石、然れど石
「何だよ、この石っころ」
先頭集団の一人が怒ったようにそうぼやいた。
確かに石。
然れど石。
普通の日常ならそれは些細な事。
でも、ここはゲームにも似た世界。
私達の常識なんて意味を成さない。
故に、この始まりの地に来て始めての大きな石の存在。
だって、あっても砂利石が所々に申し訳程度にある程度。
ここまで大きな石は見なかった。
文句を言ったその人が、怒りを露にその石を蹴ろうと足を振り上げた。
何かのキーポイントかもしれないのに。
「まっ」
待った。
そう言おうとした時には、彼の足は既に石に触れており、激しい痛みと共にその場に倒れたのだ。
「ぐっぎゃーっ」
何とも形容し難い苦痛の声に、けれど、石はその場に涼しく鎮座している。
折角の貴重なヒントになるだろうキーポイントに短気を起こすような人には同情の余地はない。
完全にスルーを決め込む仲間達。
いや、中には非難の眼差しさえ向ける者までいた。
「あの人、ロールプレイングゲーム向きじゃないね」
「育成物も無理じゃない?」
「格闘とか?シューティング?向き?」
もう冷ややかを通りすぎそうだった。
私は大きく息を吐き出してから試しにスキャンをかけて見る。
『石:楔
ある一定の条件を揃えた者が触れると起動する。それ以外の者は触れるべからず』
と、書かれていた。
何とも意味有り気な表現で、その条件とは何?と思ってしまう。
触れて良いのか?
触れない方が良いのか?
さっきの痛がりようを見ているだけに二の足を踏んでしまう。
いや、決してさっきの人のように攻撃を仕掛けるつもりはないけど、もし触れたりした途端にビリビリって来るかもしれないし……。
ジッと石を睨んでいると、私の前にレオが歩き出した。
そっと石に手を当てると「解錠」と何の躊躇いもなく呟いた。
一瞬光が辺りに漂いスパークする。
全ての世界が白で塗り尽くされた時、思わずレオの手を取り存在を確認していた。
「ユイ」
何時もの声が私に話し掛けて来た。
「僕は大丈夫だよ」
白い世界から再び闇の世界へと戻ると、石のあった場所から階段が上に向けて現れて、頭位の高さの所に大きな扉が現れた。
もちろん行かないと言う選択肢などあるはずもない。
この階段と扉は元々あったのだろうか?
それを不可視の状態になっていた。とか?
それに、さっきのレオの呪文って?
「どうやら大丈夫のようだね」
レオは階段に一歩足を踏み入れてそう確信すると、再び皆の方を向く。
「どうやら我らに新たな扉が開かれたようだ。皆、もう一踏ん張り頑張ろう」
レオの言葉に希望を見出だした仲間達は意気揚々とその階段を駆け登ったのであった。
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