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56.彼は、待ち続けた


 ――絆がヒナタ達を家に招き入れる数時間前。



 昼休みに屋上で絆と別れた後、名乃は壁に立てかけていた自分の鞄を持つと悠々と校舎の階段を降りて行き、屋上の鍵を職員室へ返却してから靴を履き替えて校舎を出た。

 体育の授業でグラウンドに集まっている生徒達からチラチラ見られているのを横目に正門まで来ると、そこには不機嫌そうにじっとこちらを見つめる小柄な男子生徒が一人待ち構えていた。


「遅いですよ、柊木さん」


 まだ声変わりしきれていない透き通った声色に陰りを含ませた男子生徒の言葉に、名乃が笑顔で答える。


「すみません月下(げっか)君、少し遅れてしまいました」


「まったく、貴女からお願いしてきたんですから時間くらいちゃんと守ってくださいよ」


「どうしても外せない用事が急遽出来たので、先に済ませてきちゃいました♪」


「なら連絡くらいしてくださいよ、もう」


 そう言って額を押さえる制服姿の男子生徒。


 彼の名は二宮(ツグミヤ) 月下(ゲッカ)

 絆や名乃より一つ上の学年で、直毛サラサラな大人しい髪型をした真面目で寡黙な性格の持ち主である。大きくて煌びやかな瞳は常に油断のない眼差しを周囲に向けているのだが、名乃よりも低いその小柄な身長と、一箇所たりとも肌荒れのない整った顔立ちは女子から非常に人気が高く、隙があれば何かとプニプニと頬を(つつ)かれているマスコット的な存在と成り果てていた。

 その事を彼自身は非常に迷惑極まりないと感じており、何度も怒気を交えながら「やめろ!」と訴えているのだが皆目効果はなく、むしろ『怒った月下くんもカワイイ〜♪』などと新たな邪魔者を呼び寄せてしまう始末である。

 因みに彼には夕陽(ユウヒ)という双子の姉が居るのだが、群がる女子生徒達のリーダーがあろうことか自分の姉という最悪な関係である。


 そしてそんな双子姉弟は、会長命令により副会長を任される身となっていた。


「それにしても、まさか昨日の今日で生徒会が動いてくれるとは思わなかったので驚きました!」


「僕だって驚きましたよ。でもあの会長が嬉々としてゴーサインを出してきたんですから、協力しない訳にはいかないじゃないですか」


「それで午後の授業を簡単に特別欠席扱いに出来るなんて、ホントに会長って何者なんですか?」


「さあ、なんなんでしょうね。世界的な企業財閥のご令嬢なのか、はたまた国家権力の中枢の家柄なのか、はっきり言って考えるだけ無駄だと思いますよ?」


「わぁ、凄いんですねー」


「何言ってるんですか、学校じゃ貴女も大概凄い人じゃないですか」


「私なんて何にも凄くありませんよ。それを言うなら月下君こそ皆から好かれて大人気じゃないですか」


「あんなものは嫌がらせ以外の何でもない。それもこれも、全部姉さんのせいだッ……!」


 そう言って俯きながら歯を食いしばる月下だが、もしこの姿をストレスMAX状態のOLが見かけでもしようものなら、たちまち負の感情は浄化されキュンキュンと母性本能を刺激されていた事だろう。因みに名乃は一ミリも動じていない。


「だいたい僕は人気者になんてなりたくないんですよ」


「そうなんですか?」


「当たり前じゃないですか。平穏が一番です。貴女は違うんですか?」


「私もどちらかと言えばそうですよ。出来るなら誰にも邪魔されずに過ごしていたいです」


「やっぱりそうですよね。ああ、本当に人生というものは理想通りには行きませんね」


「ええ、それについては激しく同意します」


 そうして二人して深い溜め息を吐く。

 片方がクリーンな平穏を望んでいるのに対しもう片方はまさしく傲慢の塊みたいなものだが、人生に思い悩んでいるという点に於いてはお互い共通するものがあった。


「それで今回の件ですが、どうして二年の貴女が突然彼女に会いに行きたいだなんて言い出したんですか? 本当なら後日僕と姉さんが訪問する予定だったのに」


 大通りの歩道を二人並んで歩きながら月下がずっと疑問に思っていたことを尋ねる。

 というのも、これから会いに行くのはとある理由により新学期早々登校拒否をしている三年の女子生徒で、担任の教師が何度か家まで訪問しているが解決の目処が立たないということで生徒会――主に会長の独断――が動き始めたのだ。

