姉妹
「おーい、レナ!酒を早く!」
「はい、すぐにっ」
父に呼ばれ厨房からワインを一瓶持っていく私はレナ=イシュバール。
国土が海に面した国、レスター国に住む15歳だ。
レスター国は海に面している為か海に関した仕事を生業にする人が多く、酒を求む父もそんな一人だ。
「はい、こちらを」
家の大広間の上座に座る父、ロイドにワインを渡す。
父は恰幅もよく、中年男性によくある下腹が出ているが精悍な顔つきで年齢ほど歳をとっているようには見えなかった。
今この場は宴会場となっており父を始め、多くの人達が座り談笑をしている。
「ロイドさんや、レナはもういくつになった?」
「あー…おい、レナいくつになった?」
「15、になります」
「だそうだ」
「それにしても若いのに家に篭りきりとは大変だな、レナも」
「いやいや、こいつは母親代わりだからな。家の事は任せている、そうだろう?レナ」
「……はい」
そう、この家に母親はいない。
私が小さい時に亡くなったそうだが、記憶になく母の顔を見た事もない。
「そうか、そんな綺麗な長髪をして勿体無いなぁ」
「あぁ、母に似てブロンズの髪をしているからな、こいつを見ていると母親を思い出すことがあるくらいだ。……それより」
父は饒舌に語りかけた後、私に目を送ってくる。
これは大事な話がある時に使う合図だ。
「……失礼します」
空気を察し、私は大広間に並ぶお皿を数枚持ち立ち去っていった。
多分これから話す内容は利権絡みだと思われる。
父は先代から受け継いだ造船所を営んでおり、それなりに権力を有している。
そして今大広間にいる人達は国の要職を担う人達であり、皆、父の顔色を伺いながら話しかけている。
「……っ」
「いやいや」
大広間を出て壁に沿う形に身を潜めた私は盗み聞きをしてその会話を聞こうとした。
けど……
「何しているのよ、あんたは?」
「お、お姉様」
姉のレオナだ。
と言っても私達は双子である。
だが、二卵性の双子であるため容姿はさほど似ておらず生まれたのが数分違うだけで私は『妹』になった。
似てないとはいえ、同じブロンズの髪を持つ姉の髪は長くそしていつみても艶々しており、毛先を巻きウェーブ状にするのが大好きみたいで……。
問いかける目はエメラルド色をしているが、私はブルーだ。
「そんなとこで何してるのか、って聞いてるんだけど?」
「いや、……別に」
姉に迫られ目を伏し目がちにしつつやり過ごそうとしたが、今日は姉の機嫌が良くないみたいで……。
「ちょっと待ちなさい」
姉は私の行く手を遮るように壁に右手を付き、私を引き留めてくる。
「危ないから、お姉様」
持つお皿がカタカタと音を鳴らし倒れそうになる。
だけどそんなことお構いなしに姉は続けてくる。
「あんた、私が頼んだ事終わったの?」
「えっ……」
「えっ、じゃないわよ!言ったわよね。今日は大切な友人が来るからお茶菓子と紅茶を買って来なさいって。
まさか忘れたの!?」
外向的な姉は父を介して仲良くなった要職達の子を頻繁に家に招いている。
一方で私は内向的であり、友人と呼べる人は一人もいない。
今日はそんな友人が数人来るそうで……。
でもそんな話、私は聞かされておらず、この場で聞いたのが初だ。
「そんなこと、今言われても……」
「はぁ!こうやって聞き耳を立ててるんだから気付きなさいよ!」
私達の争う声は大広間にも届いたようで、数人が部屋を出て様子を伺ってくる。
そんな人に気づいた姉はスッと私から離れ、要職の人達に近づいていき、言葉巧みに納得させ部屋へと戻していく。
終わると振り返り私をジッと睨みつけてくる。
目の前で裏表を見せつけられる様に私は息を呑み、そんな私に近づいて『さっさとしろ!』と告げたあと去っていった。