第1章 衝撃! 恋文?
さて、今日もバイトに行こう!!
私はまだ暗いうちに目を覚ますと、朝食を作る。
お日様が顔を出すころには、朝食は出来上がる。
物心ついたころから食事を作っているから、手慣れたものだ。
私の秘密の特技だ。
食事ができたらおばあちゃんの部屋に食事と薬を届ける。
朝食と一緒に昼食も作っておく。
冷めても、おいしく食べられるようなものを用意しておくのがポイント。
おばあちゃんの食事の介助をしたら、薬を飲んでもらう。
そうしたら、私はお隣のおばちゃんに声をかけ、バイトへと向かう。
私がミソカツ亭に着いたころには、朝食の準備でおやじさんはフル回転。
私は、洗い物や盛り付けの手伝い。
朝の8時ころが朝食のピークだ。
30分くらいは嵐のよう。
それが過ぎると今度は洗い物の山を片づける。
まだまだ水が冷たいけど、そんなことは気にしていられない。
1時間くらいひたすら洗い物をする。
そのあとは休む暇もなく部屋の掃除。
部屋の掃除が終われば今度は洗濯物。
大小全20部屋あるここミソカツ亭。
洗濯物も半端ない。
洗濯はお昼近くまでかかる。
洗濯が終わって一息つくと、すぐお昼ごはんの時間。
怒涛の嵐がまたやってくる。
1時間くらい嵐のような時間が過ぎると、また洗い物の山。
それを一心不乱に片付ける。
それが終わると、今度は洗濯物の取り込み。
そして部屋のセットへと続く。
夕食前に一息つける時間があるくらい。
それが終われば一日のうちで一番忙しい時間帯に突入する。
そして、閉店。
閉店後に洗い物の山を片付ける。
ミソカツ亭のおやじさんの計らいで、仕事が終わった後、お風呂を借りることができる。
なので、私が仕事を終えた後、ミソカツ亭のお風呂を借りて疲れを取ってから帰宅。
おばあちゃんの夕食は、隣のおばちゃん任せになっているのが心苦しい。
でも、隣のおばちゃんはいやな顔一つせずに面倒を見てくれる。
私が冒険で家を空けたときには、おばあちゃんの面倒を私の代わりにしてくれた。
本当頭が上がらないよ。
そんな怒涛の生活をしているある日、一段落して昼食をとっている私たちの円卓にミソカツ亭のおやじさんがやってきた。
「手紙を預かっている。」
そう言うと、その大きな手に握られていた封筒は樹皮紙製のモノだった。
樹皮紙と言えば、獣皮紙よりも価格は高い。
高級紙である。
そんなものを送るなんて、裕福な人なのかな?
封筒の宛先は『金のシャチホコ様』しかもその後にはハートマークまで書いてある。
これって……もしかしたら……もしかする?
金シャチさんは、封筒の裏を見る。
差出人は……書いてないね。
でも、封筒を封印する赤い蝋には、ハートマークの刻印が押されていた。
一体どんな人なんだろう?
送り主は。
そんな私の興味を他所に、金シャチさんは荒っぽく蝋の封印を解いた。
中も獣皮紙ではなく、樹皮紙。
そこには、私の読めない字で何か書いてある。
金シャチさんは、隠す気配を微塵も感じさせないように、みんなが見えるように、机の上に広げる。
「金シャチさん、なんて書いてあるんですか?」
私は、金シャチさんに聞いてみた。
しかし、金シャチさんは何も言わない。
「明日の正午、南東地区の恋が池のほとりで待っています。大事な話があります。
一人で来てくださいね。」
メアリーさんが小声でつぶやいた。
「え? それって……。
金シャチさん。
相手は誰なんですか?」
私は思わず前のめりになった。
「知らないよ。」
金シャチさんが手紙を机に置いた。
「詮索するのは無粋ですよ。トモリ。」
ユーリーさんが釘を刺してきた。
でもでも、恋が池っていえば、知る人ぞ知る隠れデートスポットだよ。
あの筆跡も女性のようだし。
きっと恋文だよね?
初めて見た。
思わず金シャチさんの表情を見る。
しかし、特に嬉しがっている様子もない。
いつも感情表現が豊かな金シャチさんだけど、この手紙を見ても喜びもしない。
金シャチさん何考えているんだろう?
