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耕された畑

 ランキングという畑を、少し高い丘の上から眺めてみましょう。


 昨日も今日も、整然とした緑が広がっている。


 更新は速く、供給は安定している。

 常に新しい芽が顔を出し、すくすくと収穫できる大きさまで育っていく。


 実に豊かで牧歌的に見える景色だ。




 ページをめくれば、似た温度の物語が並ぶ。

 似た構造。

 似た導入。

 似た感情曲線。


 そして最後は同じ結末に収束していく。


 実に安心感がある。


 読者は迷わない。

 求めている味にすぐ辿り着けるからだ。


 これは市場にとって、極めて健全な状態だ。


 消費者(読者)にとって、何が大事とされるか。

 

 供給が途切れない。

 期待を裏切らない。

 一定の満足が約束される。

 どんでん返しがない。

 


 消費者がネット小説に求めているのは、主人公のピンチではない。

 山あり谷ありの人生でもない。


 安定した、なだらかな丘陵の物語なのです。



 かつて畑は、もう少し荒れていた。


 耕す者の腕によって土の深さは違い、撒く種もまちまちで、芽が出るかどうかは天候任せ。

 更には途中で根腐れを起こし、枯れてしまうモノすらあった。


 

 不揃いで、非効率で、しかしどこか生命の匂いに溢れた畑だったのだ。




 でも今は違う。


 AIという名のトラクターが導入された。


 強力な耕作機は、広大な土地を一気に整地する。

 種は均等に撒かれ、

 肥料は最適化され、

 発芽率は安定する。


 畑は一晩で耕地が埋まる。


 それは怠惰の産物ではない。


 扱う側にも知識がいる。

 指示の精度も問われる。

 出力の選別も必要だ。

 泥のついた素材の味そのままで出荷する訳にもいかず、洗浄する必要もある。


 そこに努力がないと言うつもりはない。


 だが、景色は確実に変わった。


 原始的に土を耕す人の姿は消え、電力を大量に消費するファンの排熱音が響く。


 人の手で耕す者は、隣の区画で静かに鍬を振るっている。

 一日で耕せるのは、ほんのわずか。


 種を選び、

 水をやり、

 芽が出るのを待つ。


 芽が出ない日もある。


 だがその間に、向こう側の区画は三度、四度と収穫を迎える。

 ランキングは回転数を好む。


 更新頻度。

 供給量。

 視認性。


 トラクターによる栽培は、アルゴリズムと相性が良い。


 一定の品質を保ち、

 一定の速度で供給し、

 一定の期待に応える。


 それは市場にとって理想的だ。


 畑は常に緑で満たされる。


 だがここで、ひとつの疑問が生まれる。


 この緑は、どれほどの多様性を持っているのだろうか。

 同じ品種が広大に植えられれば、見渡す限り一色になる。


 それは豊穣にも見える。


 しかし同時に風が吹けば一斉に揺れ、病が入れば一斉に枯れる。


 AI作品がランキングの上位を半分占めるという現象は、誰かが不正をした結果ではない。


 需要と供給が噛み合った結果だ。


 読者は素早く読めるものを求め、アルゴリズムは活発な更新を評価し、創作者は効率を選ぶ。


 それぞれが合理的に動いた。


 その結果、畑は今の姿に落ち着いた。



 だが上位畑が整然とする程に手作業の区画は目立たなくなる。


 芽が出るまで時間のかかる種は、ランキングという収穫祭の会場では不利だ。


 時間をかける者ほど、数字の舞台から遠ざかる。


 問題はAIではない。

 問題は“収穫量でのみ価値が測られる畑”になったことだ。


 ゆっくり育つ作物は、評価されにくい。


 奇妙な形の実は、規格外として棚に並ばない。


 だが、文学という果実は――本来そういうものではなかっただろうか。


 不揃いで、不器用で、時に誰にも理解されない。

 それでも時間をかけて熟すもの。


 作者の死後、ようやく評価される作品も存在する。



 トラクターは悪ではない。

 効率も悪ではない。


 だが、畑がすべて機械化した時、手作業で作業する者はどこに立てばよいのか。


 

 ランキングという丘の上で、畑は今日も青々としている。

 実に美しい。


 だが――その緑は、本当に“豊穣”なのだろうか?


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