 しかし、予定では焦点となる女子生徒と同じ学年の生徒会役員が家に向かう筈だったにも拘らず、昨晩いきなり生徒会のグループメンバー宛てに二年の名乃から申し出があったのだ。

 そして会長が理由も訊かず即座に承認した為に、今に至っている。


 因みに、そもそも何故生徒会にそのような権限があるのか、その全ては生徒会会長を除く三人しか知らない。しかしその特殊な仕組みで過去に校内の問題を解決した事こそあれ、悪化したことなど一度もなかったので教師達も『自主制を尊重』という名目で黙認しているのである。


「私の方で少し気になる事があったので、出来れば直接お話しをしたいと思ったんです」


「貴女が藍川さんと面識があるとは知りませんでしたが、今の彼女の境遇に少しでも良い兆しが見られるのなら会いに行く価値は十分にありますね」


「はい、もしかしたら力になれるかもしれません」


 そう言って、名乃は先輩である月下に力強い意気込みを見せた。
















 ――そんな訳がない。















 今更かもしれないが、大前提として、名乃が絆や自分自身と関係があるもの以外の事で本気を出すことはない。

 表向きはお願いをされたら快く引き受ける人柄を演じているが、間違っても自分から無益で無意味な問題に首を突っ込むようなお人好しではないのだ。

 当然、(くだん)の女子生徒の事など知ったこっちゃないし、そもそも話したこともない。



 ――では今回、わざわざ名乃が名乗りを上げた理由は何か?

 


 ――それは、犯人探しである。



 昨日絆と校内デートを満喫しようとした手前、いきなり横からちゃちゃを入れられ見事にご破算した時の名乃の怒りは相当なもので、霊だろうが何だろうがデートを邪魔してくれやがった犯人を必ず見つけ出し二度と同じ過ちを起こさせないよう絶望と恐怖を刻みつけることに打ち震えていた。

 キーワードである『千歳くん』とか言う分かりきった情報の元、クラスメイトの千歳彼方を皮切りに例の不可思議な現象が起きたクラスに在籍している三年の女子生徒全員と会話していき、少しでも犯人と思しき片鱗を見せたら即刻次のステップへ切り替わる算段を昨夜の内に立てた名乃は、生徒会の議題に上がっていた『藍川』という女子生徒も同じクラスに在籍していたことを覚えていた為に、一人も逃さない気持ちで志願したのだ。



 ――そう、一人たりとも逃すつもりなどない。



 残念ながら本日初手で千歳が休みという拍子抜けなスタートを切ってしまったが、お昼を含む全ての休み時間を駆使して標的とする女子生徒全員と会話することは出来た。

 しかしこちらも巧妙な罠を張り巡らせながら会話を進めてみたものの、誰一人としてヒットすることはなく満足な釣果は得られなかった。


(呼び方が『千歳』もしくは畏怖からなのか『千歳さん』呼び。数人は『千歳くん』と呼んでいたがどれも親密な繋がりはない反応だった……)


 とはいえ、例の三年のクラスに居なかったとしても何も問題はない。

 次はもう一度放課後に例の教室へ訪れ、くだらない女の霊とやらが接触してくるのかどうか試すだけである。その際、念の為にキズナとあのいけ好かない守護霊達にも同行してもらうつもりだが、キズナなら自分のお願いを絶対に断れないので何も不安要素はない。彼女達の力を借りるかもしれないのは少々気が引けるが、それも許容範囲である。

 もしそれでもダメなら他のクラスの奴ら。

 それでもダメなら他の学年の奴ら。

 もちろん教師も例外ではない。

 最低でも学校内でそれらしい奴が関係していないか確認しないと気が済まない。


 常人ならあり得ない労力と時間の消費に(さじ)を投げるところだが、名乃にとってはそれが至極当然な行動原理であり、愛の現れでもあったのだ。


(私とキズナの邪魔をした事、謝罪は無意味と思ってね♪)


 笑顔の裏にドス黒い感情を秘めながら、名乃は着々と歩を進めた。





はい。

というわけで、少しばかり名乃サイドをお送りしております。

なんていうか……月日が経つのは早いもんですね。


それゆけ!ナノの冒険譚!


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