前回の依頼で、少ないけれど私たちの名前がこの街に広まった。
噂は南東地区の一部では、英雄並みの尾ひれがついた噂が広まっているって聞いたことがある。
ひょっとしたら、その噂を聞いた人が金シャチさんに想いを寄せているとしたら……。
幻滅するかも。
ちょっとどんな様子か見てみたいけれど……、ちらりとユーリーさんに視線を移すと、ユーリーさんはそれに気が付いたのか、ダメだと言わんばかりの視線を送ってきた。
仕方ないよね。
私は後ろ髪を引かれるような気持ちになりながら、バイトに戻った。
「ふぅ、今日もハードだったな。」
ここミソカツ亭で一番忙しい夕食時を終え一段落ついたところで、私は酒場の円卓を拭きながらため息をついた。
「結局、金シャチさん明日どうするんだろう?」
行くよね? きっと。
メアリーさんはあの手紙を見た後、ちょっと目つきが変わっていたからひょっとしたら隠れてついていくかもしれない。
ユーリーさんは興味なさそうだったけど……案外あーゆータイプが隠れてついて行くんだよね。
私も行きたいけど、明日もバイト。
冒険の依頼がなければ、生活費もちょっと危うい。
休むわけにはいかない。
「ちょっと残念。どんな人だったか見たかったなぁ。」
きっと噂で脚色されている金シャチさんを思い描いている、きれいな女性なんだろうな。
タイプ的には、メアリーさんみたいに物静かで美人タイプより、ランさんみたいに姉御タイプの方が似合いそうだね。
「ランさんか~。」
もう1カ月。
ランさんがいなくなってからもう1カ月が過ぎたんだ。
あっという間だったな。
悲しむ暇もないくらいに。
そう言えば、まだランさんのお墓にお参りに行っていない。
修行やらバイトやらで時間が作れなかったからなぁ。
……いや、違う。
きっと、行こうとしなかっただけなんだ。
訓練やバイトは言い訳にしか過ぎない。
行こうと思えば行けたはず。
今でも、あの惨状は瞼に焼き付いている。
自分の無力さを痛感した瞬間だった。
ヒーラーを目指すと言っておいて、目の前の人を救えなかった。
ヒーラー失格だよね。
ついついランさんのことを思い出さないようにしている自分に気づく。
そう、避けていたんだよ。
きっと。
「このままじゃいけないよね。」
今日の帰りにでもお墓詣りに行って来よう。
私は手に持っていた台拭きを握りしめると、残りの円卓を拭き始めた。
「お疲れ様でした。」
後片付けを終えて、お風呂を済ませた後、ミソカツ亭のおやじさんに声をかける。
まだポカポカしている体が冷めないようにコートを羽織る。
そう、これからランさんのお墓詣りに行く。
理由をつけて避けるのはもう止めた。
区切りをつけるためにも、今日行かないと。
また、理由をつけて避けてしまいそうな気がしたから。
そんな私の手には瓶詰になったワインを1本。
本当は、お花でも持っていきたいところだけれど、そんな高価なモノは買えはしない。
ましてや、すぐ手に入れることなんてできないから。
「だからせめて……。」
1カ月遅れだけど、依頼達成の祝杯代わりにちょっとだけ高価なワインを持って、北西地区の集団墓地へと向かった。
もう3月、大分暖かくなったとはいえ、朝晩はまだ冷える。
私の息も白くかすむ。
そんな中、松明を片手に集団墓地へと向かう。
空を見上げれば満天の星空だ。
雲一つない。
「これならよく見えるよね。」
ランさんの顔を思い浮かべる。
夜の北西地区、ここ1カ月ほどは、ミソカツ亭の閉店までバイトをしていたから、店から家までだったら、もうすっかりこの暗さにも慣れた。
でも、今日は違う。
向かう先は集団墓地だ。
だんだんともの寂しくなっていく北西地区。
建物も少なくなっていく北西地区はなじみの薄い場所だ。
昼間ならなんとも思わないのに、夜中だとやけに寒く感じる。
それでも歩みは止めない。
そして店から30分ほど歩いただろう。
そこには目的の集団墓地へと続く階段が松明の光に照らしだされた。
集団墓地は、北西地区の西の端にある。
このダイナゴヤを見渡せるよう、小高い丘になっているのだ。
南東地区の農業用地以外は石畳が敷き詰められているこのダイナゴヤ。
しかしこの集団墓地は違う。
小高い丘は、地面が露出しているのだ。
階段は、石を積み重ねて作ってあるけれど、この丘は自然の土がむき出しになっている。
