最後が始まり・・・
新婚旅行に来ていた女は、夫より早く起きて、一人散歩に出る。
ホテルを出て、温泉のある川沿いを避け、山側へと歩いて行く。
「空気が美味しいなあ・・・」
手を広げ、新緑の山の空気を、胸いっぱいに吸い込む。
「彼が起きる前に帰ろう・・・」
ゆっくりと山道を歩く女。
「あれ・・・?」
目の前に少しずつではあるが、霧が立ち込めて来る。
「やだ・・・」
視界がどんどん狭くなる。すぐに前も後ろも真っ白になってしまった。もう数メートル先のみどりの葉っぱくらいしか見えない。
「誰かいませんか?」
焦る女。前にも後ろにも進めない。
ガサッ!誰かが来た?
「助けてください。ホテルへ帰りたいんです」
返事がない。
「えっ!」
霧の中から現れたのは・・・。
シュッ!風を切る鋭い音がして、女に向かって何かが振り下ろされた。
ドッ!
血しぶきと共に、女は、そのまま前のめりに倒れた。
ザッ、ザッ、すぐに足音が遠ざかって行く。
女の首に掛かっていた石のペンダントは、鎖ごと切断され、倒れた女の横で、真っ赤に染まっていた。
「い、いたぞ!」
そう言いながら、捜索に参加していたホテルの従業員は、腰を抜かした。
みんなが集まって来て、倒れている女を見て、茫然と立ちすくむ。
「乃菊・・・」
倒れていたのは、新婚旅行に来ていた男の新妻だった。
「亡くなってます」
捜索に参加していた警備員が、女の脈を見て言った。
「そんな・・・」
男には、悪夢だった。やっと結びついた二人の運命が、一瞬にして切れてしまったのだ。
「乃菊・・・」
男は、女を抱きしめる。血まみれで冷たくなった肌に顔を埋める。
「乃菊ううう・・・!」
山に男の叫び声が響いた・・・。




