表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無面─ノーフェイセズ─  作者: 上野祐太
18/25

Face18 無駄じゃない

 アジトの最奥部で、デュラハンはヘブンズ・ロードに手を触れていた。中に閉じ込められた少女のことを考え呟く。

「『天国』…マスターはそこへ行くと言った。そこには『彼』がいる。私のモチーフとなった『彼』が。なら、私は何なのだろう…?」

 万丈恵美の恋慕う男の虚像として生まれた。万丈恵美の心を慰めるためだけに、その姿を得た。では、もし彼女が天国に辿り着いて『彼』に会えたとして、デュラハンに残るのは何だろう?そう、デュラハンに用意された『明日』はどこにもない。

 錆だらけの扉を打ち破る音。R-ONE(ローン)とG-ONE(ゴーン)だ。

「来たか、一号機(モデルワン)

 デュラハンにとって、二人はあくまで量産型の『製品』の一つ。取るに足る存在じゃない。でも、二人は違った。二人にとって、デュラハンは無視できない存在なのだ。

「全てを取り戻しに来た」

「今までの借り、利子も合わせてたっぷり返してもらうぜ!」

「──諸君の勝率を計算した。『0%』。コンマのズレ一つなく、完全なる0だ」

 デュラハンは淡々と言った。二人の言葉は歯牙にもかけず、ただ(プログラム)内で打ち出した『事実』だけを口から発する。

「なら、下馬評を覆して完全勝利(パーフェクトゲーム)を決めてやるよ」

「不可能だ。私の計算は絶対だ」

「テメーの計算が外さねぇにしても、オレ達はぜってぇ倒す。這いつくばってでも、ぜってぇに全部取り戻す!」

「減らず口ばかりを!」

 ヘブンズ・ロードを背に、デュラハンは体内の量子加速器を作動させる。量子は思念の分子。相手の意識次第でその波はどうとでも変動する。この装置はそうした相手の意識を加速させ、体感速度を速める。つまり、例えば量子加速器を付けたまま1km/hで動いたら、観察者からは100km/hで動いているように見えるのがこの装置なのだ。

 体感速度100倍のパンチがR-ONEを襲う。相手が100倍速く見える分、逆に自分の動きは相応に遅く感じる。その錯覚は実際の動作にも影響される。R-ONEはデュラハンのパンチを防げなかった。普段なら確実に止められる速度を止められなかった。

 R-ONEが脇腹を押さえて立ち上がる。幸い、吹っ飛ばされながらも再生は果たせたようだ。

「やべぇ、速すぎる…」

 R-ONEからしてみれば、再生する暇もないパンチが来たことになる。しかし、実際はいくらでも再生するチャンスのある速度だったのだ。

 デュラハンはR-ONEに追撃する。速すぎて追いつけない『ように見える攻撃』に、R-ONEは防戦一方となる他なかった。どうすればいい?

「再生!」

 デュラハンがR-ONEに攻撃している隙に、G-ONEがグリーンフェイスとなる。再生するや否や、G-ONEは飛び蹴りを仕掛けた。

「これなら『錯覚』に関係なく攻撃できる!『重力は嘘に惑わされない』!」

 そう、彼はこのことを見抜いていたのだ。まず、彼はR-ONEの動きに違和感を持った。いつもよりはるかに遅い反応、しかし、決して意図的ではない故に『力強く遅い』状態で動いている。そして、デュラハンの攻撃がいたって普通の速度で行われている。この現象を『速すぎる』としたR-ONE、『普通である』としたG-ONE。導かれた答えは一つ、『錯覚』だったのだ。

「さすがの洞察力だが、致命的な見落としがある」

 そう言ってデュラハンは身体をくいと傾けた。ちょうどその隣をG-ONEが真っ直ぐ通過する。

「飛び蹴りは『一方向にしか』動けない。故に、あまりにも避けやすい」

 すかさず着地直後のG-ONEに裏拳を叩き込む。G-ONEはヘブンズ・ロードから遥か遠く、入口付近まで飛ばされた。

「二人がかりで圧倒されるだと…!?」

「シャレにもなんねぇ強さだなぁオイ…!」

「終わりだな」

 しかし、二人は再び立ち上がった。何故?

「冗談だろ…!こんなとこで終われっかよ…!」

「終わったのはウォームアップだ…!ここから本気で行かせてもらう…!」

 とはいえ、戦況は圧倒的に不利だ。作戦を立てようにも、デュラハンに筒抜けになるため、アルケ・ロゴスは使えない。隙を見て再生を解除するしかない。だが、それはデュラハンの攻撃から身を守ることをやめるのと同義。ただでさえダメージが激しい状況下、迂闊にやれたものではない。

 すると二人は互いを見合った。何をするでもなく、ただ互いのことを見ていた。それだけなのに…どうして?