私は、松明の光に照らし出された階段を見上げると深呼吸をする。
普段あまり立ち寄らない場所でもあるこの集団墓地。
なんだか一段と寒く感じる。
「良し。」
私は小さくつぶやくと、石段を登り始めた。
この石段、108段あるそうだ。
なぜ108段なのか、昔おばあちゃんに聞いたことがある。
確か煩悩の数だとか。
おばあちゃんのそのまたおばあちゃんのそのまたおばあちゃんの時代、まだ大破壊前の時代には年末に108つの鐘を鳴らしたとか。
そんな風習の名残なんだろうね。
一段一段踏みしめるように登っていく私。
冷え始めていた体が、だんだん暖かくなっていく。
それと同時に息を切らせていく。
「108段って結構長いね。」
登りきるころには、ぜーぜーと息を切らしていた。
「さてと、ランさんのお墓は……。」
昼間ならこのダイナゴヤ全体を見渡せる小高い丘の上。
こんな夜中じゃ、街は真っ暗闇に包まれてしまっている。
松明の光はせいぜい10mほどしか届かない。
そんな中、ランさんの墓地を探して歩き回った。
歩き回ること10分ほど、ようやくランさんのお墓にたどり着いた。
お世辞にも立派とは言えない、素朴な墓石にランさんの名前が刻まれている。
この下にはランさんの遺骨が眠っているはずだ。
私は持ってきたワインを開けた。
普段からワインを開けたりしていたので、コルクを開けるのも手慣れたものだ。
私はランさんの墓石にワインをかける。
「ランさん遅くなってごめんなさい。私たちあの依頼、何とか完遂できたよ。」
危ない場面もあったけど、何の縁か今はランさんのお姉さんのユーリーさんが一緒だよ。
本当に心強いよ。
きっとランさんが私たちのことを心配して、めぐり合わせてくれたんだよね。
短い時間だったけど、一緒に過ごした日々を懐かしむ。
「祝杯だもんね、私も少しもらうね。」
そう言うと、ラッパ飲みをする。
「酸っぱい……。」
ちょっと高価なワインなんだけど、初めて飲んだワインの味は酸っぱかった。
「もっと甘いものだと思った。」
ぶどうジュースみたいに。
するとなんだか体がポカポカしてきた。
夜風が心地いい。
私は、残りのワインを墓石にかける。
ランさん、ありがとうね。
これからも私たちを見守っていてね。
私は、そう言い残してお墓を後にした。
なんだか地面が揺れているような感覚を覚えながら、石段を踏み外さないように降りる。
こうしてランさんとの間に区切りをつけた私は、家路につくのであった。
翌朝、まだ暗いうちからいつもの生活が始まった。
ちょっと頭が痛いけど、そこは気合で乗り越える。
「今日もやるぞー!」
朝食と昼食を準備すると、薬を持っておばあちゃんのところに行く。
食事の介助と薬を飲ませ終わると、次はミソカツ亭へと向かう。
夜中とはまるで違う顔を見せる早朝のダイナゴヤ。
文屋の配達員さんに出くわすと
「おはようございます。」
と、あいさつを交わす。
牛乳配達の人に出くわすと、これまた
「おはようございます。」
とあいさつを交わす。
こんな早朝から働いている人って結構いるもんだ。
そんなことを考えているうちにミソカツ亭に到着。
勝手口から中に入ると、スタッフルームへと向かう。
身支度を整え、ホールへと向かう。
「おはようございます。おやじさん。」
「おう、おはよう。」
おやじさんはもう朝食の準備を始めていた。
あっという間に嵐のような時間帯が過ぎて、一息つけるお昼前。
ミソカツ亭にはいつも通りユーリーさんがやってきた。
「いらっしゃいユーリーさん。」
すでに定位置と言わんばかりの円卓のイスに腰を下ろすのを視界の隅で確認すると、
「いつものでいいですか?」
ユーリーさんに声をかける。
「ああ、頼みますよ。」
ユーリーさんが答える。
オーダーをおやじさんに告げると、だんだんとお店が活気づいてきた。
いつものお任せランチをユーリーさんのいる円卓に運ぶ。
「あれ? まだ2人とも来ていないですね?」
私は小首をかしげる。
今頃の時間なら2人とも来ていてもおかしくないのに。
「金シャチは昨日手紙貰っていただろ?」
ユーリーさんが、肉を口に放り込みながら言う。
「ああ、そう言えばそうでしたね。」
今頃、恋が池で憧れの対面をしているころかな?
