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妹に婚約者を奪われた姉ですが、獣人の皇帝からの溺愛が待っていました  作者:


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 ――その後も色々と話し込み、ナタリアは、帰宅の時間が遅くなってしまった。


 使用人以外に迎えはいなかった。

 嫌な予感を感じながらも恐々とナタリアが屋敷の中へ足を踏み入れる。そして嫌な予感はすぐに当たった。

 ナタリアを出迎えたのは暖かな迎えの言葉などではなく、


「こんな時間までどこをほっつき歩いていた!」


 父であるデニスの怒声だった。


「結婚前の娘がなんてことを! あらぬ噂でも立ったらどうするつもりだ!」


 デニスの言葉に、隣に立つナタリアの母――ベロニカも強く頷いた。


「恥じらいを持ちなさいナタリア。いくら相手が皇帝とはいえ、こんな遅い時間は……」

「本っっ当に。お姉様ったら慎みという言葉を知らなくって?」


 そしてエミリーも、どこか勝ち誇った様子でナタリアをいびる。


 浴びせられる言葉の数々。これまでは我慢して耐えてきた。

 俯いて、謝れば全て済むこと。今の自分(ナタリア)の顔、アレクセイ様ならきっと愉快だと笑うに違いない。

 そしてそう思った瞬間――そうとも、こんなのお笑い草でしかないのでは、という考えがナタリアの脳裏をよぎったのだ。


「……そうは言いましても、私とセルゲイ様の婚約はなかったことになりましたし……、……なにより、アレクセイ様が直々に私をお求めになっているのです。私がとやかく言われる筋合いは無いはずですが」


 ――そうよ、こんなの笑い話よ。そもそも婚約破棄だって私からお願いしたこではないもの。そして父も、妹をきつく叱責することはしなかった。これが笑い話でなければなんだというのだ。

 デニスはといえば、面食らった顔をしていた。ナタリアから謝罪があると思っていたのだろう。顔を赤くして、さらに大声で怒鳴るように捲し立てる。


「っ口答えを! 第一、あんな婚約破棄など茶番だ! なぜエミリーとセルゲイ殿が婚約を結ぶ必要がある!?」

「……セルゲイ様も仰っていたではありませんか。私はエミリーに意地悪ばかりする姉です。ですから婚約破棄が妥当なのでは? そもそもエミリーのほうが、私よりずっとセルゲイ様と懇意にしていたようですし……」


 そこまで言ったところで、デニスの目つきが変わった。

 墓穴を掘られた人間のする、憎悪に満ちた目。この目は、エミリーとセルゲイがナタリアを蔑ろにし、懇意にしていたことを知る目だ、とナタリアの直感が告げていた。

 

「では我が家はどうなる!? 誰が公爵家を継ぐというのだ!?」

「本当に。私たちがどれだけお前の教育に金をかけてきたと思ってるの?」


 ――お父様、それを仰っては、エミリーに我が家の公爵夫人としての教育を受けさせていない、あるいはその器がないと言っていると同じでは?


「……そんなものセルゲイ様とエミリーに任せれば良いのではありませんか?」

「っああ言えばこう言う! 慎ましいお前はどこに言った! 第一お前は――ぎゃあっ!?」


 終わりのない水掛け論に飽き始めていた頃。

 昼間のデジャヴのようにセルゲイが叫び声を上げて尻餅をついた。

 次いでベロニカとエミリーも同じく叫び尻餅をつく。何事かとナタリアが思えば――3匹の鼠が、あっという間に走り去ったではないか。


「ねっ……鼠がどうしてこんなところにいる! 誰が早く駆除しろ!」


 これまでなかった事態に使用人達もてんやわんやになってしまう。

 その騒動に乗じて、ナタリアはこっそりと自室に戻ったのだった。






 どうにか部屋に転がり込んだナタリアは、やはりベッドに飛び込んだ。

 慣れた部屋。アレクセイからの花の香り。疲労を自覚して、ベッドに倒れ込むことしかできなかったのだ。

 もうそろそろしたら侍女がくるはず。だから少し休憩させて、と頭の中で誰かに謝りながら、ごろりとベッドに転がる。


「……アレクセイ様……」


 結局のところ、アレクセイの妃になるという話はなにひとつ決まらずお開きになってしまった。

 ナタリアの家のこともある。でもアレクセイは『一番はナタリア自身の気持ちだろう?』と悠長に言ってのけた。


 ――私は一体どうしたいのだろう。


 交換した指輪。灯りに翳すと、アレクセイの目とそっくりな色味になる。

 アレクセイといるのは楽しい。もちろん少々強引なところもあるが、それ込みで楽しんでいるような気がしていた。


 ――『どうするナタリア。無理強いするつもりは全くないが――お前を妃に迎え入れるのは面白そうだと私は思うんだが』


 面白い、とはどういうことなのだろう。

 無理やり嫁がせて、私の嫌な顔、鼠になんて嫁ぎたくなかったという顔を見たいのだろうか? ……アレクセイ様なら有り得そうで少し怖い。

 けれど、


 ――『今、私の目がそうなっているだろう? 』


 昼間、馬車の中で内緒話のように囁かれた言葉。

 アレクセイが嘘を言っているようには思えなかった。嘘をつくメリットもないだろう。

 だからナタリアは迷う。

 アレクセイの言葉が本当のところなのか。

 そして仮に本当だったとして、自分に妃などが務まるのか。


 悩んだところで仕方がない。けれどナタリアは悩まずにはいられなかった。


 と、そこまで考えたところで扉をノックすること音が部屋に響いた。次いでいつもの侍女の声。ぼんやりとしたままナタリアが返事をすると――


「お姉様とお話ししたくってついてきちゃった」


 ――侍女とともに、妹が、顔を覗かせたのは。

 

 

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