Face11 信じたく無い真実
オレは知事を安全な所まで運んだ。
「ここにいてくれ!」
「待ってくれ!君は…」
わざと無視した。ボロ出しちまったらたまったモンじゃねぇ。それより、現場に行きてぇところだが、ハイユンのことが気になる。闇町の区域から離れてるったって徒歩十分ぐらいだ。巻き込まれる可能性の方がでけぇ。大丈夫か?あいつ。
廃工場に着く。ハイユンの姿が見えねぇ。
「どこだ?ハイユン!」
もうどこかへ行っちまったか?行き先がわかんねぇ。それにしても情報をキャッチする速度がとんでもねぇな。闇町にパソコンなんて無かったと思うんだが…
中を歩いてると、こないだ見たでけぇケーブルが散らばってた。こいつは何だ?ここに残った機械に使うケーブルか?それにしちゃ綺麗すぎる。てこたぁ今でも使われてるモンになる。ハイユン、そんなの持ってたっけか?よく見ると、近くにパソコンが付けっぱなしで置かれてた。ハイユンにはワリィけど、ちょっと覗かせてもらう。行き先の手がかりになるかもしんねぇしな。
「あいつ、何を見て──」
言葉が止まった。書かれてた内容があまりにも信じられなかった。だってよ、あいつのグループ掲示板…名前が『JAC』だって?どういう訳かわかんなかった。頭が真っ白だ。しかも信じられねぇのは、グループのメンバーがハイユン入れて二人しかいねぇってことだ。てこたぁあれか、JACにはハイユンと万丈恵美って奴以外いねぇってことか?じゃあオレ達が今まで戦ってきたあいつらは何なんだ?でも、前に同志がどうのって…いけねぇ、こんがらがってきた。
ここまで来たらもうヤケだ。会話履歴も見ちまおう。変に疑いをかけるのも嫌だしよ。まさかハイユンに限ってそんなこと…
だが、ほんの少しだけでも抱いた希望は、あっさりと打ち砕かれた。議事堂をぶっ壊す作戦とか、リニアのこととかが書いてあった。それと…オレにくれたお守りのことも。あれはお守りなんかじゃねぇ。オレ達の素顔をカメラ越しにうつす道具、ジャマーだったんだ。じゃあ、あの笑顔は?今までずっと、嘘ついてきたのか?歯ぎしり。
『なぁ、オレも仲間に──』
『うわっ、話しかけてきた。逃げよ逃げよ』
『あいつ韓国人だもんな。何するかわかったもんじゃねぇや』
甦ってきやがるクソみてぇな記憶。やっぱ、誰もアテになんかなんねぇよな。信じたかった、オレは信じたかったんだよ。オメーの言ってくれたことも、オメーの笑顔も。なのに、全部嘘だったって?ふざけんなよ…
「ふざけんなよオオオオ!!」
アルケ・ロゴスを引きちぎる。
「再生!!」
オレは一目散に突っ走っていった。風になったみてぇに。それにしても、目がいてぇなぁ。何でこんなにいてぇんだ。顔なんて無くなっちまってるってのに。視界まで霞みやがって。これからあいつをぶん殴らねぇといけねぇってのによ。こんなとこで参っちゃかなわねぇだろ。
しばらく走ってると、JACの奴等が見えてきた。もうここまで来やがったってこたぁ、闇町はもう制圧されちまったのか?でも、そこにハイユンがいるんだよな。だからよ、お前らにはどいてもらうぞ。
「喰らいやがれ!」
腕にエネルギーを全部注ぐ。そして一番前にいた奴をぶん殴る。衝撃で周りにいた奴等もぶっ飛んだ。道が出来た。このままぶっちぎる。
ようやく辿り着いた。元々そんなに綺麗な所でもなかったけど、ひでぇモンだ。家も人も空っぽの荒地になっちまってる。
突然泣き叫ぶ声が聞こえてきた。誰だ?誰が泣いてるんだ?目を凝らすと、キザ緑が黒いバケモンの前で泣き崩れてた。焼け焦げた人を抱きしめて──いや、抱きしめてた。今、崩れ落ちちまった。風に運ばれてく。人の身体ってあんなに脆いのかよ。
ハッと我に返って、キザ緑の所に行く。オレにも気づかずに、人が塵になっちまったことにも気づかずに、抱きしめた腕をそのままに泣き続けてる。涙も流せない身体で、ずっと泣いてた。
「G-ONE…」
その時、小さな声が聞こえた。
「許さん…絶対に…!」
小さかったけど、確かな怒りと憎しみがこもってた。それからG-ONEは、いきなり立ち上がって吼えた。
「お前達クズは!!一匹残さず俺が潰す!!」
盾をしまって、G-ONEは黒いバケモンに向かって突撃してった。
《貴方こそ、地獄に堕ちなさい!》
刺が飛んできたが、次々と避ける。それを見て、思い出したようにオレの中のイライラが甦ってきた。ぜってぇ許さねぇ。拳を握りしめる。