「そこに向かったんだと思いますよ。
メアリーはきっと今頃、隠れて覗き見でもしているんじゃないでしょうかね?」
「デバガメですか?」
ユーリーさんの言葉につい、思ったことが口をついて出てしまった。
「彼女の性格的にしそうな感じですけどね。」
ユーリーさんは興味がないように、食事を口に運ぶ。
「メアリーさんってひょっとして金シャチさんのことを……。」
まさかね。
黙っていれば結構イケメンだと思う金シャチさん。
でも中身を知ると、ちょっと……ね。
手紙の相手も幻滅しなければいいけど。
私は、円卓を離れ再び戦場と化したホールを駆け回っていた。
カランカラン
ミソカツ亭のドアについているベルが渇いた音を響かせた。
「いらっしゃいませ……。」
そこには、肩を落としたメアリーさんの姿があった。
「メアリーさん、どうかしたんですか?
来るのが遅いんで心配していたんですよ。」
メアリーさんも定位置に腰を掛け、円卓にそのまま突っ伏した。
「尾行失敗しました。」
そのままの姿勢でつぶやくメアリーさん。
ユーリーさんの言った通り、覗きに行ったんだ。
「やっぱり追跡していたのね!
無粋なことをしないようにと、昨日トモリにも言っていたでしょ。罰が当たったのよ。」
ユーリーさんの叱責がメアリーさんに容赦なく降りかかる。
「と、とりあえずお昼はまだなんですよね?
いつものでいいですか?」
「はい、お願いします。」
力ない返事をするメアリーさん。
よっぽどショックだったんだろうね。
それにしても、金シャチさんの相手ってどんな人なんだろう?
さっきからそのことが頭の中をぐるぐる駆け回っていた。
お昼のピークが過ぎたころ、再びミソカツ亭の扉のベルが渇いた音を響かせた。
「いらっしゃいませ……。」
そこには見慣れた姿の、金シャチさんが立っていた。
「あ、金シャチさんどうでした?」
いや、金シャチさんだけじゃない。
冒険者らしき人たち4人が金シャチさんと一緒に、お店に入ってきたんだ。
1人は戦士風の人間の男の人。
その風格からして私たちより数段腕が立つだろうと直感した。
ローブを纏った人間の男の人は、魔法使いだろうか?
武器らしきものは持っていない。
しかし何というかオーラは、私たちとは格が違う気がする。
そして超重量剣を背負う、鎧に身を固めた戦士。
人間の男の人だ。
鎧の傷からかなり使い込まれていることが見て取れる。
最後に猫種……人間に近い方の猫種の女性。
彼女もなかなかの身のこなし。
みんな私たちより強い。
そんな直感を感じていた。
金シャチさんは、唖然としている私を横目に、指定席になりつつある円卓へとその4人とともに歩いていく。
円卓にはすでに食事を終えたユーリーさんはカウンターへと向かっていった。
円卓には今まさに食事中のメアリーさんが席についている。
ユーリーさんはおやじさんと何かやり取りをすると、金シャチさんと一緒に入ってきた4人の冒険者を見て不思議そうな表情をしていた。
その後、円卓の指定席になりつつある席に腰を下ろす。
金シャチさんと一緒に入ってきた4人の冒険者は、金シャチさんたちより少し年上くらいみたいだ。
私の見立てだと、黄金の衣と同じくらいの実力者と見た。
そんな彼らが何で金シャチさんと一緒に行動しているのか?
