#14 横浜出身の美代子さん
ある日の午後、整体師の野崎は、雑色商店街のはずれにあるこもれび整体院から、徒歩数分の老人介護施設に訪問マッサージ師として来ていた。
「失礼しま〜す。
美代子さん、こんにちは〜。
マッサージに参りました〜。」
野崎はいつものように元気に挨拶しながら、田中美代子の部屋にノックして入った。
「先生、こんにちは。
ありがとうございます。」
「美代子さん、体調はお変わりないですか〜?」
「おかげさまで、ちょっと腰の痛みも楽になってきました。」
「おお〜、良かったです!
じゃあ、今日も腰を中心にやってきますね。
それでは、横向きになってください。」
「ところで、美代子さんは施設に入居する前は、どちらにお住まいだったんですか〜?」
「多摩川の向こうの鶴見市場駅のあたりなんですよ。」
「京急線ですね。」
「八丁畷駅と中間あたりの所でね。
生まれた時は戦時中でね。父親は戦地に行ってたから、叔母の住む横浜橋の家にお世話になってたの。」
「あの、黄金町駅からちょっと歩いたところのですね。」
「そうです。今も横浜橋はアーケード付きの商店街があるけど、当時はもっと賑やかなところで、お店もたくさんあったわ。叔母の家は呉服屋さんをやってたのよ。
当時、私がまだ2歳の時、横浜に大空襲があってね。母親は私をおんぶして、近くの防空壕に逃げ込んだのよ。
ところが、私が防空壕の雰囲気が嫌だったかで、大声で泣き出してね、母親はしょうがなく私を連れてそこを出てったのよ。
そしたら、その後、入っていた防空壕に焼夷弾が直撃してね。命拾いしたわ。」
野崎は美代子さんの足裏を指圧しながら話した。
「東京大空襲は有名だけど、横浜もやられたんですね。。。
防空壕のお話しは、運としか言いようがないです。」
「本当、そうね。
終戦を迎えて、鶴見市場に戻ったのよ。
家ではニワトリやヤギを飼っていたわ。
そうそう、お風呂はドラム缶風呂だった。懐かしいわね。
近所の公園で、大衆演劇みたいなお芝居があってね。それが子どもの頃、一番の楽しみでした。」
美代子さんは突然、表情を曇らせた。
「戦争に行ってた父親が戦死した、という連絡が入ったのよ。
母親と一緒に役所に行ってね。骨壺をいただいたのよ。中には小さな木の札だけ、入ってたわ。それが帰り道に、カラカラ鳴ってね。切なかったわ。。。」
母子家庭になったのよ。弟もいたから、私の母親は国鉄の鶴見駅の駅前で、居酒屋みたいな食堂みたいなお店を始めてね、私もよくお手伝いをしました。
「そんな家庭環境だったから、高校に行ってもあまり勉強はしないで、旅行したり、よく映画を観に行ったわ。
そうそう、高校卒業してから、渋谷駅前の映画館で、働いてたのよ。チケットの窓口のお仕事で。いい職場で、何とただで映画を見れたのよ〜。
屋上にプラネタリウムもある大きな映画館でね。プラネの職員さんに、三鷹の天文台に連れてってもらったわ。
東急文化会館、懐かしいわね。。。」
「あのドームが乗っかったビルで働かれてたんですね。うっすら覚えてますよ。
多分、ヒカリエになってる所ですね。今の渋谷駅のあたりは大きく変わって、美代子さんもビックリされますよ〜。
戦時統制下の東急電鉄は、大東急と呼ばれて、今の京王線・小田急線・京急線・相鉄線を合併していたと、鉄道好きの友達に聞いたことがあります。」
「そうそう、大きな鉄道会社だったわね。」
と美代子さんが話した時、ノックの音がして、職員さんが入室して来た。
「失礼します。
ゴミを取りに来ました。
先生、マッサージ中にすみません。
あと、お時間あれば、感染症対策でご相談させてください。」
「分かりました。
後ほど、事務所に立ち寄ります。」
「すみません、よろしくお願いします。」
と言い、職員さんは出て行った。
美代子さんは、ゆっくり寝息をしていた。昼食後の時間帯だ、マッサージの効果で筋肉も緩み、眠くなったのだろう。
野崎はそっと布団を掛けて、静かにお部屋を退出した。
事務所の前まで来ると、ノックして入った。
「失礼します。」
「先生、お忙しいところ、すみません、こちらへお掛けください。」
野崎は椅子に腰掛ると、先ほどの職員さんが話し始めた。
「先生は、ほかの施設にも行かれているようなので、何か、うちの施設でも出来る感染症対策や予防法がありましたら、アドバイスをいただけたらと思いまして。」
「そうですね〜。
施設は集団生活ですし、体力的にも弱い高齢者ばかりなので、悩ましいですよね。」
「そうなんですよ。
何かありましたら、お願いします。」
「まず、寒くなってきたら、各お部屋に加湿器を設置してください。
ウイルスは乾燥していると舞いやすいので、ある程度湿度があると、下に落ちやすいです。
あと、廊下の手すりやお部屋のドアノブの消毒ですね。
普通の風邪にコロナやインフルエンザ、ノロウイルスと冬場は厄介ですよね。」
「また、外部環境だけではなく、身体の内部環境からアプローチする方法もあります。
朝食でヨーグルトのメニューをプラズマ乳酸菌に変更することを提案します。
プラズマ乳酸菌を摂取するとpDCというプラズマサイトイド樹状細胞を活性化します。
この樹状細胞は免疫の司令塔の役割りをして、NK細胞・キラーT細胞・B細胞・ヘルパーT細胞、つまり主要な免疫細胞全体を活性化します。」
野崎は、更に説明した。
「免疫力を強化する方法です。
プラズマ乳酸菌は、トップアスリートも使用しています。日本のプロ野球チーム、メジャーリーグの二刀流選手、大学駅伝チームなどです。
タブレット錠もあるので、訪問の医師や看護師さんと検討することをおすすめします。」
「野崎先生、いい情報をありがとうございます。早速、看護師に相談してみます!」
「では、また来週、田中さんの訪問に参ります。ありがとうございました。」
野崎は挨拶して、こもれび整体院に戻って行った。




