヌノさんはオオエ達がずいぶん前から元旦を寮で過ごすことを知っていたのだろう、それにそのことを知っていたとしてもなぜおせちを作ったのだろうと、色々とひっかかる点は多々あったが、とにかくほっと溜息をつくだけにして、キリさん宛にありがとうございます。今年も元気に年を越すことが出来ましたと、丁寧な英語で返信した。
ナナモがその箱を開けると、黄色の球が幾重にも重なって輝いていた。ナナモはその中からまるで初日の出を拝むようにまるまると太ったひとつを取り出して丁寧に薄皮をむくとそのぷりぷりの果実を口に含んだ。ゆっくりと奥歯で押しつぶすと、口の中一杯に甘い果汁が拡がり、ほんの少しだけ柑橘の酸っぱい香りが鼻から抜けて行った。
地元出身なのに、オオヤシロへ初詣に行かないで彼らはどこに初詣に行ったんだろう?
やはり彼らについて行けばよかったんだろうかと一瞬脳裏を横切ったが、それよりキリさんからのメールの最後の文面が気になって、ナナモはしばらく体が動かなかった。それでもまるでほろ酔い気分に浸ったかのように反射的に手だけは伸びて、先ほどより神々しさを増した黄金色のみかんをしっかりと掴んでいた。




