実は…
ナイフとフォークの音を鳴らし、アルバート様は私の前で食事をしていく。
その様子を私は少し離れ見守る形でいた。
「……そんなとこで見ていても困るが」
「あっ、すみません」
私は部屋を出ようとするが、何故か引き止めてきた。
「リースは新しい奴には厳しいだけだ。次第に収まる。あまり気にするな」
「えっ」
「それにお前も昨日から色々あって腹空いているだろ」
そう言うと自身が座る隣の椅子を引き、私を招いてくる。
「な、なんで?」
「立つよりは楽だろう?座れ」
「いや、私は……」
「お前は俺の担当だと伝えたはずなんだが?雇用主の言葉に逆らうのはあまり良い選択ではないと思うが?」
カチャっとナイフとフォークを下ろし、私の事を真っ直ぐ見てくる。
その目は朝が弱いという人の目ではなく……。
ストンっと私はその引かれた椅子に座った。
すると、また食事を再開していく。
だけど私はその光景よりもある匂いがすることに気付いた。
(……薔薇?)
周りを見てもそれらしい物はない。でも確かに私の鼻には薔薇の匂いが入ってくる。
すぐ、隣からのようだ…。
(香水?)
つい鼻をスンっと嗅いでおり、その仕草がアルバート様にバレた。
「なんだ、お前は鼻もいいのか?」
「えっ、じゃあ、アルバート様から?」
そういうと右手に持ったナイフを下ろし、赤いガウンの肘辺りを私の方へと近付けてきた。
「……薔薇」
「あぁ、気に入ってるからよく付けている。
物言いといい、鼻が良いといい、変わってるな、お前」
「……すみません」
「謝る事などない。ただ、今までにはない奴だから退屈はしなそうだとは思う」
なんだか気に入ってもらえてるのか、と思える発言だった。
でも私は男性と話すのは正直得意ではない。
男性に限らず、人と話すのは苦手だ…。
「……昨日、レオナが血相変えてお前を雇う事を何度も聞いてきたな。何故だ、と」
「あっ」
「なにか言い争いでもしたのか?……ロイドの件といい、なんというか」
食べつつ少し頭を振り、やれやれ…といった顔を見せてくる。
「あの……」
「なんだ?」
「あれは姉じゃないんです。違うんです」
「……何を言ってる?姉だろ」
「そういう意味じゃ…」
変な押し問答を続けていると、開いたままにしてあった扉からエレーナさんがやってきた。
「ここにいたんだ。……ってなんで隣に座ってるの?」
その言葉に私はすぐに立ってアルバート様から離れた。
「気にするな。俺が座らせた」
「そ、そうですか」
「で、なにか用か?」
「あっ、レナさん。早く」
なにやら焦っているようだ。
「あとで取りにこいよ」
「はい……」
私は慌てているエレーナさんに着いていき部屋を出ていった。
「どうしたんですか?」
「どうしたって……帰ってこないから」
「用があるんじゃ」
「あるけど、……いいから」
腕を掴みバタバタと移動していく先は屋敷の外の花壇。
「なんでここに?」
「聞いてない?アルバート様はお花が好きなの。廊下にある花を摘むのも私達の仕事」
「あっ、そういえば聞いたような」
「廊下だけじゃないわ、お部屋にも持っていってあげて。そろそろ変えないと」
エレーナさんは私から離れていくと、ワンピースの裾を片方で縛り、花壇の中の花を踏まないように摘んでいく。
言われた通りに私も花壇に近づき、一本、また一本と花を摘む。
「……赤が多いわね」
「えっ、だってアルバート様、赤が好きなんですよね?」
「そうよ、でもそればっかだと見栄えが」
「そ、そうですか……」
チクリと言われ、ムッとしてしまったがエレーナさんの後についていき、廊下の花やアルバート様の廊下にある花瓶の花を入れ替えていく。
ーーーーーー
初日からバタバタと動き、一気に疲れが襲ってくる。
それに寝不足もあり、つい大きな口を開けてあくびをしてしまった。
「……眠そうね」
「あまり寝てなくて」
私の部屋でエレーナさんと朝ごはんを取りつつ、ここでの仕事について教えてくる。
その中でアルバート様の補助について語ってきた。
「ほんと、アルバート様の隣にいれるなんて羨ましいな」
「そうですか?」
「そうですかって……ここにいる人達でも限りある人しか部屋には入れないし、ましてや一緒になんて……」
「……もしかしてエレーナさん、アルバート様を」
その言葉にすぐに手で口を押さえ込みにきた。
「言わないで!」
押さえながら私の部屋の扉の方を見ていく。
「絶対に他に言わないで」
目が真剣だ。
押さえる手はググッと力を込め、より私の口を塞いでいく。
だから私も縦に振り、了解した。
すると、手を離し、その話は終わりと告げ、食事を続けていった。