考えてもわからない。
しかもよそよそしい感じではなく、どちらかと言うと和気あいあいという感じだ。
ますますわからない。
金シャチさんは何も言わず指定席と化した自分の席に腰を下ろす。
戦士風の男の人が、先に席についていたユーリーさんとメアリーさんに挨拶をすると、同じ円卓を囲んだ。
「お~い、嬢ちゃん。何か食べ物と酒、適当に持ってきて。」
「あ、は~い。」
私はおやじさんにオーダーを伝えると、お酒を円卓に運んで行った。
私がお酒を運んで行ったとき、ちょうど金シャチさんが
「ここに来る前にお世話になっていた人たちです。」
と言う言葉が耳に飛び込んできた。
「え? 金シャチさんがここに来る前にお世話になっているんですか?」
思わず言葉が口をついて出てしまった。
一瞬彼ら4人が私の顔を見て、不思議そうな表情を浮かべたけれど、すぐにユーリーさんが
「始めまして。
金シャチと今一緒に仕事をさせていただいているユーリーという者です。」
と、席を立つ。
「そうか、俺はハタハタ。
このパーティショッツルのリーダーをしている。
で、こっちはクオンブだ。
彼は魔法使いだ。
そしてこの猫種の女性はセリ。ヒーラーだ。
そしてこっちの超重量剣を持った鎧の男はエノキだ。
じゃ、君は今の金シャチの仲間なんだな?」
ハタハタっていうんだ、あの戦士さん。
「おーい、これ持って行ってくれ。」
「あ、はーい。」
おやじさんの声で、私は円卓から離れてカウンターに並べられた料理を取りに行った。
その間、ショッツルだっけ?
あの冒険者たち。
彼らと、みんなが何やら楽しそうに談笑をし始めた。
なに話しているんだろう?
ちょっと気になったけど、今はバイト中。
お店の中を駆け回っていた。
その後も、円卓では話が盛り上がっているらしく談笑は尽きることがない。
ユーリーさんはバイトの時間が迫ってきたため、先に帰っていった。
ショッツルさんたちと金シャチさん、メアリーさんはその後も談笑をしている。
談笑と言うか、ハタハタさんが一人でしゃべっているって感じもするけどね。
私は部屋の準備をするため、一旦ホールを離れる。
部屋の準備を終えて夕食の準備のためにホールに戻ると、円卓ではまだあの6人がお酒をあおりながら談笑していた。
店もだんだん混み合っていく。
私は一日で一番忙しい時間を店の中で駆け回っていた。
一番忙しい時間が過ぎて、お客さんもまばらになってきたころ、ふとみんながどうなったのか気になって視線を移す。
すると、まだみんな談笑していた。
昼からずっと飲んでいるよ。
ちょっと呆れてしまった。
その後酒場の片づけをするけど、結局みんなは閉店まで談笑していた。
最後には、おやじさんが閉店を告げるけど、
「おやじさん部屋は空いているかい?
一部屋借りたいんだが。」
そう言って、部屋を借りて泊まり込むことになった。
まぁ、旅の冒険者ならこういうこともあるだろう。
今までも、同じような人を何度か目の当たりにしたし。
金シャチさんはどうするのかな?
メアリーさんは、もともとこの宿に泊まっていたから、今日もそうなのだろう。
金シャチさんは、別れを告げると店を出て行った。
なんでも噂では南西地区でテントを張って野宿している人がいるって聞いたけど、まさか金シャチさんじゃないよね?
そんなことを考えながら、ミソカツ亭の掃除を終わらせた。
閉店まで一緒に飲んでいたメアリーさん。
メアリーさんもここミソカツ亭に泊まっている。
私は例の恋文についてどうなったのか気になったので、メアリーさんの部屋の扉をノックした。
「どうぞ」
メアリーさんは6人部屋に泊まっている。
メアリーさんではない誰かの声が私を招き入れた。
私は部屋をぐるりと見回すと、メアリーさんのベットへと向かった。
「メアリーさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど……。」
私はベットに腰掛けて、話を切り出した。
「あの、金シャチさんの恋文の相手、一体誰だったんですか?」
メアリーさんなら何か聞いていますよね?
するとメアリーさんは
「恋文ではなかったようです。」
「え?」
どういう事?
「恋文じゃない?
