面会室にて
修道女は神に仕える身で、男女交際は当然禁止、結婚なんて一部の例外を除いてもっての外。
大聖堂内で、男女ふたりきりで個人的に会うことなども禁じられている。
ただ、抜け道もある。
大聖堂には面会室というものがあり、告解室みたいに壁一枚で遮られているものの、格子がかかった小窓があって顔を見て会話ができる部屋があるのだ。
そこで再会を喜び合おう、と数ヶ月前から予約を入れていたのである。
面会室は一日のうちいつでも利用できるのだが、忙しいだろうからと夜に会う約束を決めていた。
ちなみに面会時間は決まっていて、一回につき五分だけ。
短いが、会えないよりはマシだった。
一日の奉仕活動を終えて、お風呂で身を清める。
ヒルディスの傍付き修道女という身分なので、お風呂は毎日入れる環境にあるのだ。
日々感謝しつつ、入浴している。
そんなわけで、きれいさっぱりになった状態でレンに会いに行くこととなった。
面会室は管理者がいて、予約カードを渡すと鍵が手渡される。
レンにも手紙に予約カードを忍ばせておいたので、きっと中に入れるはずだ。
「もういらっしゃっているようですよ」
管理者の言葉を聞いて、慌てて中へと入った。
ドキドキしながら中の小窓を覗き込むと、レンは――いた!
「レン、久しぶり! 会いたかったわ!」
「ヴィオラさん……!」
レンの声は震えていた。わたしを見つめるレンの瞳は、感極まったように潤んでいる。
きっとわたしも同じような状態なのだろう。
神学校の長い寮生活の中で、彼の瞳が暗く落ち込んだ色に染まっていたらどうしよう、と思っていた。けれどもレンの瞳は五年前と変わらないまま、キラキラと輝いていた。
「よかった、元気そうで」
「ヴィオラさんも」
小窓の格子に両手を添えると、レンも同じように合わせてくれる。
暖かい……。
久しぶりに、レンのぬくもりを感じることができた。
それはそうと、レンもすっかり大人になった。
幼さはなくなっていて、成人男性と言っても過言ではない。
優しそうな瞳や誠実そうな様子は相変わらずで、レンの大好きなところは何もかわっていなくてよかった、と思った。
そんな話をしていたら、レンからわたしも変わらない、と言われる。
「ヴィオラさんは相変わらず、お美しいです」
「え、そう!?」
化粧っ気はまったくないし、眼鏡をかけているし、石鹸で洗った髪はボサボサだし。全盛期に比べたらぜんぜん垢抜けない様子であることは自覚している。
周囲の反応を見ても、きれいになっているという要素はないように思えるのだが。
「見目の話ではありません。纏う空気感だったり、話し方だったり、優しさだったり。そういう目に見えない部分が、美しいと感じました」
レンの言葉に、思わず照れてしまう。
そんなふうに言ってくれるのはレンだけだ、と言っておいた。
羞恥心を隠すために、話題を変えてみた。
「そういえば、魔力は大丈夫なの?」
「魔力、ですか?」
「ええ、あなた、魔力過多症なんでしょう?」
「そうですが、ヴィオラさんには話していなかったはずだったのですが」
あ!! と声をあげそうになったが、ぐっと堪える。
この話について聞いたのは、二度目の人生のときだった。
どうして忘れていたのか。思わず、脳内で頭を抱え込む。
「ヴィオラさん、どうして気付かれたのですか?」
「あーー、えーーっと、そうねえ」
ここで、わたしの傍にいた大精霊ボルゾイが、前脚で背中をポンポン叩く。
そうだ、彼女がいた。
すぐさま言い訳をする。
「うちの守護獣が、そうじゃないかって話していたのよ」
「ああ、そういえば、ヴィオラさんの守護獣は精霊でしたね」
「ええ、そう! だから、大丈夫だったか、ずっと心配で」
なんとか誤魔化せたようで、ホッと胸をなで下ろす。
「実はお世話になっている上官から、魔力を制御する魔技巧品をいただきまして」
魔技巧品というのは、魔法使いが特別な魔法を付与して作った特別なアイテムである。
どれも貴重な品で、市場にはほとんど出回っていないらしい。
レンの腕には、上官から貰ったという黒曜石みたいな黒い石が填め込まれた腕輪が嵌まっていた。
「これを装着する以前は、目眩や頭痛などに悩んでいたのですが、これを使い始めてから体がすっきり覚醒して、任務にも集中できるようになりまして」
「そうだったの、よかったわね!」
正直、二回目の人生で睡眠時間にすら板金鎧を装備していると聞いて、不便そうだと思っていたのだ。
腕輪くらいだったら、常に装着していても負担にならないだろう。
あっという間に時間は過ぎ、終了時間だと管理者から告げられる。
退室する前に、追加で予約していたカードをレンに差し出した。
「これ、来週の分! もしも会えたら会いましょう!」
管理者が入ってきて、早くと急かされる。
レンの返事も聞かないまま、面会時間は終わったのだった。