飛びかかろうとした瞬間、黒いバケモンから声がした。
「来ないでください、〇〇〇〇さん!」
女の声だった。ボイスチェンジャーで加工してない、ありのままの声。それは…ハイユンのものだった。
「私は貴方と戦いたくありません!」
今更何だってんだ。ふざけんなよ。
G-ONEのパンチが黒いバケモンに当たる。
「バリアを剥がしてまでよそ見か?随分余裕だなぁお前よぉ!」
連続でパンチ。徐々に黒いバケモンの装甲に傷が入っていく。今まではパンチしたってあんなの付かなかったのに。
「邪魔しないで!」
G-ONEの身体にワイヤーが巻き付けられる。電流。武器は電気を吸収してくれるけど、オレ達自身は電気に滅法弱い。G-ONEは気絶した。
向き直って、ハイユンは言った。
「もう一度言います。貴方とは戦いたくありません。だから──」
「ふざけんなよお前。騙しといて…そんなこと、言える立場か?」
「そんなつもりは…」
沈黙。それみろ。何も言えねぇんだ。騙してるって何よりの証拠じゃねぇか。
「言い訳なんて聞きたかねぇ。けどよ…けど…何でだ?どうして、こんな…」
すると、黒いバケモンの口から人が出てきた。ハイユンだ。何のつもりだ?
「私は…いえ、『私達』は何者でもなかった。だからあの男に…三村湊人に、全てを奪われた」
と言って、G-ONEのことを指さした。三村湊人、それがあいつの本名か。今は届きもしねぇ名前。
「生きるのに必死だった!お父様も、お母様も!なのにあいつは!そんな私達のことなんて考えもしなかった!ルールだからって、二人を殺した!ただ…生きたかっただけなのに!」
ハイユンは涙まじりに吠えた。胸が苦しい。
「だから私は…JACに入った。この国を創り直すために!もう何も奪われない世界にするために!」
けど、オレも対抗して声を張る。
「だったら、知事を頼ればよかったんだ!聞いたぞ、何回かここに来てたって!その声を無視したのは、他でもねぇオメーらじゃねぇか!──もちろん、オレもだ…」
息が切れて、声がフラフラになってきた。けど、それでも叫んだ。叫ばずにはいられねぇんだ、この気持ちはよ。
「それとオメー、何も奪われない世界がいいっつったか?でもな、オメーはもうオレから奪ってんだよ」
「何を!」
「『居場所』だ…!」
そうだよ、オメーがなってくれるはずだったものだよ。それをオメーは自分で奪ったんだ。オレから。そして…自分から。
ハイユンはその場で崩れて、自分を嘲るみてぇに言った。目はどこを見てるのかわかんなかった。
「…そうだったんですね。私は…知らない内に、私の嫌いな私になっていたんですね…」
「ハイユン…」
再生をやめて、抱きしめたい気分だった。一歩ずつ近づいてく。ハイユンも、立ち上がってこっちへ向かってくる。あとちょっとでも近づけば手が届く、その時だった。ハイユンはいきなり倒れた。その後ろに、G-ONEが立ってた。
「おい…何だよ、それ…」
うつぶせに倒れたハイユンの背中から、血が流れてた。気絶させるだけじゃねぇのか?何なんだよ、どうなってんだよ。
「クズにセーブモードはいらないだろう?」
心を凍死させるような、そんな声だった。
ハイユンを触る。まだあったけぇけど、少し手を離したら消えそうな、弱々しい温かさだった。ホントに…生きてんのか?
「自分が何したか、わかってんのか…?」
「今更同情か?韓国人が」
プツンと切れた。気づけばあいつを殴ってた。オレは声を荒げた。
「テメー…もういっぺん言ってみろ!」
G-ONEは──湊人は身体を起こして、
「貴様らみたいなクズは死んで当然って言ったんだよ!日本語もわからないのか、韓国人!」
突っ込んでまた殴る。殴る。殴る。でもあいつは何もしねぇ。盾すら構えねぇ。立ったまんまだ。
「あの人がオメーにとってどんな人だったか、オレにはわかんねぇよ。だがよ…だからってオメーも同じことしたら、何の意味もねぇだろうが!その人の気持ちに泥塗りやがって!その人を殺すのと、どう違うってんだ!」
「お前が…お前が厚木さんを語るなアアアアア!!」
キツい一発。殴り返そうとしたその時、突然何かが割り込んだ。B-ONEか?間に入って拳を止める。直後、衝撃波に飛ばされた。──あいつ、雰囲気が違う。『B-ONEじゃねぇ』。
「『誰だ』お前…!」
「私は…新世界の導き手」




