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01.十八歳まであと十日

 天井まで敷き詰められた五連のステンドグラスは息を飲むほど圧巻のスケール。

 深紅のバージンロードは純白のドレスをより一層美しく見せ、先に進むにつれて高くなる天井は、まるで空への道を歩むのではないかと錯覚させられる。

 

 聖歌隊の歌声が響き渡る教会の参列者席は、年配の家令と侍女長のみ。

 祭壇へと続く階段の前には白いテールコートが似合いすぎる黒髪の新郎が待ち構え、ウェディングドレスを身に纏った私の腕にはブーケではなく、白いおくるみに包まれながら新郎と同じ赤い目で私をジッと見つめる黒髪の赤ちゃん。


 どうしてこんな夢のようなことに?

 私は叔父がお金目当てで決めた政略結婚から逃げ出したかっただけなのに――。


    ◇


「なんなのよ、この食事は!」

 ロイター男爵邸にフローラの頬をバチンと叩く音が響いた。

 

「肉も果物もないじゃない!」

 男爵夫人に続き、男爵令嬢シャーロットがフローラの髪を引っ張る。

 ロイター男爵邸では、よくある光景だ。

 

「本当に使えない娘だこと」

「フローラ、お前は兄の娘だから特別にこの家に置いてやっているんだぞ」

「はい。申し訳ありません。ロイター男爵」

 フローラが深々と頭を下げると、三人はようやく席に着き、昼食を食べ始めた。


 ロイター男爵はもともとフローラの父だった。

 母が不慮の事故で亡くなったのはフローラが三歳の時、父が病気で亡くなったのは五歳の時だ。

 後を継いだ父の弟が身寄りのないフローラを引き取ってくれたが、男爵令嬢ではなく使用人として育てられた。

 

 父が生きている頃にいた使用人たちは段々減り、今では年配の家令とフローラのみ。

 家令は領地、収支、鍵の管理を、フローラは食事、掃除、洗濯、買い物を担っているが、とても二人では手が回らなかった。

 

「旦那様。今年は干ばつで作物があまり取れず、領地収入がほとんどないとお伝えしたはずですが」

 家令が請求書の束を見せると、ロイター男爵はふんっと鼻を鳴らす。

 

「必要経費だ」

「ですが、もうこの男爵家にはあまりお金がなく、食費すら……」

「うるさい! もうすぐ金がたっぷり入るから待っていろ!」

 ロイター男爵がバンッとテーブルを叩くと、具があまり入っていないスープがこぼれる。

 布巾を持ったフローラが急いで駆けつけると、ロイター男爵はフローラを上から下まで舐めるような目でじっくりと眺めた。

 

「こんな痩せ細った汚い女に領地収入五年分も払って後妻にするなんて、ランス伯爵は物好きだな」

 フローラの手入れされていない白髪はボサボサで、目は珍しい紫色。

 ガリガリに痩せ細った身体は、女としての魅力ゼロ。

 顔も薄汚れ、お世辞にも可愛いとは言い難い娘を、ランス伯爵から譲ってほしいと言われたロイター男爵は、もちろん二つ返事で回答した。

 

「旦那様。ランス伯爵は六十歳を越えておりますし、孫も何名かいらっしゃいます。何かの間違いでは?」

 心配そうな顔でフローラを見ながら家令が尋ねたが、ロイター男爵はそんなことはどうでもいいと一蹴する。「良かったわね、フローラ。お嫁に行けて」

 毎晩ベッドで可愛がってもらうといいわと男爵夫人がニヤニヤ笑う。

 

「ねぇ~お父様、新しいドレスが欲しいの。フローラを売ったお金で買ってくれる?」

「あぁ、いいぞ。王都で一番のドレス店で買おう」

 テーブルを拭き終わったフローラは、布巾をグッと握りしめながら壁際に戻る。

 俯きながら三人の食事が終わるのを待ち、食器の後片付けを終えたフローラは冷たくなった手に息を吹きかけた。

 

 

 十八歳の誕生日まであと十日。

 十八歳はこの国で成人と認められ、結婚できる年齢だ。

 身寄りがない私を引き取ってくれた叔父にはきっと感謝をしないといけないのだろうけれど、正直ここでの暮らしは幸せとは言い難いものだった。

 

「フローラお嬢様」

「あれ? どうしてこんな時間に?」

 祖父の代からこのロイター男爵邸で働いている家令は、何もしないロイター男爵の代わりに領主の仕事を代行しており、普段この時間は書斎にこもりっぱなしだ。

 

「これは?」

 家令に差し出されたノートを見たフローラは首を傾げた。

 数字しか読むことができないフローラは、古いノートをもらっても読むことも書くこともできない。

 フローラには父が生きていた五歳までしか学ぶ機会がなかったからだ。

 

「お嬢様の母上様の日記帳です」

「お母様の? どうしてあるの?」

 叔父が男爵を継いだ時、両親の物はすべて燃やされ肖像画一枚すら残っていないと聞いていたのに、どうして母の日記帳が残っているのだろうか?

 

 フローラは半信半疑で家令から日記帳を受け取る。

 家令は日記帳の表紙を丁寧に捲ると、表紙の裏に箔押しされた紋章を指差した。

多くの作品の中から見つけてくださってありがとうございます。

コミックファイアで連載中の漫画と同タイトルですが、本作品は漫画(恋愛版)よりもざまぁ強めのファンタジー版です。

恋愛版はファンタジー版をもとに恋愛中心に書き直した物のため、前半はほぼ同じですが、途中から分岐します。

恋愛版・ファンタジー版、どちらも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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