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行くぜっ!こもれび整体院  作者: 山崎奈緒


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#38 獣医師の水上先生 その2

 こもれび整体院の野崎は、愛犬モフモフちゃんの寄生虫薬をもらいに、雑色商店街近くの水上動物病院に来ていた。

 「モフモフちゃんは元気かな?」

 「元気ですよ。

 ちょっと涼しくなってきて、体調が良くなりました。

 あの毛の量なんで、夏場は苦手なようです。

 まあ、冷房の効いた整体院にほとんどいるので、問題はないです。」


 「それは良かった!

 最近はペットフードの栄養バランス良くなったりで、ペットも人間と同様に高齢化傾向なんだよね。

 感染症は減少しているんだけど、認知症や腫瘍(しゅよう)・がんは増加しているんだ。

 まあでも、モフモフちゃんはまだそこまで高齢じゃないから、大丈夫だけど。」


 「人間と同じで高齢化すると、どうしてもがんや認知症は増えますよね。」

 「ああ〜、思い出したよ。

 前回、来院した時はイベルメクチンの話しをしていたんだね。」

 「Wnt/β-カテニン経路とか、いろいろ教えていただきました。

 その後、オレも他の薬剤について、調べてたんですよ。フェンベンダゾールやメベンダゾールの抗がん作用について。

 だけど、分子生物学の基礎知識がないと、なかなか難しくて。。。」


 「まあそうだよな。

 少なくても大学レベルの知識がないと、厳しいと思う。

 僕もネットで、いろいろ調べみたりで、何と食らいついている感じだよ。

 最初はイベルメクチンで注目されて始まった「がん治療プロトコル」なんだけど、

現在は、さっきのフェンベンダゾールとメベンダゾールを含めた3剤が併用されるのが有効とされているんだ。」


「3剤合わせると抗がん作用は約46項目もあってね。それぞれが、がん細胞を攻撃する経路が違う、というか、アプローチの仕方が違うから多面的に作用するんだよ。

 おさらいを兼ねて、イベルメクチンから整理すると、


① 化学療法抵抗性を克服する

② PAK1酵素を阻害する

③ インポーチンα/β輸送タンパク質を阻害する

④ WNT/β-カテニン経路を阻害する

⑤ アポトーシスを誘導する

⑥ パイロトーシス様細胞死を誘導する

⑦ オートファジーを誘導する

⑧ mTORシグナル伝達を阻害する

⑨ ミトコンドリア呼吸を阻害する

⑩ 抗血管新生作用を持つ

⑪ がん幹細胞様細胞を標的にする

⑫ DNA損傷を誘導する

⑬ 免疫システムを調節する

⑭ 核内プロテアソーム機能を阻害する

⑮ 小胞体ストレスを誘導する

⑯ がん細胞のストレス回復を阻害する


と、まあ、このくらいあるんだ。」

「イベルメクチンだけでも、かなり治療効果がありそうですね。

 ミトコンドリアや小胞体など細胞内小器官(オルガネラ)もあって、多様性を感じます。」


「次に、フェンベンダゾールの項目を列挙しよう。


① プロテアソーム機能を阻害する

② 小胞体ストレスを誘導する

③ がん細胞の酸化ストレスを高める

④ ミトコンドリア膜電位を低下させる

⑤ アポトーシスを誘導する

⑥ 微小管を不安定化する

⑦ グルコース取り込みを阻害する

⑧ p53腫瘍抑制遺伝子を活性化する

⑨ 血管新生を阻害する

⑩ AKTシグナル伝達経路を抑制する

⑪ 転移を阻害する

⑫ がん細胞の細胞周期を停止させる

⑬ パイロトーシスを誘導する

⑭ フェロトーシスを促進する

⑮ 免疫調節作用を持つ


 こんな感じだね。

 中でも⑧の「p53腫瘍抑制遺伝子を活性化する」は、重要そうだね。

 「p53」というタンパク質は、がんを防ぐ「細胞の番人」とか「守護神」とか呼ばれて、細胞のDNAに異常が見つかると、p53は細胞分裂を止める方向に働きます。

 また、DNAの修復を助けたり、アポトーシス(プログラムされた細胞死)と呼ばれる修復できない細胞を自滅させる働きがあるんだよ。」


 「まさに、守護神ですね〜。

 ところで、パイロトーシスとフェロトーシスとは、何なんですか〜?」

 「ああ、その2つね。

 アポトーシスは聞いたことがあると思うけど、説明が必要だね。

 パイロトーシスは、主に感染や細胞内の危険信号に反応して起こる、炎症を伴う制御された細胞死なんです。


 英語の pyroptosis は、炎や熱を連想させる語と細胞死を表す語から作られた名称なんだ。

 通常の細胞死と違い、パイロトーシスでは細胞膜に穴が開き、細胞内の物質や炎症に関わる分子が外へ放出される。