でもでも、あの文面は恋文の文面でしたよね?」
ハートマークまで書いてあったし。
「それなんですが、どうやらあのハタハタさんの仕業だったようです。」
「ハタハタさんの?」
どういう事?
「彼らはこの街に着いた時に、前回の私たちの活躍の噂を聞きつけたようです。
そのため、金シャチの腕を確かめるために一芝居うったみたいです。」
「何のために?」
「金シャチの腕試しのためです。どうやら、金シャチ、全く歯が立たなかったようですが……。」
確かに、ハタハタさんから感じるオーラは黄金の衣さんたちと同じくらいだもんね。
私たちとはレベルが違う気がする。
金シャチさんが敵うわけないよね。
「それで、その後どうなったんですか?」
そのままでは終わらないよね?
「その後、ミソカツ亭にやってきて思い出話と、戦術や戦略について、熱く語ってくださいました。」
談笑していたのは、そんな話だったんだ。
「これで金シャチも少しは、戦いの参考にしていただけるといいんですけどね。」
ちょっと疲れ顔のメアリーさん。
よっぽど、熱のこもった話だったみたいだね。
「ありがとうございました。」
私は胸のモヤモヤがすっきりして、ベットから立ち上がった。
「おやすみなさい。メアリーさん。」
そう言い残して、部屋を後にした。
翌朝、私と金シャチさん、メアリーさんの3人は朝霧の中ショッツルさんたちの見送りをするために東門にいた。
一応金シャチさんがお世話になった冒険者さんたちだからっていうこともあるけれど、昨日豪遊して大丈夫かな?
と、そんなこともチラっと脳裏をかすめたから。
でもそんな心配はなかった。
ショッツルの皆さんは元気そのもの。
あんな沢山お酒飲んでも、一晩ですっかり抜けている。
二日酔いの気配もない。
やっぱり、実力のある冒険者ってお酒に強くならないといけないのかな?
「じゃ、見送りありがとう。
こいつのこと頼んだぜ。
世界ってもんを知らないからな。」
ハタハタさんが、金シャチさんの頭をくしゃくしゃしていた。
私は笑顔を返すしかなかった。
世界を知らないのは私も同じ。
金シャチさんより、年下の私では教えることより学ぶことの方が多いと思う。
まぁ、メアリーさんなら金シャチさんに教えることもあるんだろうけど……。
まぶしい笑顔を残して、ショッツルさんたちは東門から出て行った。
私たちは彼らの姿が見えなくなるまで見送った。
「さて、じゃ私はミソカツ亭に行きますけれど、お2人はどうしますか?」
ショッツルさんたちの姿が見えなくなると、私は振り返る。
金シャチさんとメアリーさんにこの後どうするかを尋ねてみた。
私はどうせ、バイトでミソカツ亭に行く。
2人は、小さくうなずくと私と一緒にミソカツ亭に行くことになった。
こうして私たち3人は、まだ目覚めたばかりの街をミソカツ亭に向けて歩き出したのだ。
私たちがミソカツ亭に着いた時はまだ、朝食前。
おやじさんが朝食準備をしている最中だった。
私は金シャチさんとメアリーさんと別れ、スタッフルームに向かった。
スタッフルームで、着替えを済ませるとホールに向かう。
朝食時間帯の前なので、まずホールの掃除を行うべく掃除道具を持ってホールに向かった。
すると、いつもの席に金シャチさんとメアリーさんが座っていた。
金シャチさんは瓶詰を、メアリーさんは準備中の朝食を食べていた。
私は2人を横目に、ホールの掃除に取り掛かる。
あらかた掃除を終えるころ、まばらだけどお客さんがやってきた。
「さぁ、これから忙しくなるぞ!」
気合いを入れなおす。
そしてお客さんもだんだん増えて、嵐のような忙しさがやってきた。
私はお店の中を駆け回る。
おやじさんも料理を作るので手がいっぱい。
怒涛の忙しさを迎え、おやじさんと私はフル回転。
ミソカツ亭に泊まっているお客さん以外にも、仕事前に食事をとりに来る人たちもいる。
そんなフル回転の時間帯が一段落したころ。
私は賄の朝食をとることにした。
先に円卓で食事を済ませていた金シャチさんとメアリーさんの元に向かう。
「いっただきます。」
私はおなかがペコペコで、がっつくように賄にフォークを刺した。
すると、おやじさんが私たちのテーブルにやってきたのだ。
「お前たち、ちょっとした依頼があるんだがやってみないか?
