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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第五章 怠を知る者、惰に溺れる

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被害

 それからというもの、わたし達は週に一度、夜間に五分だけの逢瀬を行うこととなる。

 たいてい、わたしが喋って終わってしまう。

 レンの話をもっと聞きたいと訴えても、口下手だからわたしの話をずっと聞いていたい、なんて返されてしまうのだ。

 五年間の会えなかった日々があったので、こうして顔を合わせるだけでも幸せだ。

 というのはわたしとレン、共通の認識であった。


 そんな日々を過ごすうちに、不穏な噂を耳にするようになる。

 なんでも地方で、騎士すら歯が立たないような強力な魔獣が出現しているらしい。

 そういえばレンも、神学校の卒業前にあるという聖騎士見習いの巡礼旅で、手強い魔獣と戦った、なんて話をしていた。

 それも関連のある魔獣なのだろうか。

 被害はだんだんと王都付近まで広がっているようで、信者達の多くが不安に思っているという。

 また、魔獣退治に出かけた騎士達の多くが命を散らしているようで、国王陛下も頭を痛めているようだ。

 皆、大聖女であるヒルディスに救いを求め、大聖堂に殺到していた。

 そんな状況の中、傍付きの修道女達を呼び寄せ、ヒルディスはある決断を下す。


「聖騎士を率いて、魔獣討伐の旅に出ます。よって、同行する者を集いたいのですが――」


 どうやら指名制ではなく、挙手制らしい。

 修道女達は怯え、中には震えて怖がる者もいた。

 無理はない。

 魔獣の襲撃は無残なもので、血を啜られ、肉を食いちぎられ、骨までかみ砕かれるという、あまりにも酷いものだったから。

 一度魔獣に遭遇したら最後。

 生き残ったという話も聞かないという。

 怖がる修道女達に、ヒルディスは安心させるように言った。


「聖騎士の中には、何体もの魔獣を討伐している、フリートヘルム・フォン・ファールハイト卿も同行するので」


 その名前に聞き覚えがあった。

 わたしが二十歳のときには聖騎士隊の隊長を務めていたような聖騎士だ。

 たしか魔獣退治で大きな戦績を残し、一気に出世した人物だったような。

 そして、わたしが火刑を言い渡された裁判にも参加していたのを思い出す。

 見た目は虫も殺せないような良家のお坊ちゃま、みたいな感じで、年も二十代前半くらいとかなり若かったような。

 そんな人物が果敢に魔獣と戦うのだから、ギャップの塊のようなお方だと思ってしまう。


 と、ヒルディスが強力な聖騎士がいるので安心するように、と修道女達に声かけするも、志願者はいなかった。

 ヒルディスは困ってわたしを見つめてくる。

 仕方がない、とばかりに挙手した。


「わたしがヒルディス様に同行いたします」


 傍付きはわたし一人でいいはずないのだが、他の修道女達は明らかによかった、という顔でいた。

 いいや、よくないだろう。

 そう思ったのに、ヒルディスはこれ以上同行する修道女を集わず、解散させた。

 修道女達がいなくなったあと、ヒルディスに問いかける。


「あの、ヒルディス様、同行するのはわたし一人でよかったのですか?」

「ええ。危険な旅になるでしょうから、無理は言えませんわ。かと言って、誰も連れて行かないというわけにはいかないので、あなたが同行してくれてとても助かりました」


 正直な話、わたしも魔獣退治になんて行きたくない。

 だって、ガルムみたいな魔物がわんさかいるような場所に赴くのだ。

 ガルム一体だけでも恐ろしかったのに、それが複数ともなれば、恐怖でしかなかった。


 ちなみに、わたしが従えている魔獣ガルムは、週に一回くらい鏡の間から召喚し、夜の中庭などで遊ばせている。

 大きさの調整が利くようで、小型犬くらいの大きさに変化してもらっているので、目撃されてもなんら問題はない。

 どうして犬を連れているのか、と聞かれても守護獣だと答えればいいだけの話だった。

 と、そんな話はいいとして。


「ヴィオラ、本当によろしかったのですか?」

「ええ、もちろん!」


 よくない、よくないと思いつつも、ヒルディスの実家で母がお世話になっている以上、拒否なんてできるわけもなく。


 これまでの人生の中では即座にシュヴァーベン公爵邸から追放されていた母だったが、現在は追いだされずにお世話になっているのだ。

 酒浸りにもなっておらず、賭博にも手を染めていないらしい。

 ただ、シュヴァーベン公爵からの寵愛は途切れたようで、今は離れで暮らしているとのこと。

 そんな母の生活はシュヴァーベン公爵夫人がきっちり管理し、週に一度は慈善活動などで外に連れ出されているという。

 真面目に上流階級に身を置く女性として生きているようで、何よりだった。


「魔獣退治の旅に同行した、とヴィオラの母君が聞いたら、きっとお喜びになるでしょう」

「そうだといいのですが」


 なんて返しながらも、母はわたしが何をしようが興味なんてさらさらないことはわかっていた。

 魔獣退治の旅なんて聞いても、「ヴィオラが? 何それ?」なんて冷たい反応を返す様子はありありと想像できる。

 まあ、いい。

 いまさら母に、これっぽっちも期待なんてしない。

 不自由することなく、元気で生きてさえいればそれでいいのだ。


「明日には出発しますので、準備だけはしっかりしていてくださいね」

「明日? また、急ですね」

「ええ……。被害は深刻なようですので」


 魔獣被害に不安を感じる人達のためにも、迅速に行動したいようだ。


「ちなみに、どれくらいの期間、旅を続けるとか、そういうのは……」

「わかりません。魔獣がいなくなって、人々が安心するまで、帰れないものと思っておいてください」

「で、ですよね」


 つまり、レンとの面会がこの先しばらく叶わなくなる、というわけなのだ。

 奇しくも今日、レンと面会する日だったので、会えなくなることを話しておかないと。


 夜――鞄の整理を手短に終わらせ、ガルムの散歩を行い、レンとの面会を行うために走った。

 今日もレンは先にやってきている模様。

 中に入る前に、この先使おうと入れていた予約をキャンセルする。

 すると、面会室の管理者に不思議がられてしまった。


「どうかしたのですか? 彼とケンカでもされたとか?」

「いいえ、そういうわけではなく、明日から、魔獣退治の旅に出ますので」

「ああ、そういうことだったのですね」


 六回分、予約していたのに、すべてキャンセルしなければならないなんて。

 レンに会うことを楽しみに生きていたというのに、これである。

 人生、思うようにいかないのだ。


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