リック
父を見送った後、私は急いで部屋に戻り、身支度をし始めた。
クローゼットを開き、手に持ったのはあの青い服。
だが、この後に及んで私は少し躊躇し始めた。
理由はやはり…姉だ。
(もし見つかったら……)
父が配慮をしてくれるとは思うが、万が一、姉に見つかった時を思うと手に取った服に着替えるのを思いとどまってしまう。
だが、そんな思いの中、迎えの者が来たらしくノックする音が部屋にも届いた。
出ない訳にもいかず、私は着替えを済ませることなくそれに対応した。
「す、すみません、遅くなり」
慌てて開けた扉の向こうには若い男性が一人、立っていた。
「あなたが、レナ、さん?」
声をかけた男性は、少しだけ声色が高く、スラッとした体型でいて、着こなす黒いスーツ姿がとても似合っていた。
「あ……」
思わず私は声を出し、その姿に見惚れていた。
「……」
だがそんな男性は私に何も声を発せず、少し見下ろす形で見てきた。
互いに声を出さずに少しの間の時間が流れたが、それをかき消したのは男性の咳払いだった。
「おほんっ。……あの、レナさんで間違いで無いですよね?ロイド様より依頼を受けて迎えに来たのですが」
その言葉でようやく私は我に戻れた。
「あ、はいっ!そうです」
答えた声は高く、そして背筋をピンと伸ばし立った。
「……そんな緊張しなくても大丈夫ですよ。ですが、時間がありますので馬車に乗ってもらえますか?」
私が開けた扉を持つと、更に開き、その先には一台の馬車が止まっていた。
2頭の馬が引く馬車は黒く、日に当たると艶々していて汚れなど何処にも見当たらないくらいだった。
「さぁ、行きましょう」
男性が私に手を差し出し、馬車へと導こうとした。
だけど、私は男性と接する機会が全くと言って良いほどなく……。
そんな私に対し、一言謝りを入れた後、話し始めた。
「申し遅れました、私、リックと申します。アルバート様の元で執事をさせて頂いてます」
自己紹介の後、片膝をつき、私に対し頭を下げてきた。
「そんな!頭を上げてください!?」
そんな私の言葉の後、リックさんはゆっくり立ち上がるとニコッと笑顔を私に向けた。
その笑顔が爽やかだった。
白い歯、笑うと少し細くなる目は碧眼であり、真ん中で分かれた髪は短く、私と同じブロンズ色をしていた。
「同じ髪色ですね」
「え、あ、はい」
緊張する私をほぐす為に世間話を振ってきたが、まだ私はカチコチだった。
すると、馬車の運転手が私達に向け、少し大きめの咳払いをしてきた。
「早くしてもらえないか?」
「すみません、すぐに」
運転手に催促されたリックさんは馬車に駆け寄り、扉を開け、私を待った。
「レナさん、どうぞ」
これはもう姉うんぬんなど言っておれず、馬車で待つ二人の元へ私は歩みを進めた。
ただ、父が買ってくれた服を着ていく事もなく……。




