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背神のミルローズ  作者: たみえ
|破《ほうかい》
20/33

巡回訪問


「ワタシ、アヤシイモノ、アリマセーン」

「あ、結構です。間に合ってます。お帰り下さい」


 言いながら鈴蘭が、玄関の戸をスーッと横に引いて問答無用で締め出そうとした。

 が、締め出される直前に相手に戸の端を鷲掴まれあっさり阻止される。――クソ弱ェな。


「ア、チョチョチョ、マッテマッテ!」

「片言を修整してから出直してきて下さい」

「オゥ、キビシーネ、リンカサマ……」


 掴んだ戸をバシッ! と完全に開いてズカズカと無遠慮に不法侵入してきたのは、派手なスーツに古典的なローブを纏ったかなりダサ……胡散臭い恰好をした魔女だった。

 漫画やアニメとやらを後学のために嗜んでいると、いきなり鈴蘭がやってきて有無を言わさず無理やりこの場へ付れてこられたが――クソが、まさか最新刊を抜かれてたとは。抜かったぜ。


「ジュンカイ、キタヨ、ワタシ」

「言語調整をしてからにして下さい」

「ジャパ、メンド……」

「もうすぐ開かれる奉迎が実に楽しみですね」

「アーあー、あア、あ! んっンっ、んー!」


 鈴蘭の含みを持たせたような言葉に、すぐさま血相を変えて魔女が言語調整をその場でし出した。

 ……なんだ、その奉迎ってのは。やたらと嫌な予感がするぜ。


「あ、そういえば言ってませんでしたね。今回が()()の奉迎です」

「ん、んーあーんんっ――大変失礼致しました。ですので何卒、そのような殺生なことは……え? 最後?」

「はい。ですので、あなたはクビです」

「――そ、そそそ、そんなぁ!」


 ……まるで意味が分からないな。何の話だ。


「鈴蘭様っ! そんな殺生なっ! ここでクビにされてしまったらっ、私は一体これから何を生き甲斐にすれば良いのでしょうっ!?」

「返済についてはまた別途、救いの手を差し伸べましょう」

「あ、その節はご迷惑をお掛けし、大変お世話になります……」


 ……なんだこの魔女。またアホが増えてんじゃねーか。

 こいつらの管理はどうなってやがる――。


「――もういいかね」


 カツ、カツ、と杖をつきながら老人が戸の向こう側から顔をひょこりと覗かせた。


「お久しぶりですね。お元気そうで何よりです、おじいちゃん」

「ほっほ。……相変わらず毒々しい子だね、鈴蘭様や」

「ただの挨拶に対して、いきなりひどい誤解ですね」

「――さて。そこを浚うのは不毛だしのう……――」


 そこから何かと遠回しでつまらない世間話が暫く続き、実に退屈な時間であった。

 しかもふと気付けば、いつの間にか新たなアホ魔女がどこぞへととっくに消えている。

 ――しくった。律儀に待たず、この隙に乗じてオレ様もどっか行っときゃぁ良かったぜ……。


「――ところで。おじいちゃん」

「なにかね」

「今日は珍しく何用でここまで来たのでしょうか。てっきりもう世を儚んで隠居を選んだのかと考えていましたが」

「ほっほ。――老い先短くともわしが隠居するには、まだちぃとばかし早い。……まあ、それはそれとして今日はただの偶然だのう」

「……クレマチスの巡回訪問と時を同じくして偶然、ですか」


 鈴蘭が微笑んだまま首を傾げた。


「――面白い偶然ですね」

「……礼拝をしたいのう」

『いいよ!』


 突如、壁を突き抜けるようにぬるっと出て来て神がアホ面でのたまう。

 その様子をちらりとも視ず、鈴蘭が珍しくも神をあからさまに無視して言う。


「……やはりボケてしまわれましたね、おじいちゃん。もちろん嫌です」

「そう邪険にすることもあるまいに」

『ねえねえ、いいってば! ――教えてあげて』


 こそ、と耳もとで囁かれて神に『ねえねえ』と纏わりつかれる。

 鈴蘭のほうからクソ面倒なけん制も飛んできた。オレ様を巻き込むな。

 クソ面倒な……最新刊は暫く諦めるか。


「――いいってよ。入れよ、じじい」

「ほっほ……では遠慮なく」


 鈴蘭に腕をつねられた。本気で痛くねェな。クソ弱ェよコイツ。

 そんなことを考えたのがバレたのか、()()()()開眼されて()()()()()。こぇーなオイ。

 わざわざ、なんつー能力一極絞りの偏り性能にしやがって……いくらなんでもイカレ過ぎだろ、コイツの――。


「――覚えておいてくださいね」

「こぇーよ。今までの面倒でチャラにしとけよ」

「……それもそうですね。()()しましょう」


 考慮かよ! そこはチャラだろ! コイツの怨恨の根は底なしかよ、こぇーな。


「――人は、弱いですのう」

『うんうん。そうだね』

「妻は先に逝きましたが、わしは最後まで残りますので……」

『そっかそっか。うんうん』


 神の御前で跪き、何かを哀願するよう切々と祈る老人と、老人の言葉を一見して軽い言葉で適当に受け止める神。

 ……ひどいもんだな、あの()()じじい。あの鈴蘭が神を無視してでも嫌がるわけだぜ。


「――どうか、なるべく()()()()()()()()()()()()、どうか……」

『うんうん、もちろんいいよ』


 ……ひでぇ祈りだな。反吐が出るぜ。


「……満足ですか、おじいちゃん」

「鈴蘭様の御怒りは御尤も。……妻にも叱られそうだの」

「当たり前です。彼女は本当の意味で敬虔そのものでしたから」

「耳が痛いのう……」


 そう言い残し、クソじじいは苦悶の表情を浮かべたまま去って行った。が。


「――という四面楚歌な状況でして、鈴蘭様を説得して下さればこの窮地を脱することが……!」

『えー、どうしよっかなー? だって、りんかちゃんとした約束でしょー。ダメだよ、ズルは~』

「そそそ、そんな殺生なぁ! 一言だけでもどうか、どうかあの冷酷無比にお口添えをっ! なにとぞっ……!」


 本人の前で言いたい放題だな。アホがよ。

 案の定いつもより深い微笑を浮かべた鈴蘭が、スススと静かに近づいて魔女の肩にそっと手を置いた。


「――クレマチス」

「ひゃいっ!? どどどどうなさったので、鈴蘭様っ?」


 アホが分かりやすくビビッた顔と声、態度で反応した。


「職務怠慢です」

「ぴゃっ」


 そしてそのまま強制連行されてどこぞへと消えていく。悲鳴が何度か遠くから断続的に聞こえて来たが、覗く気はまるで湧かなかった。というよりかは、覗いて()()()と考えるだけで背筋が冷えて怠い上に調子がすこぶる悪くなるので、やめておいた。――アレは、普通にヤべぇ類のやつだからな。

 結局クソじじいが祈りに来る前から去った後までずっと、真剣に黙々と何やらアホなことを神に祈っていたらしい新手のアホ魔女はその後、ちょうど虫の居所が悪かった鈴蘭(開眼済)によってかつてないほど容赦なく苛烈な目に合い追い出された。

 ……この世にゃアホしかいねーな、こりゃ。付き合ってられっかよ、けっ。さっさと神に最新刊の在処でも聞くか――。

※おまけ情報※

ご老人は誰の血縁でもありません。

が、外部関係者。元重鎮です。

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