依頼料も少ないがバイトよりはましだと思うぞ。」
おやじさんが椅子に腰かけた。
すっかり話す気満々だ。
「どんな依頼なんですか?」
掲示板には高レベル冒険者向けの依頼しかなかった。
私は暇があると掲示板をチェックしている。
そこになかったってことは、あらかじめ私たちのために避けておいたのか、来たばかりの依頼かのどちらかだ。
「ここから西に行ったところにミドリックと言う集落があるんだが、そこへの届け物だ。
ギルドの定期連絡の親書も一緒にな。
報酬は500c。前金は150c。
後金はミドリックのギルドで受け取ってくれ。
そんな依頼だがお前たち、懐が寒いんだろ?
簡単な依頼だが受けてみないか?」
確かに私たち向きの依頼だ。
集落間の定期連絡の依頼だね。
定期的に郵便物と一緒にギルドの親書を届ける依頼だ。
私たち新米向けの冒険だね。
確か、ミドリックっていえば、私が生まれたころに大破壊前の神社の跡が見つかったとかで噂になったところだよね。
考古学者がこぞって調査に乗り出して集落が出来上がったっていう。
集落のほとんどの人は、この街の出身者の考古学者。
この街からだと確か……5日ほどの位置だったね。
ミドリックの北にはきれいな湖があるって聞いたことがあったっけなぁ。
そんなことを考えながら、食事を口に運んでいるとおやじさんは依頼書を見せてくれた。
「やります。」
え?
依頼書の内容を読もうとした私の脇で金シャチさんとメアリーさんの声が重なった。
2人とも依頼書見ていないよね?
「そうか、それならば昼までには準備を整えておくから、また昼になったらここに来い。
お前たちも旅支度があるだろうからな。」
おやじさんは満足げに、席を立つ。
え? ちょ、ちょっと待ってよ。
ユーリーさんにも相談してからの方が……。
「あの……前金はいつ?」
メアリーさんが、立ち去ろうとするおやじさんに声をかける。
確かにメアリーさんはじめ私たちは日雇いバイトで何とか食いつないでいるけど、メアリーさんそんなに切羽つまっていたの?
私は涙ぐむメアリーさんの顔に視線を向ける。
「昼に来たときに渡すぜ、準備もあるからな。
ほら依頼用紙。」
そう言って、おやじさんは立ち去ろうとする。
しかしメアリーさんはおやじさんのシャツの裾をつかむ。
「前金……。」
切羽詰まった顔をして、おやじさんに懇願しているのであった。
「わかった。依頼は受けるんだな?」
「はい。」
「じゃ、前金を渡すよ。
ちょっと待ってな。」
おやじさんはカウンターの奥へと姿を消した。
私はメアリーさんの予想外の行動に、ちょっと驚いた。
おやじさんを待っている間にメアリーさんが私に質問してきた。
「ユーリーの家はどこにありますか?」
私はフォークに刺したお芋を、落としてしまった。
ユーリーさんの自宅。
メアリーさんやシャチホコさんは知らない。
と言うか、言えないよ。
言えばランさんとユーリーさんの関係がバレてしまう。
そんなこと、私の口からは言えない。
「う~ん、そう言えばどこに住んでいるんでしょうね?
聞いてみないと私ではわかりませんね。
ユーリーさんは今頃バイトをしているころだと思いますけれど……。」
ひきつった笑顔をつくる私。
自分でも笑顔が引きつっているのが分かった。
上手くごまかせたのかな?