「これでシャットダウンだ」

 周囲にホログラムを生み出す。TBラボで起きた一連の異変はこれによるものだった。あの生産ラインさえも──エレキガンは例外だが──全てこれで創り出していたのだ。だが、あの時と異なるのは…このホログラムは『本物』だということ。すなわち、今二人の上空に見えている矢の大群。これに刺されば、二人はそれだけのダメージを受ける。量子体はこんなこともできるのか。

「隙間はない、か」

「じゃあ…やるこたぁ一つだな!」

 G-ONEが前に立って盾を構える。ちょうど後ろでR-ONEがしゃがむ。矢が弾かれる。ほんのわずか、隙間が生まれた。

「今だ!」

「おっしゃあ!」

 R-ONEが盾の上に飛び乗り、蹴り上げて宙を舞う。そして、中央のヘブンズ・ロードに拳を叩き込んだ。

「何!?」

 デュラハンの狼狽を予測していたかのように、G-ONEは笑んだ。

「予想的中だな」

 それからG-ONEはいつものように、名探偵気取りの振る舞いで説明した。

「お前がその装置を後生大事にしてそうだったのでな、狙わせてもらった。大方、『天国』とやらに必要なものなんだろ?それ。硬いからセーブモードは解除しなくてはならなかったがいいよな?どうせ壊れるんだから」

 デュラハンは睨んだ。だが、機械の中から赤い液体が舞った途端、カタカタと高笑いを上げた。

「知らなかったか?あの中には『人がいる』!これで諸君は正真正銘、完全に『人殺し』だ!諸君は自らを取り戻さんがために、人を殺す悪魔に身を堕としたのだ!」

 だが、G-ONEの口から笑みが消えることはなかった。そして確信めいた声で言う。

「ああ、『知っている』」

 どうして?

「アルケ・ロゴスの反の──いや、勘でわかる」

 一応の道理を突きつけようとしかけて、G-ONEはやめた。理由が『その方が相手が悔しがる』だなんて、何というか、G-ONEらしい。

「勘…だと…!?そんな、そんな不確定要素で…!ヘブンズ・ロードに攻撃しただと…!?」

「言ったはずだ。俺達は『全て』を取り戻すと。名前も、顔も、声も。そして──『仲間』も」

 デュラハンが振り返ると、R-ONEが殴った手だけ再生をやめていた。流れ出た血はR-ONEのものだったのだ。ヘブンズ・ロードがヒビから砕け散る。中から少女が顔を現す。

「何故だ!諸君は勘なんかで赤の他人を助け、我々の崇高な意志に泥を塗るのか!この偽物共が!」

「ったく、人殺しだの何だの言っといて矛盾してんじゃねぇか──そうだ。オレ達は赤の他人同士で、ニセモン集団だよ。でもな、オレ達が出会ったってこと、オレ達がぶつけた気持ち、全部マジモンだ!オレ達自身が本物かなんて、ハッキリ言ってどうでもいい!オレ達が出会って感じたもの、それがオレ達の『本物』なんだよ!」

 声が聞こえる。『立ち向かえ。最後まで』

「不良品がアアアアア!!」

 パパ、やっとわかった。私の力で立って、私の力で向き合って。それが『立ち向かう』ってことだよね。私は二人の仲間と『立ち向かう』。そして取り戻すよ。パパとママとの日々を。皆の平和を。そして──『私』を。

「再生!」

 青い光が身を包む。私には『本当』がない。でも、私が見て、感じて、考えたこと。それは全部『本当』なんだ。二人が教えてくれた。

「止められた…!?私の、攻撃が…!なっ、離れない!?ぐっ、離せ!その手をどけろ!」

「ありがとう…二人とも、ありがとう。私も取り戻す。私の…『全て』を!」

 デュラハンの手を握り潰す。刹那、背後に回る。磁力移動(マグネティック・ムーブ)

「何っ!?」

 剣を取り出す。デュラハンが振り向いた途端、剣は落雷のごとく、無軌道かつ神速の勢いで放たれる。雷撃刀法(ライトニング・スラッシュ)

「『極み』に…至った…!?」

  斬り刻まれた傷口から機械を覗かせる。

「まさか…『同質なのか』!?『マスターと』!」

「終わりよ!」

 量子加速器すら振り切るほどの速さ。周りの速度をも歪める──光の速さで攻撃を加える。

「器…ごときが…」

 瞬く間にデュラハンは生首だけになった。R-ONEとG-ONEが私に近寄る。

「やったな!」

「すげぇなお前!」

 二人の言葉。嘘偽りない、『本当』の言葉。その温もりが嬉しくて、私は涙を流した。

「何で泣くんだよ!」

「だって…だってぇ…」

「今は思いきり泣いていい。俺達の生きる明日、その先の未来、思いきり笑うために」

 その時、私は心の底から思った。『この二人でよかった』と。

 余韻に浸っていると、デュラハンだった生首が不敵な笑い声を上げた。

「ヘブン・プロジェクトは、じき完遂される…!今、ロシア軍基地にハッキングして、核ミサイルのスイッチを起動させた!着弾点は──皇居!」

「何!?」

「そんなことをしたら、日本壊滅どころじゃない!世界大戦に発展するぞ!」

 生首は私達を嘲り続ける。

「諸君が未来を生きることはない!全ての意思は、マスターの糧となる!『量子世界への階段』となるのだ!」

 直後、生首が爆発した。

「急いで止めねぇと!」

「恐らくそこに万丈恵美もいる!」

「行こう!『再生する』ために!」

 R-ONEが、G-ONEが頷く。そう。私達には過去という退路はない。でも、立ち向かうべき未来は広がっている。二人の道標(とも)がいる。私が無を揺蕩(たゆた)うことはもうない。私が立ち向かう先に『有』が生まれるから。私は取り戻す。私の全てを。私は今度こそ『私』として『再生』してみせる。二人の道標(とも)と共に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