表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
行くぜっ!こもれび整体院  作者: 山崎奈緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/21

#21 慢性腎臓病の晴美さん

 東京大田区にある雑色商店街は、大田区の商店街で最も規模が大きい。特徴は昭和を感じさせる、たたずまいだ。店舗はいろいろあるが、特にお惣菜のお店が充実している。

 丸正食品店も出来たてのお惣菜を販売するお店で、こもれび整体院の野崎は、小さい頃から食事やおやつと日常的にお世話になっていた。メンチカツは最早、彼のソウルフードだ。

 

 丸正を長らく盛り立ててきた女将さんの石井晴美は、お店を息子さんに任せて自宅療養している。糖尿病と高血圧から慢性腎臓病(CKD)- Chronic Kidney Diseaseを発症していた。

 腎臓の機能は内部の糸球体の毛細血管で、濾過器のような働きをして尿を作り出す。例えるなら、コーヒーのドリップに使用するペーパーフィルターやネルの役目だ。


 糖尿病や高血圧になると、内部の毛細血管が損傷して機能不全となり腎臓病となる。その目安として、血液検査項目のeGFR-estimated Glomerular Filtration Rate-推算糸球体濾過量が指標となる。これはクレアチニン値を年齢や性別から計算した数値だ。90以上で正常となる。詳しくは下記のようにステージ分類されている。


・eGFRが90以上 → G1

・60以上〜90未満 → G2

・45以上〜60未満 → G3a

・30以上〜45未満 → G3b

・15以上〜30未満 → G4

・15未満     → G5


 G3aから下の数値が3ヶ月以上続くと腎臓病と診断される。つまり、60が境い目となる。

 数値が低いと正常に濾過されていない状態なので、尿毒症になる。本来排出されるべき老廃物や毒素、不要なミネラル分などが体内に蓄積し、病状を引き起こして全身症状に発展する。

 しかし、突然に慢性腎臓病(CKD)になるのは例外で、次の症状から発症する。糖尿病、高血圧症、脂質代謝異常症、肥満・メタボリックシンドローム、慢性糸球体腎炎、加齢などだ。これらが複数ある場合、注意が必要となる。

 ちなみに、クレアチニンは筋肉を動かした後に作られる老廃物の一種で、通常なら腎臓で濾過されて、尿として体外に排出される。


 晴美さんは後期高齢者で歩行も不安定なので、野崎は訪問マッサージ師として、店舗近くの自宅に来ていた。

 「こんにちは〜。

 マッサージに参りました〜。」  

 と挨拶しながら部屋に入った。

 「晴美さん、体調はお変わりないですか〜?」

 「あまり変わらないわね〜。」

 と少しダルそうに応えた。


 腎臓の糸球体の毛細血管はフィルターのような役割で、これを改善する薬はまだ開発されていない。

 なので、糸球体につながる血管を拡張して糸球体内の圧力を下げる薬や、血糖値を下げる薬、脂質代謝異常症の薬で、対処療法的な処方になる。そして、食事療法も併用する。

 昭和の時代はただ安静にしているだけ、というのも普通にあった。


 しかし、近年、「腎臓リハビリテーション」という治療法が普及してきている。

 運動療法を中心として、食事や水分量の管理などをして腎機能の悪化を遅らせ、全身の健康状態を改善する。

 具体的には、軽い有酸素運動、筋力トレーニング、ストレッチなどを行って全身の血行を良くして、腎臓の糸球体の機能を維持・向上させる。


 1990年ごろまで、人工透析患者の約40%は糸球体腎炎が占めていた。糸球体腎炎やネフローゼ症候群の患者さんが強めの運動をした場合、腎血流量の減少やタンパク尿の増加するデータがあり、ただ安静にして運動制限するのが治療とされてきた。

 しかし近年、運動時のタンパク尿は一時的であることや、腎機能への影響が認められないことが示された。

 これにより、運動制限から運動推奨に方向転換した。今では透析中の軽い運動もクリニックによっては、されているようだ。

 

 野崎は晴美さんの右脚に手拭いを掛けると、軽擦してからマッサージを始め、会話を続けた。

 「ですよね〜。

 マッサージしても、すぐには良くならないですよね〜。

 マッサージのいいところは、いろいろあるんですが、まず、お薬のような副作用の心配がないところです。患者さんの中には、何種類もお薬を服用している方が多いんですよ。お薬を飲むためにごはんを食べるとか。。。」

 

 「次にいいところは、筋肉を動かすので運動と似たような効果が出るんですよ。

 確実に血行が良くなります。中には、マッサージした日は寝つきが良くなる、という患者さんもいらっしゃいます。」

 「あらっ、この足のむくみも、良くなるかしら?」

 「むくみを改善するには、マッサージ、そして、運動です。お散歩とかスクワットが効果あります。運動が苦手な場合は、湯船で入浴することも効果的です。

 そうそう、名古屋の有名な経営者の方が岩盤浴に通って、ゴロゴロ転がって背中とお腹を温めて腎臓病を治したと、昔、聞きたことがあります。

 血行促進が病状改善に効果的なんでしょうね〜。」


 「では、脚の運動をしていきますよ〜。

 右足を曲げますので、力を入れて踏み込んでください。」

 野崎は足裏を右手で支えて、運動の補助をした。

 「そうです!

 良く出来てます!

 10回、このまま抵抗運動しますよ〜。」

 野崎はやや大きい声でカウントを始めた。

 

 「丸正さんのメンチカツ、コロッケ、唐揚げ、そして、シュウマイを子どもの頃からよく食べてね〜。

 それで大きくなったみたいなもんですよ〜。

 だもんで、今度はオレが恩返しする番ですからね〜。透析にならないように、がんばりますよ〜。」

 「そうだね〜。

 私も、ちょっとは、がんばらないとね〜。」

 晴美さんは少し笑顔になった。


 人工透析になると、週に3回、一回につき約4時間かかる。前腕にシャントを構築する手術も必要になる。

 身体への負担は、更にある。10年くらい経過すると心臓弁膜症のリスクが高くなる。心臓には大動脈弁と僧帽弁があるが、これらの弁膜にカルシウムが付着する石灰化だ。

 正常な場合、弁膜は閉じるが、石灰化すると、弁膜が硬くなり、閉じなくなったりする。つまり、心臓のポンプ作用が不十分になる。

 こうなると、全身の血液循環も悪くなり、じわじわと体調が悪化する。


 透析の患者さんを何人も診ている野崎にとって、患者さんの負担が大きくなる透析は何としても避けたい。

 その為にも、簡単な運動やマッサージで、施術の効果を実感してもらい、治療に対して前向きなマインドになるように、心を配った。

 晴美さんの治療は、まだ始まったばかりだ。患者さんの身体状況と精神的状態を見極めて、焦らず、粘り強く施術することを肝に銘じた。


 「晴美さん、お疲れさまでした〜。

 今日もマッサージは終わりです。

 少し運動もしたので、このままゆっくりおやすみください。

 また、来週、参ります。」

 そう告げて、お部屋を出た。


 そして、お店に立ち寄り、大好きなメンチカツを受付の真由美さんの分も合わせ買った。

 「いつも、ありがとうございます!」

 息子さんが揚げたてのメンチカツを袋に詰めながら、お礼をした。

 「晴美さんは少し治療に前向きになってきました。元気になるように、また来週参ります!」

 と少し力を込めて応えて、整体院に戻って行った。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