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雌犬の仕返し、略奪女の復讐  作者: 江本マシメサ
第二章 暴く者、食らう者

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エドウィン・フェレライ

 お昼休みを使って、エドウィン・フェレライの商会に乗り込んでみた。

 先触れなんてしていなかったが、あっさりエドウィン・フェレライに会えたのだ。


「やはり来たか」

「いいから、母がどこにいるかだけ教えて」

「まあまあ焦るな」


 何が焦るな、だ。

 昨日の段階で母について何も言わなかったのは、本当に趣味が悪い。

 

「お前の母親についてだが、うちに多額の借金があるのは知っているだろうか?」

「ええ。風の噂で聞いたわ」

「そうかそうか。ならば話が早い。全額支払ったら、お前の母親を解放しようではないか」

「解放って、今、母は何をしているの?」

「何もしていない。酒の飲み過ぎで体を壊しているから、療養させている」


 生まれながらに裕福な暮らしをしていた母が、労働に身を投じることなどできるわけがない。

 なんて思っていたが、まさか体を壊していたなんて……。


「借金はいくらなの?」

「金貨百枚だ」

「は!?」


 一瞬、頭が真っ白になりかける。

 金貨百枚ですって!?

 いったい何をしたらそんなに借金が作れるというのか。

 

「それは、なんの借金なの?」

「主に賭博だな。酒に酔って、多額の金を賭けていたらしい」

「そんな……!」


 ナイトの野郎から貰った品物をかき集めて売っても、金貨五十枚ほどにしかならなかった。

 それでもとんでもない大金である。

 母はその倍額にもなる金額の借金を抱えていたなんて。


「そんな金額、払えるわけがないわ」

「いやいや、お前は昨日、金貨五十枚も得ていただろうが。残り半分と思えば、そこまで難しい問題でもないだろう」


 金貨五十枚の返済を難しい問題でもないなんて、この男が大商人だから言えるのだ。

 食堂で働く賃金は、一ヶ月で金貨一枚ほど。

 生活費のことを考えたら、返済に充てられるのは半額くらいか。

 いったいどれくらいかかるのか、考えただけで頭がくらくらしてくる。


「全額払わないと、母親は解放できない」

「返すと決めたら、解放してくれないの?」

「約束を破る可能性があるからな」

「そんなことしないわ」

「母親を捨てて男を選ぶような女の言い分など、何も信じられない」


 そこを突かれてしまうと、言い返せなくなる。

 腸が煮えくりかえるような気持ちを味わった。


「一つ、提案がある」

「なんなの?」

「愛人契約を結ぶのならば、一ヶ月金貨十枚払ってもいい」

「なっ――!?」


 エドウィン・フェレライの愛人になるだけで、金貨十枚も貰えるなんて――。

 

「嫌ッ!!」

「即答だったな」

「当たり前よ」


 気持ち悪い、という言葉だけは言わずに呑み込んだ。そんなわたしを誰か褒めてほしい。


「やはりお前は母親を見捨てる残酷極まりない女なのだな」

「そんなことないわ。地道に働いて返すから」

「何年かかることやら。もたもたしているうちに、母親が死んでしまうぞ」

「そんなに悪いの?」

「毎日酒を浴びるように飲んでいたんだ。発見したときには、かなり衰弱していた」


 シュヴァーベン公爵のお金を使い込んで追放だけで済んだのがよくなかったのか、母は同じ過ちを犯してしまったらしい。

 自業自得だと言いたいところであるが、今回だけは母を見捨てるわけにはいかない。

 きっと後悔するだろうから……。


「他に何かないの?」

「何か、とは?」

「仕事よ! 仕事! 色事以外で、わたしにしかできないことはないの?」

「ふうむ、そうだな。ない――と言いたいところだが、あるといえばある」


 エドウィン・フェレライは側近にボソボソ囁いたあと、何か持ってこさせる。

 アタッシュケースが持ち込まれ、中を見せられた。


「これは――!」


 見覚えがあるパッケージだった。

 それは母が一時期、貴族の奥方相手に訪問販売をしていた化粧品である。


「妻が作った化粧品なんだが、まったく売れない失敗事業だったのだ。この在庫をお前が買い取って、上手く売り捌いてくれるのならば、借金はチャラにしようではないか」

「――ッ!」


 この化粧品はとにかく品質と評判が悪くて、どこに行っても嫌われていたという。

 まったく売れず、母も買い取った在庫を長年放置していたのだ。


「化粧品の在庫は全部で金貨五十枚――安いものだろう?」


 母のために金貨五十枚を用意することを考えれば、手持ちの金貨五十枚を使って借金を帳消しにできるなんてありがたい話である。


「買い取るだけではダメなの?」

「ダメだ。完売させて、妻の名誉も回復させる必要があるからな」


 なんてあくどい商売を考えつくのだろうか。

 腹立たしくなる。


「販路も富裕層の女性に限定させてもらおう。きちんと収益もあげて、報告してくれ」


 どうしようか考える。

 正直商売なんてやったことはないし、自信はない。

 食堂の仕事と両立できるかも心配だった。

 でも、やるしかないのだろう。


「わかったわ」


 その瞬間、エドウィン・フェレライがほくそ笑んだ。

 まるで悪魔と契約を交わしてしまったように思ってしまう。

 でも、仕方がない。

 母を助けることができる、最後のチャンスだろうから。

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