私はひきつった笑顔のまま、食事を続けた。
もう、味なんかわからない。
上手くごまかせたかな? と言うことばかりが頭の中でグルグル回っていた。
「ホイ、待たせたな。
前金の150cだ。
荷物などの準備もあるからな、昼にまたここに来るんだぞ。」
「ありがとうございます。」
おやじさんにお礼を言うメアリーさん。
「これで旅に必要なものを揃えておけ。
今回の依頼は5日間の旅になるから、ちゃんと保存食なんかも忘れないように揃えておくんだぞ。」
おやじさんが念を押してくれる。
そうだよね。前回の依頼と違って、この街からミドリックまで旅をするんだもんね。
野営の準備もいるよね。
「夜中火を起こすんだったら薪も必要だからな。
ちゃんと準備するんだぞ。」
おやじさん。なんだかお父さんみたい。
本当に心配してくれているんだ。
なんだか胸が温かくなった。
「じゃ、今のうちに必要なものを揃えましょう。
おやじさん5日分の旅に必要な食糧と薪、他に必要と思われるものを4人分用意していただけますか?」
メアリーさんが、おやじさんが持ってきた金貨の入った布袋を手に取ることなくおやじさんにそう告げたのだ。
「わかった。昼までには揃えておこう。」
そう言うとおやじさんは、布袋から金貨を数十枚取り出しカウンターに向かっていった。
メアリーさんは満足そうに、残りのお金を手にすると、中を確認し始めた。
そして残金を4等分すると、それを机に並べる。
メアリーさんの行動に思わず目が点になった。
「一人当たり28cで、あまりが3cになります。」
包み込むような微笑みを浮かべるメアリーさん。
「残りはどうする?」
金シャチさんが、自分の分の金貨を財布にしまうと、言った。
「あの……私はいいですので、3人で分けてください。」
まぁ私は、メアリーさんたちのように切羽つまっているわけではない。
この街に実家はあるんだし、大丈夫。
それよりも、切羽つまっているお2人の方が必要になると思う。
「え~、私に相談もなく依頼を受けたの?」
昼前、ミソカツ亭にやってきたユーリーさんが大声を上げた。
「まぁまぁ、ユーリーさん。ずっと依頼もなかったことですし……。」
私がなだめると、
「トモリはそれでいいかもしれないけれど、私もパーティの1員なのよ。
せめて相談くらいはしてほしいわよ。」
ごもっとも、確かにそれは言えてる。
「はい、これがユーリーさんの取り分です。」
メアリーさんが包み込むようなほほ笑みを浮かべながら、金貨の入った布袋をユーリーさんに差し出した。
ユーリーさんは、一旦椅子に座りそのまま袋を懐にしまう。
やっぱり気になるんだ。
「それとユーリー。あなたの家を教えていただけないでしょうか?」
「そうそう、僕も知りたい。」
メアリーさんの言葉に金シャチさんさんも興味津々だ。
「必要ないと思います。お昼にはここに集合するのですから。」
ユーリーさんは、メアリーさんの質問をきっぱりと断った。
やっぱりランさんのことがあるからかな?
私はなんとなくそんなことを考えながら、ユーリーさんに視線を向ける。
「それで、旅に必要なものは揃えたんですか?」
ユーリーさんがメアリーさんに問いただす。
「はい、おやじさんに頼んであります。」
にっこりほほ笑むメアリーさん。
懐にゆとりが出ると、心もゆとりが出るんだなぁ。
と、どうでも良いことを考えていた。
「よし、お前らそろったな。
先ずこれが、お前たちが運ぶ荷物だ。」
「はい。」
バックパック1つ分の荷物だ。
まだ少ない方だと思う。
前に見たときは、バックパック2つ分はあったから。
「それでこれが、旅の用意4人分だ。」
バックパック1つ分の荷物をさっきのバックパックの隣に置いた。
薪は別に置かれている。
あれ? こんなに荷物がいるんだ。
私は改めて、認識の甘さを思い知った。
「急ぎではないが、なるべく早い方が良い。
くれぐれも気を付けていくんだぞ。」
おやじさんはそう言い残してカウンターへと向かっていった。
「さて、どうしましょう?」
メアリーさんがほほ笑む。
「どうしたもこうしたもないでしょう。
バイト先にも言っていないから、今日は出発はできなません。
明日の朝出発でいいんじゃないですか?」
ユーリーさんがそれに答える。
うんうんと金シャチさんが頷いていた。
確かに今日出発するより、明日の朝出発の方が都合はいい。
「そうですね。私もその方が良いと思います。」
私が言うと、うんうんと金シャチさんがまた頷く。
「では、明日の朝出発しましょう。」
メアリーさんは特に反論することなく、素直に従った。
こうして私たちは、5日間の旅をすることとなったのだ。




