28.元通り
次の日。
「いってらっしゃーい!」
朝礼を終え、凛は、畑へと向う新太郎達社員を見送る。
・・・元通り・・・か。
私達は、一度愛し合うと、離れてしまう運命なのかな。
・・・顔が変わって、もう一度会えたのに、それでもダメなんだ。
凛は、落ち込んだ表情でプレハブへと歩く。
「どうした凛ちゃん。」
山さんは、いつになく元気のない凛を心配そうに見つめる。
「あ、いえ。」
凛は、言葉を濁す。
「新太郎と何かあったのか?」
「・・・まぁ。あと一息と言う所だったんですけどね〜。」
凛は、諦めた様な表情で青空を見つめた。
「そうか。中でゆっくり話そうか。」
山さんは、心配そうに凛を見ている。
「・・・はい。」
凛は、誰かに聞いて欲しかった。
素直に頷くと、山さんの後ろをトボトボと歩いた。
「と言う訳で、私達は元通りと言う事に。」
「・・・新太郎のやつ!」
山さんは少し怒っている。
「あ、私が話した事は内緒にして下さいね。」
今にも新太郎を呼び出しそうな山さんを凛はなだめた。
「そ、そうか?いや、それにしても、男としていかん!父親代わりとしては説教する所だと思うのだが?」
山さんはウズウズしている。
「・・・私が悪いの。
由梨さんに言われたの。私が妹の凛だって伝えるべきだって。でも、私が意地を張ったせいで、余計に傷つけた。」
「ゔー、ゔ〜ん。」
山さんは、凛の気持ちを理解したくてもがいている様子だ。
「あー!分からん!どう考えても悪いのは新太郎じゃないのか?」
山さんは納得いかない様子だ。
「ふふっ。」
「ん?」
少し笑った凛を山さんは不思議そうに見つめる。
「ごめんなさい、一人じゃないっていいなって思って。
こんな事、お母さんには話せなかったと思う。実際、過去はそうだった。
山さんと由梨さんは不思議な存在だよ。
何でも話せる親のような。」
凛は悲しそうな表情だが、安心した様子をしている様にみえた。
「そうか。今は俺や由梨がいる。
何なら、過去だって一人じゃなかっただろ?話す勇気がなかっただけで、今も探してくれているご両親がいたんだ。
凛ちゃんは一人じゃない。
安心しな。」
「ありがとう、山さん。」
凛は、少し微笑んだ。
それから月日は流れる。
山さんは、毎年の恒例の大晦日宴会や、社員一同での初詣を開催したりした。
凛と新太郎は、まるで時が巻き戻った様に出会った頃の様な関係に戻り、日々を過ごした。
山さんと由梨は、凛と新太郎を無理にくっつけようとするのを諦め、心配しながらも見守る事にしている。
それでも、凛と新太郎の幸せを願ってやまなかった。
「あ、俺達の家、建て替えされちゃったんだな。」
新太郎は、大学生の時住んでいた家を訪れていた。
「いる訳ない・・・分かってる。」
新太郎は小さく呟く。
ガチャ。
「こんにちは?」
建て替えられた綺麗な家から、家主らしき人が現れた。
家主は、自分の家を見つめる、見慣れない新太郎を不審そうにみている。
「あ、こんにちは。
あのっ!俺!昔、ここに住んでて。
俺と同じ年くらいの女の子が訪ねて来ませんでしたか?」
「えっ?う〜ん・・・多分なかったと思うわ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
俯きながら歩き出す新太郎の後ろ姿を家主は不思議そうに見守った。
「駅の方に言ってみよう。
・・・何がどうなるにしても、このままじゃダメだ。凛に会いたい。
・・・いや、会わないといけない。」
新太郎は、心の中で強く決意した。
必ず凛を探し出すと。
新太郎は、1日中凛を探して街を彷徨ったあと、マンガ喫茶に泊まり、一夜を過ごし、次の日、帰路についた。
「収穫無しか。」
新太郎は、電車に乗り、疲れた様子で眠りについた。
「あら、おかえり。」
「あぁ、凛さん。ただいま。」
新太郎が、寮の階段を登ると、凛が出かける所だった。
「どこか行ってたの?昨日の夜、留守だったよね?」
「あぁ、前に住んでた所に。」
「そうなんだ。」
「うん。俺、凛を探す事にした。」
「・・・うん。」
凛は、気不味そうに俯いた。
「じゃぁ、また明日。」
新太郎は、ドアを開けると会釈してドアに入って行った。
・・・見つからない。
・・・見つかる訳ないよ。
・・・ここにいるんだから。
凛は、しばらく新太郎の部屋のドアを見つめていた。