 これによって周囲の免疫細胞に危険を知らせ、感染などに対抗する反応を促します。

 そして、炎症性サイトカインであるIL-1βやIL-18などが放出され、周囲の免疫反応が促進されます。」


 「で、もう一つのフェロトーシスは、細胞内の鉄が関与して脂質の過酸化が進み、細胞が死に至る現象なんだよ。

 2012年に独立した細胞死の仕組みとして報告されて、その後、がん、神経変性疾患、臓器障害などとの関係が盛んに研究されてるんだ。

 名前の由来は、鉄を意味する“Ferro”から名付けられました。

 フェロトーシスという名称は、鉄に依存する細胞死を表しています。


 鉄は、私たちの体に不可欠な元素で、赤血球のヘモグロビンが酸素を運ぶためにも必要だし、細胞内のさまざまな化学反応にも関与しています。

 しかし、細胞内で反応性の高い鉄が関与すると、活性酸素などによる酸化反応が進み、細胞を傷つけることがあるんですよ。


 ここで重要になるのが、脂質過酸化(ししつかさんか)です。

 細胞膜は、主に脂質からできています。その脂質が酸化されると、膜の構造や機能が損なわれます。

 酸化が制御できないほど進むと、リン脂質二重層で出来ている細胞膜は破壊されて、細胞は生き続けられなくなり、自死します。」


 「割と最近の発見なんですね〜。

 ざっくりだと、パイロトーシスは炎症、フェロトーシスは鉄分による過酸化による自死ですね。」

 「細かくやると、経路の話しになって、ややこしくなるので、まずは、そんなざっくりイメージで大丈夫です。」


 「イベルメクチンとフェンベンダゾールだけでも効果的なんだけど、メベンダゾールを処方する場合があるんだ。

 また列挙すると、


① アポトーシスを誘導する

② 血管新生を阻害する

③ 抗転移作用を持つ

④ 微小管の脱重合を引き起こす

⑤ Bcl-2タンパク質を阻害する

⑥ VEGFシグナル伝達を阻害する

⑦ Hedgehogシグナル伝達を阻害する

⑧ c-MYBを分解する

⑨ DNA損傷の修復を妨げる

⑩ USP5/c-Maf経路を阻害する

⑪ MYCがん遺伝子の発現を低下させる

⑫ カスパーゼ3/7酵素を活性化する

⑬ がん細胞のミトコンドリア機能を障害する

⑭ 化学療法の感受性を高める

⑮ パイロトーシスを誘導する


 と、まあ、がんなんで、シグナル伝達や経路が多いね。

 これらを全て理解するには、多分、薬学部の修士レベル以上じゃないかな〜。」


 「前にちょろっと生化学の本を見たことがあるけど、やたら回路や経路の説明が出て来て、速攻で閉じましたよ。。。」

 「細胞でエネルギーを生み出す基本的なクエン酸回路とかな。


 オキサロ酢酸 ➔ クエン酸 ➔ イソクエン酸 ➔ α-ケトグルタル酸 ➔ スクシニルCoA ➔ コハク酸 ➔ フマル酸 ➔ リンゴ酸(➔ オキサロ酢酸に戻る)

 学生さんはこれらを「オクイアサコ不倫〈オク・イ・ア・サ・コ・フ・リ・ン〉」とか、がんばって覚えるんだよ。

 これらは酵素反応だから、酵素名とか炭素数の変化とかも理解しなきゃならないから、大変だよ。」

 

 「これらの基礎があって、ようやく、がんの研究なんで、高度に専門的になるわけですね。」

 「さっきの3剤の話しに戻すと、これらの作用はかなり異なるんだ。


◾️イベルメクチン

 非常に多方面の経路に作用。

◾️フェンベンダゾール

 微小管・糖利用・細胞ストレス。

◾️メベンダゾール

 微小管に加えて、血管新生や複数のがん関連シグナルまで。


 「何気に、微小管がちょこちょこ出て来ますね〜。」

 「それな!

 昔は、細胞の骨格や細胞分裂の働きぐらいしか分かってなかったんだけど、近年は、タンパク質の輸送や細胞内小器官の整理といった重要な役割をしていることが分かってきたんだよ。

 それで、微小管の働きを阻害するパクリタキセル・ドセタキセル・ビンクリスチンといった薬剤も出て来たんだ。」


 「分子生物学というか、細胞生物学も進んでいるんですね〜。」

 「昔は、放射線物質を標識として使っていて、扱いが厄介だったけど、今は蛍光タンパク質を標識として目的のタンパク質に結合させて、細胞内の働きをとても見やすくなったんだよ。」

 「今だと、AIを使用した画像分析とか使うと、加速して研究が進みそうですね。」


 「まあ、そうだな。」

 「水上先生、モフモフちゃんのお薬やいろいろお話し、ありがとございます!

 また来ます!」

 野崎は挨拶すると、颯爽とこもれび整体院に戻って行った。

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